今回はライザ視点→リラ視点です。
「ボオス!よくぞ戻って来たぁぁぁぁぁ!」
「…父さん。気持ちは嬉しいが、流石にみっともないぞ」
ボオスを連れて戻ってきたあたし達を真っ先に迎えてくれたのは、モリッツさんの大声だった。…うー、仕方ないとはいえ、結構眠くなってるところにこの大声は凄く響くなぁ…。他の皆もなんかのけぞったようなリアクションしてるし、アルムなんか耳を塞いでる。
「それで、ランバーは?」
「お前が戻って来たのを見たら倒れてしまいおった。安心して緊張の糸が切れたんだろう」
「物凄く気に病んでいたからな、説教なんてとても出来る状態じゃなかったぞ。こうしてお前が帰って来たから、心置きなく説教できるが」
「…その時は、あいつのフォロー役として同席させてくれ」
…姉さんの本気説教は本当に凄い。あたしもされたことあるけど、それはもう本当に。なんならアルムが「小さいころに一回だけ見たことがあるが、こっちも怒られてる気分になった」なんて言い出すくらいだからね。…アルムが人前だと結構真面目なのって、これも理由だったりするのかな?
「それで、お前達。揃って急にいなくなるから皆心配してたぞ?まあ今回は事情が事情だから弁護はしてやるが」
「有難うございます。…俺はエルから、ライザはミオおばさんからの説教が飛んでくるかもしれませんね」
「そうだよね…せめて置手紙の1つでもしておけばって思ってるよ」
「それが解ってるなら、次からはちゃんとしておくれよ?」
「そうだよ。お母さんが泣きそうな顔してたよ?アルム兄」
…あ、凄く聞き覚えしかない声が2つ。…うん、よし、やることは1つ。覚悟は決まった、今ここで謝ろう!
「えっと…ごめんなさい母さん!」
「すまん、エル!」
「あー…今回は流石に急を要する事態だったから、大目に見てやってください」
「それは解ってるから怒らないわよ。ただやっぱり…ねぇ」
「それでもいきなり居なくなっちゃったらびっくりするし、心配もするよ。ね、ルベルトさん?」
「そうだな。ある程度慣れている私でも驚きはしたし、当然心配にもなった」
「お、お父さん…」
…この2人がいたんだし、当然いるよね、ルベルトさん。
「他の皆も一緒にいなくなっていると聞いたときは、一体何があったのかと思ったが…まさかボオス君がな」
「その…ごめんなさい、お父さん」
「すみません、あんな時間にクラウディアを連れ出して…」
「いや、君たちの事は信頼しているし、クラウなら連れ出さない方が「仲間外れにされた」などと言って落ち込むだろうから、そこは構わない。リラさん達も一緒にいたようだからな」
「あー…確かにクラウディアならそうなるかも」
「むしろ後からでも追いかけてきそうだよな」
「そ、そこまでは……しないよ!」
「随分と間があったな」
「否定したいなら即答するべきだ、クラウディア」
…クラウディアには悪いけど、あたしも凄く想像つくなあ。1人で対岸に渡ろうとして皆に止められるの。
「ただ…そもそも何故、そんなに遅い…いや、早すぎる時間に起きて外にいたのかというのは気になるが」
「え、えっと、それは…」
「それは?」
「夜の砂浜で、1人でちょっと踊ってみたくなったの…」
「…そうか」
…まあ、間違ってはいないよね。フルートを小さい音で吹きながら踊ってたから。多分今までも偶にこうやって練習してたんだろうなぁ。
ただルベルトさんのあの感じ、誤魔化してるってなんとなく気づいてる気がする。…追及とかしてこないよね?
「あれ、クラウディアさんは偶々外にいたから連れて行けたんだよね?ライザお姉ちゃん達もそうだったの?」
そんなことを気にしてると、エルちゃんが疑問を投げかけてきた。…あー、言われてみたら確かにそこに気になるよね。
「いや、寝ていたな。だからライザとタオは屋根の上に登って窓をノックして起こした」
「…なんか危ないことやってない?アルム兄」
「窓を見てみたら逆さまになったアルムがいたから、何事かと思ったよ…」
「あたしは心臓が止まるかと思ったなぁ…」
ベッドのすぐ横に窓があるから、起きて横向いたら逆さまのアルムの顔が近くにあったんだよね…叫ばなかったのが奇跡だよ、アレ。
「レントさんは?」
「…コイツの家、ザムエルさんが酔った拍子にカギを何回か壊しててな。その内直さなくなったんだよ」
「どうせ誰も来ねえし、この島に夜にわざわざなんかしに来る奴なんざいねえしな」
「…後で錬金術で直しに行くわ。今のザムエルさんならもうそんなことしないだろうし」
…そうだった、最近はちょっと改善されてるから失念してたけど、元々レントのとこって大分マズイ家庭環境だった。どうせまた壊すからで家の鍵開けっ放しは流石にマズいわよ…
「さて、話はそこまででいいだろう?事情はどうあれ家族を心配させたのは事実だ。早く顔を見せて安心させてやれ」
「ああ、お前達は兎も角、家族はもしもを考えたかもしれないからな」
「そうですね…親父と母さんになんて謝ろうか」
「ウチのお父さんは全く怒らなさそうで逆に申し訳なくなりそう…」
「今正直、竜退治の時より緊張してるよ…何言われるかなぁ…」
それは言い過ぎじゃ…無いかな。あたしもここに母さんがいなかったら同じ気持ちになってたと思うし。
「…そういや親父、飯大丈夫か?あいつ料理欠片も出来ねえどころか、包丁とかぶっ壊しかねないんだよな…」
「ああ、そっちは私達でなんとかしといたわ。それと、「流石に今回は一発ぶん殴る」って言ってたわよ」
「…むーん、今回はちょっと止めにくいかも」
「確かに気持ちは解らんでもないが…確か彼は元傭兵で、腕力の強さは健在だと聞いているぞ」
「えっと…手加減してあげるように言っておいた方がいいんじゃないかな」
今のレントなら大丈夫だと思うけど…まあ、それが原因で特訓とか冒険に支障が出たら困るからね。
「では、今日はこれで解散だ。眠たいだろうが、昼寝はほどほどにな」
…なんか先生みたいだよ、アンペルさん。いや、あたしとタオにとっては先生みたいなものだけどさ。
「ふぁ…」
「っ…」
あたしとアルムとエルちゃんの3人で家に戻る途中、あたしは欠伸をして、アルムは頭がカクンってなった。そろそろ我慢の限界だなぁ…
因みに母さんは、ザムエルさんがやりすぎないように見張っておくって言ってた。…ザムエルさん、なんかうちの父さんと母さんに弱いんだよね。
「むーん…よし、3人でお昼寝しよう!」
「うえっ!?」
エルちゃん!?いきなり何を言い出すの!?
「…俺が混ざって良いのか、色々な意味で」
「むしろ来なさい!」
「何処目線の発言だ?…というかライザ、色々ヤバそうだが大丈夫か」
「い、いや、だって、その…」
寝顔見られるのは、流石に恥ずかしすぎて無理…
「朝2人が急にいなくなって寂しかったし、心配もしたんだから、その埋め合わせ位してほしいなー?」
「う、それを言われると…」
「…こうなったら、もう選択肢は無いも同然だな」
「ふふふ、そーいうことだよ。…ホントに、心配したんだからね?」
「…悪かった」
「…ごめんね」
…姉さんとは別の意味で、この子にも敵わないなぁ。
この後、あたしは父さんには怒られるどころか労われた。…やっぱり、ちょっとくらい怒ってくれた方が気が楽だなぁ。アルムの方は、ウェインさんはちょっと叱りつつも無事を喜んでたけど、ルーテリアさんが安心して泣いちゃって、アルムが罪悪感で頭抱えてた。うん、次からは緊急事態でもどうにか行先とか伝えられるようにしよう。
タオは家族に抱きしめられるくらい凄く心配されてて、クラウディアは商会の人達に「友達と一緒に無茶できるのは子供の特権だから今のうちにやっとけ」みたいなことを言われてルベルトさんに渋い顔をされてたらしい。
レントは…なんか、ザムエルさんが最近ちょっと鍛え直してたらしくて。「今までで一番強烈なのを貰った」って言ってた。眠気も吹っ飛んだみたい。
…因みに、寝顔はアルムにしっかり見られた。アルム、何でそんなに起きるの早いの…
「戻ったぞ。…ん、アルムとライザは?」
「ああ、採取地調合器の中だ。入ったばかりだから出てくるまでまだ少し時間があるな」
【門】を見つけた翌日、ランバーの訓練の相談を受けていた私は、一通り訓練を見てから提案とアドバイスをした。それが終わったのでアトリエに戻ってきたが…採取地調合器か。もしかしたら【アレ】が見つかるかもしれないな。
「それで、ランバー少年の訓練は?一応動きだけ見るとは言ってただろう」
「知っているだろう?私は手加減が好きでは無くてな。今の彼では、私が施すそれは逆効果だろう」
あの後、アガーテからこっ酷く説教を食らったらしいランバーは、訓練と仕置きを兼ねて思いっきり扱かれることになった。それに関してはランバーも望むところだったからか、素直に受け入れていたが…私が見に行ったころには汗だくでうつ伏せに倒れていた。内容を聞く限りでは、確かに厳しいものではあるが、私があの2人に施しているそれ程ではない。
アルムとレントなら、やる気以上に体力と実力もあるからこそ疲弊しながらも食らいつき、実りのある特訓になっているが…ランバーは体力がまだ不足している。大した効果も出ずに、疲弊するだけになるだろう。
「それに、レントの父親が何処から聞きつけたか訓練に付き合いだしてな。アガーテもいたし、人数的にも私は現状不要だろう」
「ん、そうなのか?レントから聞いた話では、奴の父親は人格面で少々難があると聞いたが」
「レントに感化されたのか、少し鍛え直しているらしい。今回のそれも、その一環だろう」
前評判からは信じられんくらいの良い表情をしていたな。居合わせたレントが、「最初からそうしとけってんだ、たく」なんて言ってたが…少し口角が上がっていたのを、私は見逃さんぞ?
「ところで、タオとクラウディアは何をしているんだ?何やら土を耕していたようだが」
「ああ、錬金術用の畑を作っているらしい。種も錬金術で作れば、普通ではありえないものが採れるだろうな。例えば、鉱石とかな」
「…畑から鉱石?想像がつかんな」
…やはり錬金術はよく解らないな。だからこそ、アンペルやライザのように深みに嵌る物が出てくるのだろうが。
「それで、アルムとライザに用があるのか?」
「いや、ここにいると思っていたが見当たらなかったからな。聞いただけだ」
「そうか。まあ、そろそろ出てくると――」
「よーし、探索終わり!」
「これで折角の畑も活かせるな」
二人が調合器から出て来た。目的は果たせたらしい。
「どうだった、2人とも」
「なんか…凄かった。本当の世界と空気がほとんど変わらなかったって言うか」
「錬金術のとんでもなさを改めて知れましたね…小さいとはいえ、世界すら作れるとは」
「そうか…ん、アルム。その手に持っている物は?」
アルムの手を見てみると、宝玉のようなものが握られていた。…それは、まさか。
「何か力がありそうだったので、拾っておきました。何に使えるかは解りませんが」
「うーん、何かの部品かなぁ。これだけで何かできる感じじゃなさそう」
「…そうか。まあ、そう言う物ほど何か重要な役割を持っていたりするものだ。大事に取っておけ」
「うん、そうする。さて、じゃあとりあえずみんなの新しい装備と畑に撒く種を調合して、それから…」
「俺は畑を手伝って来よう」
そう言って二人は各々動き出した。…アルムが拾って来たアレがあれば、このレシピに記されている物が作れる。それを使えば、アンペルの腕がもう一度動くようになる。だが…
「ん、どうした?リラ」
「…いや、何でもない」
これはクリント王国の技術だ。奴らの所業に心底怒り、心を痛めているこいつが…これを使いたがるか?…使いたがらないだろうな。そもそも、私が独断で写しを取っておいているだけで、コイツ自身はこのレシピを見つけた瞬間焼き払った。恐らく、見たくもないと思っているだろう。仮に今、私がライザに調合を依頼したとして…完成したそれを持ち出して、私が口で言うだけではコイツは動かない。
(カギを握るのは、やはり…)
錬金術士として成長を続けるライザ。こいつの真っ直ぐさと快活さなら、アンペルの心を動かせるかもしれない。その時が、このレシピをライザに託す時だ。
(…お前に賭けさせてくれ、ライザ)
何処までも楽しそうに調合を続けるライザの姿に、私は期待していた。アンペルが背負っている物を、こいつが下ろさせてくれることを。
ノリでザムエルを随分丸くしてしまった。地味に暗レント回避フラグ?まあ2編やるかどうかは決めてないんですが…
当然ながらレントの家の鍵関連は独自設定。酔っ払い&馬鹿力が明言されてる人だし、一回くらいはやってそうですよね。
Q,ライザの寝顔を見たアルムの感想は?
A,「可愛いと思うと同時に、穏やかな気持ちになった」
ここまで読んでいただき、有難うございました。