アンペル説得&塔に行く前段階の話。今回はアンペル視点→レント視点です。
「どうだアルム、本の解読は?」
「…半分くらいです。流石にタオほど早くはできませんね」
「いや、十分早いぞ。タオが早すぎるだけだ」
ボオス少年に古式秘具の出所を調べてもらっている間、私は調査の準備をしつつアルムの本の解読の様子を見ていた。タオとアルムの学習意欲と習得の速さは目を見張るものがあるな。この短期間でここまでとは…
リラはライザを表に呼び出し、何かの相談をしているようだ。何かしらの調合の依頼か?
「そういえば、宝の手掛かりとやらはどうなんだ?」
「クーケン島のものは終わらせました。他は、レント達が後で来るそうなのでその時に」
「出来るだけ早くした方が良いだろうな。このコアクリスタルのように、有用なものが手に入るかもしれん」
更に上位のコアクリスタルかもしれんし、それ以外の何かしらの道具かもしれん。もしかしたら、レシピの類もあるかもしれんな。
「しかし、リラはライザと何を話しているんだろうな」
「確かに珍しい組み合わせではありますが…女性同士の会話の内容を男の俺達が気にするのは不躾な気がします。聞かれたくないから態々表に出たのでしょうし」
「確かにそうだな。あまり気にしないでおくか」
まあ、リラが主導の様だから色気づいた話ではないだろうが。
そんなことを考えていると、2人が戻って来た。
「アルム、調合器でアルムが拾って来たあの球、調合に使っていい?」
「ああ、元々調合に使えそうだから拾って来たものだしな」
「ありがと。よーし、頑張るぞー」
…あの球を何に使うつもりだ?私が知る限りアレの使い道は…いや、だがあのレシピは見つけたその時に燃やしたはず。…まさか、リラ。
「…アンペルさん、どうかしましたか?」
「…いや、何でもない」
…いかんな、顔に出ていたか。あまり心配をさせる訳にもいかん、別の事を考えるか。
「アルム、潮流の変化により結果的に門の封印が弱まり、フィルフサがこちらに来るようになった、という話はしたな?」
「…?はい」
「ライザはこの潮流の変化も何かの一部だと感じたようだが…お前はどうだ?」
「…それについては、もう少し後でみんなの前で言うつもりです。が、今一言で言うなら…以前話した俺とタオの考察の中に答えがあると見ています」
「成程、現状それが一番可能性が高いな。…ボオス少年には、出来るだけ急いでほしいところだな」
クーケン島が浮島であること、その島で起きている地震や浸水、涸れた噴水…そして潮流の変化。これらすべてを繋ぐ結論があるとしたら…
「よし、出来たよリラさん!」
「そうか。…確かに、見事な出来だ」
考えている内にライザの調合が終わったらしい、完成した品を持ってこちらに来た。…その器具は!
「えっと、アンペルさん。これ…」
「…これは、何かに取り付ける物か?」
「うん。クリント王国の技術で作られた義手なんだって」
「…リラ、私はあの場でレシピを燃やしたはずだ」
「写しを用意しておいたんだ。いつか、こういった日が来ると思ってな」
…余計な真似を。
「これを見事に調合してみせたライザの腕前は認める。だが、私はこんなもの使わんぞ」
「…アンペルさん、どうしてそこまでクリント王国の錬金術を嫌うの?確かに、大昔に錬金術で酷い事をしたけど、だからって…」
「アンペルは数十年前まで、この国…ロデスヴァッサの王宮に仕える高名な錬金術士だった」
「っ!リラ!!」
声を荒げてでも、余計なことまで話し出したリラを止めようとするが…コイツにそんなもの通用しない。私に一瞥をくれてから、続きを話し出した。
「しかし、王宮の意向に沿わなかったことを理由に不興を買い、策謀によって腕に再起不能の傷を負わされた。その際、その傷の原因である爆薬を仕込んだのは、アンペルが友と信じた同僚の錬金術士だった」
「…!」
「そんな…」
「…私の、この体の秘術にたかられた、昔の話だ」
今更、蒸し返すようなことでもない。だというのに、何故リラは…。
「そうして王宮を追われたアンペルは、失意のうちに放浪し、やがて【門】から迷い込んできた私と出会った。…なあ、アンペル」
「…何だ」
「「錬金術士はいつまでも同じことをやっているな」…私からクリント王国の罪業を聞かされたお前が言った言葉だ」
「…ああ」
「それに対し、私が何と返したか覚えているか?」
「…」
「忘れた…などとは言わせんぞ」
「「お前自身はどうなんだ、錬金術士」…だったな」
「そうだ。そして、その言葉を聞いたときお前は誓ったはずだ。「命ある限り、錬金術士の犯す罪に抗う」と」
…漸くお前の真意が理解できたよ、リラ。つまり…
「そんな誓いを立てたのだから、傍観などせずに自分の手でやれ、と。そう言いたいわけだな」
「ああ。それに、その器具はお前が忌み嫌う薄暗い罪の産物などではない。お前の誓いを明るく照らす、新たな錬金術士がお前に差し伸べた…新たな手だ」
「…そうだな。ライザの作った物が、奴らの欲望のような汚れたものであるはずがなかったな」
全く、目も頭も曇り切ってしまっていたな…技術はあくまで技術でしかない、好悪はそれを扱う者次第だということを失念してしまっていたよ。
「気が変わった。有難く使わせてもらうぞ、ライザ」
「…!うん!」
器具を腕に取り付け、動きを確認する。…問題なく動かせる。いや、それどころか…
「嘗ての腕よりも動きが軽いようにすら思えてくる。…本当に、とんでもないな」
ライザの才能に感嘆しながら動きを確認していると、ライザが義手を取り付けた右腕に手を添えてきた。
「これでやっと、恩返し出来たかな」
「恩返し?」
「アンペルさんが、錬金術って言う素敵な力を教えてくれたから。その分、何か返せないかなってずっと思ってたの」
「…そうか」
本当に真っすぐで、優しい娘だな…
「有難う、ライザ。こうして錬金術士と手を取り合う日が来るなんて、考えてもいなかったよ。しかも、そうさせる腕を錬金術で作ってしまった。本当に、大した奴だ」
「お礼を言うのはあたし達の方だよ。二人がここまで旅をしてきてくれて、あたし達と出会ってくれたから、今のあたし達があるんだから」
「ははっ。すね者のようにさすらって来た私の旅にも、それなりの意味はあった訳か」
この旅でライザ達に出会えたのは、今までの人生の中で何よりの幸運だろうな。
「…ふふ」
「笑っているのか、アルム。珍しいな」
「あの光景は、ライザの錬金術の1つの集大成みたいなものですから」
「成程、確かにそれは嬉しくもなるな」
「リラさんも、嬉しそうですね」
「ああ、ようやくアンペルがうじうじすることを止めたからな」
…全く、本当にお前はいつだって厳しいな。
「そこは「ようやく肩の荷を下ろす気になってくれたから」じゃないの、リラさん?「重荷を背負ってる彼を助けてあげなきゃ」ってさっき言ってたじゃん」
「記憶を改竄するな!そんな軟弱な物言いはしていない!」
「ははっ…有難うな、リラ、ライザ。やってみよう、お前達が取り戻してくれた…この手で」
まずは任せきりになっていた魔物との戦闘だな。これからは、存分に暴れてやろうじゃないか。
この後宝の手掛かりを辿るようだし、その時に慣らしも兼ねて手伝ってやるとしよう。
「はー、久しぶりにギリギリまで冒険したぜ」
「手当たり次第に手掛かりを辿ってみたが…見つかったのはレシピが二つ、か」
「時間が無くて回り切れなかったとこもあるからねー。次は辿り着くわよ!」
今日の冒険は宝の手掛かりの捜索っつー、正に冒険!って感じの奴だった。俺やライザ、クラウディアは勿論、タオも結構乗り気だったな。アイツの場合、宝そのものよりそれが何故ここにあるのか、とかの方が興味あったみたいだけどな。
手に入ったレシピは…【フェザードラフト】っつう中で羽が舞ってるよく解んねえ水晶と、【マスターレザー】っつう特殊な革のものらしい。マスターレザーはこれで特別な服でも作るのかと思うけどよ、フェザードラフトはそもそもが何なのかよく解んねえから用途も想像つかねえ。ライザ曰く、コレ単品でどうこうって代物じゃないらしいが。
「アンペルさんも手伝ってくれたけど…とんでもなく強かったよね」
「動きに淀みも迷いも無さすぎるっていうか…本当にブランクがあるのかなって思っちゃったよ」
体中どこにでも目がついてんじゃねえかってくらい的確な行動、無駄を限りなく省いた魔力操作、有効なアイテムを素早く選べる判断の速さ。全部がすげえと思った。術師だからリラさん程直接教わることは多くないだろうが…この人にも戦いを教えてもらいてえって思えたぜ。背後から飛んできたワイバーンをチラ見もせず一撃で撃ち落としたりもしてたしよ。
しかも一通り戦闘を済ませた後の言葉が「ふう、年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてしまったかな」だったから、多分まだ余裕あるんだよな。
「で、今日は後どうするよ?俺はもう家まで戻るけどよ」
「雑貨屋に寄ってくわ。もしかしたらレシピに使えそうなものが売ってるかもしれないし」
「特にすることも無いから、ライザの付き添いでもしておく」
「僕ももうこのまま帰るよ」
「私も帰ろうかな。早く汗を流したいし」
「そうか、じゃあ今日はここで…」
「ここにいたか」
解散、と言おうとしたところでボオスが話しかけてきた。…まさか。
「【渦巻く白と輝く青】の出所が解ったぞ」
「マジか!これでようやく前に進めるぜ!」
「詳しい話は…明日の方が良いか?あの2人も呼んだ方が良いだろ」
「ああ、そうしてくれ」
「それじゃあ、明日はちゃっちゃと畑仕事終わらせないとね」
ライザのその言葉に、ボオスが少し面食らったような顔をした。
「…お前が畑仕事に積極的なの、未だに慣れねえな」
「サボるの止めてからもう一年くらい経ってるんだけど!?」
「そういうイメージって中々払拭できないよね」
「ふふっ、これからももっと頑張らないとね、ライザ?」
正直言うと、俺も未だに慣れてねえんだよな。理由は知らねえが、あのライザがなぁ…
「まあその話は良い。明日、あの2人も呼んで家の門前に来てくれ」
「ああ。有難うな、ボオス」
「ランバーの件の借りもあるし、俺にとっても必要なことだからな。これくらいはさせてくれ」
「ふふ、キロさんの為だもんね」
「…アレはあの世界から水を奪った、いわば盗品だ。そんなもので権威を得続けるなんて我慢ならない。だから、早く在るべきところに還したい。それだけだ」
素直じゃねえな、コイツ。それも本音ではあるんだろうが、クラウディアの言うことも的外れじゃないだろうによ。
「じゃあ、また明日だな、ボオス」
「ああ。すぐ向かうつもりならしっかり休んでおけよ。険しい道になるだろうからな」
険しい道、ね。一体どこから持ってきたんだか。
「来たか。早速だがこれを見てくれ。倉庫の奥に隠されていたものだ」
次の日、全員で集まってボオスの話を聞きに行った。なんか紙みてえなものを渡されたが…ん?
「…これは、まさか」
「これ、手描きの地図?って、これに描かれてるのって…」
「街道の西側の「悪魔の野」じゃねえか!」
「ど、どういうこと!?」
マジか、コイツのご先祖様はそんなとこまで行ってたのか!
「地図というより…旅程を記している物と言った方が良いな。測量もしっかりしている、やるじゃないか」
「確か、村では街道の西側に行くのは禁止されてるんだったよね?」
「うん、小さいころからずっとそうやって言い聞かされてるんだよ。だけど…」
「それを踏み越えて冒険に出た者が、何世代も前にいたのだな」
「ああ。そして、その先であの球を見つけ、それを離れに据え付け、水不足で困っていたこの島で権威を振るいだした、というわけだ」
一体なんで禁足地ってことになってるとこまで踏み込んだんだろうな?水が無さすぎて、どうしてもそれを解消できる何かを見つけたかったか、そもそもその時は禁足地じゃなかったとかか?
…そっちは考えても仕方ねえか。それで、目的地は…!
「この位置、この記号…あの塔か」
「ああ。あの球は、あの塔から発見した物らしい」
「塔って…晴れた日に、北の空に見えてるあの塔?」
「そんなとこまで冒険してたのね、ボオスのご先祖様は…」
「後何かありそうな場所って言ったらあそこくらいしかなかったけど…本当に塔にあったなんて」
まさか、昔とは言え、島で既に塔までたどり着いてる人がいたとはな…!
「ボオス、俺は今、お前のご先祖様に嫉妬しちまってるぜ…!」
「ああ、だろうな」
「目的地が解ったなら、出立の準備をしなければな。同じ旅程を辿るとなると…彼の言う通り、道なき道を行く険しいルートになるな」
「ただの調査で行くには危険だろうし、島の禁忌を犯すことになるが…」
「そんなの今更よ。ねえ、レント?」
「ああ、とうとう挑む時が来たんだ。あの塔に…俺の冒険の、目標に」
待ってろよ、塔の天辺!絶対にたどり着いてやる!
「さて…みんな、塔に向かう前に聞いてほしい事がある」
塔に行く準備の為にアトリエに集まっている俺達に、アルムがそんなことを言い出した。…随分と真剣な顔してんな。
「話すのか、アルム」
「はい。塔に何かしらの情報が残されているのなら、何を調べるべきかをあらかじめ共有しておいた方が良いと思ったので」
「本については僕から言うよ」
「…えっと、あたし達は今から何を聞かされるの?」
俺達を代表してライザがそんな質問をした。それに対して、アルムは…
「下手をすればずっと、水不足どころの騒ぎではなかったのかもしれない。そんな「危機」の可能性の話だ」
そんな、とんでもないことを言い出した。…まさか、クーケン島の事か?一体、何が起こってるって言うんだよ…
アンペルの説得シーンについては、「説得にアルムも参加させるのはなんか違う気がしたけど、話の内容的にアルムは聞いといた方が良い」って感じで、別件でその場に居合わせてもらいました。
ちょいちょい台詞を組み替えてますがその辺はご容赦を。
因みにマスターレザーのレシピが出てきてますが、防具については今後も描写しません。
Q,アンペルも超強いの?
A,視野が異様に広く、対応力がずば抜けてるってことにしました。これくらいじゃなきゃいくらリラが強くても1人で守り切れるか怪しいと思ったので。治る前はフラムとかうにくらいしか攻撃手段無かったでしょうし。
ここまで読んでいただき、有難うございました。