決戦前の島での日常。今回はリラ視点→アンペル視点です。前半にリラ→アンペル要素が含まれてます。
「…もうすぐ、あの島にも別れを告げる時か」
「勝つにせよ、負けるにせよな」
「縁起でもないことを言うな」
そう話しながら、私達は小舟を漕いでクーケン島に向かっている。先日、門から「空読み」が這い出てきたことで決戦の時が近いと悟った私達は最後にやるべきことを子供等に告げた。
それは、奴らが守りたい「なんてことない日常」を見直すこと。要は、今日1日は冒険のことは一旦横に置いておいて島で過ごせということだ。
「だが、何かあればこの身を投げ出すくらいはしなければならないだろうな。奴ら自身もあの島の「なんて事の無い日常」の一部なのだからな」
「それはそうだが、恐らく奴らの中では私達すらその一部だと思うぞ?」
「…そうだな、奴らならば迷いなくそう言うだろう」
「無論、私はどうにかして全員生き延びる為に努力するぞ。…奴らに、永遠の別離はまだ早い」
「…ああ」
あいつ等には、失ってほしく無い。私達の悲願に手を貸してくれるあの優しい子等に、あんな想いをしてほしくはない。
「…ふふ、まさかここまであいつ等に入れ込むことになるとはな」
こんなことはアンペル以来だが…ああ、やはり悪くない気分だ。
「む、私はどうなんだ?」
「今更言う必要は無いだろう?」
「…そうか」
…本当に解っているのか?
「さて、もうすぐ港に着くな」
「あそこからなら…ボオスかクラウディアの所が近いな。さて、私達の言いつけ通りにしているか、見てやろうじゃないか」
全く、親のような物言いだな。気持ちは解るが、な。
「おや、今日も夫婦で来てくれたのかい?」
「「夫婦じゃない」」
港に舟を泊め上陸すると、近くにいた老婆が声をかけてきた。…2人で上陸するたびに言われているが、その度にこう、気が気じゃないとでも言うか、何と言うか…
「いやぁ、でも二人があいつ等を見る目がなんか親っぽい感じがするからなぁ。そういうふうに見えても不思議じゃねえよ」
「あくまで弟子とかそういうののつもりなんだがな」
「…」
「リラ?」
「…ん、ああ、すまん」
…いかん、あらぬ想像をしてしまった。全く、余計なことを言ってくれるな、若い漁師よ。
「で、誰に用があるんだい?アルムならここでちょっと待てば来るけどよ」
「そうなのか?」
「おう。畑仕事が終わると大抵いの一番にここに来て魚を買いに来るんだよ」
「そうか、なら好都合だ。ついでに少しの間物色でもするか」
「甘味は買い過ぎるなよ?」
「言われなくても解っている」
「そういうとこが夫婦っぽいんだぜ、お二人さんよ」
これくらいのやり取りは今まで訪れたところでもしていたんだが…まさか、その度にそう思われていたのか私達は?いかん、急に恥ずかしくなってきたぞ…
「すいません、今日も魚を…ん、リラさんとアンペルさん?」
「あれ、アトリエでゆっくりしてるんじゃなかったの?」
「ああ。ちょっと様子を見に来たぞ」
暫くすると、ライザと共に本当にアルムが来た。二人共買い物かご…にしては少々大きいというか、機械じみているというか…どうみても錬金術製の箱を持っていた。
「ん、冷蔵籠か。何かの役に立つと思いライザにレシピを教えたが、早速活用してくれているようだな」
「デザートの保存にも使えるから便利ですね。臭いもライザが改良して付かないようにしてくれていますし」
「成程、臭い消しか。確かにそれは魚を多く食す環境なら確かに必要だろうな」
「後、冷凍保存も出来るようにしたよ。2人の分も作ってあるから、後であげるね」
「ああ、旅先で使わせてもらおう」
魚の保存ができるようになるのか。今までは獲ったらすぐ焼いて食うか、せいぜい干物にするか位だったからな。かなり有り難いぞ。
「それで、今日はどういう用事で?」
「ああ、ちゃんと言いつけを守れているかどうかを見にな。まあ、お前達は大丈夫そうだな」
「心配しなくても、皆大丈夫だと思いますよ。因みに俺は買い物が終わったら週に3回くらいはご飯時以外は島中を見て回っています」
「ん、自主的なパトロールか?必要なさそうだが」
「いえ、人間観察です」
…何というか、予想外の言葉が出てきたな。
「ふむ、何故そんなことを?」
「…現状のこの島で一番「変化」に期待できるのは、人間関係とかそういうのなので。あいつとあいつが最近いい雰囲気だ、とか」
「何だ、お前もそういう話が好きなのか?」
「嫌いでは無いですよ。まあ、知りたくはあっても、軽々しく首を突っ込む気までは無いですが」
そうだな、余程親しくない限りはその方がいい。しかし…
「それは、1人でやっているのか?」
「以前はそうでしたが、最近はライザと一緒にやってますね」
「錬金術の気分転換と人助けも兼ねてね。なんて言うか、いつも通り過ごしてるだけに見えても、みんな結構色々悩みとか抱えてるんだなーって解ったよ」
「そういう気付きは大事だな。…しかし、定期的に2人でいると、もうそういう関係だと島中で噂されていそうだな?」
「ちょ、アンペルさん!あんまりそういうこと言わないでよ!」
「ええ、もう慣れました」
「そうか」
「アルム!?」
この2人でそう言われるなら、各地を2人で回っている私とアンペルも…いや、あの老婆と漁師の反応が答えか。
「え、ちょっと待って、そんなに島中で言われてるの!?」
「狭いからな、この島。そういう話が広まるのは早いぞ」
「いやそれは知ってるけど!え、っていうか、その」
「何だ?」
「…アルムはその話について、どう思ってるの?」
…随分踏み込んだことを聞くな。さて、アルムはどう返す?
「…そうだな」
そう言ってライザの耳に口を近づけ…
「嬉しいに決まってるだろ」
「~~~っ!」
小声でそう言った。…ライザの頭でフラムにも劣らない爆発が起きたな。
「何を言ったのかは聞き取れなかったが、なんとも解りやすい反応だな」
「あまり弄ってやるなよ」
「流石にそんな大人げない真似をするつもりは無いぞ。それで、2人はこの後どうする?」
「日課のついで程度にですが、俺達も皆を見に行こうかと」
「そうか。…とりあえずその前に、ライザをどうにかしてやった方が良いぞ」
「…ぁぅぅ…」
「…正直に言い過ぎたか」
だろうな。…しかし、常日頃から思うが、本当に意中の異性からああ言われただけでああもなってしまうものなんだろうか。流石にライザが弱すぎるだけか?ふむ…
『ん、お前と夫婦扱いされて嬉しいか、だと?今更何を聞くかと思えば…当たり前だろう』
(…………いや、無いな)
こいつはそんなこと絶対に言わん。
「――よし、こういうときはクラウディアの演奏を聴いて落ち着くに限る!」
買い物を終え、家に戻る過程で多少落ち着きを取り戻したライザは、バレンツ邸の前で拳を上に挙げてそう叫んだ。まあ、確かにそういう曲をリクエストすれば落ち着けはするだろう。が…
「事情を知れば、むしろ揶揄ってくると思うが」
「以前私達もやられたな、そういえば」
「間違いなく俺達の中で一番そういう話に興味ありますよね、クラウディア」
「…あれ、もしかして一番危ないとこ選んじゃった?」
漸く気付いたか。まあ、どうせ全部見て回る予定だったから、順番が違うだけなのだが。
「というか、そもそも吹いてくれるのか?まだ父親の前で吹けるかどうか解らないだろう」
「…あ、そっか」
「ゆっくりしている所を無理に連れ出すわけにもいかないしな。まあ、聞ければ御の字くらいの気持ちで言った方が良さそうだ」
少なくとも、勇気や度胸の類はもう十二分に備わってはいる筈だから、後はどう話を切り出すかだけだろうがな。
「さて、では…」
「あれ、みんな?」
いざバレンツ邸に入ろうとしたその瞬間、フルートのケースを抱えたクラウディアが出てきた。
「あ、クラウディア!今から練習?」
「えっと、今日はお願いしたいことがあって…」
「え、なになに?あたしにできることなら何でも聞くよ!」
「ありがとう。実はね…」
クラウディアの「お願い」の内容を聞いた私達は、それを直ぐに了承し、早速実行に移した。
実のところ、詳しい事情は知らないが…クラウディアが父親に向かって一歩踏み出す勇気を出したことは十分に伝わってきた。私達の存在がその助けとなるなら、顔くらいはいくらでも貸してやろうじゃないか。
「ふむ、アルム君とライザ君は兎も角、お二人が来るのは少々珍しいな」
「今回は偶々居合わせてな。まあ、付き添いみたいなものだ」
早速私達はクラウディアの父親を呼び出した。次の販路の許可の返事待ちをしている段階だからか時間があったのだろう、直ぐに応じてくれた。
「実際には、ルベルトさんに用事があるのはクラウディアですね」
「クラウが私に?…それは、フルートか?」
「…今まで、隠しててごめんなさい。私ね、これを練習する為に今まで何度も商隊を抜け出してたの」
「何…?しかし、初めの頃は…」
「私がお父さんの前でフルートを吹く度に、とても悲しい顔をしてたから、それが辛くて…」
「私が、そんな顔を…」
クラウディアがいつから商隊について来ているのかは知らないが、優しい娘だからな。自分のしたことで父親が悲しんでいると知ればそうもなるか。
「でも、練習を続けてもっと上手くなればいつか喜んでもらえるんじゃないかって思って、それでずっと隠れて練習してて…」
「…今まで商隊を抜け出していたのは、そのフルートで私を悲しませない為だったのか」
「うん。…でも、結局また悲しませるんじゃないかって思って、中々お父さんの前で吹く勇気が出なかったの。でも…」
「…彼ら、か」
「うん。ライザやアルム君達と出会って、私の演奏を褒めてくれて、これが人の心を慰められるものだって知って…それで漸く、お父さんにこれを聞いてもらう勇気が出たの」
「アルムなんか、初めて聴いたときにアンコールしてたくらいですから。ね?」
「…ええ、まあ」
「…それはまた、クラウが恥ずかしがっただろうな」
「あはは…うん、凄く恥ずかしかった」
そんなことをしていたのか、アルム。まあ気持ちは解るが…割と思い付きと衝動で動くことが多いな、アルムは。
「でも、今は違うよ。私はもう、これでお父さんを笑顔にできるかもしれないって、そう感じることが出来たの。だから…」
「…ああ、分かった。クラウ、お前の演奏…聞かせてくれ」
クラウディアが目を閉じ、大きく息を吸い、フルートを吹き始めた――
「…フルートの演奏会は、数年おきに旅に出る私と、母さんとクラウの、とても楽しい思い出だった」
父親の前で行われたクラウディアのフルートの演奏は、今までで一番と言っていいものだった。恐らく、クラウディアの中から迷いが無くなったからだろう。淀みなく、美しく、力強かった。
そしてそれが終わった時、クラウディアの父親がぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
「だから、母さんのそばを離れ、私と旅に出たお前がフルートを吹く姿に…私は、この子は母さんの元に帰りたがっているのではないかと、思ってしまったのだろう」
…成程、確かにそれは悲しい表情の1つも浮かべてしまうだろうな。こちらの子供は、父親より母親に懐く傾向が多いそうだしな。
「確かに、その気持ちが全然無かったわけじゃないけど…でも、私は父さんの娘だよ?
旅は私にいろんなものをくれた。綺麗な景色、いろんな食べ物、知識、経験…それに、大切な友達。
だから私、旅は好きだよ。すっごく、大好き」
「…そう、か」
クラウディアは今回の旅で、かけがえのない友との出会いと、己を肯定する切っ掛けを得た。これは、更に旅を好きになるだろうな。
「…一度、母さんの下に帰ろうか。お前の素晴らしい上達ぶり…三人の演奏会で聞かせてあげよう」
「…うん!」
「アルム君、ライザ君。君達がクラウの友達になってくれたこと…本当に感謝している」
「いえいえ、こちらこそ!クラウディアには助けられることも多いので!」
「持ちつ持たれつ、というやつです」
「そうか。…ふふ、君達との出会いは、私達にとって実に大きな幸運となったな」
その意見には、全面的に同意だな。
「あれ、タオとボオス?珍しい組み合わせじゃん」
「あ、ライザ。…とアルムと、アンペルさん達?」
「2人もこっちに来てたのか。こいつらの様子でも見に来たのか?」
噴水広場に来た私達は、タオとボオスが話している所に遭遇した。よく見るとボオスが紙を持っているが、メモ書きか何かか?
「そんなところだな。それで、2人は何をしている?」
「ええっと、もしもの時の為の準備っていうか…」
「こいつは、クーケン島の制御装置の動かし方が書かれたメモだ」
「…そういうことか」
確かに、最悪の時の為の備えは必要だったな。私達が帰ってこれなかったら、誰もあの本を読めなくなり、この島の調整を行える者がいなくなる。
「正直ビックリしたぞ?タオが真剣な顔でいきなりこんなものを寄越してきたんだ」
「…国を滅ぼすような化け物の親玉を倒しに行くわけだしさ。事情を知ってて、こっちに残る誰かにこの情報は渡しておかないとって思ったんだ」
「確かにそれならボオスが適任だな。エルには異界の事は話していないし、それ以前に『俺達は死ぬかもしれない』なんて言えない。アガーテさんは…多分こういうのは苦手だろうしな」
「あー、確かに。絶対途中でわけわかんなくなってタオに助けを求めてそう」
「…うん、僕もその光景が凄く目に浮かんだ」
「聞かれていたら怒られるぞ?正直俺もそう思うが」
…姉弟分達にそんなイメージを持たれているアガーテに少し同情した。まあ確かに不器用そうではあるが…
「とは言え、こっちとしちゃお前らが帰ってくる可能性以外考えたくないがな。友人に死んでほしくないのは当然として、それを抜きにしてもまず島民達に事情の説明をしなきゃならんし、島をどうにかできるレベルの錬金術士を探さなきゃならんし、見つかったところでそいつの性根が良いとも限らない」
「うわ、考えただけで立ち眩みするレベルで大変そう…」
「なんなら、俺はもう既に胃が痛い」
「…今丁度コアクリスタルにエリキシル剤を入れてるが、使うか?」
「贅沢な使い方だなぁ…」
性根だけならともかく、才能もとなると…島どころか、ボオスの寿命が尽きるまでに見つかるかどうかだろうな。このレベルの錬金術を単独で扱える者は希少だ。
「まあ、そのことに関しては信じてくれとしか言いようが無いな。出来る限りの準備はしたつもりだ」
「…本当だな?」
「乱発すると地形を変えかねない爆弾のような物とか、自分の周りだけ時空を捻じ曲げる時計とかな」
「おい何だその聞くだけでヤバそうな道具は。別の意味で不安になるぞ」
「うん、あたしもそう思う。自分で作っといてなんだけど」
なんならリビルドまでやって出来る限り性能を高めたからな。アルムが言っていたように、余程の事が無い限り封印推奨な代物だろう。
「まあ、そこまでやってるんなら俺からは何も言えねえな。…勝てよ」
「「「ああ」」」「「うん」」
この約束を違えさせないよう、私も死力を尽くすか。
「さて、後はレントか」
「この時間なら、いつもなら家の前で日課の素振りをしていると思いますが…」
レントの様子を見に行くために、私達はレントの家まで向かう。
「ん-…素人考えだけど、あれだけ強いと今更素振りって意味あるのかなって思っちゃうんだけどどうなの?」
「その発言は錬金術士で言うと「今更中和剤なんて作らなくていいんじゃないか?」とほぼ同義だ」
「成程、すっごい大事だわ素振り」
我が弟子ながら、錬金術で例えると即座に理解してくれるのは有り難い。基礎は何より大切だぞ、ライザ?
「まあ、素振り中ならそれで構わん。あくまで様子を見に来ただけだからな」
「それなら、態々素振りが終わるまで待つ事も無いですね。少しだけ様子を見て――ん?」
「アルム、どうしたの?」
「…金属がぶつかり合う音だ」
私にはよく聞こえなかったが…金属がぶつかり合う音だと?
「え、もしかしてザムエルさん…?」
「状況的にほぼ確定だろうな。…ということは、剣を持ち出しているのか?」
「関係は徐々に修復されていると聞いたが…」
「…今更滅多なことにはならないと思うが、一応急ぐぞ」
流石にこんなところで血生臭い事になるとは思えんが…やはり弟子が心配なのだろう、真っ先にリラが駆け出した。
「…言い争うような声も聞こえてきたな」
「え、それホントに大丈夫なの…!」
「いざとなったら無理矢理止めるぞ」
「ああ。…着いたぞ。レント、大丈夫――」
レントの家にたどり着いたとき、目に入ったのは――
「あ˝あ˝クッソ!!ホントに最近までブランクあった元飲んだくれかよ!?馬鹿力は健在どころか磨きがかかってんじゃねーか!!」
「はっ、何ヶ月もかけてじっくり錆を落としゃあこんなもんよ!!それと技でも負けるつもりはねぇぞ!!」
「もっと早くそんな感じでマトモになってりゃ母ちゃんも逃げたりしなかっただろうによ!!」
「それについては返す言葉もねえ!!」
「つーかエルにあそこまで言われて何も言い返せなくなってんの今思うとホント情けねえな!!」
「マジでそれは言うな!!今でも会うとなんか気ぃ遣われるんだぞ!?挫折した息子を心配する母ちゃんか何かかアイツは!!あの年で!!」
「いいじゃねえか!!最近島の子供から怖がられることも無くなってきてんだろ!?」
「大半が山登りの山扱いしてくるがな!!アルムのが背高えんだからそっちに頼みゃいいのによあいつ等!!」
「親父のがゴツいから登りがいがあるんだとよ!!」
「ガキどもの癖に変なこだわり持ってんなオイ!!」
…何と言うか、親子の口喧嘩と高度な戦士の戦いを両立していた光景だった。しかし、少し前まで島でも有名な酒に溺れた乱暴者だったらしい大男を遊具にするとは、この島の子供はどうも肝が据わっているようだ。
「――だ、な」
「えーっと、何あれ。ケンカ?」
「というより、じゃれあいと言ってもそう的外れではなさそうだな」
「それでいて打ち合い自体は結構高度と言うか…お、そのタイミングで蹴りを入れられるのか。こういうところは流石だなザムエルさん」
「なんかアルムが観戦モード入ってる…」
「…今のは無理に打ち合わずに受け流して拳で一撃入れるべきだったな。まだまだ相手の動きを読む技術が甘いぞ、レント」
「…リラも師匠モードだな。やれやれ、2人が止まるまで待つとしようか」
この喧嘩のような、じゃれあいのような、決闘のような打ち合いは30分程続いた。勝者は…
「ハッ、ハッ、っしゃああああっ!!」
「くっそ、スタミナまでは、誤魔化せねえか…!」
「そりゃ、こっちは、親父が、飲んだくれてる、間も、特訓、してた、からな!!」
レントだった。体を鍛え、かつ冒険に出て魔物を相手にしているレントと最近まで酒に溺れていた父親ではスタミナに差がついて当然。とはいえ、その前に力で押し切られる可能性もあったように思えるな。正直、私の目には互角に見えた。
「で、どうだよ?親父」
「ハッ、ここまで、やれるんなら、心配は、いらねえな。…行ってこいよ、お前も、外の――」
「レント、ザムエルさん」
「アルム?お前、見てたのか」
「ああ。…いい勝負だったな」
「…だろ?」
「で、それはそれとして…リラさんがなんと言うかな」
「全くだ」
「…げ」
リラは軽く怒っているな。…そんなバツの悪そうな顔をしても、リラは許してくれないぞ?
「お前にとってはいつか必要なことだったのだろうが…そこまで体力を使い果たすとはな。明日に響いたらどうする」
「…すんませんでした」
「とりあえずエリキシル剤を使って…今日はもう大人しくしておけ。こっちはお前に倒れられるとかなり困るからな」
「おう、ありがとよ」
「何だ、明日大事な要件でもあんのか」
「まあ、そんな感じかな。ところでザムエルさん、なんでまた急にこんなことを?」
ふむ、確かにそこは気になるな。事情を知らないこちらからしたらいささか唐突にも思える行動だからな。
「あー…おいレント、これはお前が言う事だろ」
「解ってるよ。…実はよ、近い内に島を出て行こうと思ってんだよ、俺」
「…えっ」
「…そうか」
「塔の天辺に行くって夢は叶えた。だから、次は武者修行をしながらいろんな世界を見て回りてえって、そう思ったんだよ」
「だからまあ、俺がやったのは腕試しみてえなもんだ。最近まで飲んだくれてた俺に勝てねえようじゃやっていけねえぞってな」
「それはちょっとハードル高くないかな…?今見てても凄く強かったけど」
「お前等最近竜と戦っただろ?ああいうのが本当に突然来ることも偶にあんだよ。つっても気を付けててもどうしようもねえときは本当にどうしようもねえ。だからせめて真っ向勝負くらいはしっかりやってくれねえとな」
ほう、要するにこれはつまり…
「ザムエルさんなりの親心…というやつですか?」
「…あー、まあ、そんなんだな」
「荒っぽいって言うか、不器用だなぁ…」
「ホントだよ全く…ま、有り難く受け取っとくぜ」
「お前も微妙に素直じゃないな、レント」
…親心、か。私は母の最期の願いを、蔑ろにせずにやっていけているだろうか。
「さて、全員見て回ったことだし、私達はアトリエに戻るか」
「あたしたちはどうしよっか、アルム」
「とりあえず、そろそろ昼食だから一旦家に戻ろうか」
「ああ、だったらアルム。ついでにこいつをカールのとこに返しといてくれねえか。流石に少し休みてえし、どうせお前アイツの家に寄るだろ」
「え、ザムエルさんの剣?なんでお父さんに?」
「…万が一の時の為に、こいつで暴れまわったりしねえように預かって貰ってたんだよ」
「今はもう心配いらないと思いますが…」
「言っただろうが、万が一があるってよ。…ああ、ライザ」
「え、何?」
「ミオが『アルムがいるから大丈夫だとは思うけど、どこで何してるのか解らないのは正直不安だから、錬金術とやらであの子を直ぐに呼び出せる呼び鈴が欲しい』っつって愚痴ってたぞ」
「…今日はちょっと家で大人しくしといた方が良いかも」
「そうしとけ、ああ見えて心配性だからなアイツ」
…母親とは、どんなに強く見えても案外そんなものなのかもしれないな。
「じゃあレント、アンペルさん、リラさん、また明日」
「ああ。そっちもしっかり体を休めろよ」
「おう。きっちり万全にしておくぜ」
…いよいよ明日か。さあ、勝ちに行くか。
見てわかる通り3で出た要素をちょいちょい出してます。
そしてザムエルが最早別人ですねコレ。マイルド化させた時点でこの場面はこう書くと決めてましたが、なんとか辿り着けて良かったです。
オリ要素
冷蔵籠…要するにクーラーボックス。多分作れるし需要めっちゃあるだろと思って出しました。
Q,ところで、これもう告白したも同然では?
A,「はっきり好きと言うのは、蝕みの女王とクーケン島の諸々が一段落ついてからだ。まあ、だからといってそれまでそういう気持ちを全く伝えないのもどうかと思うから、あれくらいは言ってもいいか、と」
ここまで読んで頂き、有難うございました。