アルムが視たら「そこよりもっと笑顔映せ」って言いそう。
異界突入。今回はレント視点→クラウディア視点です。
「――さて、遂にこの日が来たな」
『蝕みの女王』討伐決行の日、俺達はアトリエで最後の作戦会議をしている。ここでやることは突入後の動きの最終確認、それが終わったら後は目的達成まで全力で進むだけ。
…まあ、動きそのものは言うだけなら簡単な物なんだけどよ。
「基本的には雑魚は相手にせず、女王一点狙いで行くぞ」
「どうしても邪魔なら、セルフィアで無理矢理吹っ飛ばしちゃっていいんだよね?」
「数が多いならな。少ないなら俺達前衛組がどうにかする」
「アイテム無しで少数の雑魚に手こずるようじゃ、女王は倒せねえだろうしな」
「私とライザの必殺技も基本的に温存、でいいんだよね?」
「女王と戦ってる時に雑兵が湧いて出てこないとも限らないからね…」
…流石にそれはぞっとするな。後衛組がいるとこにそいつらがなだれ込んだらそのまま前衛の俺達まで巻き込まれて全員お陀仏だ。だからその場でも対応できるようにするか、乱入されねえように対策するかしなきゃマズいな。
「で、後は…あのぷににも何かやらせるのか?」
「坑道の入り口付近に陣取って貰います。万が一にも坑道に入ろうとするとする旅人への威圧と、女王と戦っている間に門を潜ったフィルフサがいた時の対処を頼もうかと」
「…何というか、奴の事も自然と戦力に数えてしまっているな」
「凄く強いもんねー、あの子。仲良くなれて良かったよ」
「模擬戦とかしてても、リラさんの動きに対応出来てたりアルム君の蹴りが押し負けそうになったりしてたもんね」
「体当たりでレントが吹き飛ばされたときは何事かと思ったよ…ぷにってあそこまで強くなれるんだね」
「あんときは油断しちまってたからなあ…アイツ、下手したら古城の竜より強いかもしれねえぞ」
あの時偶然餌付けしたアルムには感謝しかねえな、ホント。なんか貴重な素材も持ってきてくれてるみたいだしよ。
「まあ、アイツの話はここまでにして…後気を付けることは?」
「侵攻が始まる直前だからな、向こうもこちらに渡ろうとしてくる。つまり、門を通ったすぐ目の前にフィルフサがいる可能性があるぞ」
「最悪なドッキリだ…」
門を潜るのは剣を構えながらにした方が良いな…
「それと、キロさんの様子も見に行った方が良いかな?」
「そうだな、奴なら問題ないだろうが…どの道アイツが野営している所を通ることにはなるからな」
「そこで一旦一息ついてから、一気に女王のところまでって感じだな」
「後は…もう無いかな?」
「…いや、1つだけ」
そう言ってアルムが手を挙げた。…何かまだあったか?
「ライザ、複製釜で道具を増やすのに時間はかからないよな?」
「え?うん。物と数にもよるけど、5分もあれば」
「なら、一番いいローゼフラムを10個程増やしてほしい」
「何に使うつもりだ?それだけ作ってもコアクリスタルには入らないぞ」
「ああ、これは直接投げます。出来るだけクリスタルのエネルギーは蝕みの女王に回したいですし、ちょっと思いついたことがあるので」
「ん-…まあアルムの頼みならしょうがない、ちゃっちゃと増やしてくるね」
「ああ、頼んだ」
ローゼフラムを10個、ねえ。コイツの事だから無駄なことはそうそうしねえだろうが…何をする気なんだか。
「さて、ではローゼフラムの複製が終わったらいよいよ突入だ。武器と心の準備を最後まで怠るなよ」
さーて、いよいよ師匠に恩返しするときだ。死ぬ気で気合入れてくか。
「…ん-」
「どうした、ライザ」
「いやー、ちょっと空を見てたっていうか」
門の前まで来ていざ突入って時に、ライザがそんなことを言い出した。空、ねえ。見上げたところでいつもの青空が広がってるだけだと思うが。…いや、今から向かう異界の空はそうじゃないんだよな。
「正直、さ。今まではこの乾期の空…特に太陽が凄く鬱陶しくてさ。いいからさっさと曇れーとか思ってたりしたこともよくあったんだよね」
「そうそう。家の中でゆっくり本を読んでても暑くて暑くて集中できなかったことあるし」
「ほっとくと剣が熱くなって素振りどころじゃなくなったりな」
「その辺り、俺は風の魔力で誤魔化しているけどな。風を軽く纏うだけで体感の温度はかなり変わってくる」
「それホントズルいわよねー、やり方聞いたけど真似できなかったし」
そもそも出来たとしても、日中ずっとなんて普通魔力が続かないだろうけどな。
「まあとにかく、そんな鬱陶しかった空だけど…そんなこの青空が、あたし達の世界の空。あたし達が帰ってくるべき場所の空なんだ」
「…うん、そうだね。だからちゃんと戻ってきて、皆でもう一度この空を見上げよう」
「ああ。そして、叶うならいつか、異界の元の空も眺めたいところだ」
「あそこまで荒れた自然が元に戻るのって凄く時間がかかりそうだから…生きてるかなぁ、僕達」
「こっちから手伝えることがあればいいんだけどな…どこもあんな感じになってるなら、水だけ戻してほっとくだけでなんとかなるとは思えないしよ」
方法が思いつくわけじゃねえから、頼まれても何もできねえけどな…旅先で良さそうな何かが見つかれば良いんだけどな。
「気持ちは有り難いが、そういう話は蝕みの女王を倒してからだ。まずそれをしないことには何も始まらん」
「ああ、今は奴に集中するぞ。我々がやられてしまえばフィルフサ以外の誰にとっても悪い結末にしかならんからな」
っと、それもそうだな。先の事を考えすぎて目の前の敵を疎かにして、それで負けて死にましたなんて笑い話にもならねえ。
「じゃあ…行こう、みんな」
「全員で勝って、生きてここに帰るぞ」
ライザとアルムの言葉に全員が頷いて、異界への門に突入した。さあ、いよいよ決戦だぜフィルフサ。
「っ、と……やはりいたか!」
「よっ…と、マジでいやがるとはな!!」
「とっ…ッ!!」
門を潜って異界に来た私達の目の前に、いきなりフィルフサがいた。「空読み」と一緒のサソリ型と坑道にもいたネズミ型、そして将軍級って言われてる大型の3種類。だけど、前衛の3人がすぐに対応してくれた。
「はぁっ!!」
リラさんは一瞬でネズミ型との距離を詰めて、首のあたりを引き裂いた。ネズミ型は何もできずにその場に倒れた。
「とっ…おらあぁっ!!」
レント君はサソリ型の尻尾の攻撃を弾いて、そのまま剣を振り下ろした。サソリ型の胴体が真っ二つになった。
「沈めっ!」
アルム君は将軍級が動く前に頭を思い切り踏みつけた。将軍級の頭が本当に地面に沈んで、角みたいな部分が砕けて、前半分くらいの外殻が罅割れた。
「…はっや」
「やれやれ、揃いも揃って頼もしいな」
「驚く暇も無かったよ…」
うん、私もタオ君と同じ気持ちだよ。いるって気が付いたときにはもう倒されてたから。
「…おいアルム、何だその威力」
「ああ、こいつのおかげだな。ライザが新しい武器を作る時に「フィルフサの外殻を砕きやすくするために、可能な限り重く硬くしてくれ」と頼んだんだよ」
「本当にそれだけか?流石にこれは尋常ではないぞ」
「…可能な限り重くしたうえで魔力が伝わる効率を極限まで高めようとして、畑で採れた火と風のエレメントコアをいくつか組み込んだらしいんですよ。お陰で出力が尋常じゃないことになりまして」
「…本当なら多分メチャクチャ贅沢な使い方してるよな、それ」
「力の結晶だから武具に使うのは間違っていないが…そもそも畑から取れるものではないからな」
「マジで何なんですかね、あの畑」
「鉱石も、俺が見てすぐに解るくらいには良い物が栽培されるからな…」
あれは種が特殊なんだと思うけど…というか、リラさんから見ても今のアルム君の攻撃って凄いんだ。一瞬で急所を突いたリラさんも、一撃で真っ二つにしちゃったレント君も凄いと思うけど。
「私とライザが全力で調合した種だ、それくらいやってもらわねば困る」
「「それくらい」のハードルが高すぎますよアンペルさん…」
「まーまー。今こうして役に立ってるんだし、細かい事は言いっこなしよ」
畑から木材どころか鉱石とか炭とか砂が採れたりするのを細かいで済ませるのは…もしかして、それが出来ないと錬金術士として大成できないのかな…?
「まあ、この一瞬でこれだけの威力が出せるなら蝕みの女王にも有効そうだな」
「「
「その分重量が嵩み過ぎて、アルム以外まともに使える代物では無さそうだが」
「ライザは「あたしは歩くのも無理!」と言っていたな。俺でも、魔力による補助がないとただ走るのも一苦労なくらいには重い」
「しかもそれをやろうとしたらしたで、調整ミスするとあらぬ方向に吹っ飛んでいきかねないじゃじゃ馬なのよね」
「何でそんなもの履いて平気で戦えるのさ…」
「吹っ飛ばない調整の仕方さえわかれば、後はもう『大体これくらい』で良い感じにやれる」
「そういうとこホント雑だなお前…」
…アルム君が強い理由って、意外とこういうアバウトなところにあったりして?
「しかし、この一瞬で将軍を討伐できたのは大きいな。これでこいつを核とした一群の集結を妨害できる」
「単なる上位種の通称とかじゃなくて、本当に将軍みたいな役割がある奴なんすね」
「成程。…用意したローゼフラムも、思っていたより有効に働きそうだ」
アルム君はローゼフラムをどうやって使うつもりなんだろう?敵の集団に投げ込むってところまでは想像がつくけど…
「さて、話はそこまでにしてキロ・シャイナスと合流するぞ」
「うん。無事かどうか確認したいし、今の状況も聞きたいしね」
「こっちからも話したいことは色々あるしね、古式秘具の事とか」
「後、蝕みの女王を倒しに来た…ってことも、だね」
流石に驚くだろうなあ、キロさん。
「えーっと、確かこの辺…あ、キロさん!!」
「大侵攻の予兆があったから、きっと様子を見に来ると思ってた。…君達と再会できて、嬉しい」
「私達も、キロさんが無事で嬉しいです」
聖地にいるキロさんを探そうとしたら、直ぐに見つかってくれた。良かった、無事みたい。
「この感じ…どうやら聖地は襲われていないようだな」
「奴らは門を真っ直ぐに目指すから、そこから外れている聖地には目もくれない。寧ろ、周りの群れが駆り出されているせいで静かなくらい」
「それってつまり、女王の城の周りにはうじゃうじゃ居るって事だよね」
「うわぁ、想像したくない…」
「余計な壁が増えたとみるか、纏めて吹き飛ばす好機とみるか…」
「以前から思っていたが、魔物相手だと随分荒っぽくて物騒だなアルム」
「手加減も容赦も必要無いので。特にフィルフサはこっちの生活もかかってますし」
「…纏めて吹き飛ばす?」
「あーっと、じゃあまず情報交換しましょうか」
~斯く斯く然然~
「…そう。古式秘具は、やはりそちらに。ボオスは気に病んでいた?」
「だろうな。ぱっと見は落ち着いてたが…多分内心切れてたと思うぜ」
「恐らく、今すぐにでもあの球を壊したくてたまらないでしょうね。知らなかったこととはいえ、自分の家が盗品を勝手に使って権勢を揮っている状態な訳ですから」
「その様子は目に浮かぶ、ボオスは真面目で気位が高いから。…古式秘具のありかが解ったのなら、その事で彼が怒ってくれているというのなら、まずはそれでいい」
改めて聞くと凄い状態で維持されてるんだよね、クーケン島の生活って…
「そしてそっちは…本当にやるの?蝕みの女王を倒して大侵攻を止めるなんて」
「色々考えた結果、これしかないという結論になりました」
「心情的にもタイミング的にも、止めないとマズいんです」
「一応、出来得る限りの準備はしてきたが…なるべく消耗を抑えたい。女王の城に至るまでの情報が欲しいのだが」
「やっぱり、本気なんだ…解った、君たちの勇気と闘争心に応える。私の助力は?」
「聖地を守るお前を、私たちの戦いに巻き込むわけにはいかない。お前はここでお前の戦いの為に残っていてくれ」
「分かった。…こちらは故郷を荒らされ、そちらは尻拭い。お互い、クリント王国のせいで苦労をさせられるな」
「…ああ、本当にな」
…あんまりこういうことは言いたくないけど、今回塔で発覚したこと以外にもまだ何かしてそうって思っちゃうなあ。
「女王の城は、奥の封鎖してある道の先にあるはず。君達の無事を祈る」
「有難うございます、キロさん」
絶対にみんなで、無事に帰ってきます。
おまけ キロ「いくら何でもその出処はおかしい」アルム「ですよね」
「ところでアルム、君の履物だけど」
「ん、何か気になるところが?」
「途轍もなく強い力を感じる。もしかして、エレメントコアが組み込まれてる?」
「ええ。よく解りましたね」
「エレメントコアは大精霊様が持つ力の結晶だから、精霊の力を借りる私達には解りやすい。もしかして、大精霊様に会った?」
「いえ、特には」
「なら、どうやって?偶然で手に入るものではないはずだけど」
「…農作物です」
「…???」
「錬金術で作った種を畑に植えたら、なんかこう、鎮座していまして」
「……??????」
「…大丈夫ですか?」
「…数百年単位で信じてきた自分の常識を、粉微塵に破壊された気分といえば伝わる?」
「…何か、すいません」
ライザの畑の収穫物の中でも、一番何で採れるのか解らない代物だと思う。
武器更新 エタニティダンサー→ディザスターブレイカー(災厄の破壊者)スロットは4つ
武器スキル 災い砕き(アクティブスキルの消費APが増える代わりに、攻撃力とブレイク値が大きく増加する。一段階ごとに消費AP+1、攻撃力とブレイク値+25%)
なお攻撃力そのものが上がるので通常攻撃とオーダースキル、フェイタルドライブはノーデメリット。
Q,ただ走るのすら魔力使わないと一苦労ってそれ魔力保つの?
A,アルムがやってる動きの補助は、魔力による身体能力のブーストではなく風と炎の魔力で推進力を生み出し、それでブーツを浮かせて重量を軽減することで行っています。
ディザスターブレイカーは魔力の効率が異常に良いから量はほとんど必要ないですが、効率が良すぎるせいで制御が手間です。ちょっとでもうっかり流し過ぎるとフローリングの上でバナナの皮を踏んだ時のような動きになります。
ここまで読んで頂き、有難うございました。