変化の連鎖は、10年前のあの日から   作:七人の母

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この話含めて1の時系列の本編はあと多分4話くらい。
女王の元まで進軍。今回はレント視点→???視点です。


侵略者に侵掠すること、爆炎の如し

「この石碑は…?」

「共生…記念…で、合ってるか、タオ」

「うん。…友好の証、とかそんなことが書いてあるね」

「おこがましいっつーかなんつーか…」

「最初は本当に、そのつもりだったのかもしれないけど…」

 

キロさんが道を塞ぐために置いた岩を砕いて異界を進んでいた俺達は、ぽつんと置かれた石碑を見つけた。そいつはどうもクリント王国とオーレン族の友好を記念して造られたモンらしい。

…例の手記に友人とか書かれてたから、クラウディアの言う通り最初は本当に友好関係を続ける気でいたのかもしれねえが…結局あんな事してんだから擁護はできねえな。

 

「…ハッキリ言って、余裕があるならついでに壊していきたい代物だ」

「それができるならキロが既にやっていそうだが…この材質と造りでは、恐らくお前やアルムが全力をぶつけても破壊はできんだろう」

 

リラさんやアルムの全力で壊せねえとかとんでもねえ硬さだな…俺の必殺技でもぶった斬れねえどころか逆に腕が折れるかもな。

 

「ならそれについては考えないことにして…どっちに進みますか?」

「どっち、だと?道は左側にしかないが」

「いえ、ここから降りれば近道になるんじゃないかと。フィルフサも小型が数匹いるだけですし」

 

そう言ってアルムが指差した先を見ると、真ん中に結晶が生えてる広場があった。…イヤ結構高いぞコレ。

 

「ふむ、良い案だ。では行くぞアルム、アレくらいなら私とお前ですぐに片付く」

「了解です」

 

そう言って2人は躊躇いなく降りた。多分30秒もかからねえだろうから早く降りれそうなとこ見つけねえと…

 

「全く、ショートカットは良いがまさか2人で往復して私達を下に降ろすつもりなのか?」

「流石にそれは大変ですよね…いざって時の為にあんまりあの2人に疲れは溜めて欲しくないですし」

「レント君、どうにかできないかな?」

「今それを探して…お」

 

丁度右側に良い段差があったぜ、あそこからなら俺ならタオ1人くらいはおぶって降りられるな。

 

「よし、俺はあっちから降りる。タオ、おぶってやるから一緒に来い」

「え、僕?…あんまり揺らさないでよ?」

「心配すんな、やたら飛んだり跳ねたりするあの2人よりは怖くねえはずだ」

「比較対象がさぁ…」

 

言うなよ、言ってて自分でも苦しいって解ってんだから。

 

「ふむ、私達はどうする?」

「アレくらいなら1人で降りられると思うから、あたしはあっちから行くね」

「じゃあ、私はリラさん、アンペルさんはアルム君にお願いすればいいかな」

「…安全運転を注文しておこうか」

 

で、俺達が下りたのと入れ替わりでアルムとリラさんが2人を下ろすために上に戻ったが…降りてきた時、クラウディアはお姫様抱っこだったが、アンペルさんは俵担ぎだった。いやまあ確かにそれ持ちやすいし動きやすいけどよ、アンペルさんが大分息荒くしてたぞ、アルム。

後クラウディア、「空を飛んでるみたいで楽しかった」って…今更だけどお前肝据わりすぎだろ。

 

 

「さて、次は…なんだありゃ」

「うっわ、将軍級が固まってるじゃん」

 

少し進んで門を潜った先に居たのは、4体で固まってる将軍級のフィルフサ。1体ずつならもうそう苦労はしねえけど、あれだけ一気にってなると流石にキツイな…どうするか。

 

「あそこ抜けないといけないの?他に道は…」

「無いな、ここ以外に道と言えるようなものは無い」

「アレを抜けるか、道なき道を抜けるか…か」

 

正直どっちも勘弁だが…できるだけ早く大侵攻を止めたいからな、あそこを抜けるしかなさそうだ。

 

「…あ、そうだ。アルム君、ローゼフラム」

「そうだな、ここが使い時だ」

 

…ローゼフラム?いや、それでどうにかなるかアレ?

 

「確かに10個もあれば突破はできるだろうが…」

「いえ、ちょっと一手間を加えれば…よし、良い感じに固まってるな」

 

そう言いつつローゼフラムを1つ取り出して…顔の近くまで持ってきて見つめ始めた。意識を集中させてるっつうか、何かを込めてるのか?

 

「…よし、これでいいな」

「アルム、何したの?」

「コイツに俺の魔力を込めた。炎で威力を高め風で圧縮するようにな」

「威力はともかく…圧縮?」

「熱とか爆風が広がりすぎるとこっちにも被害が出るかもしれないからな。ついでに局所的な破壊力も高まってる筈だ」

「爆弾に炎の魔力なんて込めて危なくねえのかよ?」

「着火するならそうだが、これは言ってしまえば爆薬を外付けで追加しているだけだからな。問題ない」

 

…まあ実際大丈夫みたいだし納得しとくか。つまりそのローゼフラムはアルム特性の爆弾になってるわけだな。

 

「さて、まだ固まってくれている内にさっさと投げ込むか。…食らえ」

 

アルムがフィルフサの集団に向かって投げたローゼフラムは、綺麗にその真ん中に飛んで行き…

 

 

ボガァァァァンッ!!

 

 

長めの爆音を出しながら炸裂した。あんま強烈な音じゃなかったから、ホントに威力が出たのかちょっと心配になったが…

 

「…よし、成功だな」

「…全員ひっくり返って、動かなくなっちまってるな」

「うーわ、音の割にえげつない威力…」

「…あのフィルフサ、頭吹き飛んでない?」

「ほ、ほんとだ…」

 

寧ろやり過ぎなくらいの威力だった。大型のフィルフサ4体を一撃って尋常じゃねえぞ…

 

「なんというか、今朝思いついたばかりの策にしては破格の成果だな」

「お前達が錬金術を悪用する人間じゃないことに、心底安心しているよ」

 

完全に同感っす…

 

「…ところでアルム君、ローゼフラムって10個持ってきてるんだよね?」

「ああ」

「じゃあ、こんなに凄い爆弾が後9回使えるって事?」

「そうなるな」

「…どうしよう、フィルフサにちょっとだけ同情しちゃった」

「向こうからしたら、これと言って因縁も無い相手からこんな破壊兵器が飛んでくるわけだからね…」

「私が真似できたら、蝕みの女王に嬉々として放り投げてやるのだが」

「まあそれはアルムが代わりにやってくれるだろう。…ところでアルム、ローゼフラムを1つ私にくれ。私の魔力なら面白いことが出来そうだ」

「解りました」

 

アンペルさんが考えるフィルフサ相手の面白い事…えげつねえことになる気がするぜ。

 

「それにしても、なんだか異界っぽくない建物が増えてきたわね」

「それだけ女王に近づいている証拠だ、より一層気を引き締めろよ」

「爆弾で崩れたりするかもしれませんが、構いませんよね?」

「ああ、むしろ思い切りやれ。あんなもの、いずれ全て解体してやらねばならんからな」

「クリント王国の建築様式を知る上での貴重な資料ではあるが…オーレン族の感情より優先されるものではないしな」

「了解です。…今の内に2,3個準備しておくか。速攻で将軍相手に投げ込めば、群れを瓦解させられるかもしれない」

「そこを突っ切って一気に女王のところまで、だな」

 

そうすりゃ、後は全員全力でぶつかるだけだ。

 

「では、全員…覚悟を決めろよ」

「何が何でも、勝って帰るぞ」

「「「「「はいッ!!!」」」」」

 

ぶっ倒してやるぜ、蝕みの女王。

 

 

 

 

――…

 

『略奪者の大石塔』…そう呼ばれる場所で、フィルフサの頭である蝕みの女王は今か今かと待ちわびていた。

嘗てこの地から、自分達が何より嫌う水が消え去り、その瞬間これ幸いと侵攻し己が物とし、更には謎の穴の先の世界にまでその手を広げ、しかし食い止められ穴は閉じた。

 

――…フタタビ…

 

その穴が最近になって再び開いた。つまり、女王にとってはチャンスである。純粋なフィルフサとしての本能を満たすと同時に、進行を阻止されたことに対するリベンジを果たす為の。

 

――…コンドコソ…

 

あの世界も我らの物にしてやる。そう思い、自分自身も侵攻の準備を始めようとしたその時…

 

…ドォン

――…?

 

遠くから聞こえた音。少なくとも、女王には聞き覚えの無いものだった。それ故に、何が起きているのか見当もつかない。

一瞬だけ気にしたものの、大したことではないだろうと結論付けて意識の外に追いやろうとした。が…

 

ドォン

――…!?

 

同じ音。短い間隔で、しかしかなり近づいている。流石に異変を感じ取り、警戒態勢に入る。

 

――…ナニガ…?

 

考えども考えども、女王の中で結論は出ない。そして…

 

ドォン!

――…!!

 

3度目。かなり近い。恐らく、音の発生源はもうすぐそばに来ている。女王の警戒心がさらに高まる。

 

――…クルカ…!

 

そうして、両腕を構え臨戦体勢に入る。そして次の瞬間…

 

――……!!?

 

女王の目の前に、4つの赤いナニカが飛来した。女王が反応できない程の速さで。

 

ドドドガァァァン!!!

――……ッ!!!!

 

あまりに強い衝撃を受けた女王は大きくのけぞり、甲殻にもヒビを入れられる。そして凄まじい熱量によりジリジリと体力を削られる。

 

――……!!

 

続いて飛んできたのは、魔力による攻撃。複数の魔力球に魔力の刃、そしてレーザー。1つ1つの威力は大きくは無いが、無視できるほどでもない。そして…

 

「オラァッ!!」

 

弾幕に紛れて迫って来た「赤」に、頭部の甲殻を斬りつけられる。女王は己に肉薄してきた「赤」を両腕の鎌で切り裂こうとするが…

 

ドゴォンッ!!!

――……ッ!!!??

 

振りかぶった瞬間、腹部に「青」が突き刺さる。先ほどの爆発にも劣らない衝撃が女王を襲い、大きく後ずさった。

 

「蝕みの女王ッ!!」

 

そして「黒」…且つてフィルフサによってこの世界から追われた戦士が一瞬で距離を詰め、その女王の首を挟み込むように切り裂きながら宣言する。

 

「我らの世界を取り戻す為に、お前は私達がここで始末する。…覚悟しろ」

 

怒りと使命感から成る、排除意思を。

 

 

 

 

オマケ アルム「因みにこの抱え方を『お米様抱っこ』と呼ぶ人達もいるとか」アンペル「無駄に上手いのが腹立たしいな…」

 

「こちらは終わったぞ」

「そうか、では頼むぞ」

「私はリラさんにお願いしていいですか?アルム君が私を運ぶのはライザにちょっと悪いと思いますから…」

「そうだな、クラウディアは私が運ぼう。ではアルム、アンペルは任せたぞ」

「はい。…よっと」

「おいアルム、何だこの抱え方は」

「俵担ぎですが」

「それは知っている。そうではなくてだな」

「ダメですよアンペルさん!アルム君はライザ以外をお姫様抱っこしちゃダメなんですから!」

「いやそれを要求するつもりも無いが、だとしてももう少しだな」

「これが安定性と絵面的に一番マシなもので」

「おい安定性は兎も角絵面的にとはどういうことだアルム」

「いいじゃないか、安定性があるのなら。…くくっ」

「おい戦場で笑うなリラ、戦士だろう」

「お前のそんな姿を見ることになるとは思わなかったからな。それに今は周りに敵の気配はないから問題は無い」

「さて、じゃあそろそろ降りましょう」

「ああ。クラウディア、しっかり捕まっていろよ」

「はい!」

「動かないでくださいね、アンペルさん」

「おい、頼むから安全運転で頼むぞ?この体制では普段のそれより頭が地面が近くなる分落下に対する危機感がだな――」

「行くぞアルム、1,2の」

「「ハッ!!」」

「…っ!!」「うおおおおおお!?」

 

 

「2人ともお疲れ様ー。大丈夫だった、クラウディア?」

「空を飛んでるみたいで楽しかったよ。私も飛べるようにならないかなぁ」

「ホント、肝が据わってるよなお前…」

「飛ぶのは難しいが、風の魔力が使えるなら滞空時間を少し延ばすくらいはできるぞ」

「えっと、それでアンペルさんは大丈夫ですか…?」

「…これが終わったら、時間操作の応用で自力でゆっくり降りる為の魔法を作る」

「そうか。…お前を抱えていくのは、嫌いではないのだが」




爆炎の如しというかそのものである。

後半、まさかの「蝕みの女王寄りの3人称視点」。アルムが大型を吹っ飛ばしてみんなが残りを処理するっていうのを3回くらい繰り返す展開よりこっちの方がそれっぽく書ける気がしたので。公式で女王って知能が高いらしいですしこれくらいの思考能力はありそう。
後アルムの特性ローゼフラムは風で爆風を圧縮してるので音が外に漏れにくくなってます。これがなかったら遠くてもメチャクチャうるさいせいで他のフィルフサが寄ってくるので道中ちょっとだけ面倒になってました。
オマケは…まあ、アンペルは「(ゲームでは通れないけど)ここ飛び降りればショートカットできるんじゃね?」なんて思いついた作者を恨めとだけ。

Q,女王って爆弾解らないの?
A,以前の侵攻では誰も女王の元にたどり着けなかったので、フラムなどの攻撃手段を知られることなく終わったことにしています。

ここまで読んで頂き、有難うございました。

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