ここから暫くは基本的にアルム視点になるかと思います。
新しい『いつも通り』からの、まさか過ぎる邂逅
「おはよう」
「おはよー、アルム兄」
「ああ、おはよう」
「あらおはよう!ご飯はもう少し待ってね?」
オーレン族に水を返し、レント達の旅立ちを見送った翌日。俺は朝起きてエルと母さんに挨拶し、顔を洗って朝食を取ったら親父の手伝い…そういう、いつの通りの日常をまた過ごす日々が始まった。
「それにしても、クラウディアさん達はともかくレント君までいなくなっちゃうなんてねぇ…」
「なんなら近いうちにタオとボオスも王都の学校に行くぞ」
「学校かー。一応島にも小さいのはあるけど…」
「比べ物にならないらしい。建物の大きさも、学べることもな」
島の方も最低限の事は教えてはくれるが…国が運営している学校とは流石に比較しちゃいけないな。
「とはいえ、アイツ等が帰ってきたらあっちで学んだことを活かしてより良い教科書作りに役立ててもらうがな」
「あら良いわねそれ!島の子達みんな凄く頭良くなっちゃうかも!」
「その分勉強がおっくうって子も増えそうだけどねー」
「流石にその辺りの段階は踏むだろうがな」
まあそこはアイツ等も解っているだろうし、いきなり変なことは書かないだろう。
「なんにせよ楽しみだわ~。…はい、出来たわよ!」
「有難う。それじゃあ…」
「いただきます!」
「「「いただきます」」」
さあ、一日の始まりだ。
「アルム、エル。食べ終わったら今日もやるぞ」
「ああ、その前にちょっといいか?」
「ん?…ああ、ライザか」
「まだ寝てるかもしれないしな、念のため起こしに行く」
「そこはいち早く顔が見たいから、とか言えばいいのにー」
「それは言うまでも無いだろ。ついでに寝顔でも見れれば、と思ってるだけだ」
「あらあら…眺めすぎて時間を忘れちゃわないようにね?」
「気を付けるよ」
…ああ、さっきいつも通りの日常とは言ったが、1つだけ変わる点がある。ライザと恋人同士になってからは、毎朝こうやって迎えに行くことにした。
いち早く顔が見たいというのもあるが…錬金術士としての役目こそできたが、冒険自体は一旦終わったせいかまた少し寝坊助なところが戻ってくるだろうからな。
「お早うございます。ライザは?」
「あらお早うアルム。あの子ならまだ寝てるわよ」
「やっぱりですか…起こしてきても?」
「良いわよ、寧ろ気つけには丁度良いだろうし」
というわけでライザの家を訪ねてみたが…やはりまだ寝ているようだ。さて、早速顔を見に行くか。どれ…
「…くかー…」
「…涎が垂れてるな」
流石にこれは起こす前に拭いておいてやるか。
「あるむ~…♪」
「…」
…どうも夢の中にも俺が出て来ているらしい。満面の笑みを浮かべているから、間違いなく吉夢なんだろう。
「えへへ~…」
「…よし、起こすか」
正直もっと見ていたいし、見ていられるが…仕事があるからな。このままだと時間が無限に過ぎていきかねない。
「ライザ、朝だぞ。起きろ」
「んぅ…」
「またミオおばさんに叱られるぞ」
「う~…」
体をゆすりながら声をかけてはみるが…起きそうにないな。とはいえ大声を出すのはあまりやりたくない…ならば。
「ライザ」
「うひゃあ!?」
限界まで耳元に近づいて囁くように名前を呼んでみたら、凄い勢いで飛び起きた。よし、作戦成功。
「えっ、えっ!?な、なに、なに!?」
「おはよう、ライザ」
「…えっ、アルム!?」
「おばさんから許可は貰ってるぞ」
起こし方の指定もされていないしな。
「えっと…つまりアルムはあたしを起こしに来た?」
「ああ」
「ってことは寝顔も見られた?」
「それはもう前に一度見てるがな」
「…寝言は?」
「続きは現実で楽しんでくれ、とでも言おうか?」
「…アルムのばかぁ…」
どうも夢の中では積極的なようだったし、真似してみたらどうだと提案してみたが…まあまだ無理か。こういう事だけはどうにもしおらしくなるよな、ライザは。
「さて、あんまり親父達を待たせるのも悪いな。ライザ、俺はもう行くから早く準備して農場に来いよ」
「あー、うん、解った」
「…と、その前に」
「え、なに…んっ!?」
「…改めて、おはよう」
「…お、おはよう…」
2人きりだし、したくなったので不意打ちでキスをした。…少し前までこんなこと頭にも浮かばなかっただろうに、相当浮かれているな、俺。
「ん…しょっと!これで最後かな?」
「…よし、今日の分はこれで終わりだ」
「そうですね。3人もお疲れ様」
「よーし、終わった終わった!」
「さて、今日は何をするかな…」
本日の収穫も何事も無く終わり、ここから自由時間。…まあ、口では何をするかと言いつつも実際は決まっているんだが。
やはりまずやるべきは淡水化装置のことだろうか。現状の目標では一番手を付けやすい所だろうしな。
「…しかし、ブルネン家の水源が失われ、その代わりに噴水が復活…か」
「ん、どうした親父?」
「いや、な。アルム、クーケンフルーツの性質は覚えているな?」
「?ああ、周囲の水を吸い上げて育つから瘦せた土地でもある程度収穫が見込めるとか、環境の変化の影響を受けやすい…でいいか?」
「ああ…」
「…何か懸念があるのか?」
「水源が変わったということは、水質も変わっているかもしれないという事だ。それがクーケンフルーツに良からぬ影響を与えなければいいが…と思ってな」
…あ˝。
(しまった、完全に失念していた…)
農家にとっては水質の変化は生活にも商売にも関わるまさに死活問題。仮にも農業に携わっていてこの可能性に気付けなかったとは…迂闊だった。
しかも湖の水を汲み上げてろ過しただけの水とオーレン族の世界を潤していた清水では、品質に差があるのは明白だろう。
「…ライザ、作戦会議だ。今すぐにな」
「え?な、何があったの?」
「向こうで話す。…全く、折角恋人ができたって言うのに、そう簡単には浮かれさせてくれないらしいな」
「…う、浮かれてくれてたんだ、アルム」
「当たり前だろ」
お前みたいな恋人ができて浮かれない男はそうそういないと思うぞ?
「…そういうわけで、クーケンフルーツの品質に悪影響が出かねないから淡水化装置の件を急ぎたい」
「あー…仮にも農家の娘なのに気付けなかった…」
「そこはお互い様だ。…で、どうしようか」
「どうするって言ってもなー…」
とりあえずアトリエまで来て親父の懸念をライザと共有したはいいが、解決策については何も浮かばない。というより、今の俺達の知識ではどうにもできないことなのかもしれない。
となると、知っていそうな人に聞くというのがまずやるべき事だが…
「島の人達にそういうこと下手に聞くと怪しまれるよね…」
「かと言ってタオとボオスに聞くのもな…アイツ等は今留学の準備をしている。知っていればいいが、知らなかった時アイツ等が考えることを増やしてしまうからあまり頼りたくない」
「ってなると…やっぱり塔まで行くの?」
「ああ、淡水化装置の参考資料でもあれば万々歳だからな」
餅は餅屋、こういうことで一番頼るべきはやはり製造元だ。それに、島の生活に役立ちそうな資料も何かしら見つかるかもしれないしな。
「うーん、あたしも付いていきたいけど…」
「錬金術で困っている人たちの手助けをしたいんだろう?なら、お前はそっちに注力しろ。俺は錬金術そのものにはどうしても手を貸せないんだ、その分こっちは任せてくれ」
「…ん、わかった。…あ、じゃあ…」
「?」
いいこと思いついた、と言わんばかりの顔をこちらに向けてきた。何を言うつもりなんだ?
「ライザとアルム、2人で1つの錬金術士。本日より本格始動!…なーんて」
「…」
「…だ、駄目だった?」
「…そうか、俺達は2人で1つか」
「…あっなんか急に恥ずかしくなってきた!今のナシ!一旦ナシ!!」
「悪いな、無理だ。じゃあ行って来る」
いつか不意打ちで名乗ってみようか、『2人で1つの錬金術士』。
「さて、来たはいいがどこから手を付けようか」
塔の前まで来て、その中にあった膨大な数の本…ほぼ間違いなく錬金術の研究資料を思い出しながらまずどこを攻めるか考えてみたが…全部検めるのは流石に時間がかかる。
特に最上階、アレを1人の人間がどうこうするのは厳しいだろう。…とはいえ、地道に探すしかないんだが。
「…一つの場所に固まっている資料は、傾向も大体同じな筈。それである程度搾れはするか?」
下から順に見て行って、ありそうな感じがしたら徹底的に洗い出し、無さそうなら見切りをつけて次。これがベターだろう。
「よし、行くか。…魔物は相変わらず、か」
とはいえ、刺激し過ぎなければいいし今の俺なら不意打ちされても問題は無い。警戒はするが、ある程度資料に集中していいだろう。
「さて、手掛かりの1つでも見つかればいいが」
さあ、捜索開始だ。
「…植物を錬金術で生やす研究?ああ、あの結晶のエネルギーを利用して無理矢理成長を促進させるのか」
「どんな災害があっても即座に牧草を成長させて家畜の食糧を確保できるし、作物にも使えるから餓死の心配がほぼなくなる、と。利用している物の出所を除けばいい研究だと思えるな」
「…勢い余って育ち過ぎるから、まだ実用段階に無かったみたいだが」
「義手…それもアンペルさんが使っている装着して動きを補助するものじゃない、欠損した腕の代替品として取り付けるのか…!」
「魔力を利用して本物の手と同じように動かせる機械義手…人体の一部まで造れたのか、クリント王国」
「この変形して無理やり腕を伸ばす機構は何の為のものか見当もつかないが…というか細くなりすぎて強度が不安になるだろこの状態」
「…心臓の、代替品?こんな研究まで…」
「『死にたて』なら即座に接続すれば一時的に復活できる錬金術製の人工心臓…発想から恐ろしいな」
「…焼く候補に入れておくか。実験がほぼできないに等しいから研究の進み具合は良くなかったみたいだが、流石に残しておくと危ない研究のような気がしてならない」
「この辺りは…美容関係か?こういう研究もしていたんだな」
「髪質の改善、小顔の実現…か。何時の時代、どこの国でも、女性はこういうことに気を遣うものなんだな」
「…持って帰るか。ライザも近い内に本格的に気にし出すだろうし」
「…睡眠のススメ?研究資料とかじゃなくて私物じゃないか、コレ?」
「いや、これも研究の参考資料か。しかし、睡眠学習か…様々なことを覚えやすくなるのなら、エルやタオが喜びそうだ」
「もしかしたら戦闘にも活用できるか…?いや、せいぜい特定の相手との一対一で動きを読みやすくなる位か」
「盤上遊戯指南…これは完全に私物だな」
「…よく見るとチェス盤とコマの残骸のような物もあるな。外に出していたみたいだし、それなりに遊んでいたんだろうか」
「まあ研究者も人間だから娯楽は必要だったんだろう。その娯楽も頭を使うものな辺りある意味流石だが」
「色々見つかりはしたが、目的のものは未だ手掛かりなし、か…」
塔の最上階、俺は浮遊天球の間にある机の上に読み終えた本を並べてそう呟いた。捜索を始めて1月程経ったが…生活に役立ちそうなものはいくらかあったが、肝心の淡水化装置に関しては未だ有力な手掛かりは見つかっていない。
「…捜索に当てる時間を増やすべきか?色々怪しまれるリスクは増えるが…」
出来たばかりの彼女をほっといて頻繁に昼間にどこかに行ってるなんて怪しいにも程があるから、ある程度日を開けながら探していたが…俺達の生活に直結するかもしれない問題だ、多少のリスクは許容してでも頻度を上げた方が良いのかもしれない。
「…まあその辺りは後で考えるか、今は手掛かりを探すのみだ」
『へー、何の手掛かり?』
「ああ、淡水化装置の改りょ…ッ!!?」
突如、背後から謎の声が聞こえてきた。振り返るとそこにいたのは…宙に浮く玉座に足を組んで座っている、得体のしれない女がいた。…何者だ、いつの間にここに…!?それに、なんだこの存在感と魔力は…!?常闇の女王に勝るとも劣らないぞ…!
『あ、何者だって顔してる。まあ、いきなり背後に現れて声かけられたんじゃそうなるわよね』
「…それが解るのなら、答えてもらえると有り難いんだが」
『いいけど、まずはその警戒を解いて欲しいんだけど?別に取って食べようってわけじゃないのにそう身構えられるのは流石にねー』
「…悪かった」
…なんとなく嘘を言っているようには見えなかったから、大人しく従っておこうか。
『よろしい。さて、アタシが何者かって話だけど…その前に1つ聞いても良い?』
「何だ」
『いや、その靴に仕込まれてるエレメントコアはどこで手に入れた物なのかなって』
「…!?」
一瞬でディザスターブレイカーのエレメントコアの事を看破した…!?そんなこと、精霊の力を借りて戦うリラさんやキロさんくらいにしか…
(…まさか、コイツは)
『ちょっと、聞こえてる?』
「あ、ああ。…ちょっと畑からな」
『は?…あー、解った。アンタ錬金術士かその知り合いね』
「…今の話、理解できるのか」
『そりゃねえ、そんなトンチキやるのなんて錬金術士くらいでしょ』
「…風評被害とは言えないのが、なんとも」
実際アレが畑に鎮座していた時は何事かと思ったものだしな。…しかし、エレメントコアの事もそうだが、さっきの口ぶりからするに…
『まあスッキリは…してないけどどういうことかは解ったし、約束通り名乗らせてもらうわ。
――アタシは雷の大精霊、その名の通り、雷を司る存在よ』
「雷の…大精霊…!」
…こんなところで、そんな大物に出会ってしまうとは、な。全く、この事をリラさんに話したら、何を言われるやら…
『ところでアンタ妙に本を読むのが速かったけど』
「天文時計に過労してもらってる」
『道具使い荒いわねー』
恐らくライザシリーズの道具で一番現実に欲しいと思われているであろう時空の天文時計。戦闘以外でも便利すぎてアルムもこういう時以外は極力使わないようにしています。
原作での大精霊は全員尊大な口調でしたが、今作では一人を除きあの口調はお仕事モードのものということにしています。雷の大精霊はフランクな女の子口調ですね。
そして途中で見つけた本は全部1のパーティメンバーの中の人にちなんだ内容になってます(元ネタはその内活動報告に載せるかもしれません)。そのままでは出せないネタもあるのでライザ世界(というかクリント王国)にギリギリあり得そうな感じにちょいちょい変えてますが。
そしてアルム、デレると素直クールと化す男である。ライザが優位を取れる日はくるのか?
ここまで読んで頂きありがとうございます。投稿頻度は相変わらずになるかと思いますが、これからも宜しくお願いします。