『ゴジラ対ヴ級海底軍艦 轟天振武の章』   作:モーター戦車

3 / 4
プロローグ 第0話「はじまりのはじまり」Cパート

 路上を高速で引きずられながら、タクシー運転手、否、ムウ帝国工作員は足掻いた。

 

 アスファルトというおろし金で背中を時速50キロで擦られている状態というのに、手首を掴んだ式波・アスカ・ラングレーの手を振り払おうとして藻掻く。

 

 男の手から再びの生体放電。全身の筋肉が限度を上げて縮んでゆくのを式波は感じた。

 

 自分の体を構成するヒト由来細胞が苦痛で悲鳴を上げるのを、意思の力でねじ伏せる。

 

 形象転移により脆弱化したとは言え、血液沸騰すらありえる電撃を浴びてなお生きていられるのは、細胞内コアの形象維持本能のためであった。

 

 自分がヒトではないということを思い知らせてくる忌まわしい機能ではあったけれど、こういう時には都合がいい。

 

 舌打ちしつつ、彼女は決断を下した。

 

「思ったより電圧が強い! 引き込んだら車内火災を起こされる、一旦下車するわよ!」

 

 式波・アスカ・ラングレーは、振り向かず叫ぶと、開いたままのドアから掴んだ工作員ごと虚空に踊りだす。

 

 奇妙な無重力感、そして衝撃。

 

 飛び降りた段階で、時速35キロまでランボルギーニ・アヴェンタドールは減速していたものの、地面へ叩きつけられる衝撃は凄まじく、電撃の余韻もあって、アスファルトの上を転げながら、再び意識が飛びそうになる。

 

 

 不意に身体の旋転が軽くなる。一瞬の隙を突いて、手を引き剥がされたのだ。

 

「狙撃して!」

 

 考えるよりも早く、彼女は瞬間的に命令を発した。

 

 

=====================================

 

 真希波・マリ・イラストリアスはセーフハウスとしている民家の二階で不敵な笑みを浮かべた。

 

「YES、MAM」

 

 

 即座に構えたバレットM82A1対物ライフルの引き金を引く。

 

 専用の巨大サプレッサーを着けて尚、大砲の砲声じみた轟音がセーフハウスとしている民家二階に轟いた。

 

 

=====================================

 

 何度かアスファルトの上を回転しながら減速し、片膝をつく形で式波は着地を終えた。過去の選定(どちらかと言うと剪定かもしれない)訓練の際に空挺降下訓練までさせられたときのノウハウがこういう形で役立つとは、ユーロネルフの連中も思っていなかったに違いない。

 

 眦を上げると、海を目指して逃げ出すタクシー運転手工作員の背中が浜辺に見え、突然痙攣を起こしたかのように身体を震わせ、倒れ伏した。

 

 ややあって右斜め後方から、遠雷のように砲声の轟きが聞こえてきた。

 

 マリが狙撃したのだ。

 

「っしゃ! 私が目標の状態を確認する、12.7ミリを食らって千切れてないあたり、データ通りの頑丈さね、連中と連中の防弾装備!」

 

 前の世界以来の仲間であるところの真希波大尉の見事な狙撃に舌を巻く。確保予定地域内とはいえ、カバー範囲はかなり広い。 

 

「ランディくん、引き続き観測手お願い!」

 

『いいけどさ、死人だけは出さないでくれよ? プリント仮説が事実にしても、人殺しには関わりたかないんだ。

 退学沙汰なんて冗談じゃねえよ』

 

 右耳につけた無線用ワイヤレスイヤホンから、ポルトガル訛りとアメリカ東部訛りが混ざったせいで妙なイントネーションがついた日本語が流れてきた。

 

「ヒックス少佐が爺さんになって上院議員になってる世界、アンタのオリジナルがいたとしても20年は経ってる。

 いーかげん色々諦めなさい。自分がパチモノだって認めるのキッツイけど、ま、何ごとも慣れよ慣れ。

 観測手ご苦労さま、引き続き残りのナイジェル2で周囲の監視と対象のモニタリングをお願い」

 

 狙撃で倒れた目標に近づきつつ、式波は音声で無線通信相手──HEATチームメインプログラマ、ランディ・ヘルナンデスに返答を返す。

 

『へいへい、ニックより人使いが荒いなあ。転職考えるか?』

 

 階級を考えない軽口とぼやきが返ってきた。色々とノリが軽い男なのだ。軽薄一本槍可と思いきや、反骨な所があれば妙に真面目で義理堅いところもある。何しろ生身と麻酔銃やエネルギー銃で怪獣と相当にやりあってきたキャリアがあるだけに、見た目や言動ほどシンプルな男ではない。

 

 ナイジェル開発者である天才科学者にしてエンジニアであるメンデル・クレイブンを何かと弄るのは勘弁して上げて欲しいところだけれどね。ナードなところを見ると、ついついからかいたくなるのだろう。しばしばからかいの域を越えることも多いけれど。

 

 などと内心で呟きつつ、式波は彼の言葉に返答を返した。

 

「人類世界が、怪獣やら宇宙人やらなんやらいる現実と折り合いつけたらね」

 

『何年後だ?』

 

「一万二千年後くらい」

 

マジで(Seriously)?』

 

「マジで」

 

 他愛ない会話を応酬しつつ、砂浜に入り、砂を踏みしめながら、倒れたままの対象に近づく。

 

 周囲に展開したナイジェル2からの監視画像データ──赤外線帯域から紫外線帯域まで多岐に及ぶものだ──が確かならば、流血の気配はない。

 

 死んだかどうかは触れてみないとわからないが。人体なら直撃すればその部分が破壊を通り越して霧散するほどの威力が12.7ミリ弾にはあるのだ。防具や肉体がどうであれ、衝撃でショック死は充分に有り得る。

 

 装備段取りだけでも書類を山程書いたのに、その上死体になられたらますます書類仕事が増えてしまう。年始の休みがパーになる。

 

 仕事を丸投げしてしまうにも、あいにく押し付けるに足る部下は不足と来た。試験運用中のナラタケに丸投げしてもいいが、アドリブでネットに機密情報をオンラインでぶん投げる程度の無茶はしでかしかねないAIなので迷う。それと日本の頭の固い官僚たちがAIに執筆させた報告書を果たして受け入れるだろうか。社印を押印すれば案外受け入れるかも知れない。最近はサインでも受け付けるところは受け付けるらしいけれど。

 

 などと言う間にも、うつ伏せで倒れている男の近くまで来た。

 

「う……」

 

 運転手の呻き声。

 

「重畳重畳、生きてるみたいね」

 

 着弾したと思しき右脇腹の、黒いジャケットとワイシャツが破れている。血が滲んでいない。

 

 式波は破れ目に右手の指をかけ、引き破った。黒い、光沢を帯びたゴム質のアンダーウェアが顕になる。

 

「例の着込みか。12.7ミリを貫通させないなんて何たるデタラメ。

 怪獣由来組織、Kエフェクトによる身体防護効果を利用した防弾衣?

 変な科学の進歩の仕方をするわけね。こんな厄介なマテリアルがあるなら、半世紀も昔にマリアナ海溝でも余裕な超潜水艦を作れるくせに、妙に文化が古代的ってのもうなずける。で……」

 

 彼女は海に視線を投げた。何人もの人影が、海上に上半身を表し始めている。海水の制約がないかのごとくに、その歩みが早い。おそらくは連中の着込んでいる『ウェットスーツ』の効果だろう。興味深い。式波は笑む。

 

 ワイヤレスイヤホンから、ランディの声が響いてきた。

 

『ピックアップの連中だ。どうする?』

 

「近場に連中の母艦が待機してる。鹵獲したいとこだけど」

 

『俺らのエージェント(Big One)がそこまで器用にやれるかね?』

 

「最悪、捕虜から吐かせるわよ。連中、ジュネーブ条約に加盟してないだろうしね」

 

エッグ(Nasty)

 

「エグいっていわれてもねえ、かつて轟天号がムウ帝国を爆散させてから講和条約を結んだって話はなし。海底大戦争は未だ継続中ってとこじゃないの?

 連中にとっては。となれば許容もなく慈悲もなく、右の頬を打たれる前に右脇腹を殴り砕く。キリストだってそうする。私だってそうする」

 

悲しいねえ(feeling down)。ニック、そういうわけだ。作戦開始だとさ!』

 

 その言葉に、式波は微かに眉をしかめた。HEATチームは確かに部下というわけではなく、同盟関係に近い存在だが、独走されるというのはあまりいい気分がしない。これだから二十歳になったばかりの若い男は、などという言葉が脳裏をよぎった。

 

「ランディ、艦長も私もまだ指示出してないんだけど」

 

『二人とも、忙しいかと思ったんで、僭越ながらってやつよ。いや、これから忙しくなるの間違いだったか?』

 

「違いない」

 

 ため息をつく。

 

 良くも悪くもランディはそういうやつであり、そして言っていることは間違いない。頭から爪先まで全身を複合皮革鎧じみた潜水防護服に身を包んだ工作員の群れは、すでに彼女を取り囲みはじめている。ゾンビ映画ならリテイクを出すところね、海中歩くの早すぎだっつうの。あるいはスーツ自体にパワーアシストなところがある?

 

 推論を脳裏に並べ立てる。数は現状、10対1といったところか。本来の目標が自分から姿を表して回収ポイントに現れたのだ、連中にしてみればこれを襲わない理由はない。つまり予定通り網にかかってくれたってことよね。

 

 そのうちの一人が歩を早めた。それが踏み込みであり、おそらく組打ち狙いと式波は踏む。

 

「派手にやるわよ。各自、行動開始!」

 

 作戦計画自体が練り上げてある以上、後は命令を下すだけでいい。式波は号令を発すると同時、迫りくるムウ帝国潜水工作員の一人に対し、潜り込むように踏み込んで──

 

=====================================

 

 ムウ帝国工作員32号は眼前の景色が果たして現実であるのかと、思わず我が目を疑った。

 

 所詮奴隷に過ぎぬ非力な地上奴隷、人ならざる存在との混ざり物という警告を同盟者から受けていたものの、たかが知れていると踏んでいたのだ。

 

 だが、それが侮りであったということを、彼は認めざるを得なかった。

 

 黒いスーツを着込んだ式波という女は、浜辺という足場の悪さを物ともせず、大渦がそのまま人として具象化したかのごとくに荒れ狂っている。

 

 近づいてきた工作員25号の膝が、踏み込みざまに放たれた、幼竜皮革の鎧の護りをも凌駕する威力の下段後ろ回し蹴りで踏み砕かれた。

 

 身体を支えられなくなり、倒れそうになった25号の襟首を彼女は掴む、次の瞬間竜巻のごとく彼女の身体が旋転し、彼女の背後に回り込んでいた41号と42号が棍棒代わりに振るわれた25号の身体を浴びて吹き飛ばされる。

 

「どおおおおおりゃああああああああああああ!!!!」

 

 そして放電の隙を与えず、64号と65号目掛け、旋転の勢いのまま、25号の身体を高速で投げつけた。

 

 とてつもない速度で吹っ飛んできた25号の身体に押しつぶされるように没する64号と65号。

 

「91号! 電熱銃で援護せよ! 最大出力で構わん!」

 

 咄嗟に32号は叫ぶ。地上奴隷人種であれば即座に人体発火もありうる出力であったが、同盟者の言うごとく、あれは確かに人の域を越えている。でなければ眷属の皮の護りを得たムウ帝国民を有象無象のごとくに蹴散らすなどどうして出来ようか!

 

 91号が彼の言葉に答え、銃身が円錐形をした大出力大型電熱ライフル銃を構えるが、しかし次の瞬間大出力大型電熱ライフル銃が何かに跳ね飛ばされ……大砲めいた発射音が浜辺のさらに向こう側から響いた。

 

=====================================

 

「連携力はこっちが上? 艦長と副長のヨミヨミ通りじゃん。

 それにしても、作戦進捗と諸元データがすぐに視界に出るのは悪くない、この眼鏡。目に良くないのがちょっと嫌かなー。ウインドウが視界を遮るのも減点?

 実用にはもーちょっと練が必要かニャ~」

 

 右手で構えたバレットM82A1の弾丸が、正体不明の敵の銃器と思しき何かを捉えたのを確認し、真希波・マリ・イラストリアスは目を細めた。

 

 セーフハウス代わりにしていた民家を出て、北条海岸通り路上に立っている。公安を始めとした各省庁への通達は済んでおり、付近住民には『臨時怪獣災害訓練』と称して自宅待機指示が発せられている。多少派手に長物を振り回したところで、住民に見られる可能性は低いだろう。無論、銃声に関して110番の嵐が起こっていることは疑いない。今この時期、房総半島で対物ライフルの銃声を聞く人間が居るとしたら、ここという例外を除けば、陸上自衛隊所属者やそれに関わる存在ぐらいのものだろう。

 

 眼鏡ごしの視界にPCモニタめいていくつかのウインドウが展開され、うごめく敵工作員の距離や位置、状態が矢印と数字で表示される。

 

 見た目こそ普段遣いのリムフレームの赤眼鏡と変わらないが、フレーム各所にレンズに仕込まれた液晶が蛍光を発し、あるいは透過する光の波帯を偏向させることで、作戦に必要な情報を視界の中に上書きするものだ。

 

 大滝ファクトリーの面々とHEATのメンデル・クレイブン博士と艦長副長が寄ってたかって試作した新型光演算回路を試作したものであり、超小型かつ消費電力を低減しながら演算能力は電子演算回路に劣らないすぐれものだ。

 

 ただ、UIに関していえば、一昔前のSFに登場しそうな代物であり、そのあたりをイメージして作ったのかも知れないけれど、そのまんまだと、ちょっと武人の蛮用に耐えるか怪しい、というのが、この新型装備への、マリの個人的な評価である。

 

 

『クレイブンは工学の天才なんだけどさ、色々抜けてるんだ。なにしろあいつはセンスがクレイブンだからな』

 

「そう? 私は嫌いじゃない、ナイジェルの洗練と正反対にあるみたいな寄せ集め感満載のデザイン。かわいいし」

 

 ランディ・ヘルナンデスからの苦笑交じりの通信を、マリは笑って受け流しながら、あのどうにもツキがない奇妙な万能探査用自律ロボット、黄色のナイジェルのことを思い出す。

 

 換装で陸のみならず空から海上、海中まで活動可能な万能性。

 

 光波から音波、重力波のみならず、タキオン波まで検知・分析可能なセンサー性能は、優秀という域から枠を二つ三つ逸脱してすらいる。

 

 しかしあくまで個人制作のためか、肝心要のタイミングで故障する繊細さが、ナイジェルというマシーンには在った。

 

 設計・性能・運用を度外視してもどういうわけかしばしば壊れたり破壊されたりしてしまう、機械にあるまじき『ツキの無さ』も特徴と言えるだろう。

 

 なにより、センサーユニットからマニピュレータ、キャタピラやらなにやらをレゴブロックよろしくゴテゴテと寄せ集めてこさえて黄色く塗りました、機能すればいいでしょうといわんばかりのあの奇怪なデザインは、もう少しなんとかならないのかと誰もが思うところである。

 

(もっとも作ったクレイブン自身は例外で、自分の血を分けた子のように溺愛しているあたり、多分あのデザインも含めて愛しているのかも知れないが)

 

 そういう、量産性や効率をある種度外視したような歪なデザインは、研究者気質でナードなところのあるクレイブンらしさの具現のようで、人格と口調がまったく安定しないAIも含めて、マリには可愛らしく感じられるのである。とはいえ、眼鏡のデザインはマリ自身が指定して正解だったと思っていたが。

『アレがかわいい? 日本人のセンス、わっかんねーな。せめて最近のアイアンマンぐらいにさぁ』

 

「私のセンスだよ。副長はむしろ呆れてるからね。

 とはいえ私も副長も混血だから、日本人云々となると参考にならないかも。個人的には嫌いじゃない。機械のデザインには開発者の人格が現れやすい、そのへんナイジェルはクレイブンらしさ全開じゃん」

 

『クレイビニズムに溢れてる、そりゃ間違いない。優秀なのは間違いねーけど、褒めるにゃどうも抜けてるもんな。

 で、上空のナイジェル2Bがサーマルモニターで確認、北の海岸から新手だ。どうするよ?』

 

 ランディの言葉とともに、海岸の地図が表示される。海岸北方1キロ、10人程度。浜辺を歩いて南下中。

 

「別途目的で上陸、想定より進捗が芳しくないもんで方針変更、合流して副長だけでも回収狙いかな。

 副長だけでもいいかもだけど、海底適合種合計20人は大変だし……艦長は詰めの一手のため路上を機動中、間に合わない。

 これ、私が行くしかないじゃん」

 

 スリングを使って背負っていた予備のバレット対物ライフルを、肩の動きだけでスリングをずらし、銃把を左手で握る。

 

 それぞれの銃のショルダーストックを両脇に挟み込む形で安定させた。

 

 腕力だけで重いバレットを支持するのは相応に苦労がいるが、左右とも肩のスリングで吊っている分、楽ではある。

 

 

「ナミナミとマカロニ・ウエスタン見たときから、一度やってみたかったんだよね2丁拳銃。

 ランディ、ターゲット位置と弾着観測よろしく~♪」

 

『クレイジーだな、脳みそ海兵隊か? いいけどさ、ポジション出す』

 

「さすが天才ハッカー、仕事が早い」

 

 眼鏡に薄明かりでもって投影された、付近に潜伏して監視を行うナイジェル2拡大カメラ映像に、バレットのサプレッサーに内蔵された非可視光レーザーポインターのレーザーが映る。先頭の一人に照準を合わせる。額……は防護服が防いでも脛骨が折れるかもだから、狙うは右胸。

 

「対物ライフル片手撃ち、試したことないけど、反動コントロールしきれるか……ニャ!」

 

 右トリガーを引く。銃声と言うにはあまりに野太く巨大な砲声が巻き起こった。300メートルをまたたく間に弾丸は飛翔し、狙い過たず右胸に着弾。銃弾はやはり彼らが着想する防御装備を貫けず砕け散ったが、しかし巨大な運動エネルギーまでも殺し切る事はできず、結果として撃たれた工作員はダンプに撥ねられたかのように派手に後方へ向かって吹っ飛んだ。

 

 狼狽する別の工作員の腰を目掛けて左トリガーを引き、もう一発。またしても轟音。こちらに気づいたか、何らかの銃らしきものをマリの方へ向けようとした工作員が、またしても香港映画のワイヤーアクションもかくやという塩梅で吹っ飛んでいく。

 

「おー、バカみたいに重いけど意外と反動コントロールできる! いいなあこれ、面白ッ!」

 

 咄嗟に街路樹のヤシの木に隠れた工作員をヤシの木ごと撃ちぬく。12.7ミリで撃ち抜かれたヤシの木が自重を支えられず道路へ倒れ、工作員の一人を巻き添えにした。迎撃より一度海に逃げ込んで体勢を立て直すのが正解と睨んだのか、海の方へ向かって残る8人程度の群れが走り始める。

 

「逃すかーッ!!」

 

 バレットを両手に持ったまま歩き出し、逃げる背中を一つ一つ、しかしてほぼ乱射もいいところの状態でマリは狙撃して転倒させていく。

 

『なあ、あんたの親戚にエレン・リプリーって居なかったか?』

 

 呆れ半分おもしろ半分の声で回線越しに語りかけてきたランディに、マリは答えた。

 

「実は母親がサラ・コナーって言ったらどうする?」

 

『サイバーダインの新型って言われたほうが信じるね。黒スーツで重火器乱射する女だし』

 

「ほっほーう、いたいけな少女をターミネーター呼ばわりとは」

 

『似合ってるって意味だって』

 

「それなら許す。まー、強い女の子が趣味っぽいもんね君。

 ところでモニクとの進捗はどお?」

 

『部屋に入れてもらえた』

 

「おー、20歳になったし大人扱い? 進捗じゃん!」

 

『メシ作っていつもどおりカラテの稽古して終わり』

 

「勝てるまで駄目かな? 何しろDGSEの精鋭だもんねー、一本取るまで厳しそう?」

 

『俺も稽古してんだけどなかなかねー、でも脈はあるよ多分』

 

「いいねー、そういう積極性。若いねー、青春だねー」

 

『俺から見たらジュニアハイスクールの子供みたいなアンタに言われてもなあ……っと、最後の一人昏倒。

 こっちは仕舞いだな。回収班呼んで撤収か。派手にやりすぎじゃない? それがオタクらの流儀?』

 

「街路樹のヤシの木には悪いことしちゃったねー。

 

 恋愛話をしている間に20回近い発射音が響き、そして工作員たちは全員昏倒していた。

 

 何しろ対物ライフルである。下手な障害物など無視して貫通・命中するのだから、逃げ場がない。

 

 バレットM82A1のサイクルレートは毎分32発であり、それを二丁で乱射したのであるから、一秒に一人の勢いで敵は倒れていった。

 

 ナイジェル2という『目』を展開していたのも有利に働いた。射程外から一方的に殲滅できたのである。

 

「あれ、そういえばナイジェル、燃料……」

 

『Engine stop.Out of fuel』

 

 マリが疑問に思って呟いた瞬間、通信回線に割り込んでくる機械電子音声が一つ。

 

『ARRRRRRRRRRG!』

 

 それは断末魔の悲鳴を上げながら狙撃により倒れ伏した工作員たちの傍らに墜落した。ナイジェル2がまた一機墜落したのである。別部隊の索敵に飛び回った後、マリの狙撃のための画像データ蒐集のため飛び回った結果、帰還限界点を越えて活動したため、墜落してしまったのだ。

 

「あっちゃぁ~クレイブンがまた泣いちゃうねこれは。悪いことしちゃった」

 

『まあ、いつものこった。代わりは作ればどうとでもなるしな』

 

 流石にマリは罪悪感を覚えるが、ランディの口調はあくまで気楽なものだった。

 

 

 君のそういうとこ、どうかと思うよ、とマリは内心で呟く。メンデル・クレイブンはナイジェルシリーズのどれが壊れようが本気で悲しむからだ。とはいえセンサーその他の性能を重視するあまり、機動性や安定性その他を度外視し改善しないクレイブンにも問題が在る気がしなくもなく、HEATチームが壊れるナイジェルにドライ気味な対応をするのにも、案外理由があるのかもしれなかった。

 

「真希波より艦長、敵別働隊を確認、これを補足撃滅。体温データ見る限り犠牲者はヤシ一名。想定外の犠牲だけど、コラテラル・ダメージの範囲内ってことで。それじゃ事後処理よろしく~♪」

 

『やっぱあんたサイバーダイン関係者じゃないの?』

 

 ランディの軽口に、どうかにゃあ、とこたえてマリは苦笑する。ネルフもサイバーダインも、人類の終末を齎す組織である点では似たようなものでは在ったし、それに反抗する組織に所属していたという意味でも自分は似たような存在かも知れない。それを踏まえれば。

 

「あいにく、私は終末を齎すほうじゃなくて、それに抗うレジスタンスの方だよ、HEATのハッカー君?」

 

 平然と真希波・マリ・イラストリアスは応えた。

 

 終末にせよ破局にせよ、人の世を、否、地球に満ちる生命を滅ぼすものが来るとするならば、それに抗う。その意志(Wille)こそが自分たちなのだという行動原理を、彼女はこの世界にあっても曲げるつもりはないのだった。

 

「別働隊は仕留めた。仕上げは艦長と副長次第か。

 バレットも弾切れ。お手並み拝見だよ、わんこくんと奥さん♪」

 

 

次回に続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。