もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら   作:OSR

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飛天御剣流と日の呼吸……どちらが……。



飛天立志篇
最期の飛天


 

 

 "(おか)の黒船"。

 

 それは、一対多数の戦いを得意とする実戦本位の殺人剣──飛天御剣流のことである。

 

 時代の苦難から弱き人々を守ることを流派の理とし、飛天御剣流の継承者はそれに従って剣を振るってきたとされている。

 

 しかし、それは明治時代までのこと。

 

 時代は移ろい、大正時代となった日本国では、飛天御剣流を必要としていない。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「まだ、飛天御剣流はこの世に必要とされているのか…」

 

 飛天御剣流の最後の使い手──十三代・比古清十郎は、とある雪山にて1人の少年に出会った。

 

 比古清十郎がその少年を見つけた時、その少年は()()()()()()()()()()から襲われていたそうだ。

 

 剣術を必要としていない世界で比古清十郎は久方ぶりに刀を抜き、鬼と化して兄を襲おうとする妹を()()為に、夜明けを思わせる色に染まった曙色の刀で斬りかかった。

 

「!」

 

 だが、比古清十郎は鬼になった妹に斬りかかるも、動きを止める。

 

 いったい何故、動きを止めたのか…。

 

「小僧…何故、庇う?」

 

「こ、この子は俺の妹だ!妹なんだ!」

 

 比古清十郎が助けようとした少年は、妹に斬りかかろうとする比古清十郎の姿に気付くや否や、妹を庇っていた。

 

 それ故に、比古清十郎は動きを止めたのである。

 

「それは見ていて知っている。

 だが、お前の妹は鬼だ。人間に襲いかかり、喰らう鬼。多少だが、鬼について知っているが、一度鬼になってしまったが最後…人間に戻ることはない」

 

 鬼となってしまった妹。

 

 それでも、少年は妹がまだ人間としての意思を持っていると信じている。だからこそ、刀を前にしても妹を庇うことができたのだろう。

 

「け、けど、禰豆子は人を喰ったりなんてしない!

 い、今だって俺のことをわかっていた!泣いていたんだ!禰豆子は必死に抗ってる!禰豆子は絶対に鬼になったりはしない!!」

 

 だから少年は、必死に比古清十郎に理解してもらおうとする。腕の中で未だに暴れる妹を押さえ込みながら…。

 

「小僧、お前はそれをどうやって証明する?

 妹は未だに血肉を求めているようだが?」

 

「そ、それは」

 

 しかし、比古清十郎を納得させることはできない。当然だ……少年にはそれを証明する術がないのだ。

 

「俺が今からそれを見極めてやる」

 

 比古清十郎は、妹がまだ人間としての意思を持っているのかを確かめるべく、再び刀を抜き行動に出る。

 

「え──あぐッ!?」

 

 鬼がまず最初に求めるのは、大半が身内なのだそうだ。鬼にとって、特に栄養価が高いのだそうだ。

 

 もし、血を流している兄が目と鼻の先にいたら鬼はどう行動するのか……答えはほぼ決まっている。

 

「!」

 

 比古清十郎は、少年に辛い現実を見せる為に傷を負わせた。少年の肩から流れ落ちる血が、鬼となった妹の本能を呼び起こすからだ。

 

 鬼は人を喰らう。それは千年も前から明確だ。

 

 だが、比古清十郎の常識はたった今、この兄妹に覆された。

 

「お前は…人か…」

 

 血を流す兄を庇うように立つ妹は、紛れもなく人。

 

 飢餓状態でありながらも、血肉を求めることなく、傷つけられた兄を助けようとしている。圧倒的な強者である比古清十郎に牙を剥いている。

 

 

 

 

 比古清十郎は、この兄妹に強い関心が湧いた。

 

 人を喰わない鬼を、比古清十郎は初めて見た。鬼が人に戻るなど、聞いたことも見たこともない。

 

 だからこそ、見てみたいと思ってしまった。

 

「小僧、妹を元に戻す覚悟…お前にはあるか?」

 

「ッ…あ、あります!」

 

「ならば、お前に俺の剣を教えてやる」

 

 かつて、明治を築き、明治を救った飛天御剣流。

 

 最期の使い手が今……ここに誕生する。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 ある日、何の前触れもなく家族を惨殺され、唯一生き残った妹を鬼にされてしまった少年──竈門炭治郎は、飛天御剣流の使い手と出会った。

 

 そして、竈門炭治郎は鬼になってしまった妹を人間に戻すべく、そして弱き人々を鬼から助けるべく、その飛天御剣流の最期の弟子となった……のだが…。

 

「し、師匠…鬼です。アナタは鬼より鬼です」

 

「あ?

 バカ弟子が…俺を鬼と一緒にするな。神のように崇めろ」

 

 飛天御剣流の修行は想像を絶するほどのもので、竈門炭治郎は人間をやめる覚悟で修行に明け暮れていた。

 

 竈門炭治郎が妹の禰豆子を人間に戻すには、鬼と戦わなければならないが、比古清十郎は鬼よりも鬼だったようだ。

 

 人間を遥かに凌ぐ身体能力と特殊な術を使う鬼を相手にするには、"日輪刀"という特殊な刀と、鬼と対等に渡り合う身体能力を得る為の"呼吸法"が必要とされているそうだが、竈門炭治郎はその呼吸法をたった3ヶ月で身体に直接叩き込まれたようだ。比古清十郎が何故、その呼吸法を知っているのか……曰く、天才だから一目見ただけで会得したとのことだ。

 

 ただ、その呼吸法に関しては竈門炭治郎も父親から聞いた覚えがあるらしく、それを比古清十郎に話したところ、飛天御剣流には劣るもののそれに近しい力を持った剣術を竈門家が何故か先祖代々受け継いでいたことが発覚し、竈門家に舞として受け継がれていたそれを炭治郎から見せてもらった比古清十郎が完璧に再現し、炭治郎は飛天御剣流と並行して"ヒノカミ神楽"という舞──剣術を会得させられたそうだ。

 

 期間にして僅か半年……炭治郎は何度も死にかけた。

 

 ちなみに、鬼になってしまった禰豆子だが、今は深い眠りについており、まったく目を覚まさないようだ。いつ目を覚ますのか……比古清十郎にもそれはわからないらしい。

 

 そもそも、比古清十郎は鬼の専門家ではない。たまたま鬼に襲われていた者を助けたり、自らが鬼に遭遇したり、その過程で呼吸法を知り、日輪刀を手に入れたのである。

 

 それと、鬼を狩る専門の組織は政府非公認ではあるが存在しており、鬼と熾烈な戦いを繰り広げているのだそうだ。ただ、比古清十郎はどのような理由があろうと組織に属することを拒否しており、独自に鬼を狩っている。恐らく、炭治郎も同じ道を歩むことになるのだろう。

 

「ほら、さっさと立てバカ弟子」

 

 妹を鬼にされた流浪人として、竈門炭治郎は妹を人間に戻すべく険しい道を歩むこととなる。

 

 ただ、鬼を相手にするよりも師匠との修行が厳しいかもしれないのは如何なものか…。

 

 炭治郎が長男でなければ乗り越えられていなかっただろう。

 

 






もしも比古清十郎が竈門炭治郎を拾っていたら。

実年齢80歳くらい。けど、見た目は40代後半の怪物比古清十郎が、最期の弟子を育てる。

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