もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら 作:紅涙
何とか今週もう一回更新できたでござる。
時は少し遡り……竈門炭治郎と竈門禰豆子が那田蜘蛛山を根城とする鬼達を相手に戦っている最中のことである。
「
迂闊!だが三度目はねえ!
待ってろよ"かまぼこ権八郎"!!」
「禰豆子ちゃん…えへへ…俺が一生守ってあげるよ…ぐう…」
言葉と名前を間違っており、かまぼこ権八郎ではなく竈門炭治郎に迂闊ではなく不覚を取った猪の頭皮を被った嘴平伊之助と、竈門炭治郎に助けられ、竈門禰豆子に一目惚れした我妻善逸は、那田蜘蛛山を目指し爆走していた。
正確には、那田蜘蛛山を目指して爆走しているわけではなく、その方角に竈門炭治郎がいる気がするという嘴平伊之助の野山育ちの野生の勘が働き、己の思うがままに走っているのである。しかし、その野生の勘は決して侮ることができず、恐ろしいことに間違ってはいない。
そして、竈門禰豆子と逢瀬を重ねる幸せな夢を見ながら鼻ちょうちんを膨らませている我妻善逸は、本当は寝ていないのではないかと思ってしまうほどに正確に走っている。だが、彼は本当に寝ている。
ただ、本来なら二人は絶対安静の状態で、それ故に竈門炭治郎が強引に気絶させて療養させていたのだが、どうやらそれが気に食わなかったようだ。
「あいつを倒して俺が最強であることを証明するぜ!
猪突猛進!!」
「禰豆子ちゃん…えへへ…えへへへへ…ぐう…」
果たして、嘴平伊之助と我妻善逸は竈門炭治郎と竈門禰豆子に再会できるのか…。
そして現在、那田蜘蛛山に到着した二人はというと…。
「誰だお前?」
「?
(俺の他に増員はされてないはずだが?)」
半々羽織の男性──"水柱"冨岡義勇と遭遇していた。
「何か喋れよ!!」
「はあ…。
(煩い奴だ…)」
「だから何か喋れっつうの!!」
まさに静と動を体現したかのような相反する存在達が到着したことによって、那田蜘蛛山が賑やかになりつつある。
良くも悪くも三人共、揃って個性的だ。もっとも、鬼殺隊は平凡な者の方が少ないだろうが…。
「あ!
紋逸!何処に行くつもりだ!?」
「禰豆子ちゃんと炭治郎の音がこっちからする…ぐう…」
「本当か!?やるなお前!!
ぐはははは!顎を洗って待ってやがれ紋次郎!!」
ただ一つだけ、共通している点がある。
「…!
(何故…こいつ等が竈門炭治郎を知っている?)」
それは、この三人の目的が竈門炭治郎だということだ。
☆☆☆☆☆
今宵は月が美しく輝いている。
しかし、そんな月夜を台無しにする忌々しい存在がこの世にはいる。
それが鬼。人間に恐怖と絶望を与える存在だ。
だが、この世には
「人を喰わない鬼?
鬼という悪病に侵され苦しむ人間?
ふふ、寝言は寝て言え…ですよ」
誰も信じないだろうが…。
鬼殺隊士の誰も、人を喰わない鬼など見たことがない。前例がなく、存在するはずがないと全ての隊士が存在を否定するだろう。
いや……存在を否定するのではない。存在することを頑なに認めようとしないと言うべきだろうか…。
「禰豆子、箱に入っててくれ。
(この女性からは、とてつもない憎悪の匂いがする。
きっと、この女性も
鬼殺隊士のほとんどが鬼に身内を殺されている。
鬼に対する憎しみは強く、奈落の如く深い。
だからこそ、憎き鬼が人を守るなど信じられるはずもない。信じたくないだろう。
況してや、人は己が知らない現実を目の当たりにした時、なかなか受け入れられない生き物だ。
「いい加減…どいてくれませんか?
【蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角】」
「(相手は鬼じゃなくて人間…隊律違反…けど、鬼を庇っている…けど関係ない。師範が斬ろうとしているから私も斬る。)
【花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬】」
しかも、人が鬼を連れているなど、悪鬼滅殺を理念とする鬼殺隊士には到底理解できるはずもない。
鬼を庇う人間など、鬼殺隊士からしたら同じ人間ですらなく──粛清対象だ。
その証拠に、胡蝶しのぶは近づきざまに目にも止まらぬ速度で六方向からの連続突きを放ち、継子である栗花落カナヲは彼女に続き上下左右から取り囲む様に九連続の斬撃を放っている。
強い殺意と憎悪の籠った斬撃だ。
「参ったな…。
(それにしても、俺が助けた女性の日輪刀からは
小柄な体格と、切っ先と根本以外刃が存在しない日輪刀…なるほど、鬼の頚を斬ることができないけど、刺突で毒を打ち込み鬼を殺すのか。凄いことを考えるな)」
何よりも胡蝶しのぶが赦せないのは、己を救ってくれた恩人が鬼を庇っているということだ。
彼女は竈門炭治郎の御技に感銘を受けた。
それが今はどうだ……その感銘を受けた御技と日輪刀を交えることになろうとは…。
「!?
(私とカナヲの斬撃が…す、全て捌かれ──ッ!?
わ…私とカナヲの日輪刀が…粉々にッ!!)」
「!
(私と師範の斬撃を捌きつつ、同じ箇所に衝撃を与え続けて日輪刀を砕いた?)」
胡蝶しのぶがこれまで、鬼の頚を斬れないことに対してどれだけ悩んできたか…。どれだけ、頚を斬れる者達を羨んできたことか…。それでも諦めることなく、血反吐を吐きながら、彼女はようやく鬼を殺せる方法を開発した。ただそれでも……柱に上り詰めて以降も、彼女は他の柱達と比べて劣等感を感じていた。
だが、炭治郎に対しては何故か、劣等感や羨望といった思いを抱くことが一切なかったのである。
「くッ…!
(こんなに強いのに…どうして…)」
だからこそ余計に赦せないはずだ。感銘を受けた御技の使い手が憎き鬼を連れ、その鬼を庇っていることが…。
その上、柱と継子を同時に相手にしながらこれだけの余裕を見せている。
ここまでの強さを持ちながら何故、鬼を連れ歩くのか…。
「あなた達では俺には勝てません。
それと…この娘は俺の大切な妹です。
絶対に誰にも傷つけさせない。それでも禰豆子を殺そうとするなら容赦はしない」
竈門炭治郎にとって、その鬼──竈門禰豆子は大切な妹だからだ。唯一残された……何としても守り抜きたいかけがえのない家族なのだ。
「妹…」
胡蝶しのぶは唖然とする。
鬼殺隊には似た境遇の者が多く存在する。だが、家族を鬼にされてしまい、鬼となってしまった家族を連れ歩く者など見たことも、況してや聞いたことすらない。
しかし、鬼となった妹は兄を襲おうとせず、そのような素振りすら見せず、それどころか兄の言うことを素直に聞いている。常識を覆した存在が、彼女の目の前に存在しているのだ。
何故、竈門炭治郎が必死に
鬼殺隊士にとっての生命線……鬼を滅する為に必要不可欠な相棒であり、半身のような日輪刀も破壊された。戦いの場に於いて、その日輪刀を破壊されるということは死に直結する。日輪刀を持つ竈門炭治郎もそれをよく理解しているだろう。それでも、胡蝶しのぶと栗花落カナヲの日輪刀を破壊したのは、兄の妹に対する強い想いの現れなのではないだろうか…。
「…あなたは…。
(もし…
一つだけ言えることは…私は彼のようにできない。彼のようになれない。でも、姉さんなら彼のように…私を守り抜いてくれたのかな?)」
もしかしたら、己の身にも起きていたかもしれない可能性。
胡蝶しのぶは、決して訪れることのないであろう出来事を考えると同時に、竈門禰豆子という鬼を滅する気が少しずつ消え失せていくのを感じていた。
「まだ…殺りますか?」
日輪刀も破壊され、彼女には対抗する術がない。
そもそも、最初から勝てる可能性がまったくなかった。柱と継子を相手にし、柱と継子に傷を負わせることなく、己も傷を負うことなく無力化するには相当な技術がいる。殺すよりも生け捕りにするのが難しいのと似ているかもしれない。
つまり、胡蝶しのぶは竈門炭治郎と己の実力差も悟ったのである。
戦意喪失……ただ、彼女にはどうしても聞きたいことがあった。
「いえ、降参です。けど、一つだけ聞かせて下さい。
あなたの目的はいったい何ですか?」
これだけの強さを持ち、
「禰豆子を人間に戻し…鬼舞辻無惨を倒します」
竈門炭治郎は鬼となった妹を連れた
その竈門炭治郎が鬼殺隊に所属することなく、鬼殺隊を敵に回す可能性もありながら、どうして流浪人となったのか…。それは唯一無二の妹を人間に戻す為。そして仇敵を討つ為。
「そう…ですか。
(彼は姉さんとは違う。
私や…鬼殺隊の誰とも違う。
けど…討つべき敵だけは同じ…)」
鬼にされてしまった妹を人間に戻すなど、これまで前例のない事象だ。
鬼舞辻無惨討伐も長きに渡り果たせず、尻尾すら掴めていない。だが、竈門炭治郎ならば可能なのかもしれない…。
胡蝶しのぶは不思議とそう思えていた。
☆☆☆☆☆
竈門炭治郎と竈門禰豆子。
鬼達の間で"鬼斬り抜刀斎"と恐れられる鬼を連れた
この2人の兄妹によって、那田蜘蛛山を根城としていた鬼達は殲滅された。
鬼殺隊が数十人の死者を出しながらも、一体の鬼も討伐できなかったのに対し、たった二人で……である。
ただ、柱も追加動員された那田蜘蛛山掃討作戦は、その柱ですら窮地に立たされてしまったのだ。それが意味するのは、それだけこの山に居着いていた鬼が強かったということ。下弦の弐と、徒党を組んだ下弦級の鬼が相手では、並の隊士では討伐できるはずもない。
その一方で、たった二人で那田蜘蛛山の鬼を全て討伐した兄妹の強さが窺える。
しかも、毒を打ち込まれた相手を顔から脚が生えた蜘蛛のような姿に変化させる血鬼術を食らってしまった鬼殺隊士達を、禰豆子が己の血鬼術で解毒し救っていたりもする。炭治郎と禰豆子が一時的にではあるが、別行動を取っていた理由はこれだ。禰豆子が解毒治療に専念している間、炭治郎は那田蜘蛛山の主を倒しに向かっていたのである。
禰豆子を一人にするのは心配だっただろうが、解毒治療は禰豆子にしかできなかった。何より、禰豆子は強い。大抵の相手は返り討ちにできてしまう。彼女も炭治郎と共に、比古清十郎から鍛え上げられているのだ。そうそう、負ける姿が想像できない。
こうして、那田蜘蛛山に巣食っていた鬼達は討伐された。そして、鬼殺隊にとって炭治郎と禰豆子は大恩人と言っても過言ではないだろう。
その後、一悶着が起きてしまったのだが……大恩人となった炭治郎のもとに新たな介入者が現れた。
「竈門炭治郎…だな?」
「あなたは?
(あれ?
この人が
「
増援ですか?」
その者は、水柱・冨岡義勇である。"お館様"産屋敷耀哉の命にて、彼は炭治郎と禰豆子の
「胡蝶…お前…。
(恩人に何ということを…)」
大恩人である竈門炭治郎と竈門禰豆子に斬りかかった者達が存在する。"蟲柱"胡蝶しのぶと、"継子"栗花落カナヲだ。彼女達は強い殺意と憎悪を向け、鬼にではなく大恩人に日輪刀を振るってしまったのだ。
「ふ、深く反省しています。
私も命を救われた身でありながら…。感情の制御ができないのは未熟者…柱として恥ずかしい限りです。
(くッ──
事情を知らなかったこともあり、仕方ない部分もある。
しかし、炭治郎一人に対して柱と継子が本気だった。相手が炭治郎でなければ、間違いなく死んでいただろう。正しくは、炭治郎が相手だったからこそ本気になってしまったのだろうが…。
「その通りだ…
(おまけに日輪刀まで粉々にされ返り討ちにされるとは…柱として不甲斐ないぞ)
…胡蝶」
「だから思ってることは口にしてくれませんか!?
(腹立つッ!!)」
「継子もお前に似ているようだな。
(考えなしに斬りかかるあたりがそっくりだ)」
炭治郎は大恩人である。そして、禰豆子も同じくだ。解毒治療を行っていた禰豆子は、これから人間を喰おうとしていると勘違いしてしまった栗花落カナヲに斬りかかられてしまったようだ。そこから壮絶な追いかけっこへと発展してしまい、途中で共闘し下弦級の鬼を倒したりもしたようだが、禰豆子が炭治郎のもとへと向かい、彼女は禰豆子を追い、その先で炭治郎と胡蝶しのぶに遭遇し、その結果が炭治郎 対 蟲柱と継子……という図の顛末だ。もっとも、栗花落カナヲが禰豆子が人間を喰おうとしていたと勘違いしていたのは些か仕方ない部分が強い。だがその一方で、冷静になり考えれば何かしらの疑問が生まれていた可能性もあるが、栗花落カナヲはとある理由から己自身の頭で考えて行動ができない為に、これは"育手"である胡蝶しのぶの監督責任だろう。
「本当に申し訳ありませんでした。
(反省はしている。
けど、冨岡さんに言われるのだけはッ──お、落ち着きなさい胡蝶しのぶ。感情を制御しなさい胡蝶しのぶ)」
胡蝶しのぶ本人もそれを自覚しているのか、深く反省しており、冨岡義勇の言葉足らずな口撃が予想以上に効いているようだ。
「い、いえ、もう気にしてませんので」
「竈門さん…。
(私はあなたを殺そうとしたのに…竈門さん、あなたは美しい心の持ち主なんですね)」
唯一の救いは、炭治郎が少しも気にしていないことだろう。炭治郎も、何時かはこのような事態に陥ることを常々理解していたのだ。最悪の場合、鬼殺隊と敵対することまで考えてもいた。鬼殺隊士達の境遇も理解しており、恨むはずがない。炭治郎からしたら、冨岡義勇を送り込んでもらえたことに感謝するばかりだ。
「では
「?
何処にです?」
「冨岡さん…。
(あなたという人は本当に…言葉足らずにも程がありますよ)」
本当に冨岡義勇が適任だったのか……少々、疑問が残る。
那田蜘蛛山編これにて…。
炭治郎としのぶ嬢は、殺意の籠った壮絶な鬼ごっこをしていた禰豆子とカナヲの登場によって死合うことに…。恩人が鬼を連れてれば、そうなるかな?
ただ、炭治郎はしのぶ嬢とカナヲの同時連撃を、龍巣閃 咬で捌きつつ、一太刀目で日輪刀に皹を入れて、その箇所に連撃を加え続けて日輪刀粉砕。
ついに出会った飛天の継承者と水柱…。やはり水柱は言葉足らず。
しのぶさんは、原作では炭治郎のことを最初は竈門くん、後に炭治郎くんと呼ぶようになってますが、ここでは反省もあって竈門さんと呼んでます。後々はどうなるかな?
執筆捗るので色好い感想とご評価ぜひぜひよろしくです!!