もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら   作:オサレの伝道師

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しのぶ嬢と同じくらい、早く出したいと思いつつも、ただその存在を匂わせることしかできなかった存在をようやくッ!!



日天とお館様

 

 

 半年に一度、鬼殺隊本部にて定期的に行われる"柱合会議"が始まる数時間前のこと…。

 

 大好物の桜餅を食べ過ぎたことで、桃地に毛先が緑色という変わった髪色になってしまった可憐な容姿の女性が今、かつてない感動と興奮にうち震えている。

 

 彼女は、"柱"の称号を持つ九人の鬼殺隊最高位の一人(剣士)──"恋柱"甘露寺蜜璃。

 

「あ…あ…や、やっと…

(つ、ついに…見つけた…見つけたわ!

 わ、私のッ──()()()殿()()をッ!!)」

 

 彼女は、鬼に肉親など大切な誰かを殺された仇討ちの為に入隊した者達が多く所属している鬼殺隊の中で、一線を画す入隊動機の持ち主だ。

 彼女の入隊動機はなんと、"添い遂げる殿方を見つける為"という鬼殺とはまったく無縁の代物。つまりは婚活目的なのである。

 

 好みは強い人。更に言うなら、柱にまで上り詰めた己すらも守ることができる程の強さを持つ人。

 

「あ、あの…」

 

「はう!?

(全てにキュンキュンしちゃうわ!()()()()()()()()()()()()()()()()()に鬼殺隊にも入隊せずにたった一人で鬼と戦って、しかも一ヶ月もしない間に下弦の鬼を三体と下弦級の鬼を数十体も倒すなんて!

 家族想いで強くて優しい最高に理想の殿方だわ!!)」

 

 強い人と言えば柱。しかし、柱は忙しくなかなか会えない……それならば自分も柱になればいいと柱を目指して努力し、実際にそれを成し遂げた甘露寺蜜璃。

 

 彼女は今日、理想の殿方にようやく出会えた。柱でもなく、況してや鬼殺隊士でもないが、ただ討つべき敵だけは同じ……鬼にされてしまった妹を人間に戻す為に鬼を斬る流浪人(るろうに)──"鬼斬り抜刀斎"竈門炭治郎に…。

 

「え…えっと…」

 

 理想の殿方に出会い、かつてないほどに気分が高揚し、胸をときめかせている甘露寺蜜璃ではあるが、対して竈門炭治郎は今まで嗅ぎ取ったことのない感情の匂い……一目惚れという匂いに困惑している。

 

 人には尽くすもの。これまで、家族達の為に頑張って尽くして、これからも妹の為に頑張って尽くす彼は、それ故に己に対する好意には鈍感で、甘露寺蜜璃から向けられる感情を理解できずにいるようだ。

 

「わ、私ッ──甘露寺蜜璃は、竈門炭治郎さんを応援します!そ、それから、竈門炭治郎さんを()()()()と思います!ふ、不束者ですがお願いします!!」

 

 もっとも、彼女自身も己の気持ちを持て余しているようだ。持て余しているというよりも、突如現れた理想の殿方を前に暴走気味である。

 

「甘露寺さーん、竈門さんが困惑してます。

 なのですぐに握った手を放して差し上げてください」

 

「は、はい!

(ど、どうしたのかしら?

 しのぶちゃん怒ってる?そこがかっこいいわ!)」

 

 彼女こそが、"お館様"産屋敷耀哉が竈門炭治郎の件にて冨岡義勇以外の唯一の適任者と期待していた柱なのだが……本当に大丈夫なのだろうか…。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 那田蜘蛛山を根城としていた鬼達を一掃した炭治郎は現在、鬼殺隊の本部へとやって来ている。

 

 鬼殺隊に入隊するつもりがないのならば、必要以上に鬼殺隊と関わるのはやめておいた方がいいと思われるのだが、そこは炭治郎らしいというべきか…。情報提供に対するお礼はしておかねばならないと思ったのだろう。炭治郎が討伐した鬼の数を考えたら、そんな必要はないと思うのだが…。

 

 そもそも、那田蜘蛛山の鬼を一掃した時点ですぐに山から出ていれば……いや、その後も"蟲柱"胡蝶しのぶと"継子"栗花落カナヲと日輪刀を交えることになってしまっており、戦意喪失させる為に致し方なかったとはいえ彼女達の日輪刀を粉々にしてしまった故に、彼女達が何事もなく安全に山を出る間は守らなければならないという責任感(長男力)が働いてしまったのだろう。

 

 お人好しなところは、炭治郎の長所であり、時に短所だ。

 

「はじめまして…飛天御剣流の最期の使い手…竈門炭治郎くん。お会いできて光栄だ。

 私は鬼殺隊の当主、産屋敷輝哉だ」

 

 その結果、炭治郎は鬼殺隊の総本部へと招かれ、"お館様"産屋敷耀哉と対面している。

 

「はじめまして、産屋敷さん。

 それから遅れてしまいましたが、情報提供の方…誠に感謝しております」

 

「!?」

 

 炭治郎の背後には、数時間後に柱合会議を控えている柱達……胡蝶しのぶ、甘露寺蜜璃、そして冨岡義勇の三人が念の為にと同席している。

 

 ただ、産屋敷耀哉が炭治郎に情報提供していたことを初めて知った胡蝶しのぶと甘露寺蜜璃は驚愕の眼差しを浮かべていた。柱でそれを知っていたのは冨岡義勇のみ。その冨岡義勇も、那田蜘蛛山に向かう直前に聞かされたばかりだが…。

 

 飛天御剣流の使い手である炭治郎と鬼殺隊は協力関係にある。それが伏せられていた理由は、鬼にされてしまった禰豆子が理由だ。

 

 そして、柱合会議前にこの三人がその説明を受けているのは、鬼を連れた炭治郎を受け入れてくれるからと、産屋敷耀哉が判断したからである。

 

 もっとも、冨岡義勇と甘露寺蜜璃は最初から中立的な立場でいてくれると判断していたようだが、胡蝶しのぶに関しては賭けのようなもので、炭治郎自身の力で解決したと言うべきだろう。

 

「お館様、他の柱には話すおつもりなのでしょうか?」

 

 しかし、問題はここからだ。胡蝶しのぶが尋ねた通り、他の柱達に炭治郎と禰豆子の件を話すのかどうか…。炭治郎が鬼殺隊士だったならば、柱全員に揃って話したはずだ。炭治郎は隊律違反で処刑されていた可能性はあるが…。

 

 だが、炭治郎は鬼殺隊士ではない。しかも、鬼殺隊の協力者というよりも、産屋敷耀哉の個人的な協力者と言うべきだろう。炭治郎が鬼を連れていようとも、柱といえど、当主の協力者に対して刃を向けるなど言語道断。

 

「ッ…。

(自分で尋ねておいてあれですが…居たたまれない…)」

 

 ここに一人、刃を向けた者がいるが…。

 

 ともあれ、これから先に起きえる展開で気にすべきはまさしくそこなのだ。

 

 甘露寺蜜璃と冨岡義勇は中立的な立場で、胡蝶しのぶも一悶着起こしてしまったが、今は炭治郎の状況を理解し受け入れている。

 

「もちろん話すつもりではいるよ…けど…」

 

 対して、残りの柱達はどうだろうか…。

 

「私同様に、竈門さんに斬りかかるはずですね」

 

()()()()()()

(あの二人は間違いなく竈門炭治郎と竈門禰豆子を斬ろうとするだろう)」

 

 胡蝶しのぶと同様に……いや、それどころか彼女よりも質が悪いかもしれない。

 

 冨岡義勇もその光景が容易に想像できたのか、最たる者達を名指ししている。

 

「た、()()()()()!その時は微力ながら助太刀するわ!!」

 

 他の柱達は産屋敷耀哉の意思を尊重し、炭治郎と禰豆子を容認してくれた三人の柱とは違う。

 

()()()()()()()()()は、禰豆子さんが人間を襲わないことを証明すれば納得してくれそうですが…、やはり問題は不死川さんと伊黒さんですね。それから、悲鳴嶼さんですか…。時透くんは…我関せずな気がしますね。

(それよりも甘露寺さん…あなたどさくさに紛れて、竈門さんのことをくん付けで呼んで…)」

 

 残りの六人の内、五人の柱は間違いなく反対するだろう。その内の二人は、悪鬼滅殺を理念としているが柔軟な思考の持ち主のようで、穏便に済む可能性があるようだ。一人だけ、我関せずな柱がいるらしいが、その者が何故、鬼殺隊にいるのかは気になるところ…。

 

「失礼ながら産屋敷さん。

 俺と禰豆子はこれ以上ここに長居するつもりはありません。ここに来たのも、あなたにお礼を言う為です。

 それに、俺は禰豆子を連れて旅を始めた瞬間から、鬼殺隊と敵対するかもしれないと覚悟していました」

 

 ただここで、静観していた炭治郎が口を開き、己の想いを口にする。炭治郎にとって、何よりも大切なのは禰豆子だ。それに、炭治郎には珠世と愈史郎という頼りになる協力者……仲間がいる。

 

 寧ろ、炭治郎からしたらこれ以上は公にせずにいてくれた方がいいのではないだろうか…。柱と遭遇した際はその都度、状況によって対応すればいい。三人の柱が容認してくれた。それだけで十分だろう。

 

 それに、三人の柱だけではなく他にも()()、炭治郎と禰豆子を受け入れてくれた隊士がいる。

 

「俺は今のままでいい」

 

「炭治郎くん…」

 

「…!

(あれ?しのぶちゃん…炭治郎くんの呼び方…え?え?もしかして、しのぶちゃんも?そうなの!?)」

 

 これ以上、炭治郎が望むことは何一つない。

 

 炭治郎の目的はあくまで、禰豆子を人間に戻し、鬼舞辻無惨を打ち倒すことなのだ。

 

「…!

 禰豆子?どうかしたのか?」

 

 禰豆子の為を思えば、公にして容認してもらった方がいいかもしれないが、全員が全員、禰豆子を容認できるはずもなく、禰豆子を隠れて暗殺しようとする者が現れる危険も伴う。

 

 それを考えると、産屋敷耀哉の個人的な協力者という今の立場が最もいい形なのではないだろうか…。

 

「むう…」

 

「!

 ね、禰豆子!?」

 

 だがそれでも、竈門炭治郎と竈門禰豆子が鬼殺隊にとって大恩人であることは揺るぎない事実だ。

 

 那田蜘蛛山でも、炭治郎と禰豆子に助けられた隊士は多い。

 

 そして、禰豆子という人を襲わない鬼の存在を受け入れられないと思われている六人の柱達も、後に禰豆子に()()することになるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?

 お、お館様ッ──()()が!!」

 

「実弥、また傷が増えたね。あまり自分自身で身体を傷つけないでほしいけど…ふふ、またこうして…君達の顔を()()()()()()()日がやって来るなんて…今日はとても素晴らしい日だ。美しい天気だね」

 

 竈門炭治郎と竈門禰豆子が、三人の柱を交えて産屋敷耀哉と初対面を果たした数時間後……半年に一度の柱合会議が予定通りに執り行われていた。

 

 ただ、今回の柱合会議では、柱達が敬愛してやまない産屋敷耀哉の登場と共に大きな衝撃が柱達の間で起きた。

 

 もちろん、竈門炭治郎と産屋敷輝哉の初対面の場に同席していた三人の柱達──胡蝶しのぶ、甘露寺蜜璃、冨岡義勇の三人は、奇跡が起きた瞬間を目の当たりにしており、その際は他の柱達同様に驚愕していたが、今は頬を緩ませている。冨岡義勇だけは表情筋がまったく動いてはいないが…。

 

「視力がお戻りに!?」

 

「天元…君は本当に素敵だね」

 

「あ、有り難きお言葉!!」

 

 だが、柱達が驚くのも無理はない。何故なら、産屋敷耀哉の容貌に変化が見られたからだ。半年前の柱合会議の時点では顔の上半分が焼けただれたような……"呪い"の痕があり、しかも盲人だったのだが、今の産屋敷輝哉は呪いの痕が左目の周りのみに治まっており、視力まで回復している。産屋敷家は代々、()()()()()により短命を宿命づけられているのだ。本来、呪いの痕は顔全体にまで拡大し、喉や胸部にまで拡がるとされているらしい……だが、今の産屋敷耀哉は左目の周りにこそ痕があるが、とても短命を宿命づけられているようには見えない。

 

「ああ…お館様…何という奇跡…」

 

「行瞑。また一段と…更に逞しくなったね。

 さすがは()()()()だね」

 

 六人の柱達は驚愕している。だがそれ以上に、産屋敷耀哉の視力が戻り、呪いの浸食が治まったことに歓喜している。

 

「よもやよもや!嬉しい驚きだ!」

 

「杏寿郎…君の笑顔にはいつも勇気づけられる。心が熱く燃えてくるようだ」

 

 これ程まで喜ばしい柱合会議は前例すらないはずだ。

 

「で、ですがお館様…いったい何が…」

 

「小芭内…今も変わらず、鏑丸とは仲良くしているみたいだね」

 

 とは言え、喜ばしい反面で疑問も浮かぶ。最高峰の名医ですら、治すことができなかったものをどうやって…。

 

「お館様…」

 

「無一郎も元気そうで安心したよ。

 それから、私の状態に関してだけどね…」

 

 事情を一切聞かされていない柱達は、揃って同じ心境だ。

 

「少し()()()()()()()のおかげだよ」

 

 もっとも、産屋敷耀哉がいくら柱達を我が子のように大切に想っているといえど話せないこともある。

 

 これは友であり、同士でもあるその者との約束なのだ。

 

 知るのは産屋敷耀哉本人と、その場にいた三人の柱のみ。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 鬼殺隊本部を後にした炭治郎は現在、"蝶屋敷"という治療所へと向かっている。"薬学、医学に秀でた"蟲柱"胡蝶しのぶが私邸を負傷した鬼殺隊士達の治療所として開放しているのだそうだ。

 

 炭治郎は、その蝶屋敷に入院することになった我妻善逸と嘴平伊之助に会いに向かっている。

 

 我妻善逸と嘴平伊之助の二人は、炭治郎が強引に気絶させて療養するようにと藤の花の家紋の屋敷に置いてきたのだが、それが許せずにわざわざ炭治郎を追いかけて那田蜘蛛山に追いかけてきたようなのだが、その道中で"水柱"冨岡義勇と遭遇し、嘴平伊之助が炭治郎を倒すと口にしてしまった為に攻撃を受け……そして蝶屋敷に搬送されることになったそうだ。

 

 炭治郎はそんな二人を心配し、少しばかりの罪悪感から見舞いに向かっているのである。

 

「それにしても、禰豆子の血鬼術が耀()()()()()()()にまで効くなんて驚いたな」

 

 蝶屋敷に向かいながら、炭治郎は鬼殺隊本部での出来事を思い出していた。

 

 禰豆子が産屋敷耀哉に向けて忌々しいものでも見るかのような鋭い視線を向け、いきなり血鬼術を放った驚きの瞬間を…。正確には、禰豆子が鋭い視線を向けていたのは産屋敷耀哉ではなく呪いに向けてだ。

 

 産屋敷家の者が代々受け継いできた呪いが、禰豆子には血鬼術にしか思えなかったのである。

 

 禰豆子の血鬼術は鬼だけを燃やす炎。そして、鬼が生み出した毒を人の体内から焼却、浄化させる解毒効果もある。産屋敷家に受け継がれてきた呪いは血鬼術ではないはずだが、()()()()()()()()ことは確かで、禰豆子はその呪いを血鬼術と判断したのだ。

 

 ただ、正しくは血鬼術でない為に、産屋敷耀哉の呪いが完治することはなく、禰豆子でも完全に浄化させることは不可能だった。それでも、呪いの効力を緩和させ、視力が元通りに戻るまでに回復させることができたのは大きな成果だ。

 

 一時は、産屋敷耀哉を焼き殺そうとしたと勘違いされかけたが、それがきっかけとなり禰豆子は胡蝶しのぶ、甘露寺蜜璃、冨岡義勇の三人からの信頼を得た。

 

 産屋敷耀哉と個人的な協力関係も強固なものとなり、三人の柱達からも認められ、炭治郎にとっては有意義な時間となったはずだ。

 

 これ以上は望んではいない。

 

 しかし、太陽のように暖かい炭治郎のもとには、自然と人が集まってくるのだろう。

 

 

 






甘露寺蜜璃の攻略難易度がNORMALからNIGHTMARE…NO FUTUREくらいに上がってしまった。蛇柱様…頑張れ。

柱合会議編……何も起きることなく、柱合会議の前に終わってしまっていた。

炭治郎はこれ以上を望まず、しのぶ嬢、蜜璃ちゃん、冨岡さんにのみ受け入れられ、他の柱達とは会うこともなく…。

ただ、お館様は自身の個人的な協力者として最大限のバックアップしていくつもり。寧ろ、協力者から同士……友達に格上げ。禰豆子の血鬼術のおかげで、呪いが宇随さんと出会った頃くらいまでのものに回復し、視力も回復。やっぱ恐ろしいわこの兄妹。

三人の柱からの評価。

しのぶ→暖かくて強い人。禰豆子を守り抜き、必ず人間に戻してほしい。協力は惜しまない。惚れたとかではないはずだけど、甘露寺がくん付けで呼んでるのが気に入らずに対抗。

蜜璃→百点満点を超えた理想の殿方。

冨岡→鬼殺隊に入ってほしい。そして、水柱の歴史を途切れさせてしまうけど柱になってほしい。何なら、凪も教える。

まさか今日も更新するとは思ってなかった。けど次は土曜更新…のはず。

執筆捗るので色好い感想とご評価ぜひぜひよろしくです!!

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