もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら 作:紅涙
1日遅れてしまった…申し訳ないです。
人喰い鬼の原種であり首領──鬼舞辻無惨。
鬼舞辻無惨は現在、憎悪と怒り……そして困惑。様々な感情を抱いている。恐らく、本人も理解し難い状況なのだろう。
ごく最近、鬼舞辻無惨はとある鬼狩りを抹殺するべく、大規模な鬼の強化を図った。
下弦級の鬼の増強。下弦の鬼の強化。
これまで、鬼舞辻がそのような行動に出たことはなかった。しかも、それがたった一人の鬼狩りを抹殺する為だというのだから驚きだ。
「竈門…炭治郎ッ!」
だが、その鬼狩りは一週間足らずの短期間で、下弦の鬼を三体と下弦級の鬼を数十体葬っている。徒党を組まないはずの鬼が徒党を組み襲いかかって来ようと物ともせず、瞬きする間に終わらせるその鬼狩りが如何に鬼舞辻にとって脅威なのか少なからず理解できるはずだ。
ただ、鬼舞辻がその鬼狩りに憎悪と怒りを向けるのは理解できるが、困惑しているのはどうしてなのだろう。
「それよりも
鬼舞辻は
しかし、たった
「鬼だけを燃やす血鬼術…だと?」
そして、その鬼は鬼舞辻が生み出した鬼でありながら鬼の天敵──鬼を滅する血鬼術を扱うときた。
「ッ──
更には、鬼舞辻が大規模な鬼の強化を図り抹殺しようとしていた鬼狩りの妹であることまで発覚した。
強化した下弦の鬼と、増強した下弦級の鬼達が悉く葬られ、忌まわしい……消し去りたい記憶が甦り、不愉快極まりない状況の鬼舞辻は擬態化した子供の姿でありながらも、分厚い本を破り裂いて怒りを露にしている。
花札のような耳飾りを付けた鬼狩り──竈門炭治郎と、鬼にされてしまった妹の竈門禰豆子。
鬼舞辻にとってこの兄妹はこの上なく厄介で、自身を脅かす災いのような存在だ。何としても葬りたいだろう。
もっとも、この状況は"災い転じて福となす"ものなのかもしれない。
竈門禰豆子の存在がまさしくそれだ。
鬼舞辻に気付かれることなく、鬼舞辻の呪いを自力で解いた唯一の鬼……そのような芸当が可能な竈門禰豆子ならば、何れは日光を克服することができるかもしれない。
竈門禰豆子は、鬼舞辻が悲願を達成する為の可能性を秘めているのである。
「
だからこそ、鬼舞辻は必死に怒りを抑え冷静になる。
完璧な生物に限りなく近いと自負している鬼舞辻にとって、こそこそと隠れるように静観を決め込むこの状況は腸が煮えくり返るほどに屈辱的だろう。
それも、すべては太陽を克服する為。
しかし、鬼舞辻は気付いていない。考えてすらいない。
これまで多くの人間を殺し、多くの絶望と恐怖を生み出してきた鬼舞辻に福が訪れるのか……答えは否。
因果応報。災いにはより大きな災いが降りかかることに、鬼舞辻無惨は気付いていない。
☆☆☆☆☆
「
「ただいま戻りました、珠世さん」
鬼殺隊の総本部に招かれ、鬼殺隊の当主である産屋敷耀哉と個人的な協力関係を築き上げた炭治郎は現在、彼の最大の協力者であり、打倒鬼舞辻無惨を掲げた同志でもある珠世が待つ本拠地へと戻っていた。
「ご無事で何よりです。
炭治郎さんが怪我なく戻ってきて、とても安心しました」
定期的に珠世のもとに戻るというのは、二人の間で交わされた大切な約束なのである。
その約束は炭治郎が強くあれる理由でもあった。
「俺もです。
誰かが…珠世さんが待っててくれている。珠世さんを思い浮かべたら、生きて必ず帰ろうと強く思えました」
炭治郎は喪った家族との大切な想い出を思い出しながら……珠世は長らく経験することのなかった人としての感情を味わいながら瞳に涙を浮かべている。
そして、炭治郎と珠世は互いに歩み寄り、珠世は炭治郎が本当に存在しているのかを確認するかのように頬に手を触れさせ、優しく撫でると、涙を流しながら優しく微笑んだ。
「誰かの帰りを待つ…永らく忘れていた感覚です。
炭治郎さん、あなたが無事で本当に安心しました。帰って来てくれてありがとう」
すると、炭治郎は頬に触れた珠世の手に己の手を重ね、もう片方の手の指で彼女の涙を拭いながら笑顔で述べる。
「俺は必ず珠世さんのもとに戻ってきます。約束です」
鬼狩りと鬼。
炭治郎と珠世は、本来なら相容れない存在だ。
それでも、炭治郎と珠世の間には強固な信頼関係がある。その信頼関係の根源は禰豆子を人間に戻し、鬼舞辻無惨を打ち倒すこと。
ただ、鬼舞辻無惨によって大切な家族を喪った者同士……炭治郎と珠世は、お互いが似ていることを理解し、お互いに足りない部分を補う存在なのだと感じていた。
そして、珠世の中でまた新しい想いが芽生えてしまった。
「炭治郎さん…。
(罪深い私が決して抱いてはいけない想い…ああ、炭治郎さん…あなたはどうしてそんなに温かく眩いのでしょう。
私は…あなたという日輪に焦がれてしまった。そんなこと赦されるはずなどないのに…)」
いや、正確にはすでに芽生えていたのだ。炭治郎の帰りを待つ間の珠世は、まるで"恋煩い"を起こしているかのような、何もかもが手につかない状況だったのである。
しかし、それも無理ないこと。
鬼である己を鬼ではなく人間として受け入れ、それだけではなく優しく、温かく包み込んでくれる炭治郎に、珠世が心を奪われないはずがない。おまけに、炭治郎は鬼舞辻無惨を打ち倒す為に必要不可欠な二つの御技を受け継いでいるのだ。
悲願を果たす為という想いもあるが、炭治郎の人柄に焦がれた珠世は、全てを捧げてもいいと心から想っているだろう。
「珠世さん…大丈夫ですか?
何か思い詰めているような匂いがあなたから…俺じゃ頼りないかもしれませんが、一人で抱え込まないでください」
「炭治郎さん…。
(あなたという人は本当に…これでは…あなたに恋い焦がれないはずがないじゃないですか。あなたは罪な殿方です)」
少年から青年へ……立派な男性へと成長しつつある炭治郎の顔を珠世は見上げながら見つめている。
赦されるはずがない想いだと理解しながらも、今この瞬間だけは赦してほしいと心の中で謝罪しながら、珠世は炭治郎の胸元に頭を埋めるように身体を預けた。
「お帰りなさい。
(この想いは伝えられない。
ですがせめて…無惨を倒すまでの間だけは、あなたの帰る場所でいさせてください)」
そんな珠世の行動に炭治郎は戸惑いながらも、珠世の行動を受け入れ、彼女の頭を優しく撫でるのである。
炭治郎もまた、珠世の温もりを感じ、旅で張り詰めていた心が優しく解きほぐされるのを感じていた。それと同時に、己が思っているよりも疲弊していたことに気付く。身体ではなく、心が疲弊していたことに…。
ふとそこで、炭治郎は改めて珠世の言葉を思い出した。
『傷つき、疲れたあなたの心と身体は、私が全身全霊を込めて治し、癒してさしあげます』
理解していたつもりだろうが、完全には理解できていなかったことに、炭治郎は気付いた。そして、珠世という存在の大きさを身に染みて理解する。
珠世が待っていると思い浮かべると炭治郎の心は温まり、益々強くなり、彼女がそばにいると張り詰め、疲弊した心が解きほぐされ癒されるのだ。
「珠世さんは、俺の癒しで心の拠り所なんだな…」
「え…?
(い、今…炭治郎さんは何と?)」
炭治郎は心の中で呟いたつもりだろうが、その呟きが口に出て珠世に聞かれていたことに気付いていない。
そして、珠世の身体から発せられる
「!?
た…炭治…郎…さん?」
突然の炭治郎の行動に珠世は硬直する。だが、本能はまったく一切嫌がってはいない。
ただ、二人の背後で何かが割れる音が響くも、完全に二人の世界に入り込んでいるのか……まったく気付いてはいない。
疲弊した心を癒されたことで晴れやかな表情を浮かべる炭治郎と、その炭治郎の予想外の行動に頬を染める珠世。
そして、炭治郎と珠世が身体を寄せ合う光景を目の当たりにし、怒り狂った愈史郎。
打倒鬼舞辻無惨を掲げた三人の拠点は現在……混沌としていた。
「え、えっと…
(ど、どうしましょう…まだ、身体が熱い。
夫からもあのような熱烈な行為はされたことがなかったのに…で、でも…嫌じゃなかった…)」
これから、定例会義が行われるはずなのだが、先行きが不安である。
「ッ!?
(た、珠世様がモジモジとされている!可愛い!
だがその原因が何故お前なんだ竈門炭治郎おおお!何故生きて戻ってきた!!)」
ただ、全ての元凶である炭治郎は珠世と愈史郎の様子がおかしいことに気付いてこそいるが、理由までは把握できていない。珠世が炭治郎に恋い焦がれてしまっていることにも、炭治郎の行動が嬉しかった反面恥ずかしがっていることも、愈史郎が珠世に恋い焦がれ、それ故に炭治郎に
「そ、それでですね、炭治郎さん。
鬼の血の採取、本当にありがとうございます。
炭治郎さんが採取なさってくれた下弦の鬼の血ですが、これまでの下弦の鬼の血よりも遥かに鬼舞辻の血が濃いものでした。予想通り…あなたを葬る為に下弦が強化され、下弦級の鬼が増強されている」
しかし、いざ定例会議が始まると珠世は冷静さを取り戻していた。さすがである。
「今後は上弦の鬼の襲撃もあるかもしません。
それと禰豆子さんの存在も露見したはずです。これで、臆病者の無惨があなたを恐れ、姿を眩ませることはないでしょう。禰豆子さんが太陽を克服できるかどうか気になって仕方がないはずですから…」
今後、炭治郎はこれまで以上の危険と隣り合わせとなるのだから、冷静になるのは当然だ。
鬼舞辻無惨を打ち倒すまたとない機会のはず。
珠世にとって、炭治郎との出会いはまさに千載一遇。
「炭治郎さん」
「んな!?
(珠世様から奴の身体に触れた!?)」
珠世は炭治郎の片手を取り、両手で握り締めながら決意を改める。
「必ず無惨をッ!!」
「ええ、俺達で必ず無惨を倒しましょう」
すると炭治郎は、残されたもう片方の手を珠世の両手に添え、力強い表情で言葉を返した。
「ふう!ふう!ふううう!
(竈門炭治郎おおお!
珠世様の身体に触れた罪は重いぞ!触れた分だけ貴様の寿命は縮む!いや、倍縮む!万死に値する!!)」
☆☆☆☆☆
炭治郎が鬼殺隊の総本部に招かれてから十日。
徒党を組む鬼が各地で増えつつある。
その影響で、鬼殺隊も多大な被害を受けていた。
ただ、鬼の数もまた減っている。
飛天御剣流の最期の使い手──竈門炭治郎が、たった一人で複数の鬼を瞬く間に狩っているからだ。
「大丈夫ですか?
…あれ?君は確か…
「…竈門…炭治郎?」
そして今日、炭治郎はまた鬼殺隊士を窮地から救った。
翌日、炭治郎は再び鬼殺隊の総本部──産屋敷耀哉のもとを訪れていた。
「炭治郎、カナヲを救ってくれてありがとう。
徒党を組む鬼が増加傾向にあり犠牲者も増えている。
「いえ…徒党を組む鬼が増えたのも俺がきっかけですから…」
炭治郎と産屋敷耀哉は、今のこの状況をどのようにして乗り越えるべきか話し合いを行っている。
徒党を組む鬼が増加傾向にあるのは、飛天御剣流の最期の使い手である炭治郎を鬼舞辻無惨がそれだけ警戒しているからだ。
その一方で、本来なら鬼舞辻無惨の関心が炭治郎に向けられているこの状況は、鬼殺隊が鬼舞辻無惨を滅殺するまたとない機会である。だが、鬼殺隊士の質が著しく低下してしまっている現在、徒党を組む鬼が増えつつあるこの状況は鬼殺隊にとって危機的なものだ。
炭治郎が一人で多くの鬼を狩ったとしても、徒党を組む鬼達によって鬼殺隊士の犠牲が増えてしまっては、現状は何一つ解決しない。寧ろ、人間である炭治郎が先に限界を迎えてしまうだろう。
「耀哉さん…一つ提案があります」
「何だい?」
「
そこで、炭治郎は産屋敷耀哉に一つ提案する。
その提案の真意とはいったい…。
ついに禰豆子という鬼の存在を知ってしまった無惨様。しかも、禰豆子は自力で呪いを解いた異例の鬼で、憎き耳飾りの剣士の妹だった。
けど、この作品の無惨様は冷静だから様子見に徹する。それと、累と響凱が立て続けに殺られ、下弦やっぱ駄目だと思っただろうけど、鬼殺隊の戦力を削る為にのみに残した模様。
久々に珠世さん登場。
言葉通りに炭治郎の身と心も癒した模様。その一方で助手の心は荒れ模様。
執筆捗るので色好い感想とご評価ぜひぜひよろしくです!!