もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら   作:OSR

16 / 19


そういえば、前話の最後に出てきた音速の鬼はアニメ版無限列車の第1話に出てきた遅い鬼です!w



飛天は壮大

 

 

 四十人もの行方不明者が出た曰く付きの列車──"無限列車"。

 

 その無限列車だが、しばらく運行が中止されていたものの、本日より運行が再開されることとなった。

 

 そして今日、無限列車に()()()()()()が調査……いや、()()()()する為に乗車する。

 

「なるほど!

 君達が()()()()()()()()"かまぼこ隊"か!!」

 

 だが、さっそく雲行きが怪しい状況となっているようだ。

 

 その任務を与えられた"炎柱"煉獄杏寿郎は任務を共にすることになっている鬼狩り達の内の一人──竈門炭治郎と日輪刀を交えている。

 

「いや!"トビウオ隊"だったか?

 まあどちらでもいい!とにかく今は、()()()()()()()()!君を問い質さなければならん!」

 

「問い質す…とは、いったい何をです?

 

(しのぶさん…かまぼこ隊っていったい何ですか?

 それに、トビウオ隊って…感性が独特すぎます)」

 

 恐らく、"炎柱"煉獄杏寿郎は竈門炭治郎が背負っている箱の中身について……何故、箱の中に鬼が入っているのかを問い質すつもりなのだろう。

 

 ちなみに、炭治郎は何を問い質すつもりなのか大方のところ予想はついているようだが、それよりも胡蝶しのぶが名付けた部隊名の方が気になっているようだ。そもそも、炭治郎は鬼殺隊に所属しておらず協力関係にあるだけで、部隊も何もないのだが…。炭治郎の存在を容認した柱達は、皆が炭治郎に鬼殺隊に加わってほしいと思っており、これもその気持ちの現れなのだろう。

 

 ただ、炭治郎という存在を知らなかった柱からしたら、炭治郎は粛清対象に該当する。鬼を匿っているのだから当然だ。胡蝶しのぶが煉獄杏寿郎にどのような話をしたのかは気になるところだが、柱である彼女が認めている存在であろうとも、鬼を連れているのならば鬼殺隊士として斬るべきことに変わりはない。

 

 もっとも、炭治郎は大人しく斬られるつもりなどない。

 

「君はどうして鬼を連れているんだ!?」

 

「俺の大切な妹だからです」

 

 箱に入っている鬼は、炭治郎の妹──竈門禰豆子だ。炭治郎にとって何よりも大切な唯一残された家族である。たとえ鬼になろうとも、炭治郎の禰豆子に対する想い(愛情)は何一つ変わることなどない。

 

「なんと!?」

 

 そして、煉獄杏寿郎が斬りかかりはしたものの竈門炭治郎を問い質すという行動に出たのは、()()()()()()()()を思い出したからだろう。

 

「君は…君がお館様が言われていた"親しい友"なのか?」

 

「親しい友なのかどうかはともかく…耀哉さんとは親しくさせてもらっているのは確かです。

 それよりも、日輪刀を納めてもらえませんか?あなたと戦う意思はまったくありませんので…」

 

 煉獄杏寿郎だけではなく、柱全員が敬愛してやまない産屋敷耀哉の親しい友を、いくら鬼を連れているからといえど斬るわけにはいかないだろう。

 

 何より、産屋敷は煉獄杏寿郎にこのように口にした。

 

 

 

冷静になって判断してほしい。すぐに答えを決めるのではなく、その者がいったいどのような人物なのか、しっかりとその目で見て、確かめてから判断してほしいんだ。

 

 

 

 とはいえ、理解できない考えであることもまた事実。

 

 己の目で確かめて判断しようにも、禰豆子が人を喰い殺せば取り返しがつかないのだ。

 

 それでも、煉獄杏寿郎が見極めようとするのは、()()()()()()()()()()()()()があったからだろう。

 

 それは、"蟲柱"胡蝶しのぶだ。

 

「胡蝶が言っていたのも君のことだったのか…」

 

 煉獄だけではなく他の柱達からの信頼も厚い胡蝶しのぶから、煉獄は出陣の際に釘を刺されていた……お館様からの言葉を決して忘れるなと…。そして、信じろと…。最初こそ、煉獄はその言葉が何を意味しているのか理解できないでいたが、今なら理解できるはずだ。

 

 

 

煉獄さん、彼は必ずあなたの力になってくれるはずです。志は私達と一緒…何一つ違わない。

どうか…彼を信じ、共に戦って下さい。

 

 

 

 鬼に強い憎しみと怨みを抱いているはずの彼女が、鬼を連れている者を信じた。

 

 両親を殺され、唯一残された家族()も殺された。それだけではなく、大切な継子達まで…。いったいどれだけ、大切な存在を鬼に殺されてしまったのか…。

 

 そんな胡蝶しのぶが竈門炭治郎を信じることは、苦渋の決断とも言えるほどのものだったはずだ。

 

「かまぼこ少年…俺は君を信じたわけではない。

 君のことを信じているお館様と胡蝶を信じただけだ。だから忘れてくれるな。君の行動一つ一つが、お館様と胡蝶への信頼に関わるということを…お館様と胡蝶の信頼と期待を決して裏切ってくれるな。もし、君が怪しい動きを見せた時は、俺は迷うことなく君と()に刃を振るう」

 

 だからこそ、煉獄は日輪刀を鞘に納めて見極めようとする。鬼を連れた兄と鬼にされてしまった妹──竈門炭治郎と竈門禰豆子を。

 

 きっと、胡蝶しのぶ以外が何を言っても煉獄の心を動かすことはできなかったのではないだろうか…。煉獄家は先祖代々、産屋敷家に仕え鬼狩りを生業としている由緒正しき鬼殺隊の名門一族。煉獄家にとって、鬼殺隊の信念である"悪鬼滅殺"は家訓とも言えるものだ。

 

 その煉獄家に生まれ落ちた煉獄杏寿郎が信念を曲げて、鬼を目の前にしながらも日輪刀を納めたのである。

 

 胡蝶しのぶ同様に、煉獄杏寿郎の下した決断は相当な覚悟と決意が必要だっただろう。

 

「ありがとうございます。

 しのぶさんと耀哉さんの為にも…二人の信頼と期待を絶対に裏切らないと誓います」

 

 炭治郎もまた、煉獄の覚悟と決意に応えることを心に固く誓う。炭治郎は多くの者達の想いをその背中に背負っているのだ。

 

「煉獄さん…一つだけいいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「俺は"かまぼこ"ではなく竈門です」

 

 それぞれの想いを胸に……ただ、鬼を狩る信念だけは同じ。

 

 飛天御剣流の最期の使い手と鬼殺隊"炎柱"がこれより無限列車へと乗り込む。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 腹が減っては戦ができぬ。

 

 無限列車に乗り込んだ四人の鬼狩りは現在、鬼との戦いの為に栄養を補給しているところである。

 

「美味い!」

 

「美味いですね!」

 

 鉄道の駅などで、乗客の為に売られている駅弁に舌太鼓を打ちながら、竈門炭治郎と煉獄杏寿郎は二人で二十食近くの牛鍋弁当を平らげている。

 

 強い剣士は、その強さに比例して食欲も旺盛なのかもしれない。

 

「くそッ!負けねえぞ!!」

 

 それに負けじと、嘴平伊之助も猪の被り物を外して駅弁を食っているところだ。

 

「いや!勝負じゃないからな!

 それよりどんだけ食ってんだよあの二人!うぷッ、見てるだけで腹一杯になったんだけど!」

 

 そんな三人を見ているからか、我妻善逸は胃もたれを起こしている。鬼との戦いを前に大丈夫だろうか…。本人も胃もたれで戦線離脱などしたくないだろう。不名誉極まりない。

 

「美味しかったあ」

 

 ただ、食べることは生きる上でも、体を回復させる上でも、人間にとって必要不可欠なものだ。

 

 鬼殺隊士達は口を揃えて一緒にするなと口にするだろうが、それは鬼にとっても同じくだ。こう言ってしまっては何だが、人間が動物を殺して食べるのと何も違わない。何より、鬼は人間だったのだ。

 

 生きる為なのだ。命ある存在がこの世界で生きることができているのは、何かの……誰かの犠牲があってこそのもの。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 それを決して忘れてはいけない。

 

 だからこそ炭治郎は感謝と敬意を忘れずに、食べ終わった後に心の底から想いを口にする。

 

 それでも、人間と鬼には決定的な違いがある。

 

 人間は慈悲の心を持っているということ。一方で鬼は、本能に忠実であり、本能に忠実なあまり狡猾で卑怯極まりなく、時には獲物である人間を利用し、より多くの人間を喰らう。

 

 鬼に慈悲の心など一切ない。

 

 あるのは、血肉に餓えた剥き出しの本能だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は腹一杯食べると、眠くなることがある。

 

 しかし、食後の睡眠は身体にかかる負担を大きくするだけでなく、睡眠の質も低下させてしまうこともある。

 

 これから鬼との戦いを控える鬼狩りにとって、食後の睡魔は最大の敵であり、気を付けねばならない点だ。

 

 無論、柱ならば当然気を付けているだろう。

 

「い、言われた通り、()()()()()()()()()()()()

 なので…なのでどうか、私も眠らせてください。

 死んだ妻と娘に会わせてください!」

 

「約束だからね。いいとも…よくやってくれた。

 家族に会える()()()を…お眠りィィィ」

 

 だがまさか、守るべき対象である堅気の人間が()()()()していようとは…。しかも、無限列車に乗った乗客の切符を切る駅務員が協力者だったとは想定外だろう。

 

「あの…()()はこれからいったいどうしたら…」

 

 しかも、鬼に協力している人間は一人だけではない。

 

 何らかの悲しい理由で人生に絶望した子供達。その子供達を利用し、()()()()()()()()()──下弦の壱・魘夢はより多くの人間を喰らうべく、用意周到に行動している。

 

 鬼殺隊最高戦力の一人である"炎柱"煉獄杏寿郎だけではなく、柱級の鬼殺隊士にまで成長した我妻善逸と嘴平伊之助は、魘夢の血鬼術にかかってしまった。

 

 それどころか、竈門炭治郎すらも…。

 

 鬼との戦いは、すでに始まっていたのである。

 

「ねんねんころり、こんころり。息も忘れてこんころり」

 

 己達が魘夢の血鬼術にかかってしまったことにすら気付くことなく、炭治郎達は深い眠りについてしまった。

 

 下弦の壱・魘夢は眠り鬼。

 

 魘夢の血鬼術は夢操作と凶悪極まりないものだ。一度眠らされてしまったが最後……身体を動かすことができない。

 

「楽しそうだ。幸せそうだ。

 もう目覚めることはできないよ…永遠に」

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 今は亡き家族達との幸せな生活。

 

 鬼にされてしまった妹が人間として生きている。

 

 竈門炭治郎にとって、この世界は何よりもの幸せ。

 

()()()()()…」

 

 だが、炭治郎の瞳に映る幸せな光景は()()()()()()。いや、夢ですらなく(まやかし)だ。

 

「さっさと起きろ…()鹿()()()

 

「…師匠…ありがとうございます」

 

 今は亡き大切な家族達の為にも炭治郎は決して立ち止まらない。後ろを振り返ることもない。前を向き歩むのだ。

 

 死んだ(家族)が望むのは、生きている(家族)の幸福。何より、後悔なく自分らしく生き、人生を全うしてくれることだろう。炭治郎はそれを理解している。

 

 そのように、心の真髄にまで教え込まれ(叩き込まれ)たのだ。

 

 炭治郎の師匠である比古清十郎は、炭治郎にただ剣術を教え、剣術の腕前だけを鍛え上げたわけではない。比古清十郎が最も強く鍛え上げたのは炭治郎の心だ。

 

 飛天御剣流の使い手に必要なのは強靭な肉体と鋼の精神。心技一体揃ってこそ為せる御技。

 

 どんな心理攻撃にも動じず、現実と夢を見分け、守るべき大切な者の為に日輪刀を抜き戦う。

 

「やるべきこと…()()()()()()…わかってるな…馬鹿弟子」

 

「はい」

 

 そして、己の心の支えとなっている絶対的な存在(師匠)──比古清十郎に導かれ、炭治郎は()()()に刃を当てる。

 

 肉を斬らせて骨を断つ。

 

 夢の中とはいえ自ら命を絶つなど、常人にできる事ではないだろう。相当な胆力が必要だ。

 

 しかし、これが夢ですらなく、鬼に見せられている都合の良い(まやかし)であることに気付いた炭治郎は迷いなど一切なく、戦う為に斬る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下弦の壱・魘夢の血鬼術は催眠術の要領で対象を眠らせ、魘夢の意のままの夢……(まやかし)を見せるものだ。

 

 大切な家族に先立たれた者や、何らかの理由で人生に絶望した者にとって、これほど魅力的な力はないだろう。大切な者達と永遠に過ごすことができ、傷つくことのない世界なのだ。

 

 そんな世界に誘ってもらえるのならば、絶望を味わった人間は何だってする。人を傷つけることに何の躊躇もないだろう。

 

 不治の病……"結核"を患った青年も、そんな一人だった。

 

 魘夢が見せる夢の空間内には、対象が見せられている夢の世界以外に、その外側に"無意識領域"と呼ばれる空間があり、そこには対象者の"精神の核"が存在している。魘夢が意のままに操る世界だが、対象者の精神と密接に繋がっているのだ。これを破壊されてしまうと、対象者は精神が崩壊し廃人になってしまう。

 

 そして、結核の青年は、竈門炭治郎の精神の核を破壊するべく、炭治郎の精神世界に潜り込み、精神の核がある無意識領域にまで足を踏み入れた。

 

「な…何という…す、凄い…」

 

 ただ、結核の青年が炭治郎の無意識領域で目にしたのは、どこまでも広大で、空気は澄みきり心地好く、暖かく、()()()()が、光る小人を乗せて気儘に飛び回る壮大な世界だった。

 

 飛天御剣流の使い手は決して常人には推し測れない。それどころか、鬼ですらも…。

 

 飛天の使い手は壮大なのだ。

 

 

 

 






ここで日天コソコソ噂話!
鬼滅ファンの間で親しみを込めて、伊之助の言い間違いである"かまぼこ権八郎"を由来に名付けられた"かまぼこ隊"ですが、この作品では独特のネーミングセンスを持つしのぶさんが、かまぼこ隊が名付け親となっております。

そして、煉獄さんが"トビウオ隊"だったか?と言い直した部隊名も、しのぶさんが考えたもので、かまぼこ隊とトビウオ隊…どちらにするかで真剣に悩んでいるのだそうです。
トビウオ隊の由来は、炭治郎の剣術に跳び跳ねるものが多いからとのことです。

カナヲの名前候補がね…スズメ、ハコベ、カマス、タナゴ、トビコだからね。独特通り越してるというか…。


煉獄杏寿郎が下した決断。多分、義勇さんではこうはいかなかったはず。しのぶさんだったからこそ、煉獄さんは様子を見ようと思えたのではないだろうか…。これも日頃の行い?人柄、信頼度の差か?


魘夢って本当に厄介だと思う。

けど、ここの炭治郎くんは父・炭十郎とは別に、比古清十郎という絶対的な支えと導き手がいることで、精神的には大きく成長しており、魘夢の見せる夢が夢ですらなく都合の良い(まやかし)であることに気付き、直ぐ様に覚醒。精神世界に出てくるほどに、比古師匠の存在は大きい。

ここの炭治郎の無意識領域。
光る小人だけではなく、九つ頭の龍や双頭龍、白い龍など、多くの龍が飛び回る広大で壮大な世界……というより、超危険区域。

執筆捗るので色好い感想とご評価ぜひぜひよろしくです!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。