もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら   作:OSR

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本当にお待たせ致しました。

体調崩しておりました。どうにか復帰であーる。


日天の産声

 

 

 鬼舞辻無惨は上弦の鬼達に竈門炭治郎の抹殺を命令していた。しかし、鬼舞辻は竈門炭治郎についての詳しい情報までは与えていなかった。

 

 それは何故なのか……それは人間も同じなのだが、人間も鬼も己の目で見て経験した事以外、なかなか受け入れきれない生き物だからだろう。

 

 とくに、人間を遥かに凌駕する身体能力を持つ鬼達の中でも常軌を逸した存在である上弦の鬼は、人間を下等種族と見なしている節が強くある。

 

 これは油断と言う他がないが、一世紀以上もの長きに渡りその座に君臨し続ける強者故の自信でもあるだろう。その上弦の鬼の中でも、上弦の参・猗窩座は過信が強い。

 

 これまで葬った多くの鬼狩りを相手に、手を抜いて戦ったのも一度や二度ではないだろう。

 

「ぐッ…!

 

(焼けるような痛み──ッ、斬られた腕が再生しない!?

 しかも、鞘で殴られた部分も焼けるような痛みが残っている!!)」

 

 だが、猗窩座の過信もたった二撃で消え失せてしまった。

 

 たった二撃……たった二撃で、猗窩座にここまでの生命の危機を感じさせた鬼狩りは未だかつて存在しないだろう。

 

 猗窩座は、竈門炭治郎という鬼狩りをこれまで戦ったこともない強敵(脅威)として認めるしかなかった。そして、鬼舞辻無惨が警戒する理由をたった二撃で垣間見た気がしていた。

 

 手加減など以ての外。この鬼狩りこそ、全力をもって排除しなくてはならない存在──竈門炭治郎なのだ。

 

「貴様は今ここで殺す…術式展開!

 

【破壊殺・羅針】」

 

 武術の構えと共に猗窩座が"術式展開"と唱えると、血鬼術が発動される。 発動と同時に猗窩座の足元に"壱~捨弐"までの数字が描かれた雪の結晶を象った陣が展開した。

 

 この陣は相手の闘気に反応して攻撃を感知する性質を有しており、反応は敵の闘気の強さに応じて強くなるようで、猗窩座の攻防の要となる血鬼術だ。

 

「…!

 

(ど、どういうことだ?

 竈門炭治郎の闘気が…更に薄く──ッ!?)」

 

 ただ、血鬼術を発動しても尚、猗窩座は竈門炭治郎を推し量ることができずに困惑することとなる。

 

「ぐあッ!!」

 

 ほぼ感知できない闘気に反応が遅れてしまった猗窩座は、背後に高速移動した竈門炭治郎の斬撃を胸に深く刻まれてしまう。辛うじて後ろに飛び退いたことで、肩から真っ二つに斬り下ろされることはなかったが、肩から腹にかけて負わされた傷は深く、その傷も再生できずにいる。

 

「き、貴様ッ!

 

【破壊殺・空式】!!」

 

 激昂して猗窩座は距離を取り、虚空を拳で打ち衝撃波を弾丸にして炭治郎に向けて連続で放つ。拳打の数だけ放たれる衝撃波……拳打の速さは次第に増していき、炭治郎へと襲いかかる。

 

 

 

──日天御剣流・土龍円舞──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳打から放たれる無数の衝撃波を、竈門炭治郎は日輪刀を鞘に納ると、納刀した状態で下段から炎の弧を描くように地面を抉り、土石を飛ばすことで猗窩座が放った拳打による衝撃波に衝突させて防いでいた。

 

「凄い…竈門少年…君はいったい何者なんだ?

 

(あのような方法(土石を飛ばして)で上弦の鬼の血鬼術を防ぐとは!

 しかし、今の動き…炎の弧を描くような動きは炎の呼吸にどこか通ずるものがある)」

 

 百年以上もの長きに渡り鬼殺隊が葬ることができずにいる上弦を相手にここまで戦える鬼狩りが存在することに、煉獄杏寿郎はただただ驚愕しており、炭治郎と猗窩座の異次元の戦いに割って入ることができずにいた。

 

 己ですら力不足だと痛感させられている。

 

 数トンはあるであろう列車の横転の衝撃すら打ち消す剣術の使い手が、尻込みしてしまうとは……上弦の鬼が如何に強いのか、その上弦の鬼と互角の戦いを繰り広げている炭治郎の強さが煉獄杏寿郎の様子からも垣間見れてしまう。

 

「呼吸には…まだまだ上が存在するということか…」

 

 そして、煉獄杏寿郎の視線の先で、猗窩座から距離を取った炭治郎が日輪刀を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。

 

「見せてもらうぞ竈門少年」

 

 "炎柱"煉獄杏寿郎が目指すべき先がそこに存在する。

 

 飛天御剣流とヒノカミ神楽、二つの御技を会得した炭治郎が辿り着いた境地──日天御剣流。

 

 その日天御剣流の剣技の中でも、炭治郎が一番得意とする剣技はきっとこれだろう。

 

 

 

──日天御剣流・赤龍頭舞い(せきりゅうかぶりまい)──

 

 

 

「くッ!

 

(こ、これはッ──退避を!!)」

 

 繰り出される神速の抜刀術。

 

 そこから始まる御技は、美しい舞いの如し。

 

 続けて放たれる袈裟斬り、下段からの斬り上げ。

 

「ぐうぅ!

 

(は、速いッ!!)」

 

 今度は上段から下段へ弧を描くように…。

 

 更に続けて、前方広範囲に渦を描くように回転斬りを放った後に、すぐさま猗窩座に迫り強烈な斬撃を…。

 

「がッ!」

 

「まだだ」

 

 猛攻はまだまだ続き、刺突、連続斬り、そして連続斬りが更に威力を増していき、まるで()()()()()()()()かのように、炎の龍が流れるように神速の剣技が次々と繰り出されていく。

 

「な、なんとッ!?

 

(よもやよもやだ!

 これは炎の呼吸ッ──いや、正確には違うが炎の呼吸の型に酷似している!しかし、炎の呼吸よりも遥かに速く、そして…威力も遥かに上だ!

 何より、型を壱から順に続けて放っているかのような…そのような事、今まで考えたこともなかった!)」

 

 煉獄杏寿郎は炭治郎の御技を目の当たりにし、かつてない衝撃を受けている。いや、感動していると言うべきだろうか…。

 

 そもそも、型を続けて放つという特性は、竈門一族に代々伝わる"ヒノカミ神楽"の特徴であり、鬼殺隊が継承してきた基本の五大呼吸他、派生の呼吸にはない要素だ。

 

 煉獄杏寿郎が衝撃を受け、感動してしまうのも無理はないだろう。その上、現在の柱達の中でも上位の力を持っているであろう彼ですら、上弦の鬼を相手に炎の呼吸の型を壱から順に続けて放つのは不可能である。

 

 炭治郎の御技はその不可能を可能とし、柱である煉獄杏寿郎が感動する程に洗練されたものだ。

 

 視線の先で上弦の鬼を追い詰める炭治郎に、煉獄杏寿郎はいったい何を思うのか…。

 

 己の無力さに対する絶望か……それとも、これまで以上に心を熱く燃やすのか…。

 

「うむ!

 俺はまだまだ弱かったということか!

 

(だが、竈門少年のおかげで俺が目指すべき先が見えた!

 俺は決して止まらない!心を燃やせ!

 俺は"炎柱"──煉獄杏寿郎だ!)」

 

 煉獄杏寿郎は決して諦めず、立ち止まることのない後者だ。

 

 才能のある者は極一部。残りは何の価値もない有象無象の塵芥などとは決して思うこともない。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 地面を削る強烈な踏み込み。

 

 抜刀術から始まり、炎の呼吸の型に酷似して剣技を続けて繰り出す"日天御剣流・赤龍頭舞い(せきりゅうかぶりまい)"の締めもまた、炎の呼吸の(奥義)に酷似したものである。

 

 締めというだけあり、その威力は多くの面積を根こそぎ抉り斬る程のもの。

 

「ッ!

 

(く、喰らえば…死ぬ!!)」

 

 剣の速さ、身のこなしの速さ、相手の先を読む速さ、三つの速さを最大限に生かすことで繰り出される御技は、上弦の鬼ですら死を恐れてしまう程のもの。

 

 これまで多くの人間を喰い、柱を含む多くの鬼狩り達を葬ってきた猗窩座に迫る曙色の日輪刀。

 

 その日輪刀は、絶望と恐怖、人間達に深く長い暗闇をもたらした猗窩座を断罪する夜明けの輝きを強く放っている。

 

 元は人間でありながら、人間を下等生物と見下していた猗窩座が人間に葬られようとしているとは……これもまた因果応報。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、炭治郎の曙色の日輪刀は猗窩座の頚を斬り落とすことなく、()()()()()()()()()()()()に防がれてしまう。

 

「…!

 き、貴様はッ──"()()()()"!?」

 

 突如、眼前に現れた存在に驚愕する猗窩座だが、彼は間一髪で命を救われた状況に安堵することなどなく、同時に強い敗北感を味わっている。しかも、助けに入ったのが上弦最強の鬼ならば尚更だろう。

 

 姿を現したのは長い黒髪を後ろで縛り、紫の着物と黒の袴を着用した見た目は侍風の()──上弦の壱。その顔には悍ましい三対の眼が並び、額と首筋にかけて炭治郎の額の痣と酷似した炎の様な痣が浮かんでいる。

 

「猗窩座…私に勝つのでは…なかったのか?

 

()()()() 伍ノ型 月魄災禍(げっぱくさいか)】」

 

 上弦の壱は、炭治郎に殺されかけた猗窩座に向かいそう口にすると同時に、炭治郎に向けて強すぎる殺意を放ち、刀を振るうことなく仕掛けてきた。

 

 炭治郎の斬撃を防いだ鍔迫り合いの状態から、竜巻のような斬撃が発生し炭治郎へと襲いかかる。

 

「!?

 

(これが上弦の壱…しかも、呼吸を使うのか!!)」

 

 しかも、上弦の壱は"全集中の呼吸"を使用しており、炭治郎が何よりも驚いたのはその点だろう。人間を遥かに凌駕する身体能力を持ち、鬼舞辻無惨が生み出した鬼達の中でも最強の鬼が呼吸を使い、攻撃力、速度を更に高めているのだ。

 

 斬撃を躱した炭治郎は優れた嗅覚で鬼舞辻無惨の濃すぎる血の臭いを感じ取り、上弦の壱に鋭い眼差しを向けている。

 

 それと同時に、かつてない危機感を覚えていた。

 

「貴様が…竈門炭治郎か…その額の痣…忌々しい。

 

【月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間】」

 

 炭治郎が感じるその危機感は正しく、上弦の壱は問答無用で炭治郎に攻撃を仕掛けてきた。

 

 炭治郎と上弦の壱は、今まで出会ったことがない。しかし、上弦の壱が炭治郎に向ける感情は激しい憎悪で、それを優れた嗅覚で感じ取った炭治郎は疑問に思っている。向けられる憎悪の強さは、鬼舞辻無惨が炭治郎の抹殺を上弦達に命じていることとはまったく別だと思わざるをえない。

 

 一振りで縦方向に無数の斬撃が乱れ撃たれる。喰らえば最期……細切れにされることだろう。

 一瞬のうちに前方の広範囲に放たれるこの斬撃は、見切る事はおろか間合いの外に出る事すら困難。

 

 "血鬼術"と“全集中の呼吸”という対極を合一して至った技……それこそが上弦の壱の血鬼術であり、斬撃を衝撃波として飛ばす他、剣の軌跡による斬撃に付随する自立した三日月状の細かな斬撃を発生させ斬撃を形成するという、人の手の及ぶ領域を逸脱した絶技──まさしく災厄だ。

 

 

 

──日天御剣流・龍変幻日──

 

 

 

 しかし、人間でありながら災厄と呼ぶに相応しい者達がこの世には存在している。

 

「!」

 

 変幻自在な神速の瞬間回避(身体捌き)で無数の斬撃の全てを躱した炭治郎は上弦の壱の懐に潜り込み、上半身の捻りと力強い踏み込みを利用して日輪刀を斬り上げた。

 

 

 

──日天御剣流・碧羅龍昇──

 

 

 

「ッ!

 

(今の身体捌き…()()()()・幻日虹…()()の型の酷似していた。だが…日の呼吸とは…少し違う…この剣技はいったい…!)」

 

 上弦の壱は刀で受けるもその威力は凄まじく、炭治郎よりも上背のある上弦の壱を宙高く吹き飛ばしてしまう程だ。

 

 そして、飛び上がった後に宙返りし再び地に降りた炭治郎は、宙高く吹き飛ばした上弦の壱に向かって、力強い踏み込みから突進する。

 

 

 

──日天御剣流・九頭龍旭日(くずりゅうきょくじつ)──

 

 

 

 九つ頭の龍が旭と共に昇る。

 

 繰り出される御技は、神速を最大限に発揮した九方向からの八つの斬撃と一つの刺突を同時に繰り出す。

 

「!

 

(縁…壱…!)

 

【月の呼吸 拾陸ノ型 月虹(げっこう)・片割れ月】」

 

 その御技を前に、上弦の壱の脳裏に……消し去りたい過去の記憶が甦ってしまう。

 

 だからこそ、上弦の壱は消し去りたい過去を消し去るべく、炭治郎を今ここで必ず殺すべく、上から地面に三日月を縦に突き刺す様な斬撃を複数放ち応戦する。

 

 だが、三対の瞳に映る炭治郎の姿と、消し去りたい過去の記憶が重なってしまうのである。

 

 

()()…何の心配もいらぬ。私達の才覚を凌ぐ者は必ず現れる。

 今この瞬間にもきっと、産声を上げているのだから…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地に降り立ち、背を向け合い立つ竈門炭治郎と上弦の壱。

 

 激しい空中戦の行方は果たして…。

 

「ぐッ!」

 

 地に膝を突いたのは炭治郎である。

 

「竈門少年!?」

 

 肩から大量に噴き出す血。かなり深い傷だ。

 

 上弦の壱の斬撃はそれだけ強く、鋭く…。だが、上弦の壱は炭治郎を葬り去るつもりで放った斬撃は、炭治郎の命を奪うことはできなかったようだ。

 

「その髪の色…その容姿…煉獄家の者か…」

 

 炭治郎に駆け寄る煉獄杏寿郎を瞳に捉えた上弦の壱は何か(過去)を懐かしむような雰囲気を醸し出しながらも、炭治郎に止めを刺そうと前へと進む。

 

「…!」

 

 しかし、上弦の壱が炭治郎に向かい一歩踏み出したと同時に、身体の九ヶ所から激しく血が噴き出す。

 

「な…に…ッ!?

 

(焼けるような…この痛み…これは…縁壱のッ!!)」

 

 炭治郎が負った傷は深い。ただ、上弦の壱が負った傷はそれ以上に深い。

 

 何故なら、焼けるような激しい痛み以上に、炭治郎の斬撃は過去の辛い記憶が鮮明に呼び起こしてしまったのである。

 

「あなたはここで俺が葬る…()()()()

 

「!?

 何故…その名をッ!?」

 

 そして、炭治郎が口した名に上弦の壱は激しく動揺してしまい…。

 

()()()の想いは途切れていない。

 繋がっているんだ」

 

 不滅の鬼が、人の想いが不滅であることを思い知ることとなる。

 

 

 






改めて思ったけど、そういえば兄上って原作で炭治郎と一度も会ってなかったという。

飛天御剣流の技で使い道の少ない技その二、土龍閃。
▪️日天御剣流・土龍円舞
猗窩座の空式に対し、納刀した状態で美しい炎の弧を描くように地面を抉り無数の土石を飛ばして応戦。
日輪刀は大切だからね。鞘に納めた状態で放っとります。

とくに悩みに悩んだ型。日暈の龍 頭舞い。
▪️日天御剣流・赤龍頭舞い(せきりゅうかぶりまい)
抜刀術から始まり、炎の呼吸の壱~玖ノ型に酷似した型というか剣術を舞うように神速で繰り出す。
ちなみに、炭治郎の得意技でもある。

赤龍は、太陽または火山から生まれたとされており、日照りの神ともされてるらしいですね。


▪️日天御剣流・龍変幻日。
回避のみに全力を尽くした瞬間回避の舞。神速の回避な為に、捉えきるのは困難。

龍変は龍が変幻自在に動き回ること。

▪️日天御剣流・九頭龍旭日(くずりゅうきょくじつ)
対空版の九頭龍閃。
碧羅龍昇で宙に吹き飛ばした敵に向けて、逃げ場のない宙で九頭龍閃。


兄上はあれだ…うん、あれだ。

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