もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら   作:紅涙

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そういえば、飛天御剣流の奥義と、みんな大好き九頭龍閃はタイマン技だよね。



鬼舞辻無惨の天敵

 

 

 鬼舞辻無惨。

 

 人喰い鬼の始祖であり、鬼達の首領。

 

 鬼殺隊が千年という長きに渡り打倒を目指す最終目標。

 

「もう少し…ッ、あれか!?」

 

 そして、竈門炭治郎の家族を惨殺し、妹の禰豆子を鬼にした因縁の相手である。

 

 その鬼舞辻無惨が、炭治郎の目と鼻の先にいる。

 

 これはまたとない機会だ。鬼にされてしまった禰豆子を人間に戻す為の…。

 

「…!

(こ、子供を抱えている!?

 そ、それに、横にいるのは奥さんか!?

 人違い!?い、いや、間違いない!)」

 

 だが、炭治郎は鬼舞辻無惨をその眼で捉えたところで足を止めた。

 

「あれが…鬼舞辻無惨ッ!

(禍々しく悍ましい…多すぎる血の匂いがする!

 俺の家族を…禰豆子を…ふう、ふう、が、我慢しろ炭治郎。今は我慢だ。俺は長男だ。我慢しろ。

 何をするにしても、ここは()()()()()()())」

 

 昂る気持ちを必死に抑え込み、冷静に仇敵を見据えている。

 

 大都会浅草のど真ん中で、炭治郎と鬼の首領が戦ったらいったいどうなるか……間違いなく甚大な被害が出るだろう。多くの悲しみが生まれてしまう。

 

 何より、ここで炭治郎が鬼舞辻無惨に斬りかかることで、それを利用して炭治郎が悪人に仕立て上げられてしまうことだけは避けなければならない。人間社会に溶け込み生きている鬼舞辻無惨は狡猾だ。今この場にいる者達を利用するなど容易いだろう。

 

 故に、炭治郎はただ静かに鬼舞辻無惨の後を追っていく。

 

 もし、炭治郎が比古清十郎の弟子でなかったら、我慢できずに斬りかかっていたかもしれない。元々、炭治郎が我慢強い性格だったのもあるだろうが、比古清十郎の修行は精神面でも炭治郎を大きく成長させていたようだ。

 

 ただ、炭治郎にとって想定外だったことが()()だけある。炭治郎からの視線に、鬼舞辻無惨は気付いていたのだ。

 

「!!

(き、気付かれた!?)」

 

 陽に当たることができず、活動するのは夜のみだが、鬼舞辻無惨の人生経験値は炭治郎の想像を遥かに超える。寧ろ、想像すらできないだろう。

 

 もっとも、炭治郎が己の頚を狙う者だとは思っていない。

 

 何故なら、鬼舞辻無惨の外見を知る人間は誰一人としていないからだ。

 

 炭治郎が鬼舞辻無惨の正体を見抜けたのは、嗅覚が優れていたからで、匂いを覚えていたからである。

 

 家族を惨殺し、禰豆子を鬼にした憎き仇敵の匂いを炭治郎が忘れるはずがない。

 

「!!

(あ、あの()()()はッ!?)」

 

 だが何の因果か……鬼舞辻無惨にとって、炭治郎は因縁の相手だったようだ。

 

 正確には、炭治郎が耳に付けている花札のような耳飾りを通して、鬼舞辻無惨は別の誰かを見ている。いや、心から()()()いる。

 

「ッ──!

(ぼ、亡霊め!!)」

 

 鬼の首領が人間を恐れているなど炭治郎も思うまい。もし、炭治郎の師匠と鬼舞辻無惨が戦ったことがあったとしたら、炭治郎は納得していただろう。炭治郎にとって、比古清十郎は鬼よりも鬼なのだ。

 

 しかし、実は存在したのである。

 

 比古清十郎でも、先代の比古清十郎達でもなく、それ以外に……鬼よりも強い人間が一人だけ。

 

 鬼舞辻無惨は、未だにその人間を恐れ続けている。遥か昔に死んだはずの人間を…。

 

「!?」

 

 そして、炭治郎にとってのもう一つの想定外。

 

 これもまた何の因果か…。

 

 トラウマを掘り返された無惨が、炭治郎の目の前で()()()()()()()()()()のである。

 

 炭治郎の目の前で、鬼舞辻無惨は通り過ぎた男性の頚を引っ掻いたのだ。見たところ、軽い引っ掻き傷でしかない。殺された……一瞬こそそう思った炭治郎だったが、鬼舞辻無惨の腕の動きを捉えることができていた炭治郎は、不可解な行動を疑問に思うも、すぐにその理由を知ることとなる。炭治郎の目の前で、突如として正気を失い妻に襲いかかる夫……その光景に驚愕し、愕然とし、炭治郎は()()()()()()()()()()()を思い出す。

 

「な…何てことをッ──鬼舞辻無惨!

 お前は、()()()()()()()()()()んだ!?

(あの人はただこの道を通っていただけなのに!!)」

 

「!?

(お、お前は死んだはずだ!どうして生きて…い、いや、たまたま同じ言葉をッ──ふ、震えているのか…この私がガキ一人に恐怖しているのか!?)」

 

 今宵は、竈門炭治郎と鬼舞辻無惨にとって、決して忘れることのできない日となっただろう。

 

 竈門炭治郎は鬼舞辻無惨をその瞳に捉え、己が絶対に討ち滅ぼす敵であることを認識した。

 

 鬼舞辻無惨はまだ幼い少年に、唯一己を殺す一歩寸前まで追い込んだ化け物の姿を重なって見てしまった。

 

 ただ一つ違うのは、炭治郎と鬼舞辻無惨の現在の心情だろう。

 

「必ず…お前の頚を斬り落とす。

()()()()()()()からは絶対に逃れられないぞ。

(禰豆子…ごめん。

 今は、鬼舞辻無惨に鬼にされてしまったあの人を…)」

 

 炭治郎は憎き仇敵を前にしながらも、禰豆子を人間に戻すことができるかもしれない絶好の機会を前にしながらも、飛天御剣流の流派の理に忠実にあり続けた。弱き人々の命と、己にしかできないことを優先し、鬼にされてしまった男性のもとへと駆け出した。

 

 すれ違う際に言葉だけを残し、炭治郎は命を助けに行く。

 

「おとうさん?」

 

「月彦さん?どうしたの?」

 

 通り過ぎる炭治郎を背に、鬼舞辻無惨は喉元に刃を突きつけられたような……いや、それ以上に強大で得体の知れない何かに雁字搦めにされたような恐怖を感じていた。

 

 体を雁字搦めにする細いそれは、例えるなら……そう、龍の髭。

 

 恐れ多くも、己を限りなく完璧に近い生物だと自負する鬼舞辻無惨は、その傲り故に龍の髭を撫でてしまった。

 

 龍の怒りを買ってしまったのである。

 

 もう決して逃れることはできない。

 

 天翔ける龍が()()と共に獲物を狙っている。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 大都会浅草のど真ん中で漂う香り…。

 

「!?

(こ、これは血鬼術!

 …!

 だ、だけど…どういうことだ?鬼舞辻無惨や、俺が戦った鬼のような禍々しい匂いがしない。寧ろ…人間に近い)」

 

 鬼舞辻無惨に鬼にされてしまった男性を取り押さえていた炭治郎は、複数の警官に囲まれてしまっていた。

 

 突如として豹変し、夫に噛みつかれ傷を負わされた妻もおり、どのようにこの場を切り抜けようかと炭治郎は必死に考え込んでいた……そんな慌ただしい状況で、その場に更なる混乱が…。

 

「あなたは…愛する者にも襲いかかり喰らおうとする鬼に、人という言葉を使ってくださるのですね。

 そして、必死に助けようとしている。ならば…私も慈悲深いあなたを手助けしましょう」

 

 しかしその混乱は、炭治郎にとって大きな助けとなる。

 

 炭治郎はこの日、憎き仇敵とだけではなく、頼れる存在とも出会うこととなった。

 

「あなたは…けど、どうして?」

 

「そう…私も鬼です」

 

 そして奇しくも、頼れる存在もまた鬼。

 

「ですが、命を救いたいと思う医者でもあります」

 

 ただ、鬼舞辻無惨とはまったく違う。

 

 言うならば、鬼という悪病を侵され、陽の光に当たることのできない人。禰豆子と同じ存在だ。

 

「そして…鬼舞辻無惨をこの世から抹殺したいと思っています」

 

 鬼は平気で嘘を吐き、人を喰らう悪しき生き物。

 

 だが、炭治郎は目の前の鬼……いや、女性からは一切の不快感を感じることはなかった。

 

 本能が、すでにその女性を信用している。

 

「竈門炭治郎です」

 

「え?」

 

 だから、炭治郎は己の名を名乗る。

 

 何をするにも、良き関係を築き上げるには自己紹介は当然だ。

 

「俺は竈門炭治郎です。

 弱き人々を鬼から守り、死と恐怖の根源である鬼舞辻無惨を討ち滅ぼす為に旅をしています。

 ですので、どうか俺に力を貸してください」

 

「た、珠世と申します」

 

 その美しき女性の名は珠世。

 

 これから先、炭治郎にとってかけがえのない存在となる。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 その頃、大都会浅草の路地裏にて…。

 

「ふう!ふう!」

 

 運悪くたまたまその場所を通ってしまった人間数人が殺されてしまうという悍ましい事件が起きてしまっていた。

 

 至る所に血が飛び散り、臓器、手足、頭部……その光景はまさしく地獄絵図。

 

 この大正時代には似つかわしくない光景だった。

 

「耳に花札のような耳飾りを付けたガキを見つけ出し、必ず殺せ!絶対にだ!そして頚を持ってこい!必ずだ!何としても殺せ!!」

 

 殺害犯は息を荒くしながら、形振り構うことなく、十数体の鬼を呼び出し、そして人間たった一人を殺す為に放つ。

 

 その男──鬼舞辻無惨は怯えていた。

 

 






執筆捗るので色好い感想、ご評価お待ちしておりまーす。
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