もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら   作:OSR

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飛天御剣流とは関係ないけれども、炭治郎って投擲スキル高いよね。
富岡さん、鱗滝さんのもとに向かう途中で遭遇した鬼、猗窩座、無惨様。食らった相手は少ないし、富岡さんは辛うじて避けたけど凄いと思う。



那田蜘蛛山~柱邂逅編
日天()暁天()


 

 

 猪突猛進。

 

 まさにその言葉通り、猛烈な勢いで炭治郎に突っ込んできた猪頭の少年──嘴平伊之助。

 

「はあ…やれやれだな」

 

 まったく人の話を聞かなさそうな野性味溢れる少年に、炭治郎は面倒そうにため息を吐きながら、仕方なさそうに一撃を叩き込む。これは正当防衛で致し方なしだ。

 

 

 

──飛天御剣流・飛龍閃──

 

 

 

 矢のように鞘から放たれた日輪刀。

 

「ぐおッ!?」

 

 炭治郎が放った日輪刀は綺麗に……あまりにも的確に、吸い込まれるように柄部分が嘴平伊之助の眉間に直撃した。

 

 その一撃は絶妙な手加減が加えられながらも速く重く、しかしながら嘴平伊之助は痛みでのたうち回るでもなく、ふらふらと覚束ない足取りで後退り、無言で地面に倒れてしまう。

 

 直撃したのは柄部分ではあったが、炭治郎が放った技は脳を揺らし、意識を刈り取ってしまっていた。

 

「し…死んだんですか?」

 

 地面に倒れ、まったく言葉を発することがなくなった嘴平伊之助を前に、炭治郎に救出された清は、死んだのではないかと勘違いしてしまう。

 

 頭骨が割れたと思ってしまうような物凄い音がした為、勘違いしてしまうのは仕方ない。もっとも、炭治郎が本気を出していたら本当に死んでいたかもしれない。

 

「いや、気絶させただけだよ。

 俺は鬼は斬るけど、絶対に人は斬らないよ」

 

 清にとって、炭治郎は大恩人。ただ、爽やかな笑顔でそう告げる炭治郎が恐ろしく感じただろう。

 

 そして、炭治郎は気絶した嘴平伊之助を縄で縛り、引き摺りながら屋敷をあとにするのである。

 

「さあ、善逸達のもとに向かおうか」

 

 飛天御剣流の使い手……恐るべし。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 鬼殺隊の隊士、我妻善逸……彼は今、死を覚悟していた。

 

 兄を鬼に連れ去られてしまった幼い少年と少女を庇いながら、襲いかかってきた鬼と戦う善逸は満身創痍。

 

 鬼殺隊が鬼と戦う為に使用する"全集中の呼吸"。その呼吸術の中でも速さに特化した"雷の呼吸"の使い手である善逸だが、襲いかかってきた鬼は運悪く……最悪なことに()()()()()だった。

 

 善逸の速さも下弦級の鬼には一切通用することなく、善逸には打つ手なし。

 

「炭治郎…。

(ごめん…約束守れなかった。

 やっぱり俺じゃ、正一くんとてる子ちゃんを守るなんて無理だったんだ)」

 

 そもそも、善逸は鬼殺隊に入隊してまだ日が浅い。階級も、もっとも低い"癸"だ。下弦級の鬼など、善逸には荷が重すぎる存在なのだ。寧ろ、正一とてる子を守りながら、幼い二人に怪我一つ負わせることなく戦い続けた善逸は称賛されるべきだろう。

 

 そして……だからこそなのだろう。普段は弱音しか吐かず頼りないが、いざという時に命懸けで戦うことができる善逸を神は見捨ててなどいなかった。

 

「善逸、約束を守ってくれてありがとう」

 

「!」

 

 善逸の優れた聴覚が、普通なら聞き取れない位置で呟かれた言葉を……求めた声を拾う。

 

 その声は、善逸が心から求めていた声で、助けを求めていた人物だ。

 

「あ…あ…た…()()()ぉぉぉ!!」

 

 善逸は死から免れた。いや、元々死ぬ運命ではなかったのかもしれない。飛天御剣流の使い手の加護にあった善逸が死ぬはずなどなかった。

 

 

 

──日天御剣流・陽牙突──

 

 

 

 深い夜の闇を明るく、温かく照らす日の()が舞い降り、翔け抜ける。

 

 必ず戻る……炭治郎は善逸にそう約束していた。その約束は、確かに守られた。

 

「遅くなってすまない、善逸。

 それから、正一、てる子…もう大丈夫だ」

 

 炭治郎の温かな笑みに、善逸だけではなく皆が心から救われた。まだ夜は明けない。しかし、彼らに不安など一切ない。心は晴れやかな青空のようだ。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 下弦の肆・響凱を打ち倒し、拐われた少年を無事に救出した炭治郎は、兄妹三人を家にまで送り届け現在、藤の花の家紋の家で休息中である。もちろん、道中で遭遇した我妻善逸と共にだ。

 

 ただ無事とは言ったが、下弦の肆を無傷で倒した炭治郎とは違い、下弦級の鬼を相手に怪我を負わされた善逸は完治するまでこの場所で療養することになったようだ。肋も数本折れており、任務どころではないだろう。

 

「炭治郎ぉぉぉ!

 頼むからいかないでくれよぉぉぉ!俺をずっと守ってくれよぉぉぉ!お願いだからぁぁぁ!!

 どうしても行くってなら、せめて()()()()()()だけは残してってくれぇぇぇ!!」

 

 それでも、一般人よりは鍛え上げられていることもあり、騒ぐ元気はあるようだ。それと、優れた聴覚で炭治郎が鬼を連れていることに気付いていた善逸は、意を決してその件に触れてみたところ、箱の中から可愛い美少女が現れたことで、怪我の痛みよりも禰豆子の可愛さに心を奪われてしまったらしい。禰豆子の可愛さは鬼に対しての恐怖心を遥かに上回ったようだ。

 

 炭治郎に守ってもらえないのであれば、せめて禰豆子だけでも心の癒しに残してほしいと嘆願中である。

 

「うるせえぞ弱味噌!ぎょあぎゃあ騒ぐな!

 それよりもかまぼこ権八郎!俺と戦え!!」

 

 ちなみに、炭治郎が下弦の肆・響凱と戦った屋敷で遭遇した猪の頭皮を被った少年──嘴平伊之助もいる。どうやら彼は鬼殺隊の隊士で、しかも善逸と同じく新人隊士だったらしく、現在は善逸と同部屋で療養中だ。

 

 炭治郎から食らわされた攻撃で眉間がとてつもなく腫れ上がっており、屋敷に到着するまでの間にも無茶な戦い方をし続けていたのか全身傷だらけで、彼もしばらくは療養に専念することになったようだ。しかし、猪突猛進な伊之助が大人しく療養に専念できるはずもなく、炭治郎に勝負を挑んでいる。

 

「ぎゃッ!!」

 

「ぐおッ!!」

 

 そんな喧しい二人の脳天に拳骨が振り落とされる。

 

 拳骨を振り落としたのは炭治郎だが、その拳骨はもちろんとてつもなく痛い。

 

 炭治郎は比古清十郎から、刀が手元にない場合の対処法もみっちりと叩き込まれており、実は素手による戦闘もかなり強かったりする。然う然う、刀が手元にない状況には陥らないだろうが、もしもの場合もある上に、炭治郎に死んでほしくないという……何だかんだで炭治郎に甘い比古清十郎の優しさの証でもあるのだ。修行内容は鬼畜の一言に尽きるが…。

 

 しかしながら、素手による戦闘まで鍛え上げられた炭治郎の拳骨を食らってしまったらいったいどうなるか…。

 

「ごめん…善逸、伊之助…加減はしたつもりだったんだけど…。と、とりあえず、荒療治ではあるけどゆっくり寝て(気絶)、身体を休めてくれ」

 

 気絶させた善逸と伊之助を布団に寝かせ、炭治郎は禰豆子が入っている箱を背負い、そのまま部屋をあとにする。

 

 このままこの場所で休息をとってもいいのだが、炭治郎は鬼達の間で()()が起きていることに危機感を感じているのだ。炭治郎が今回戦った下弦の肆・響凱は浅草で戦った下弦の肆よりも遥かに強かったのだが、同じ階級でも実力に差がありすぎたのである。そして、道中で遭遇した十二鬼月でもない鬼達は、浅草で戦った下弦の肆と同等程度の力を持ち、しかも徒党を組んで襲いかかってきた。

 

 下弦の鬼の強化と下弦級の鬼の増殖、鬼が徒党を組み戦うようになったこと……これがまだ、炭治郎一人に向けられているものなら、炭治郎は無理をしつつも対処しただろうが、下弦級の鬼が善逸に襲いかかっていたことから見ても、鬼殺隊にも被害は及んでいるはずだ。

 

 それが意味するものはつまり、鬼舞辻無惨が鬼殺隊を壊滅させるべく、これまで以上に力を入れているということ。

 

 そして、その原因は恐らく炭治郎にある。珠世が話していたが、炭治郎は鬼舞辻無惨にとって数百年前に味わった()()()()を思い出させる不愉快な存在なのだ。

 

 恐らく、鬼舞辻無惨の現在の気分はかつてないほどに不機嫌なものだろう。

 

「さて、行こうかな…俺はまだ休む時じゃない」

 

 己のせいで鬼による被害者が増えることだけは絶対に避けなくてはならない。それに、鬼殺隊に迷惑をかけるわけにはいかない。もっとも、炭治郎は堅気の人間を含め鬼殺隊の隊士を何人も助けており、鬼殺隊からしたら感謝の気持ちの方が大きいだろう。

 

 鬼殺隊に加わるつもりは一切ないが、炭治郎にとっては鬼殺隊も守るべき対象なのである。

 

 それに、鬼殺隊隊士の犠牲者が多いのは下弦級の鬼が増殖しているからというだけではなく、隊士の質が落ちているというのも要因の一つだと、近年鬼殺隊内でも呟かれているそうだ。

 

 ただこの点に関しては仕方ないのかもしれない。時代の流れとでも言うべきだろうか…。飛天御剣流ですら、今のこの時代にはもう不要な……過去の代物だと比古清十郎は考えていたのだ。炭治郎と禰豆子に出会わなければ、比古清十郎は己の代で終わらせ、飛天御剣流をこの世から消し去っていた。明治を築き、救った最強の剣術すら、時の流れには無意味なもの。

 

 廃刀令のこの時代に、政府公認の組織ではない鬼殺隊が刀を所持し活動を続けるのは何かと厳しい現状もあるのだ。

 

 だが、鬼を討ち滅ぼすには日輪刀が必要不可欠。

 

 だからこそ比古清十郎は、これが最期だと……炭治郎を最期の継承者として育て上げたのである。

 

 それが、飛天御剣流の流派の理なのだ。たとえ廃刀令の時代であろうとも、どの権力、どの派閥にも属さない自由の剣であり、時代の苦難から弱き人を守り抜く。

 

「善逸、伊之助…また会おう」

 

 故に、飛天御剣流の最期の使い手である炭治郎は一人でも多くの弱き人を守る為に、自ら深い夜の闇へと向かっていく。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 炭治郎が次に向かった場所は那田蜘蛛山。

 

 しかも、今回は鬼殺隊からの情報提供ではなく、たまたまそちらに足が進んだからという理由だ。

 

 だが、炭治郎の勘は正しかったらしい。

 

「禰豆子、頼む」

 

 

 

──血鬼術・暁天の紅炎──

 

 

 

 那田蜘蛛山という名の通り、蜘蛛──鬼が支配するその山では、多くの人が殺されており、討伐に訪れた鬼殺隊隊士もほぼ全滅という悲惨な状況に追いやられていた。

 

「あ、あなたはッ!

(あの時の…けど、どうして鬼を連れているの?

 それよりもこの()は何?

 燃えているのに少しも熱くない…)」

 

「その炎は、人間にはまったく害がない。

 鬼にのみ効く血鬼術…」

 

 しかし、これ以上被害が拡大することはない。

 

 鬼を狩る流浪人(るろうに)が現れたのだから…。

 

 炭治郎に再び助けられた女性隊士は、もう大丈夫なのだと心の底から安堵する。

 

「あとは俺と禰豆子に任せてくれ」

 

 

 






炭治郎は投擲が得意だから、飛龍閃の命中率も半端ない。何気に、炭治郎にとってもっとも得意な技かもしれない?

禰豆子ちゃんもここから本格始動。
実はすでに血鬼術を扱える。

原作よりも早めに目を覚ましていた。炭治郎が比古師匠と修行している際、修行内容があまりにも鬼畜すぎていたぶられていると勘違いして憤慨し、禰豆子も修行に交ざっていた模様。炭治郎の旅には鬼の禰豆子の助力も必要不可欠という判断から、比古師匠に兄妹揃って鍛えられていた。おかげで、禰豆子の体術スキルがありえないくらいに向上し、血を媒介としないで爆血を放てるように。寧ろ進化した。

血鬼術・暁天の紅炎。
効果は原作と同じだけど、手を翳すだけで放てるなど、鬼からしたら天敵以外の何物でもない。

最悪の兄妹である。

執筆捗るので色好い感想とご評価ぜひぜひよろしくです!!

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