もしも竈門炭治郎のもとを訪れたのが比古清十郎だったら 作:OSR
今さらですけども、この作品の炭治郎と原作の炭治郎の最大の違いは、原作の炭治郎が一年の修行後に残りの一年を鱗滝さんに放置されて一人で修行(錆兎が出てきたけど)せざるをえなかったのに対し、この作品の炭治郎は二年間みっちり比古師匠から鍛え上げられたことである。
前話の最後でチラッと出したモブキャラの女性隊士は、第3話でチラッと出した隊士の鑑な女性隊士と同一人物です。原作の那田蜘蛛山編で炭治郎に一度は助けられるも、母蜘蛛に殺されてしまった尾崎というポニーテールの女性隊士です。
那田蜘蛛山。
この山は、鬼舞辻無惨が選別した直属の配下──"十二鬼月"の一体が根城にする危険地帯だ。
現在、その那田蜘蛛山に多くの鬼殺隊隊士が動員され、那田蜘蛛山掃討作戦が決行されている。
だが、動員された部隊はほぼ全滅。
元来群れないはずの鬼達が徒党を組み、しかもその鬼達が最近になりちらほらと確認されている下弦級の鬼だったこともあり、鬼殺隊は予期せぬ事態に陥ってしまっていた。
「あ、あの!
いや、このような事態に陥ってしまうのは最初からわかっていたのではないだろうか…。
「いえ、お気になさらずに。
それよりも、早くこの山から逃げてください。ハッキリ言って申し訳ないですが、この山は
鬼殺隊からの情報提供ではなく、たまたま勘が働いたことで那田蜘蛛山を訪れた炭治郎は、多くの亡骸を前にそう考えているようだ。
炭治郎の鋭い嗅覚は、那田蜘蛛山に居着く鬼達が下弦級の鬼であることも、十二鬼月がいることも嗅ぎとっている。
炭治郎がどうにか間に合い、助け出すことができた生き残りの尾崎という女性隊士では無駄死にに終わってしまうだろう。階級が下から数えた方が早い"庚"程度では、決して乗り越えることなどできない。
「ッ…!」
優しい炭治郎がここまでハッキリと物申しているのだから、事実なのだろう。厳しくとも、時には事実をそのまま伝えることも必要だ。それに、炭治郎は嘘を吐くのが大の苦手だ。
何より、以前……命を救った相手が無駄死にしてしまうところなど見たくもないはずだ。
「俺は行きます。
どうか、命を大切になさってください」
己の実力不足を命の恩人である炭治郎にハッキリと言われ、彼女は今にも泣き出しそうな傷ついた表情を浮かべている。彼女にとって、受け入れ難い厳しい言葉かもしれないが、これは炭治郎なりの優しさと、死んでほしくないという思いやりなのだ。
「い、いったい何者なんだ?
隊服を着てないってことは鬼殺隊の隊士じゃないよな?けど、日輪刀を持ってて…それよりも、鬼を連れてるのはいったいどういうことだ?俺達を助けてくれたし…何なんだ?なあ、尾崎…あいつは何者なんだ?」
尾崎という女性隊士と共に、炭治郎と禰豆子に助けられ生き残ることができた村田という男性隊士は彼女の様子に気付かずに疑問を口にする。しかし、その疑問に答えは返ってくることはない。彼女も詳しくは知らないのだ。
ただ、再び炭治郎に命を救ってもらった彼女は、ただ茫然と……己の無力さを痛感し、うち震えていた。
☆☆☆☆☆
時は遡り──竈門炭治郎が那田蜘蛛山に到着し、窮地に瀕していた数名の隊士を助ける数時間前のこと…。
鬼殺隊総本部に、一匹の鎹鴉が那田蜘蛛山から帰還した。那田蜘蛛山で起きた出来事を伝える為に…。
「そうか…私の
その鎹鴉から鬼殺隊の最高管理者である"お館様"こと産屋敷耀哉に伝えられたのは、那田蜘蛛山に動員された部隊がほぼ全滅したという凶報だった。
近頃、下弦級の鬼達が増え、尚且つ鬼達が徒党を組むことで鬼殺隊への被害が増えてしまっているが、今回の被害は今までの比ではないほどに甚大なもののようだ。
近場にいた柱と、柱の弟子とされる"継子"を急ぎで救援に向かわせているらしいが、お館様は柱をもう一人救援に向かわせる必要があると判断している。
「義勇」
「御意」
那田蜘蛛山へ向かうのは"水柱"冨岡義勇。
鬼殺隊士達が必須技能として習得する特殊な呼吸法"全集中の呼吸"。その基本となる五つの呼吸の内の一つ"水の呼吸"の使い手であり、どの時代にも必ず存在するとされる水柱達の中でも歴代最強の呼び声高い鬼狩りだ。
「それとね、義勇。
那田蜘蛛山にはもしかしたら…花札のような耳飾りをした少年が
もし、その少年に出会ったら、
そして、那田蜘蛛山への救援に冨岡義勇が選ばれたのには、もう一つの理由があった。
鬼殺隊に所属することなく鬼を狩る花札のような耳飾りをした
「その少年の名は、竈門炭治郎と言ってね」
「竈門…炭治郎…。
(その名…聞き覚えが…いったいどこで──ッ!
そうだ…あれは確か二年程前に起きた
「やはり、義勇は聞き覚えがあるみたいだね」
冨岡義勇は、竈門炭治郎と直接的な接点こそないが、二年程前に雲取山を下りた場所にある町を鬼の情報収集の為に訪れた際に、竈門家に起きた悲劇を町の者達から聞いていたのだ。
ほとんどの者は冬眠できなかった熊の仕業だと口にしていたその事件だが、極一部の者のみが鬼の仕業だと口にしていたそうだ。そして、彼は事実確認の為に竈門家へと向かったのである。
ただ、母親と娘、息子達の計五人が惨殺された竈門家に向かった冨岡義勇は、そこでかつてない戦慄を覚えたようだ。鬼殺隊士として、見慣れた光景のはず……しかし、その場所に残っていた鬼の気配は、それまで冨岡義勇が経験したものとは明らかに違い禍々しく、おぞましいものだった。十二鬼月……それも上位の鬼とされる"上弦の鬼"の仕業かと考えていたそうだ。だからこそ、冨岡義勇は竈門炭治郎の名を聞き、すぐに思い出すことができたのだろう。
だがそこまで思い出したところで、冨岡義勇はふと疑問が湧く。
「お館様…町の者達から聞いた話では、竈門炭治郎は確か唯一生き残った妹と共に"
産屋敷耀哉は竈門炭治郎が現れるかもしれないと口にした。これがまだ、鬼に拐われた……そう言ったのならば、疑問は湧かなかっただろう。しかし、現れるとはいったいどういうことなのか…。
何故、陶芸家に引き取られた堅気の少年が、わざわざ十二鬼月が居着く場所に姿を現すのか、冨岡義勇はその答えが皆目検討がつかないでいる。
「その陶芸家"新津覚之進"だけどね…日本最高峰の陶芸家であると同時に、実は日本最高峰の剣士でもあるんだよ」
産屋敷耀哉は、そんな冨岡義勇に衝撃的な答えをあっさりと述べた。
新津覚之進の真の正体が、飛天御剣流十三代目"比古清十郎"であること。飛天御剣流とはいったい何なのか…。飛天御剣流と鬼殺隊との関係性。
竈門炭治郎の家族を惨殺したのが鬼舞辻無惨で、唯一生き残った妹は鬼にされたものの、強靭な精神力で人間としての理性を保ち続け人を喰わずにいること。
竈門炭治郎が比古清十郎に弟子として迎え入れられ、免許皆伝を受けた後に鬼殺隊に所属せずに飛天御剣流の最期の使い手として鬼狩りをしていること……竈門炭治郎の目的が、恐らくは鬼にされてしまった妹を人間に戻すつもりであること。
そして、竈門炭治郎が鬼舞辻無惨と遭遇した……鬼舞辻無惨の姿をその瞳に捉えた唯一の人間であること。
産屋敷耀哉が述べた内容はあまりにも衝撃的なもので、表情乏しい冨岡義勇が目を見開いて驚愕していたほどだ。予想の遥か斜め上をいく話なのだからそれも仕方ない。
これまでも、鬼殺隊に所属することなく鬼狩りをしていた者は少からず存在していた。鬼に対する強い憎しみ故の行動だ。それでも、その者達は後に鬼殺隊士と出会い、隊士を育てる"育手"を紹介され、過酷な修行を乗り越えた後に鬼殺隊士となっている。
それがまさか、鬼殺隊の育手を介すことなく鬼狩りになった存在がいたとは…。しかも、すでに下弦の鬼すらも倒している。それだけで、飛天御剣流という剣術の凄さがわかってしまう。
「飛天御剣流はどの権力、どの派閥にも属さない。あまりに強大すぎるその力は時代すらも左右し、"歪み"を生み出してしまうからだ。だから、竈門炭治郎が鬼殺隊に加わることはない。けど、この膠着した現況の突破口になり得る可能性を秘めた存在であると私は考えている」
冨岡義勇は、産屋敷耀哉が言わんとすることを理解する。
何故、九人いる柱達の中で、冨岡義勇にのみこの話をしたのか…。彼自身、鬼への憎しみはある。他の柱達同様に、鬼に家族を殺されている。柱のほとんどがそうだ。家族……大切な存在を殺されていない柱の方が少ないくらいである。
ほとんどの柱が鬼殺隊の理念"悪鬼滅殺"に忠実に、鬼にされてしまった妹の頚を斬り落とそうとするはずだ。しかし、冨岡義勇は鬼にされてしまった妹を連れて鬼狩りをする竈門炭治郎に対し、無闇矢鱈に斬りかかったりすることはないだろう。彼は思慮深く、竈門炭治郎の話に耳を傾けるはずだ。この話を聞かされたのだから尚更だ。他の柱達では、そうはいかない。たとえその話が本当だとしても、鬼に対する憎しみが強すぎるが故に、どんな鬼だろうて滅殺するべきだと判断するはずだ。
他にも一人だけ、産屋敷耀哉が思い浮かんだ柱がいたようだが、その柱は現在別の任務を与えられている。
とはいえ、産屋敷耀哉が他の柱達を信頼していないわけではない。この件に於いては、冨岡義勇が適任なだけだ。
その上、冨岡義勇は竈門炭治郎に対して負い目があった。もし二年前、己がもう少し早く到着していたら、竈門家の者達は殺されなかっただろうと……もっとも、その負い目に至っては言い方が悪いかもしれないが、傲慢な考えかもしれない。水柱といえど、鬼の首領である鬼舞辻無惨を相手に竈門家の者達を守りながら戦うのは不可能だ。本人諸共、鬼舞辻無惨に葬られていただろう。
「義勇…頼んだよ」
「御意」
冨岡義勇は、これから向かう那田蜘蛛山で目の当たりにすることになる。
鬼舞辻無惨に家族を惨殺され、妹を鬼にされてしまった少年の成長した姿を…。
☆☆☆☆☆
顔が蜘蛛のような身長五メートルを超える巨躯の異形の鬼と、その巨躯の鬼の肩に座った小柄な体躯の白髪の少年の鬼が、退屈そうな様子を醸し出しながら、蝶の羽模様が描かれた羽織を着用した鬼殺隊士を見下ろしている。
二体の鬼に見下ろされる女性の鬼殺隊士──彼女は鬼殺隊最高戦力の一人に数えられる"蟲柱"胡蝶しのぶだ。
彼女は柱の中で唯一、鬼の頚を斬れない剣士……だが、彼女は鬼殺隊の永い歴史に於いて、頚の切断以外で鬼を殺せる方法を開発した天才であり、柱に相応しい実力を持った異才の剣士である。
「はあ…はあ…ッ…。
(噂には聞いていた…けど、まさか本当に鬼が徒党を組んでいるなんて。
しかも、下弦級の鬼と
しかし、そんな胡蝶しのぶが窮地に瀕している。
彼女の最大の武器であり、鬼を滅殺する唯一の方法でもある毒も、この二体の鬼には通用せず……正確には、
とは言え、巨躯の異形の鬼は異能の力を持っていないが、皮膚が硬く刀が皮膚に突き刺さらず毒を打ち込むことができず、その巨躯からは想像もできない速さを持っており接近するのは困難。それに、その巨躯から繰り出される拳の威力は凄まじい。
つまり、柱の中で唯一鬼の頚を斬れないが、突き技の威力と速さは突出している胡蝶しのぶにとって、この鬼は相性が最悪なのである。
何より、接近できたとしても肩に座った下弦の弐による妨害があり、胡蝶しのぶは鬼を倒せずにいた。
「この程度で柱なのか…弱いね。
飽きたからもう終わりにしようか。
【血鬼術・殺目篭】」
「!
(これは…ッ!?
逃げ道が…ない…)」
ただ、その下弦の鬼もこの戦いに飽きたのか、胡蝶しのぶに止を刺すつもりだ。
これまで、多くの鬼狩りの日輪刀すらも切断してきた鋼鉄並の硬度を誇る糸が胡蝶しのぶの全方位を篭のように覆い、閉じ込めてしまう。退避しようにも、退避した先には巨躯の鬼が待ち構えており、彼女は打つ手がない。
鬼の頚を斬れない彼女に、この糸は斬れない。
「…ふざけんじゃないわよ…。
(カナヲ、アオイ、きよ、なほ、すみ…ごめんなさい。
それから…
死を目前にした彼女は、これまで被っていた仮面を脱ぎ捨てて本心をぶちまける。
「!」
「最後まで生きることを諦めたら駄目だ」
だが、迫る糸は彼女を斬り刻むことなく、寧ろ糸の方が事細かに斬り刻まれてしまっていた──突如現れ、彼女を鼓舞する声の主によって。
「!?
(あの耳飾り!額の痣!
コイツがあのッ…!!)」
「まずは一体…」
そして、竈門炭治郎は現れるや否や…。
炭治郎は、現役の柱……突き技に於いては柱最強と言っても過言ではない胡蝶しのぶですら突き刺せなかった皮膚へ刃を突き刺し…。
「!?
(あ…ありえない…)」
それどころか、炭治郎の突き技は鬼の頚を斬り落としてしまった。
「竈門…炭治郎!!」
「下弦の弐…次は君だ」
その日……蟲柱・胡蝶しのぶは、絶対的な力を目の当たりにすることとなる。
ここで、日天コソコソ噂話。
比古師匠は新津覚之進という日本最高峰の陶芸家なのですが、二年前にそれまで贔屓にしていた炭焼きが亡くなり、後継ぎもいなかったこともあり、新しい炭焼きを探していたところ、竈門一族の評判を聞き、雲取山を来訪したのだそうです。
そして、そこで鬼にされた妹に襲われていた炭治郎と遭遇し、最期の飛天の使い手を育てることに。
炭治郎は比古師匠から陶芸も叩き込まれており、鬼舞辻無惨を討ち滅ぼしたら、新津炭之進と名乗り出すかもしれない。
な~んて、真似事をしてみた!
ようやく出てきた水柱。
実は少し遅れて雲取山方面に出向いていた。そこで、竈門家に起きた悲劇の話を聞き、炭治郎の名を耳にしていた。
この作品の炭治郎とは相容れない考えの持ち主であるうるわしき蟲柱。彼女は変わることができるだろうか?
この作品の累が強化されてるってのもあるけど、原作でしのぶ嬢と累が戦ってたらどうなってたかな?
速さで翻弄して、一刺しして終わりだったかな?
執筆捗るので色好い感想とご評価ぜひぜひよろしくです!!