暁美ほむらの依頼/時間跳躍の法則   作:あおい安室

6 / 9
法則6:愛読書『日常』ー■■■■=戸惑いの日々

 文字にすれば二、三行で片づけられそうな平凡な日常――日常モノを愛読する私としては文句を言いたいが――を過ごしていた私の日々は、黒の魔法少女と出会ったことでほんの少し彩りを増した。放課後に書店横喫茶店でコーヒーとケーキセットを食べ終わるまで彼女の相談に乗るおよそ30分のティータイム。そんな時間が、楽しくて仕方ない。

 主にすることと言えば黒の魔法少女のお悩み相談なのだが、その内容は一般人の私からしてみれば創作物の出来事に近く、サブカルチャーにどっぷりな私にはよくわかるものばかり。

 

 ……最初の頃の私が彼女に声をかけたのって、そういう意味で面白がってた可能性あるのでは?

 

 などと絶対彼女には言えないことを考えていると、うつむいていた黒の魔法少女がポツリ、と。

 

「ループって、どうすれば終わるものなのかしら」

 

 

 ふと、そんなことを呟いた。飲み干そうとしたコーヒーをテーブルに置き直し、彼女の呟いたことについて考えてみる。ループの終了条件とは、何か。

 

 最近よくあるループ物と言えば、死に戻りというのが有名らしい。

 

 死ぬと特定の時間まで時間が巻き戻る能力を持っている主人公が、何度も死にながら未来への突破口を求めて死にあがき続ける姿を最近のループ物小説で見た記憶がある。

 

「……私のループはそういう痛みを伴う物じゃないわよ」

 

 それは知っているとも。魔法の砂時計を使って時間を巻き戻すことができるが、巻き戻すためには砂時計の砂が落ちきる必要がある為任意のタイミングでループを始めることはできない。加えて巻き戻せる時間にも制限があり、およそ一か月間前が限界である……だったか。

 

「付け加えると、一か月よりも前まで世界を巻き戻している節がある。見滝原に住む人々は大体同じ状態に巻き戻るけれど、市外は必ず同じ状態を迎えるとは限らない」

 

 だから、君がループを始めて目を覚ますより前に市外の人々が見滝原に影響を与えてしまう。故に黒の魔法少女はループごとに全く別の状況から始めざるを得ない。大変だね。

 

「他人事みたいに……」

 

 実際他人事だと思うが。

 

「……それもそうね。はあ、疲れているのかしら」

 

 その可能性はあるだろう。元々自分の意志で始めたループと言えば自分が諦めるか目的を果たせば終わるモノだ――みたいな話をこれまでにされなかったのかい?

 

 君の目的は親友と共に一か月後の未来へたどり着くことだろう。

 

 それ以外に君のループが終わる理由はないはずなのに、どうしてそれを迷っているのか。

 

「ええ、そうね。それはそう、なのだけれど。何か違和感がぬぐえないのよ」

 

 黒の魔法少女はノートをペラペラとめくって一枚のデータを開示する。解決するべき問題として、彼女と出会った最初の日から提示していた2つの謎の法則のデータ。

 

 法則その1:最終日に排除すべき存在がループごとに弱体化している。

 ※ただしこちらも戦闘中に弱体化する都合と法則その2の兼ね合いで勝利したことはない

 

 法則その2:親友が魔法少女になるタイミングがループごとに早くなっている

 ※ループ初期から見ておよそ30分早くなっている=戦える時間が30分短くなっている

 

 前者は黒の魔法少女にとって有利な条件をもたらす法則であるためまだいい。が、後者が致命的な問題であり時間をかければ勝てる戦いもタイムリミットが短くなれば勝ち目がない。

 

 

 親友が魔法少女になるとその時点で色々な事情からループの失敗が確定してしまう、と改めて黒の魔法少女は念押しした。私に全ての情報を明かすことができないため、その理由は想像するしかない、が。恐らく親友を過酷な運命に巻き込むのが嫌なのか、あるいは親友が――

 

 魔法少女になった後で世界を滅ぼす厄ネタの持ち主である、とか?

 

 全ては想像するしかないというのがもどかしいところだが仕方あるまい。フルーツたっぷりロールケーキの最後の一切れを口に放り込み、果物の甘みを堪能して頭をリフレッシュ。

 

「ねえ、探偵さん。私、こんなことを考えてしまうことがあるのよ」

 

 ふむ。聞こうか。

 

「このループ……いえ、ループを繰り返すこの生活が……終わらなければいいのに、って」

 

 ……それは、親友を救うのを諦めるという意味かな?

 

「かも、しれないわね。何度も何度も同じはずの日々を過ごしているはずだったのに、ループごとに変化する日々が私を迎えてくれるから……退屈、しないのよね」

 

 だからこの日々が続いても黒の魔法少女の精神は崩壊していない、と。

 

「急にどうしたのよ、私の精神が崩壊するとか怖いことを言うわね」

 

 ループ物ではよくあるんだよ、どう頑張っても変わらない結果に絶望して心が折れる展開が。

 

「そうなったら私は魔女になって世界ごと滅ぼしてるわね、多分」

 

 ――魔女?

 

「ええ、魔女」

 

 ……魔女?

 

「……あっ。今回のループではまだ魔女について説明していなかったわね」

 

 しっかりしてくれよ、黒の魔法少女。他のループと記憶が混濁していたらいつまでたっても望む未来は得られないよ?いいかい、今の君に必要なのは休息、安らかな日常、これに尽きる。

 

 魔法少女としてやることで忙しいのかもしれないが、11時までにはベッドに入って8時間くらいは睡眠をとってくれ。おっと、寝る前にはホットミルクを飲んでストレッチを20分くらいしておくと体がほぐれて快適な睡眠を提供してくれる。朝までぐっすり熟睡間違いなしさ。

 

「ふうん……睡眠方法についても詳しいのね、探偵さん」

 

 今読んでいる日常マンガのキャラクターの習慣だよ。これが意外と効くんだよね。

 

「そうなの?私も読んでみようかしら……そのキャラクターってどんなキャラクターなの?」

 

 争うことを避けて平穏を好み、平凡なサラリーマンとして生きようとするけど根っこが異常者だから何度も失敗するコメディな主人公かな。

 

「へえ。ループする前の私みたいね、そのキャラクター。あの頃の魔法少女であることを隠そうとしてなんとか日常生活を送ろうとしていたのが懐かしいわね」

 

 ちなみにその主人公、綺麗な手を見ると切り取って殺さずにはいられない性癖持ち。

 

「それのどこが日常マンガの主人公なのか疑問なのだけれど?」

 

 私に聞かないでくれ。ところで……君の手は綺麗だね?

 

 

 

 ……黒の魔法少女がいない!?そしてこれは――手りゅう弾、だと?

 

 殺害方法が爆破とか漫画と――

 

 

 

 

ばぁぁーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 ●

 

 ●

 

 

 

 

 ……なんて、ただの音爆弾で大騒ぎしてるのかしら。

 

 背後から聞こえた騒ぎにクスリと笑みを浮かべながら私はショッピングモールを去る。時間停止してまで音爆弾を置いていくのは少しやりすぎだったかもしれないけれど――

 

 でも。これでいいのだ。印象深く、思い出に残った方がいい。

 思い出せばいつだって笑えるほどに、強く焼き付くほどに衝撃的な方がいい。

 

 今回のループで改めて分かった。

 

 有利な条件と不利な条件に惑わされて本当になすべきことを忘れつつあったのだろう。

 ループの度に幾度と姿形を変えて襲い掛かって来る現実に戸惑っていたのだろう。

 長い時間という抗いようのない現実に惑わされて道を迷っていたのだろう。

 

 だけど、それももう終わり。もう、終わらせなければならない。

 

 無駄な時間はもういらない。暁美ほむらは使える魔法の性質上弱い部類であることは自覚している。だからこそ、目的を果たすために。ワルプルギスの夜を倒すためには多くの武器が必要だ。

 

 だから、これからのループでは探偵さんと会わない

 

 探偵さんと会う時間を武器調達の時間に当てれば、これまで惜しいところまで追いつめることができたワルプルギスの夜を倒すための火力が足りるはず。あくまでも推測にしか過ぎないが。

 

 

 ――でも。不安だ。不安に気づいた。気づいてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 暁美ほむらは探偵さんに依存している。

 

 変わりゆくループの中で自らを見失わないための道しるべとして、探偵さんを利用していることに、探偵さんの愛読書が『日常モノ』である比較的平和なループで気付いてしまった。

 

 だから、これまでのループで私の心は壊れずに済んでいたのだろう。それを断ち切ってしまって本当に大丈夫なのだろうか、弱い魔法少女暁美ほむらはそれじゃ生きていけないだろうに、と不安が叫んでいるが――そうしないと目標を果たせないことに気付いた。

 

 

 後少し、後少しなのだから……やらなければならない。やるしかないんだ。

 

 

 次のループで、全てを終わらせよう。全てのループを終わらせてまどか……できることなら、■■■■も一緒に好きな本でも読みながら時が流れていく平和な日々にたどり着くんだ。

 

 

 そして、私は――

 

 

 

 

 私は――

 

 

 

 私、は――

 

 

 わた、し、は――

 

 わ、た、し、は――

 

 

 

 

                  

あ、れ?

 

 

 

私は何を考えていたのだろう?

 

 

 不意に妙な感覚が体中に満ちた。歩いてきた道を引き返して私はこのショッピングモールにある喫茶店横の喫茶店へ向かった。姿が魔法少女のままであることを周囲の人が気にしていたような気がしたが、気にするな。私は気にしていないのだから。

 

 それよりも、気になるモノが――あそこにあるだろう。

 

 そんな、気が、したのだけれど。どうも気のせいだったような感覚がある。

 

「あっ!さっきまで店にいた方じゃないですか。実は先ほどあなたが座っていた席で爆発があったんですよ」

 

 そんな私を見つけた店員の一人が話しかけてきたが、邪魔なので適当にあしらう。そのついでに私はこんなことを尋ねてみることにした。私と一緒に誰か来ていなかったか、と。

 

「いえ?あなた一人でしたけど……って、どうして泣いているんですか?」

 

 泣いている?私が?

 

 触れた頬には冷たい感覚があった。本当だ、確かに泣いている。でも……

 

 

 ただ、目にゴミが入っただけね、きっと。さて、早く逃げないと。これから警察が来て取り調べのパターンだろうし、ここで時間を無駄にするわけにはいかないのだから。

 

 

 

私の戦場はここじゃない。

 

 

 ……そのはず、なのに。どうも胸騒ぎがするのはなぜだろうか?

 

 あれ……?胸騒ぎ?全然そんな物は感じていないのに何故そんなことを考えるのだろうか。

 




・探偵さん

「ああ、やっとわかった。君の戦場はあっても――居場所がないんですね?」

「だから何度もループを繰り返していると……ふむふむ、いい傾向かと」

「これであなたはもうループから抜け出せないかもしれませんね?」

 誰かの声は、黒の魔法少女には聞こえなかった。
 ただ、この言葉を見ているあなたにしか聞こえていない。


・暁美ほむら
 皆ご存じほむほむ。親友であるまどかを救うために何度も時間跳躍=タイムリープを繰り返しているが、今のところ成功したことはない。

 今回のループは取り返しのつかないミスをしているため、既に成功することはないと悟っている。次のループに賭けるために入念な準備をした後、倒すべき対象の悪プルギルスの夜の動きを再確認。準備が整ってすぐに次のループを始めた。



 その結果――次のループでは親友を救えたらしい。おめでとう。




・今回のループ
 次のループに全てをかけるための最後の平和なループでした。でも、ほむほむが親友を救う結末は確定しているのでバッドエンドでないことだけは約束します。


 ……後余談なのですが、今回の愛読書が「日常」であることを実はうっかりしておりました。愛読書「日常ラブコメ」の回があるから「日常」が被っているという……
 まどマギ杯終了後、こっそりと修正させてもらってもいいですか……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。