「何か変なところに繋がった感覚があるけれど……」
「まあいい。ボクのやることを始めよう」
崩れる。崩れていく。崩れ落ちていく。
長きにわたり栄華を誇っていた巨大の城とでも言わんかのような風貌を持つ巨大な存在が崩れ行くその姿に仲間たちが歓喜の声を上げているのが見えた。黄色の魔法少女は感極まって崩れ落ち、青色の魔法少女は思わず赤色の魔法少女に抱き着いて無理やり引きはがされようとしていた。
そして。私の隣には一人の少女がいた。大切な、大切な、大切な、親友。
「――やったね、ほむらちゃん」
ニコリと微笑む彼女の名前は鹿目まどか。ただ、その姿は望んでいた姿とは少し違っていた。
「さぁ――みんなで帰ろう!帰っていっぱい大騒ぎしよう!」
そう言って魔法少女鹿目まどかは魔法少女暁美ほむらに手を差し出した。
まどかの手を取るべきか、私は躊躇してしまった。
本来私が望んでいた未来は彼女が魔法少女になることなく普通の世界へ戻る道を選ぶ未来だった。けれど、今回はまどかが魔法少女になる事を止めることはできなかった。そして、ワルプルギスの夜との戦いで彼女は命を落としてしまうのではないかと絶望しかけたが――
幸か不幸か。彼女が命を落とす前にワルプルギスの夜を倒すことができた。できてしまった。
故に私は――迷っている。もう一度ループするべきなのではないか、と。同じことを繰り返せばまどか抜きでワルプルギスの夜を倒すことができるのではないか、と。そうすれば――
『望む未来にたどり着く?でも、これでもすでに幸せな未来ですよ?』
いや、何を考えているんだ、私は。同じことをしたとしてもこの結果にたどり着くとは限らないし、今回のループが奇跡的な結果をもたらした可能性だって普通にあるじゃないか。
『たどり着いた未来を受け入れなさい、暁美ほむら。これは幸せな未来なのよ。』
「……大丈夫だよ、ほむらちゃん」
悩んでいた私を見かねたまどかがぎゅっ、と抱きしめてくれた。突然のことに混乱しかけたけれど、そのまままどかが耳元で囁いてくれた言葉で私の心は安らいだ。
「何を悩んでいるのかはわからないけど、きっと全部うまく行くよ。私がついてるからね」
そうだ……ええ、そうね。そうよ、何を悩んでいたのか。この未来にはまどかがいる。マミがいる。さやかがいる。杏子がいる。皆がいるのだから何があってもきっと大丈夫だろう。積み重ねた時間がたどり着かせてくれたこの時間を、幸福な未来を生きていこうじゃないか。
『そう、私には皆がいるのだから。』
……違う。
違う。何かが違う。何かを間違っていると誰かが囁いている気がした。その声の主を探して、突然まどかを振りほどいて周囲を見渡す私の姿を見た皆が戸惑っているが、私はそれよりも探すべき存在がどこかにある気がしてガレキまみれの周囲に視線を巡らせている。
「暁美さんどうしたの?もしかしてどこかに爆弾でも落とした、とか言わないわよね」
それはない。私の火力をほぼ全て投入したから、爆発物は牽制用の音爆弾しか残っていない。
「ははーん……もしかして、まどかからもらった御守り的なのをなくしちゃったとか」
それもない。残念ながらまどかからそう言った品物はこのループでは何ももらっていない。
「……おい。まさかとは思うが、ワルプルギスの夜がまだ生きてるとか言わないよな」
それは……ワルプルギスの夜が復活しないとは言い切れないから否定はできないけれど。それは別件で考えるとして、私はもっと別のモノを探している気がした。
例えば――仲間とか。どうしてそう考えたのかはわからないけれど。
「「「「仲間????」」」」
「って言われても……ここにいる皆でワルプルギスの夜と戦ったメンバーは全てよね。誰か他にこの戦いに参加してたかしら?」
「わかんねぇな。この規模だから他の地域の魔法少女も加勢しに来ていた可能性もゼロって言いきれねえけど……さやか、おまえそういうのどっかで見たか?」
「いやぁ?というか、戦ってる魔法少女が他にいたら前線で切り込んでたあたしか杏子が見てるでしょ。遠くから支援してたまどかこそそう言うのは見えてないの?」
「見てないよ。他に攻撃してる人がいたら、わかると思うんだけど……ねえ、ほむらちゃん。皆こう言ってるんだし、きっと気のせいだよ。私たちの他には――」
『仲間なんていないよ?』
まどかの言う通り……言う通り、じゃないか。存在しない仲間を探してしまうとは私は大分疲れているのかもしれない。帰ったらゆっくりベッドで眠ろう……。
……でも。やっぱり、何かがおかしい気がする。どうしてなのだろうか。
言いようがない不安を抱えた私をまどか達は励ましてくれた。『大丈夫だよ、気のせいだよ。』と言って私の違和感を拭い去ってくれていると本当にそんな気がしてきた。でも、やっぱり何かがおかしいような気がする日々を過ごしていって――数か月の時が流れた頃。
奇妙な来客が私、というより全ての魔法少女の元へやって来た。
キュゥべえである。詳しい説明は長くなるか省くが、この生命体は魔法少女を生み出しているだけでなく魔法少女を最終的に魔女へ変えようとしている非常に凶悪な生命体である。
そんなコイツが突然やってきた際には思わず残っていた武器であるハンドガンで撃ち殺したが、すぐに新しい個体が登場して文句を言いながら銃殺した死体を食べ始めた……といったように、やはりこいつは人類の理解の外側にいる生き物、いや、そもそも生き物と言えるのだろうか。
などとボヤいていると新しい個体が衝撃的な言葉を発した。
「……別に僕のことをどう呼んでくれてもいいけれど、少しくらいは話を聞いてくれ。今日は君達魔法少女に引退の話を持ってきたんだけど、聞くつもりはないかい?」
魔法少女、引退?それはつまり魔法少女が一般人に戻れるということなのだろうか。
「その通りだよ。元々僕たちはソウルジェムがグリーフシードに転化する際のエネルギー……わかりやすく言うと魔法少女が魔女になるエネルギーを求めていたんだけど、それが目的の量に達したのさ。だからもうこれ以上魔法少女は産み出す必要はなくなったし、存在する意味もない」
だから今いる魔法少女を人間に戻す形で引退の話を持ち掛けており、既に生まれた魔女についてもキュゥべぇが存在した証をこの地球に残したくないらしくこちらで処理するとのこと。
『だからこちらにソウルジェムを渡してくれないか。』
それが魔法少女を引退するための条件らしい。
――悪い話ではないように思えた。ただ、信用はできない。それが私の出した一つ目の理由。
「ふむ?別にいいけれど、なるべく早く引退の話を持ってきてほしいな。ちなみにまどかとさやかは既に引退しているよ」
……絶対さやかが率先して引退してまどかはそれに釣られる形で決めたわね。マミと杏子は?
「僕が信用できないのと魔女の生き残りを警戒して一旦保留、だってさ」
やっぱりね……あなた、聞かないと答えない性質はいつまでも変わらないのね。
「そういう風にできているからね。ちなみに一つ聞いてもいいかな?さっき、一つ目の理由って言ってたということは二つ目の理由があるんだろう。良かったら聞かせてほしいな」
――まだ、終わった気がしないからよ。
その答えにキュゥべえは「そうか。まあ、好きにしなよ」と返すとどこかへと消えていった。さらにそれから数か月後、もう大丈夫だと考えたマミと杏子も引退を決めて人間に戻った。だけど、私はまだキュゥべえにソウルジェムを渡しておらず魔法少女のままだった。
それを仲間から心配されるだけでなく、キュゥべえからも「君の魔法って時間停止だけど、もう使えないよね。なのにまだ魔法少女をやる意味があるのかい?」と言われる始末。
でも。まだ終わった気はしなかった。この違和感が消えるまでソウルジェムを返せない。
そんなある日、私は奇妙な噂を聞いた。どんな謎や悩みでも解決してくれる人がとある喫茶店にいるらしい。一見どこにでもいる一般人だけど、話してみるといつの間にか自分の全てをその人にさらけ出してしまうとか。そして、その人は見せられた全てから的確な答えを推理してくれる。
そして、その人は――探偵さんと呼ばれている。
私のどこかで欠けていたピースが埋まった感覚がした。噂を聞いたのは昼休みの学校だったが、私は居ても立っても居られず仮病で早退してすぐに探偵さんがいると喫茶店へ向かうことにした。
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今思えばあの時点で私は全てを理解していたのだろう。だって、噂はどんな謎や悩みでも解決してくれる人がとある喫茶店にいる、というだけでどこの喫茶店にいるのかはわからない。
それだというのに私は正解の喫茶店にたどり着いていた。
ショッピングモールにある書店横にある、小さな喫茶店。何故かそこに探偵さんがいる気がしてまっすぐ一直線に向かい、店に入るとすぐに店内を見渡して利用客を確認すると、間違いなくこの人だと確信してその人の前に座った。流れるような動きに店員は戸惑っていたが。
その人は微動だにすることなく本を読み続けていた。やはりそうだ、探偵さんは読書好きだ。ただし、何時までも本に夢中では私が困る。なのでここは物理的手段に出ることにした。
「――あっ!?ま、まだ読んでいる途中なのです、が……」
探偵さんの本を奪って強制的に意識をこちらに向けさせた。どこか怯えているような視線を向けられるのは仕方のないことだと思っているが、こちらも急を要している。
あなたが噂の探偵さんなのかと確認を取る。
「えっと……まあ、はい。そんな感じに呼ばれたことはありますが……どうかしましたか?」
正解だ。内心ガッツポーズを取ったが、時間をかけてはいられない。私は盾の中に格納していた一冊のノートを探偵さんに差し出した。戸惑いながらもそれを受け取った探偵さんはノートを素早く読み進めて書かれていた内容を理解すると、私の目を見つめながら一言
「このノートって……いわゆるループ物小説の設定集、ではないですよね。妙に変なデータまで詳しく記載されているのですが、これらのデータは見滝原で起きたことを基に作られてますし」
本物ですかこれ?と尋ねる彼女に私はわからない、と回答した。このノートはなぜかループを始めた当初から盾の中に入っていたノートであり、前のループで私が作成して次のループへ届ける方法を編み出したのではないか、と考えたのだが記載されているデータにどうも違和感があった。
「……そうですね。確かにこのデータはおかしい。ループごとにある程度のパターンでデータが分けられているのですが、何を見ればどのパターンのループであるかを判別するための方法がどこにも記載されていません」
付け加えるとどのパターンでも、一部のデータが消えたと思われる空白があった。意図的に何者かがこのデータに改竄を加えたのではないかと私は考えているのだが、どうだろうか。
「悪くない読みか、と。それで私にどうしろというのですか?」
探偵さんの中でも面白くなってきたのか、いつの間にか彼女の唇は笑みを象りながら問いかけを口にした。だから、私は――探偵さんと同じように微笑みながら告げた。
「私は
そう名乗った少女は続けて依頼の内容を口にした。いつものパターンだ。
「依頼の内容はこうよ。私はこれまでにとある目的のためにループを繰り返し続けてようやく目的を果たすことに成功したわ。けれど、その過程でなぜか記憶が欠落していることに気づいた」
「欠落した記憶の内容はズバリ、これまでのループで出会ってきた探偵さんの記憶。今はおぼろげに思い出せているのだけれど、そこから考えるに探偵さんはこれまでずっと私を支えてくれた仲間だったのでは。その上であなたに依頼することは――推理よ」
「どうして探偵さんの記憶が消えたのかが、今の私には理解できない。うまく言えないけれど、この謎を解き明かさないことには私の物語はいつまでたってもENDマークがつかない気がするのよ」
それはすごく残酷なことだろう、と私は感じていた。本を読むことが好きな私にとって一番嫌いなことは物語が未完であることだ。どんな素晴らしい物語にもいつか必ず終わりが来るのだから。
未完であることを私は許せないからこそ――少女の依頼に強く賛同した。
「だから、私はあなたに依頼したいのよ。数少ない手がかりから記憶が消えた謎の真相を解き明かすことは困難であるけれど、それでも、もう一度私と一緒にこの幸福でありながらもどこかがおかしい未来を変える第一歩について考える協力をしてほしい」
少女の言葉に私は頷く。全てが理解できたわけではないけれど、何をするべきかはもう既にこの体が知っている気がした。だから、彼女の依頼を引き受ける意志はこの体に満ちている。
「ええ、任せてください。暁美ほむらさん」
でも、そろそろ周囲の目を気にした方がいいと思うのは私だけでしょうか。探偵さんのその言葉で、周囲の人々が騒いでいるどころか、私を携帯のカメラで撮影していることに気付いた。何故。
「……その盾が原因かと」
盾。
私が盾を持っていたらおかしいのか。一応私の武器の様な物でもあるのだが……ん?待て、盾を持っているということは私は今魔法少女姿であるわけだが。私はいつから魔法少女だった……?
「周囲の噂話を聞いていると、あなたが噂のフライングヒューマンか、みたいな話が出ていますが何か心当たりはありませんか?多分ここまで魔法少女姿できたのでは……?」
――あっ。そういえば、私はここまでまっすぐ一直線に向かってきたわけだけれど。多分、魔法少女の力を使った様な記憶がある。屋根から屋根を飛び回って物理的に――ってことは。
今すぐここを逃げないと不味いのではないだろうか。ワルプルギスの夜と戦って以来キュゥべえの姿を見ていないけれど、あいつも魔法少女の存在が公になれば流石に怒って何かこちらにとって不利益なことをしてこないだろうか。いや、その前にまどかやマミに怒られるのでは――
「……サイレンの音が聞こえてきましたね」
探偵さんの言葉に無言で音爆弾を取り出した。手りゅう弾を見た人々の悲鳴と私が至近距離で爆発させたことによる探偵さんの悲鳴を聞き流しながら、私は彼女を抱えて逃走を始めた。
「うーん……うん?うん、やっと感度がいい場所を見つけた。ここなら繋がるみたいだね」
「近いって?そう言われても仕方ないじゃないか、こうしないとそっちに繋がらない。ボクだって必死なのさ」
「やるべきことがあるからね。まあいいさ、キミ。そう、ボクを見ているキミさ。少し話に付き合ってほしいんだけどいいかな?」
・探偵さん
「では改めて。ボクの名前はキュゥべえ。何者なのかとかそういう説明は省くよ、こっちには時間がない」
「ボクの目的はズバリ暁美ほむらをループから脱出させることだ。それを願った魔法少女がいるからこんなことをボクがしないといけないんだ」
「正直言って手間ではあるけど、キミにとっても悪い話じゃないだろう?」
「だからキミは――犯人を選ぶんだ。ループの、犯人をね」
「それ次第で暁美ほむらがどうなるか――あ――もう時間が――」
……選択終了ですね。
それで生じる未来をまた同じ時間に届けましょう。
そちらの時間で言えば、1月16日0:00時、です。
それにしても私が犯人とは……本当にその選択でよろしかったのでしょうか?
・暁美ほむら
皆ご存じほむほむ。親友であるまどかを救うために何度も時間跳躍=タイムリープを繰り返しているが、今のところ成功したことはない。
・今回のループ
これがこの物語最後のループ。全ての真相を語るには、まだ早い。
「ようやく繋がった。いいかい、まだその手口はわからないが既に怪しい行動をキミは見ているはずだ。暁美ほむら本人が犯人なのか、あるいは彼女に影響を与えていた探偵さんとやらなのか。二人のどちらかが犯人だ、ここまでは言える。そして犯人はボクじゃない。何故言えるのかって?やだなぁ……キミ、ボクを何度も見てるだろ?キュゥべえは嘘をつかないってこと、知ってるよね。さあ、雑談はここまで。答えを選ぶんだ」
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暁美ほむら
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探偵さん