暁美ほむらの依頼/時間跳躍の法則   作:あおい安室

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後書きうっかり乗せてなかったり誤字まみれで冷や汗かいております、本当に申し訳ない。


法則8:愛読書のラストページで踊りましょう

「こんなところでいいかしらね。降ろすわよ」

 

「は、はい……死ぬかと思い、ました」

 

 魔法少女の優れた身体能力とはいえ女性一人を抱えて街中を逃げ回るのは一苦労だった。逃げ込んだのは町外れにある廃工場の一角で、いつかのループでは魔女の結界が発生していたこともあった気がする。キュゥべえの言葉通り魔女が消えた今ではその気配は全くないが。

 それにしても、少し前まで魔法少女活動しているときはほとんど顔を突っ込んで来なかった警察とチェイスする羽目になるとは。日本の警察は本当に優秀ね、全くいらないときに限って……

 

「警察……というより、今の世界の科学はどんどん進化しております。故に警察機関が事件解決に一般人の手を借りるといった物語のような出来事は遥か昔に姿を消してしまいました」

 

 その一般人って探偵のことを言ってるのかしら?

 

「はい。優れた科学は魔法と変わらないとは誰が言った言葉でしょうか?事実科学の力はどんな難事件も解決してしまうため、突き詰めてしまえば探偵という存在は本来必要ないものです。今の役目は人に触れあう捜査が必要となる浮気や素行調査、ストーカー対策くらいでしょうか」

 

 世知辛いわね。物語を愛するあなたにとっては受け入れられない現実みたいなものじゃない。でも、あなたはそんな現実の中で探偵さんと呼ばれているのでしょう。大したものだわ。

 

「……ふふっ。ありがたく誉め言葉を受け取っておきましょう」

 

 探偵さんはガラクタの一角から使えそうなホワイトボードを見つけると、それに自前のマジックで文字を書き込んでいく。そのペンはホワイトボード用なのか、と尋ねたが水性ペンらしい。

 本来ホワイトボードに使うべきペンではなく、書いた後放置していれば消えなくなるがすぐに消すのなら問題はないらしい。今回の推理は時間勝負なのでしょう?と探偵さんは問いかけてきた。

 

「移動中に話を聞いた限りでは、あの書店で私を見た時に本来消えていたはずの記憶が元に戻っている。その理由が今のところはっきりしていない以上、早々に結論を出す必要があります」

 

 ホワイトボードに探偵さんは手早く書き込む。

 

 今回の推理の目的:

 

 

 

 

 

「まず、推理の目的は探偵さんの記憶が消えた理由でいいですね?」

 

 頷いた。まどかが魔法少女でない上に平和な日々が訪れた幸福な未来にたどり着けたことはいい。しかし、その直前で探偵さんの記憶が消えたことが私の中に疑問を残している。私が作り上げた物語の中に残されたこの疑問を推理して解き明かしたい。

 

「わかりました。それではまず、色々とお話を聞かせてもらいましょう。私はまだあなたのことをよく知らないこの現状で推理しろと言われましても……ねぇ?」

 

 首をかしげながら微笑む探偵さんに釣られて笑う。そういえばそうだった。

 

「とは言え、時間もありませんから自己紹介は簡潔に。私は探偵さん、あなたは……そうですね。黒の魔法少女さんなんてどうでしょうか?」

 

 黒の魔法少女。その名前をループの中で何度も私は使ってきたけれど――まさかその名前を探偵さんから名付けられる日が来るとは。異論はないですね?探偵さんの問いかけに私は頷いた。

 

 

 推理物のセオリーはご存じでしょうか、黒の魔法少女さん。フーダニット&ホワイダニット&ハウダニット。誰が、なぜ、どうやって犯行に及んだのか、という考え方です。今回は既にどうやっての部分は、黒の魔法少女さんから探偵さんの記憶を消す、ということで判明しています。

 この考え方を参考にして、なぜこの方法で犯行に及んだのかを考えていくのはどうでしょうか。

 

「いいんじゃないかしら。とりあえずはこういうことね」

 

 黒の魔法少女さんがホワイトボードへ書き込みを始める。

 

 今回の推理の目的:探偵さんの記憶が消えた理由

 どうやって:黒の魔法少女から探偵さんの記憶を消す

 なぜ:

 

 

 

「なぜ犯行に及んだのか。動機……犯人がどうして私から探偵さんの記憶を消す必要があったのか、という事ね。早速だけど、お手並み拝見と行きましょうか」

 

 わかりました。では、僭越ながら私の考えを少しお話しましょう。

 

 一般的に動機とは行動を起こす原因を刺すのですがここは黒の魔法少女さんの記憶を消したことでどのようなことが起きることを目的としていたのかを推理しましょう。

 まず参考となるのはこのループで発生したこれまでのループとの異なる点でしょうね。確か「目的を果たすことに成功した」とおっしゃっていましたが間違いないでしょうか?間違いないようですね。そこから3つ程考えましたので補足をお願いします。

 

 この違いの場合は動機はどういったものか、ついでに考えられる犯人についてもお話しますね。

 

 1点目の違いは黒の魔法少女さんが目的を果たすことに成功したとしましょう。

 

「ええ、それは大きな違いでしょうね。これが動機であった場合は……犯人は私の味方という事かしら?探偵さんの記憶を私が失うことが、目的を果たすために必要なことだったとすれば……」

 

 その可能性が高いでしょうね。ちなみに、記憶が無くなる直前のループでは探偵さんは私みたいな方でしたか?あ、精神的な面ではなく、肉体的な面で、です。

 

「言いたいことが分かったわ。性別はどうだったか、と聞きたいのね?あのループでの探偵さんは男のはずだけと、確証はないわね。過去のループでは男装していたこともあったから」

 

 わかりました。では、この動機の場合犯人は探偵さんになるかと。

 

 探偵さんが女であった場合の話にはなりますが、黒の魔法少女さんが目的を果たす為には記憶を奪うことが必要であると判断して魔法少女になり犯行に出たのではないか、という推理になります。あくまでもこれは推測ですので、細かい部分はわかりませんが。

 

「つまりこれはあなたが犯人であることを前提とした動機ね」

 

 はい。他の魔法少女の協力を得たパターンも考えましたが、複数のループを通してあなたを理解していた仲間は自分で言うのもあれですが探偵さんくらいですし。あくまでこれは説の一つ。

 考えられる動機についてまだまだお話していきましょう。

 

 2点目の違いは黒の魔法少女さんがループをやめたこととしましょう。

 

「そうね。目的を果たすことに成功したから、もうループはしていないわ。でも、これがどう動機に繋がるのかしら」

 

 ループすることによって被害を受けていた存在がいた場合、黒の魔法少女さんが行っていた行為は非常に迷惑な存在となります。故にこれ以上ループさせないために手っ取り早く回答を教えて――つまり、探偵さんの記憶を消すことで黒の魔法少女さんのループ行為を止めさせた、というのが私の推測です。

 実際魔法少女や魔女がいるのであれば、黒の魔法少女さん以外にもループを知覚している存在がいたとしても不思議ではありませんよね。

 

「……言われてみればそうね。でもそう言った存在の記載はノートにないのだけれど」

 

 なくて当然です。話を聞いていた限りでは、犯人の行動が唐突すぎます。物語の最終章で突然黒幕が出てくるようなものですから、正直言って面白くありませんね。

 恐らく相手は慎重に行動していて、その予兆らしきものを全ての物語を読み返してようやく見つけることができるくらいでしょう。本当に唐突に現れた三流役者という可能性もありますけど。

 

「そこまで言うのね」

 

 そこまで言いますとも。もう少しわかりやすい伏線があれば面白かったでしょうに。

 

「さっきから面白いって……こっちは必死なんだけど?」

 

 失礼しました。では、この動機の場合の犯人ですが他の魔法少女になります。

 

 超常現象であるループを知覚できる存在であることが前提となりますから、この場合の犯人も超常現象の一種であることが求められますので。

 この動機の場合は犯人へ辿り着くための手掛かりを探す必要がありますが、そのためには全てのループを精査する必要があるでしょう。つまり――時間との勝負になります。この状況では望ましくないですが、選択肢の一つとして覚えておいてください。

 

「それくらい承知の上よ。それで、3つ目の違いは何かしら?」

 わかりました。それでは、最後の違いについてお話しします。

 

 3点目の違いはあなたの親友が魔法少女になった上で引退したこととしましょう。

 

「……えっ?それが動機?」

 

 はい。今回のループについてはこの部分がどうも引っ掛かるのです。何らかの目的であなたの親友を意図的に魔法少女にした上で一般人に戻す必要があったのではないか、と。

 

「その目的はなにか見当がついてるのかしら」

 

 推測ですが、あなたの親友が魔法少女になった後で起きる事象のデータ収集、ではないかと。

 黒の魔法少女さんの目的は彼女を魔法少女にしないことですから、あなたの親友が魔法少女になった際に何が起きるかは未知数なループが多かったと考えられます。故にそれを知りたくて、あなたが目的を果たすループを作り出したかったのではないか、と。いかがでしょうね。

 

「それは……あなたみたいに言うのなら面白い話ね」

 

 ありがとう……ございます?お礼を言う場面なのでしょうか、これは。っと、話がそれました。この場合は魔法少女さんを観測する存在が犯人ではないか、と推測しております。

 恐らく黒の魔法少女さんもご存じの存在ではないかと私は推測しております。いわゆる魔法少女物においてお約束な存在として、少女を魔法少女へ変える道具とかマスコット的な生命体が存在すると思われますが、道具の制作者だったりマスコットだったりがそう言ったことをしているんじゃないかな、と。……あの、急に頭を抱えてましたけどもどうされましたか。

 

「……マスコットみたいなやつ、いるわね。しかもそういうことをやりかねないやつよ」

 

 ……では、この動機の場合の犯人はそちらのマスコットで。

 

 以上で私が推理した動機は全てです。細かい動機は考えれば考えるほど出てきますが、大まかにはこの三種類になるかと。では、ここで一度ホワイトボードの方にまとめましょう。

 

 今回の推理の目的:探偵さんの記憶が消えた理由

 どうやって:黒の魔法少女から探偵さんの記憶を消す

 なぜ:・黒の魔法少女さんが目的を果たすため

    ・黒の魔法少女さんにループさせないため

    ・異例のループで生じる現象のデータ収集

 

 

「そして、少し早いのですが誰が犯行に及んだのかについて推理しましょう。現状の動機から黒の魔法少女さんが求めている探偵さんの記憶が消えた理由を絞り込むのは難しいですから」

 

 誰が犯行に及んだのか、正確には誰が犯行に及べるのかを推理することで答えを導きましょう。探偵さんの提案に頷いて返すと同時にホワイトボードには探偵さんが書き込みを始めていた。

誰:探偵さん、他の魔法少女、マスコット

 

「私が考える犯人は3択です。探偵さんか、他の魔法少女か、魔法少女を生み出すマスコット。それぞれの動機は既にお話しましたが……」

 

 順に選択肢を潰していった方が良いだろう。まず最初に潰すべき選択肢は――

 

 そんな思考に割り込む存在が、一人。

 

 

「面白いことをしているね?僕も混ぜてほしいなぁ」

 

 突然聞こえた声に驚いて私たちは声がした天井の方を確認する。さび付いた鉄骨の上には白いケモノのようなナニカが一匹。魔法少女であるが故の身体能力でそれが笑っているのが見えた。

 

 

 キュゥべえ。探偵さんが推理していたマスコット的存在がやってきたのだ。それにしても、一体どこから聞きつけたというのだろうか相変わらずこいつは神出鬼没すぎる……。

 

「ここまで騒ぎを起こせば普通に気付くとも。って、そんなに警戒しないでよ、ほむら。僕はキミの邪魔をしに来たわけじゃない、どちらかと言えば手助けをしに来たようなものだから」

 

 ――本当だろうか?念のために盾の中から拳銃を取り出して構える。

 キュゥべえを殺しても復活することはわかっているが、時間稼ぎくらいにはなるだろうか。そう考えて警戒している私も、この光景を不思議な物を見る目で見つめている探偵さんの視線も気にすることなくキュゥべえはぴょいとジャンプして間に降り立った。

 

「……あの。先ほどから何が見えているのですか?」

 

「既に知っていると思うけど、一般人である彼女には僕は見えていない。さて、単刀直入に言おうか。僕はこの事件の犯人を知っているんだよ、暁美ほむら」

 

 ――っ!「――っ!」

 

「二人同時に息を呑んだね。タイミングがバッチリな二人のことを名コンビ、なんていうんだったかな?それとも名探偵と名助手というべきか」

 

 お世辞は結構よ。犯人を知っている、とあなたは言ったけれど。その上で何が言いたいのか。いいえ、違う。何がしたいのかを聞かせろ。キュゥべえに要求しながらも、気付かれないように時間停止を試みるが、もはやその魔法が使用できる期間を過ぎていることは自分がわかっていた。

 

「それってホワイダニットって言うのかな?簡単だよ。答えを教える代わりに魔法少女を引退してほしいんだ。そろそろ僕も母星に帰りたいからね……もうこの地球に残っている魔法少女は君だけなんだよ」

 

 ……生憎だけど。私はもう既に犯人が分かっているのよ。あなたの手を借りるまでもないわ。

 

「……へえ?」

 

 噓だと思っているのかしら?それなら、ここで推理を聞いていきなさい。あなたに補足してほしいこともあるから。間違っていたらあなたの言う通り魔法少女をやめたってかまわない。

 

「ふうん。そこまで自信があるのならお言葉に甘えよう」

 

 キュゥべえはガラクタの上に座る。お手並み拝見と行こうか。感情がない紅い瞳がそう言って私を見下しているような気がしたけれど。気にすることはない。私の中には既に確信がある。

 

「あ、あの……黒の魔法少女さん?さっきから誰と話しているんですか?目に見えない何かと会話しているように見えるのですが……もしかして、例のマスコットがいるのでしょうか?」

 

 探偵さんの問いかけにキュゥべえがいるガラクタを指さした。首をかしげていた探偵さんが、突然驚いて腰を抜かした。一般人にも見えるようにしたわね、あいつ。それを見た私は大笑いした。何がおかしいんですかと探偵さんは抗議する。キュゥべえはわけがわからないよと呆れている。

 

 

 

 だって――この状況を待っていたのだから!

 

 

 

「さて。役者はそろったわね。ここからの推理にはキュゥべえの存在が必要だったのよ」

 

 口角が吊り上がるのが自分でもわかる。ここで全ての決着をつける。

 

 

「そう――探偵らしく推理するだけよ。」

 

 いつも喫茶店のあの場所で私の話を楽しそうに聞きながら。

 

「いつもの探偵さんみたいにね。だから、このセリフを言わせてもらいましょうか」

 

 推理して私に道を示す手伝いをしてくれた、探偵さんのように。

 

 いいえ、違うわね。物語を愛していた探偵さんがきっと憧れていたであろうセリフを。

 

 

 その言葉に探偵さんは何も返さない。ただ、唇を固く引き締めるだけ。

 

「……探偵さんとやらは沈黙したけど?ここからどうするんだい、暁美ほむら」

 

「どうもしないわ。推理物語のお約束に沿って話を進めるだけ」

 

「そのお約束とは?」

 

「なぜその結果に至ったのか、推理の過程を犯人に明かす。ありきたりな展開だけど、いざ自分でやってみると結構面白いじゃない。本当にこんな職業があるのならやってみたかったわね」

 

 ホワイトボードの前に立つ。探偵さんが犯人候補として書き記した3つの選択肢に触れる。

 

「まず推理その1。ここに記載されている犯人のうち、キュゥべえの犯行はあり得ない。正確に言えばキュゥべえが主犯である可能性は低い」

 

「へえ?いきなり僕は犯人じゃないと言い切るんだね」

 

「根拠はこれまでの私の経験ね。キュゥべえは私が魔法少女になった瞬間を絶対に知らないのよ。毎回私に接触した時に僕の知らない魔法少女と言ったことを言うわ。その上で私は何度か本当にそれを言っているのか、と問い詰めたことがあるのだけれど。あなたはどう答えるかしら」

 

「本当さ。一体いつ契約したのか覚えていない。何者なんだい、君は?」

 

「一言一句同じ言葉ありがとう。そして、キュゥべえは聞かれたことに対して嘘は言わない。その代わりいつも肝心なことを言わないで後から「言ってなかっただけ」と開き直るのだけれど」

 

「その方が色々とやりやすいからね。聞かれたことには答えてるんだ、別にいいだろう?」

 

 その言葉で一体どれだけの魔法少女が道に誤って命を落としたことか、と私の中で怒りが込み上げてきたがそれを追求する場ではない。落ち着いて推理を進めよう。

 

「つまりキュゥべえは少なくとも私がループしている記憶を繰り越していない。だから、キュゥべえ単独で私に何か影響を与えるための動機があまりないのよ」

 

「……なるほどね。ズバリ言おう。正解だ。僕、というより僕の存在の大元であるインキュベーターは暁美ほむらのループを彼女に接触して話を聞くまでは知覚していないし、知覚しても現状は脅威に感じていないね。わざわざ僕が先導して君の記憶を消す理由がないから、君の言う通り主犯ではないよ」

 

「でも、共犯である可能性は否定しないのね……実際、キュゥべえが私に関与した可能性が0と言えないのは困りどころね。キュゥべえは魔法少女を生み出す際に少女の願いを一つだけ叶えるけれど、その際の能力は常軌を逸しているわ」

 

 具体例を挙げるのなら――佐倉杏子。彼女が望んだ願い事だ。

 

 彼女の父親は聖職者であったが、教えていることが世間一般からは聞いてもらえなかった姿を見て、彼女は皆が父親の話を聞くようになることを願っている。その結果世間は彼の話を聞くようになった結果、数多くの信者と信仰を得たと聞いている。

 つまり、キュゥべえの力は人間の精神面にも影響を与えることができる。犯行に及ぶことはなくとも犯行に起こせるだけの力があったのは確実であるけれど。それでも、ありえない。

 

「そもそもの話。私がループを成功させることはキュゥべえにとって不利益なのよ」

 

「……それは一体なぜだい?」

 

「あなた。いつも聞いてばっかりね。たまには自分で言いなさい」

 

「やれやれ……暁美ほむらがループして目指していたのはまどかの魔法少女化の阻止……んん?」

 

「何かおかしいことでもあったのかもしれないけど、一旦流すわ。まどかが魔法少女となり、そして魔女となることであなたたちが求めているエネルギーはかなりの量を得ることができると聞いたループがある。故に私が目的を果たすことの手伝いをすることには違和感があるのよね。あなた、本当にそんなことする?」

 

「……しないね。例えば暁美ほむらから探偵さんの記憶を消す願い事をされた場合は、探偵さんの記憶だけと指定されていないから探偵さんが関わっている記憶としてループの記憶も消して、君が失敗する可能性を高める行動に出るだろう」

 

 こいつ、やっぱり殺しておいた方がいいのではないだろうか。でも完全に処分する方法が今のところ見つかっていないし、魔法少女の願い事を使ったとしても「卑怯です」キュゥべえ以外の存在として――「卑怯!です!!」……うるさいわね。

 

 

 沈黙を貫いていた探偵さんが口を開く。声を荒げながら私に対して罵倒を始める。

 

「なんですか!なんですか、その推理は!そんな情報はこれまでの物語には出てきていません!どこにもヒントが残されていなかったのに、突然過去の話をしてそれを理由に犯人を追い詰めるのは、卑怯です!!そんなことは探偵がすることではありません!!」

 

「――とのことだけど、キュゥべえ?」

 

「どうしてそこで僕に振るのかな。えーっと、探偵さん?卑怯って君は言うけどさ。この話は僕と暁美ほむらなら確実に知っていることなんだよ。それを推理に使ったらダメっていうのはそっちこそ卑怯だと思うんだけど。いや、我がままじゃないかな?それについてどうお考えかな?」

 

「――っ!ですが、私はそんな話をこれまで暁美ほむらから聞いたことは!」

 

「言わなかっただけよ。ああ、そうそう……そんなに卑怯だというのなら、あなたも知っている事から推理して黙らせてあげましょうか。推理その2。説明がつかない法則があることよ」

 

 その法則とは――探偵さんが死亡するループが存在することである。

 

「これまで探偵さん見つけた法則として、探偵さんの愛読書で今後の未来のパターンがわかるというものがあった。これについてはちょっと無理矢理だけど、見滝原市外がループごとに変化するため今後の未来が変化すると同時に、探偵さんの幼少期の環境が変化することが理由だったわね」

 

「へえ?それはまた変わった法則だね。確かに特定条件下で特定の本を好む、として物事を考えるのならその条件が未来を確定させていたということでギリギリ通用するだろう」

 

「問題は私や魔法少女関係者と関わった探偵さんは確実に死亡することよ。最初はそういう魔女がいるのではないかと疑ったけど、魔女の関与がない状況でも彼は死ぬわ」

 

「彼と来たか。つまり、彼女――いや。魔法少女であった場合は死なないんだね?」

 

「正解。男であった場合に私を推理以外の手段で助けようとした場合は確実に死ぬということに違和感があった。でも、女であった場合は死ぬこともあれば生き残ることもあった」

 

 

 ――故に私はこう考えた。彼が推理以外の手段に出た際に死ぬ法則があるのではないか。

 

 

 そんな私の推理を探偵さんは鼻で笑う。馬鹿馬鹿しい、と言いたいかのような不機嫌な笑いの後に彼女は自分の推理を語り始めた。

 

「なるほど、面白い法則ですね。でも、その推理には大きな矛盾があるというよりも、それはただこれまであったルールを述べているだけです。どうして彼が死ぬのかという説明がつかない現状は変わっていませんよ」

 

「ええ、そうね。あえて説明をつけるのなら探偵さんを殺した犯人が分からない点が問題ね」

 

「そう、その通り!あなたのその推理には「誰が」「なぜ」の部分が欠けている!そんなお粗末な推理でこの謎を解き明かそうなんて、身の程を知りなさい、暁美ほむら!!」

 

「……でも。怪しい人物は見つかったわね」

 

「――は?」

 

 クスクスと笑いながら。私は一つ彼女に問いかけてみることにした。

 

 

「私、今回のループであなたに名乗った覚えはないわよ」

 

 

 

 

「それが……なんだというのですか?」

 

「名前を教えたら探偵さんは死ぬから、よっぽどのことがない限り私は名前を教えていないのよ。でも、私がさっき依頼を申し込んだ時にこう言ったわね?」

 


 

 

「ええ、任せてください。暁美ほむらさん」

 


 

「――あっ!!」

 

「名乗っていないのに名前を知っている。ふむ、確かにこれはおかしいね?」

 

「だから私は最初からあなたのことをずーっと疑っていたのよ。この探偵さんは過去のループを覚えているのではないか、と。そう思って警戒していればボロが出してくれたから、内心笑いが止まらなかったわ」

 

 2つ目の違いとして私がループをやめたことを指摘した時にあなたは「実際魔法少女や魔女がいるのであれば」と言った。でも、私は魔女について話していないわよ。話していたのなら、犯人候補で魔法少女と同じことができる魔女の存在も挙げているはずなのに、挙げなかったわね。

 

「そ、それは……うっかり、忘れていました。それだけです」

 

「いやあ、それは通らないと僕でも思うよ?付け加えると、僕が犯人を知っているということを知った時に探偵さんは息を呑んだじゃないか。僕の姿が見えていないから声も聞こえていないはずなのに息を呑むタイミングが合う。おかしいね?」

 

「――っ!裏切るのですか、キュゥべえ!!」

 

「は?裏切る?ってことは……もしかして、私の記憶が消えたのはあなたの仕業だったのね?」

 

「いやいや、それ違うよ。暁美ほむらの記憶が消えたのは僕――いや、違うね。ボクの仕業じゃないんだ。これは信じてくれていい、暁美ほむら。ああ、ようやく乗っ取りが終わったよ」

 

 ゾクリ、と背筋に寒気を感じて後ずさりしてしまう。キュゥべえのまとっている雰囲気が突然変化したのだ。まるで、ワルプルギスの夜と同格の魔女と相対しているかのような。

 

「さて。ボクの方からいくつか説明、というよりネタバラシをさせてもらう前に。暁美ほむら、君の推理その2を区切ってくれるかな」

 

「え、ええ――コホン。以上のことから私はあなたがループを知覚している魔法少女の類ではないかと推理しているわ。そうでなかったとしても、怪しい人物であることに変わりはない」

 

 

 故に。証拠不十分であるところは多いけれど、あなたが探偵さん殺しの犯人だと推測している。

 

 

「探偵さんが魔法少女になった場合の能力はいつも超能力。比較的アシが付きにくい能力だから証拠を残さない殺しには向いている能力だし、魔女でない場合は追跡も難しい。確証はないけれどあなたが殺人可能であると考えることはできる。でも、そうだとすると一つ問題があるわね」

 

Q:探偵さんはループごとに性別が違う同一人物なのでは?

A:ループごとに探偵さんの性別が異なるのではない。

  出会う探偵さんの性別が違うだけ。どのループにも男と女の二人の探偵さんがいるとしたら?

 

「……って感じに。理由付けは可能よ。こうだとしたら、あなたが犯行に及ぶことはできる」

 

「僕からも一つフォローしよう。前に暁美ほむらが女の探偵さんと遭遇したループで変な言葉があったことを、観測しているんだ」

 

 キュゥべえが前に出る。怯えている探偵さんはキュゥべえから逃げようと、少しずつ、少しずつ下がっていく。小さなケモノに追い詰められていく彼女の姿がどこか滑稽であったけれど、笑う気にはなれなかった。そして――ほんの一瞬、意識が飛んだ。

 


ほむらの勇気が探偵さんを救うと信じて…!

ご愛読ありがとうございました!


 

「と言った感じに。奇妙な文章を暁美ほむらや探偵さんの意識が流れている領域にねじ込まれているんだよね。君が魔法少女だった時に限って、こんな風に変なことが起きるのはおかしいよ?」

 

 ――意識が回復した。どうやらキュゥべえが何かを言ったようだが、それを聞き取ることはできなかった。ただ、探偵さんが震えていることから、何か彼女にダメージを与えることを言ったのだろう、とは思うが。そのせいでもはや探偵さんの心は限界を迎えているようだ。

 

「黙って――黙って、黙って、黙ってぇ!!そんな怪しいから罰するみたいな理屈ばかり押し付けてあなたたちはまともな証拠を一つも提示していない!他の人がどう思ったとしても私はあなたたちが出した答えはぜんっぜん面白くない!まともな推理であるものか!犯人を追い詰めるための基本が何もなっちゃいないじゃないですか!!あなたたちは、一体何がしたいのですか!!」

 

 狂ったように喚く探偵さん――否。コレに私たちはこう告げる。

 

 

「――魔女、裁判?」

 

「そうだよ。中世の時代に行われたそれは怪しいと思われた人物を殺すための裁判だとボクは聞いてる。証拠不十分でも犯人を殺せるそれにキミを引っ張り出すことが目的だったのさ」

 

「私、実はキュゥべえにも違和感を覚えていたのよ。理由がわからない法則はまだあった。まどかの契約が早まっている件に関してキュゥべえに問い詰めても、全く覚えがない。その言い方はおかしいわよ、契約する本人なのにね」

 

「そこでボクは仮定を立てた――君に騙されているんじゃないかってね。だからほむらと取引してこの場を設けてみれば、君が怪しいこと怪しいこと。そして――僕が母星から切り離されていたことを確認した」

 

 今はつなぎ直したから問題ないけどね。あ、一人称がボク、って言うのは母星に繋がってる方で、僕は切り離されてるほうね、などと喋っているキュゥべえを横目に深呼吸。

 

 さて――これで、最後だ。

 

「最後の推理……というか、勘があるのだけれど。キュゥべえ、改めて一つ確認してもいいかしら」

 

「なんだい?予想はつくけどさ」

 

「あまりにも今回のループはうまく行きすぎているのが、正直自分でも怖いわ。ワルプルギスの夜を倒せるどころかまどかが死ななかったし、魔法少女を私以外引退している」

 

 はっきり言うわ。こんな都合のいい世界が私の戦場であるとは思えない

 

 

 例えるのならこの世界は誰かが無理やり描いたハッピーエンドみたい。理由も過程も全て無理やりにツギハギして幸福な未来という結果を塗りたくったような、イビツな世界。

 

 

 言うなれば夢物語の世界みたいに思えるこの世界は。魔女の結界ではないのか?

 

 

 その問いにキュゥべえは答える――満面の笑みで。

 

 

 正解だよ、と。もはやその答えは揺るがない、と付け加えて故に、その答えが示すのは――

 

 

 

 目の前で奇妙な魔法の詠唱を始めた探偵さんは、魔女であるということだ。

 

 

 もはや。魔法少女ではないということであった。




・探偵さん(女)
 前回ラスト&今回でボロ出しまくったポンコツ魔法少女。能力は超能力だが、これは願い事の副産物である。
 ほむらの度重なるループに巻き込まれた結果精神がとっくの昔におかしくなっており、今回のループでついに魔女化した。

 余談だが、法則3と前回&今回のループでAAの姿が異なるのはほむらと異なって肉体はそのままループしていたから、純粋に年を取っているのが原因。ほむらがそれを言及しなかったのは、今回の異常なループによるものかと疑っていたため。
 また、女の探偵さんに遭遇するループが少なかったのは年を取った容姿を誤魔化すための魔法に毎回手間取っている&それが1ループ分しか持たないことが原因。

 ……だが。それはもはや彼女の口からほむらに語られることはない。


・暁美ほむら
 皆ご存じほむほむ。親友であるまどかを救うために何度も時間跳躍=タイムリープを繰り返しているが、今のところ成功したことはない。

 今回のループと思い込んでいたのは全て魔女の結界での出来事。具体的に言うと、法則6で音爆弾を置いてから今回までが該当する。故に今回のループで救われたはずのまどかは魔女の結界内の存在であるため、本物のまどかはまだ救われていない。

 キュゥべえとは奇妙な法則に気付いた段階で協力を打診していた。

・キュゥべえ
 ずーっと探偵さん(女)の魔法で行動に異常をきたしていた。前回でようやく母星からの連絡が来て、今回で接続した。


 ――ちなみに。選択された犯人が暁美ほむらだった場合は連絡がつながらず、暁美ほむらは魔女に取り込まれながら幸福な未来を夢見続けるバッドエンドのつもりだった。

 まどマギ杯でバッドエンド二次やるかどうか本気で悩んだ副産物……

・今回のループ
 魔女の結界内部。存在する魔法少女は暁美ほむらのみ。他の魔法少女からの救援は望めない。彼女の手で魔女を排除し、脱出するしかない。
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