私の友、サイレンススズカは困ったやつだ。
いつでも走ることばかり考えている。
いや、それが悪いと言っているのではない。
この学園に所属しているならば、むしろ推奨されるべきだ。
ただ少々度が過ぎているのが問題なのだ。
走ることが好きすぎて四六時中走っている。
門限を守らないこともしょっちゅうだ。
私が直接言わなきゃ帰ってきやしない。
おかげで仕事の予定が狂ってしまう。
アイツ、私に意地悪をしているんじゃないだろうな。
まったく。
…人の気苦労も知らないで…。
私の友達、エアグルーヴは困った人よ。
いっつも私の練習を邪魔するんだもの。
たしかに、私が悪い時がほとんど…。いや、全部なんだけど…。
でも、わざとじゃないのよ。
走ってると気持ちよくなって。全部意識から飛んで行ってしまうの。
私がそうだってことエアグルーヴだって知ってるはずなのに、あの人はいつも私にプリプリ怒ってくるの。
エアグルーヴったら意地悪で困るわ。
まったく。
…今日も叱りに来てくれないかしら…。
夕方から突然降りだした雨は夜になってもやむことはなかった。
それどころか徐々に強さを増していっているようにみえる。
「困ったわ…。」
ロードワーク中に雨に出くわした彼女は、いつ訪れるかも分からない雨を高架下で待っている。
「このままじゃ…。」
また門限破りになってしまう、そんな時だった。
「おーい、スズカ~!!」
遠くの方から自分を呼ぶ声がする。
彼女の双眸は向こうの方から小走りでかけてくる親友の姿をとらえていた。
肩や腕のあたりを雨で濡らした彼女は、いつものように、期待していた通りに、言葉を紡ぐ。
「まったく、天気予報くらい確認しておけとあれほど言っているだろう!」
「ごめんなさい、エアグルーヴ…。」
笑みがこぼれそうになるのを必死に防ぎながら、スズカはいつものように謝罪の言葉を述べる。
「…さあ、帰るぞ。」
親友はそれに気づいているのかどうかわからないが、むすっとしたまま一つしかない傘を差しだしてきた。
エアグルーヴはいじわるだった。
ロードワークに行くスズカを見かけた時、彼女が雨具を持っていないのを知っていた。
それに、夕方から雨が降ることも知っていた。
でもあえていわなかった。
きっと彼女への戒めにできるだろうから。
そしてー
サイレンススズカはいじわるだった。
本当は今日の天気予報が雨を示していたことを知っていた。
それに、ロードワークへ向かう時エアグルーヴがなにか言いたそうにしていたことも知っていた。
でも、あえて話しかけなかった。
きっと彼女が私のもとへ来てくれるだろうから。
そしてー
帰り道には、相合傘をする彼女たちの姿以外見えなかった。