現実は、非情である。
あれから1週間程。
もうすぐ寿春というところで伝令が駆けてきた。
「報告! 北の方から孫堅様に会いたいと申し出るものが来ております。いかがいたしましょうか!」
騎馬が馬車の横に来て並走しながら報告してきた。
すると炎蓮が顔を出す。
「そいつらの頭、オレと同じ髪色で、孫策とか名乗ってたか?」
「! そ、そういえばそうです!」
「ならオレのバカ娘だ。北から来たなら、寿春に先についてやがるな。オレとキリト、あとは2,3人連れて寿春に先行するから寿春に戻って2万駐屯できるか確認取ってくるよう行って来い」
「は、はい!」
慌てて去っていく伝令。
「さて、アスナと桃香は来るとして、あと一人選ぶとしたら誰くるんだ?」
爆弾を放り込む炎蓮。
呼ばれていない面々は火花をちらし始める。
「キリトが決めたらどうだ?」
「爆弾を投げ込むな!」
「まあ、キリトが決めたなら、みんな納得すると思うよ」
「「「……」」」
みんなの視線がオレに刺さる。
「……鈴。頼めるか」
「! ええ! もちろん」
オレがそう告げると鈴が(ほぼ無いとは言ってはいけない)胸を張ってそう答えるとオレの傍によってくる。
そして勝ち誇った顔を何故かリズに向けると、リズがハンカチを噛み始めた。
「そんじゃ、残ったメンツはキリトの分身の連絡待ちつつ軍の指揮頼むわ」
炎蓮がそういうと並走させてた4頭の馬のうち、一番ガタイの良い馬にヒラリと乗る。
「オレはコレに乗るけど、4人でどう乗り分ける?」
「しれっとまたオレに選択させるの、嫌がらせかな? ……オレは並走できるから4人それぞれで馬にのって行ってくれ」
「つまんねえ選択しやがって……」
「まあ、そこがキリトよね」
「できれば、相乗りしたかったけど」
「みんな同じだろうし」
炎蓮、鈴、アスナ、桃香からの残念と呆れの声にオレはへこむが気を取り直す。
「それじゃ、先行するぞ、遅れるなよ」
炎蓮がそう告げ、馬を走らせると、3人も馬を走らせる。
オレは分身を作り、荷台に放り込んでから、4騎と並走して寿春を目指すのであった。
寿春の城にたどり着くと、早速案内される。
そこの太守名代(太守は喪に服しているらしい)に挨拶し、先にきていた孫策たちが大広間にいるからそちらへどうぞと言われたので炎蓮についていく形で向かった。
大広間にはいると、左側に一列となって並んでる女性たち。
そのうちの一人は孫堅そっくり……おそらく孫堅の長女で武勇と勘の良さを受け継いだ(炎蓮談)孫策なのだろう。
炎蓮が目線で右側に並べと伝えてきたので、3人にもアイコンタクトで伝えて並ぶ。
炎蓮は入り口の反対側、玉座前に立ってオレたちのどちらからも一定距離を置くと、口を開く。
「とりあえず双方自己紹介してもらうぞ。オレは説明面倒だからな!」
「そこは私たちのとりまとめとしてビシッとやってほしいんだけど?」
「ブレないな」
孫策?とオレが思わず反応する。
そして彼女と目が合う。
――あなた、お母様に振り回されてるのね……その、ごめんね?
――いや、そちらも普段大変なようで……。
信頼とか築いていない、初対面なのに、コンタクトが通じるくらい、あの女傑の奔放さは筋金入りのようだ。
「まずはキリトたちから頼むわ。他にもメンツいるが、代表3人とキリトのお気に入り一人の4人をとりあえず覚えてくれ」
「……まずはオレからでいいか。桐ヶ谷和人。まあ皆からキリトと呼ばれてる。よろしく頼む」
「私はキリト君の正妻で、アスナと言います」
きっちり釘刺しを忘れないアスナである。
「私は劉備、字を玄徳といいます」
「鳳鈴音よ、鈴って呼ばれてるわ」
オレたちの自己紹介が終ると炎蓮が口を開く。
「ちなみに、キリトってのは真名らしいがそれで呼ばれることの長いから、和人だと反応がかなり遅れるみたいでな。だから本人も許可してるしお前らもキリト呼びで良いぞ」
「「「はーい」」」
孫策たちが気の抜けた声で返事する。
しかし、それが気に入らなかったのか、それとも元々計画してたのか定かではないが、彼女はいきなりとんでもないことをいい放つ。
「あ、オレ黄巾党征伐終わったら、家督雪蓮に譲って隠居して、キリトについていくからよろしく」
「「「「「はああああ!?」」」」」
流石のオレも初耳である。
「ちょっと!?お母様ふざけてるの!?」
「炎蓮さん!? キリト君を搾るだけじゃ飽きたらないんですか!?」
「アスナ、言い方もう少しなんとかならない?」
孫策(もう間違いないだろう)さんの言葉はともかく、アスナの言い方がストレートすぎたのでツッコムオレ。
「一応、私がお兄さんの上司だから、私の下につくことになるけど……いいの?」
「桃香、つっこむところそこじゃないわよ」
鈴が桃香の問いかけにつっこむが、炎蓮は気にせず答える。
「よほどアホかましたり、キリトコキ使うとかしたら反乱とか考えるぜ?こちとら江東の虎だ。気に入らねえヤツを上にして我慢なんざ性に合わねえしな」
からからと笑いながらも、炎蓮の目が笑っていない。
手綱を握らねば、有言実行しかねない。
じゃじゃ馬どころではないが、頑張るしかないな。
――ん? なんかおかしいような?
何かおかしいことに疑問を持つが、思考の海に潜る前に動きがあったのでそちらに注視することにした。
「いや、大殿! 貴女についてきた儂らを捨てるというのですか!?」
「ここに来ていない他の者へなんと説明するつもりですか!?」
「そこのキリト君……だっけ? 彼に何か吹き込まれた? でもその程度で動じるとはちょっと考えられないけど」
薄紫色の髪をポニーテールにした、スタイルの良い美女と黒髪に眼鏡の知的美人に青い髪のお姉さん系の美女が炎蓮に噛みつく。
「老いた大木の傍に新芽が生えたなら、老木切って新芽を育てるべきで、いつまでも老木をそのままにして新芽の育つ余地を摘み取るのは駄目だろ?それと同じだ。オレがいる限り、バカ娘たちは『
「「「………」」」
一理あると無意識に認める彼女たち。
それを見逃さず、彼女は追撃する。
「それに、オレがキリトについてくってことはだ。劉備とも閨を共にしてるコイツを通じて劉備がお前らに牙を剥いたりするのを抑制できるし、同盟とかもオレを通じればやりやすくなるってことだ。『実質味方』がいるのといないのでは、かなり違うっての、少なくとも祭は知ってるだろ?」
「むむむ、確かにそうじゃが……」
険しい顔をする美女たち。
「まあ、家督引き継ぎは賊討伐が終ってからだから、今のうちに雪蓮はオレから盗めるところは盗んでおけよ?当主としてのあり方でも、オレが握ってる宿将の弱みでもなんでもな」
「確定事項になってるし……ああもう!分かったわよ!」
ヤケになった孫策が認めたのを見た炎蓮は満足そうに頷く。
「さて、雪蓮たちの自己紹介してもらうか。雪蓮から、順にやってけ」
急に話題が変わったことに若干狼狽する一同。
しかし流石は英雄、孫伯符。
すぐに切り替えて口を開く。
「私は孫策、字を伯符。孫堅の長女で好きなことは楽しい戦いとお酒を飲むことよ。キリトにはお母様も真名預けてるし、私も今のやりとりで気に入ったから預けるわ。雪蓮よ、よろしくね」
とウィンクしてきたので
「お、おう。よろしくな、雪蓮」
と返しておく。
雪蓮はとなりの黒髪に眼鏡の知的美人に肘で軽くつつく。
「……私は周瑜、字は公瑾だ。……雪蓮……孫策とは断金の交わりと認める仲だ」
複雑そうな顔でオレをみるがオレにはどうしようもないのでスルー。
「次は儂か」
薄紫色の髪をポニーテールにした、スタイルの良い美女が周瑜の自己紹介終ったことを確認すると自己紹介を始める。
「儂は黄蓋、字を公覆と言う。大殿に仕えし孫家の宿将じゃ」
からからと笑いながら告げたあと、隣の青い髪のお姉さん系の美女にバトンタッチする。
「最期は私ね。孫家の宿将の一人。名は程普、字が徳謀よ。んー……キリト君、私的に外見も、性格も好みだから、孫家にきてくれたら嬉しいかなーってお姉さん思ってまーす。……とだけ言っておこうかな。正妻さんの目が本気になってるけど、嘘付きたくないし」
後半からアスナの怒気で桃香があわあわしていたが、距離的に無理だったので諦める。
「ま、そのあたりは討伐軍を動かしてる間に頑張って見ればいいさ。もっとも、色々女に弱いが、譲れないところは雷火より頑固だから、難しいだろうがな!」
からからと笑う炎蓮。
それから兵士がやってきて、袁術の動員軍が到着したことが告げられるのであった……。
太守名代を含め宴を行うことになったが、名代は「こちらは将兵を休ませる場を提供し、相応の対価をもらっておりますので」と辞退されたので、オレたちだけで行うことにしたのだが……。
「ん~~っ! このお酒、酒精が強くてなかなかに来るわい」
「こっちの肉、中身生に見えるのにしっかりと火が通ってて美味しいわね」
「これ牛の乳から作ってるのね。臭みもないから食べやすいわ」
オレが材料を用意し、アスナやプレミア、鈴を中心に調理した品々を並べ、それをみんなで思い思いに堪能する立食形式にしたのだが、腕を惜しみなく振るったせいか、彼女たちの胃をしっかりと掴んでしまったかもしれない。
「キリト、お前なかなかのワルだよなぁ。旨いもん食わせて胃を掴んで、股緩くなったところを閨に引きずり込んで食って自分の勢力に組み込んでるんだからよ」
「人聞きが悪すぎる! そんなつもり全くないから!」
炎蓮の言葉を全力で否定するオレ。
「……いや、距離詰める方法がご飯とは限らないのと、閨に引きずり込む前にすでに手遅れとかの違いあるけど、大体炎蓮さんの言う通りな気が……」
「コイツ、どれだけ警戒してもその隙間から嫌悪されない絶妙な具合で心に入り込むから質が悪いのよね」
「普段頼りになるけど、ふとした時に見せる弱さとか見ると『私が今度は支えなきゃ』って思っちゃうんだよね」
「キリトは絶倫ですし、その整った顔や、困ったときに颯爽とやってくる間の良さとかも相まって、『触ると取り込まれる』というレベルの危険度を持つ対女性兵器と前千冬さんがぼやいていましたしね」
「パパはママたちじゃ飽きたらないみたいです。まあ、生物のオスとして正しいと知ってはいますが、限度があると思うのです」
「ごふっ」
アスナ、リズ、桃香、プレミア、ユイの言葉に膝から崩れ落ちる。
「でも何だかんだで全員繋ぎ止めてるあたり、コイツは凄いよな」
「「「たしかに」」」
炎蓮の言葉に女性陣が心をひとつにしていると、雪蓮が顔を朱に染めながらやってきた。
「キリト~楽しんでるかしら~?」
「い、一応」
「んー……せっかくだし、交流って名目の宴なんだから、もっと私たち友話しましょ?お母様やアスナさんたちもキリト貸してくれるわよね?」
「……キリト君。ワンナイトとかやらかしたら、引っこ抜くからね?」
「どこを!?なにで!?」
「私たちは大丈夫ですから、キリト君どうぞ」
「じゃ、遠慮なく」
アスナに対する質問が棄却され、雪蓮にドナドナされ、雪蓮たちがいるところに連れてこられた。
「この宴の主賓連れてきたわよー」
「おお、でかしたぞ、策殿!」
「うんうん、お姉さん好みのいい顔してるわね」
「……私以止める人がいないとは……すまない、キリト殿」
雪蓮の言葉に喜ぶ黄蓋と程普。
変わって申し訳なさそうにする周瑜。
「いや、まあ。言い方アレだけど、慣れてるから……」
「それでも、謝罪はさせてくれ」
「ああ。お互い苦労するな」
2人でため息はいてると、雪蓮が割り込む。
「ちょっとちょっと、なに辛気臭い空気にしてるのよ2人とも。せっかくの宴なんだから、楽しまなきゃ」
「分かってはいるが、炎蓮どのに振り回されるキリト殿の姿をみてると、雪蓮に振り回される私と同じような心境なのだろうなと思わずな……」
「むー、そんなに振り回してないですー」
膨れっ面で反論する雪蓮。
「ほーう? では大殿が任せた仕事をサボって酒を飲み、夕暮れまで木の上で眠り、連帯責任で私まで雷火殿に怒られることになった原因はどこのどなただったかな?」
「むむむ……」
それを見た周瑜が我慢の限界にきたのか、怒気を纏いながら反論を始め、それにぐうの音も出ない雪蓮。
そのやりとりをみていたら、横から誰かに掴まれ、抱き寄せられた。
「ふふふ、キリト君捕まえた」
「どうしたんです?程普さん」
頬にあたる柔らかいものの正体について考えることを止め、とりあえず犯人に理由を聞いてみる。
「せっかくの宴なのにキリト君と話せないのは寂しいからさ、今が好機と思って、捕まえちゃった」
「おいおい、粋怜、独り占めするなど狡いぞ」
程普の正面にやってきたのは黄蓋。
「あら、目敏いのは、私だけじゃなかったか、残念」
肩をすくめてオレを解放する程普。
「お主も飲んでおるか?ほれ、儂が注いでやろう」
「あ、祭に抜け駆けされたー」
オレが持ってた杯になみなみと酒を注ぐ黄蓋。
それを見て不満そうにする程普。
「ほれ、粋怜のやつもお主に酌をしたいそうじゃ、男ならくぐーっと一気に飲んでみせい!」
仕方ないので一気して*1、程普に杯を差し出す。
「顔も好みで頼りがいとからかい甲斐がある上、お酒もイケるなんて、ますますお姉さん気に入っちゃった」
妖艶な流し目をしてくるがスルーを決め込むと肩をすくめて杯に酒を注いでくれた。
また一気し始めたところで
「お酒そそいでくれたお返しで、私に種をそそいでくれてもいいのよ?」
耳元でささやかれ、盛大に噎せた。
「キリト君、ウブなのかむっつりなのかわからないわねぇ」
「据え膳食わぬはなんとやらじゃぞ?」
背中を撫でながら、そうオレの反応を肴にお酒を飲む程普とオレを煽る黄蓋。
「止めとけ。オレが気絶しても辞めずにだし続けるし、一晩で20人近くに種吐き出せる位の猛者だぞコイツ。うぶな訳ねえだろ」
いつの間にかオレの背後を取ってあすなろ抱きする炎蓮。
それを聞いて目を丸くする2人。
「凄まじいわね」
「戦場で疲れ知らずの大殿を気絶させるとは……恐ろしい一方、儂も摘まみ食いしたくなるのう」
「こいつらが勢力作って、同盟したら適当に理由つけて人交換すりゃいいだろ」
「そろそろ戻らないとアスナが怒りだすから!」
身代わりで離脱して逃げ出すオレ。
その日はそれ以上、オレに接触してこなかったが、アスナたちに搾られたのは言うまでもないかもしれない。
「んー……んー?この辺のはずだけれど……形跡がほとんどないわね」
とある街の一角で首をかしげる女性。
「裏を返せば、戦闘とかで脱落したというケースは除外できるから……自害させられたのかしら?」
「……まあ、とりあえず、セイバーが本当に脱落したのか引き続き聞き込んだりしてみないとね。ついでに美味しいものたべよっと」
女性は踵を返し、街の中心に戻って行く。
それを見ていた老人がひとり。
「……ルーラー……アレは……ウルスラという名前か。……キリト殿は黄巾党征伐に行ったはず。とりあえず徐州方面に人を出して手紙を持たせておくか。見つからぬなら、凱旋したころに改めて伝えれば良いからな」
どこぞの家政婦のように顔を半分だして観察と思考をこぼすと、屋敷のなかに老人は戻っていった……。