「東4里の位置に黄巾賊3万! 将軍僭称の旗はありません!」
「ご苦労。下がって休め」
「はっ!」
あれからまた数日後。
斥候が東に敵を発見したので陣を構え、詳細を再確認させる斥候を再度放って続報を待ってたらわりと直ぐに斥候が報告をあげてくれた。
斥候を労い、下がらせる炎蓮。
それから不適な笑みを浮かべる。
「――さて、向こうはこっちに気がついてないだろうが、何時までも気が付かねえとは限らねぇ。さて、どうするべきだ?」
「周辺の地形把握、あとは斥候を増やして奇襲の警戒。そしてこの優位を可能な限り損なわないよう、迅速に行動指針を決めるって感じだな」
試すようにオレを見る炎蓮に対しオレは冷静に告げる。
同意するように朱里、雛里、周瑜が頷く。
「兵は拙速を尊ぶとも言うしな。合格だ。……雪蓮、桃香。軍師が居るからって甘えて聞き逃すなよ?」
「分かってるわよ」
「しっかりと聞いてます!」
やれやれする雪蓮と、ふんすふんすする桃香。
「そんじゃ、目的と手段と分水嶺を明確にしてくぞ。まずは――この場での目的と、オレたちが最終的に目指してる目標を――そこで鈴音と話してるリズ、言ってみろ」
江東の虎は気が緩んでる奴がいるのを見逃さず、1人を指名して気の緩みを締め直す。
「え? えとえと……『この場の目的』は東にいる黄巾賊の撃破、『最終的な目標』はこの乱の収束……よね?」
慌てて答えるリズ。
最後疑問文だったのは炎蓮的に大きいマイナスのようで、ため息をついた。
「最後的な目的はそれだけじゃねえが……まあ概ね合ってる。あとはもっと自信もって言えるように前もって頭の片隅においておくように。オレたちは『指揮する側』だ。そのオレたちが目的を間違えていたら、判断を誤り、無駄な損耗をすることになりかねんからな。……将でないならとやかく言うつもり無かったがキリトがここにつれてきてるってことは、『一廉の武将として扱ってる』ってことでもあるしな」
「は、はい……」
ションボリするリズを一瞥し、程普に問いかける。
「次は粋怜、さっきのリズが出した目標を前提とした場合、『今回の目標で撃破、何を以て達成』と判断する?」
「んー……『潰走させる』かしらね。黄巾党の首領を討伐するために今見つけてる一団を根切りにする必要はないし、戦略的な『全滅』させないといけない訳じゃないしね。だから『特別な理由でも無ければ潰走させる』でいいと思うわ」
彼女の答えに少しつまらなそうな顔をする炎蓮。
「アホな答え抜かしたら禁酒言い渡してやろうと思ったがまともな答えを返しやがって。しっかり予防線も張ってるし……」
「うわ、ふざけなくて良かった」
炎蓮の言葉を聞いて胸を撫で下ろす程普。
「そんじゃ、祭。『敵を潰走させる』手段は?」
「攻めて戦意を挫く……または計略を駆使する。あるいはその両方と言ったところじゃろ、大殿」
概ね満足したのか軽く頷く炎蓮。
それから次の回答者を選んでから再び問いを放つ。
「ま、そうなるわな。……さて、愛紗、分水嶺……つまり今回の黄巾賊撃退で『最終目的を達成するために、今回の目標達成を諦める状況』があるとしたらそれは何か答えられるか?」
「む、それは……将兵の殆どが倒れ、こちらが賊に背を向け逃げねばならぬ時では?」
「根切り完了の一歩前じゃねえか。後がない背水の陣でボロ負けとか、本拠地防衛戦で主要な将兵が内応して一気に形勢不利とかの、滅多にない状況だぞそれ……」
ドン引きしながらこぼす炎蓮。
そしてアスナに視線を向ける。
「アスナは分かるか?」
「兵糧が焼かれたり奪われたりして軍団を維持するのが困難になるとか……一当てしたときに敵の練度が高かったりして、本格的にぶつかると損害が大きいと判断したときかな」
「それらともう少しある理由ひっくるめて「次も戦える状態でなくなりそうなとき」ってオレなら答える。こっちは『この一戦さえなんとかなればいい』訳じゃねぇ。だから次も戦えるようにしないといけねぇわけだ。そうすると次も戦えるように将兵の死傷を抑えないといけねえし、何日もかかる長期戦にならねえよう、早めにケリをつける必要がある。兵糧は時と場合によるが、今回は特に考慮する必要がある」
炎蓮がこちらを見てあと頼むとぶん投げてきたので彼女の言葉を引き継ぐ。
「そして改めて言うがオレたちは兵士達に命令する側の将であり、策を弄する軍師だ。オレたちの判断で失わなくて済む命が喪われてしまうことがあることを、今一度思いだし、頭にいれた上で軍議に臨んでくれ。……オレに何で言わせた?」
「旦那を立てただけだぞ?」
ドヤ顔する炎蓮。
オレは目線を外してから一同に告げる。
「……それじゃあ、この周辺の地図とかを元に、作戦立ててくから案がある人は挙手して。指名されたら発言するように」
「無視とか酷くねぇか!?」
珍しく取り乱した彼女を見て、雪蓮たちが驚いたが、詳細は割愛する。
「想定どおりに敵が来ましたね」
「ある程度は無視して中盤くらいに強襲を仕掛けるからな?」
林のなかに潜むオレ、愛紗、黄蓋にリズと鈴。
「……」
「そんなに辛いなら、無理に戦わんでも良かろうに……」
顔を青くするリズと鈴だが、黄蓋の言葉にも首を横に振る。
「……彼女たちの覚悟を私やキリト殿は尊重した。あとは本人の責任です。万一に備えてキリト殿の分身が彼女たちの傍に控えていますし、口寄せの契約とやらで遠くにいる別の分身が避難させることもできますから……」
愛紗の言葉を聞きつつ、オレは少し前のやり取りを思い出す。
「みんなが覚悟決めて戦うってのに、アタシたちだけ安全地帯でぬくぬくしてろなんて言われて引き下がれると思うの?」
「たしかに……私たち賊に襲われたりとかされたことないし、血生臭い現場に居合わせたことないけど。……でも私だって身体能力は普通の人に比べたら格段に高いから、足手まといにはならないわよ」
作戦の最後、アスナがリズと鈴に、この戦いは後方で控えててと伝え、2人が憤慨する。
そんな彼女から出た言葉に、オレは淡々と告げる。
「……ここはALOじゃない。かつてのSAOや、現実とおなじだ。死んだらおしまいだ」
「そんなの分かってるわよ! は、アンタやアスナ、プレミアやティアが戦ってるのに戦えるアタシたちが見てるだけなんて……!」
「……ならキリトに2人を付ける。そいつらの尻拭い、最後までやってやれよ」
炎蓮はこれ以上の説得は不毛と断じたのか、オレに丸投げする形で了承した。
などと思い出していると、愛紗が状況を告げる。
「想定どおり、味方が通過しましたね」
オレはそれに頷き、言葉を続けた。
「ああ。……伝令、伏兵部隊に通達。オレの号令がかかり次第、敵軍の横っ腹に痛撃を与える。各自待機せよ。とな」
「「「御意」」」
傍にいた兵士達が音もなく姿を消す。
もうしばらくすると、味方の兵士たちの最後尾に少し遅れて黄巾党が通りすぎていく。
両面の力を解放し、およそ1/3が通りすぎたのを確認してから、オレは号令をかける。
「総員、突撃!」
オレは言い終わる前に最初の1人目に肉薄、袈裟斬りで仕留める。
そして次の一息で3人、横薙ぎ、逆さ袈裟斬り、首を一閃。
「なっ――」
驚いている敵に左手の剣を投擲。
そいつの心臓を貫き、その背後の射線上にいた雑兵たちの身体も同様に剣が穿つ。
そして空いた手で近くの雑兵を掴み、躊躇い無く全力で敵の後続のいる法へ投擲。
残酷なことをしていると分かっているが、それでも躊躇い無く殺戮を行い――しかし頭は恐ろしいほど冷静に状況判断を行い、客観的な視点でその様子を脳裏に記録し続けたのであった……。
一刻後。
オレたちは戦闘跡地から東に3里ほど離れたところに天幕を立てていた。
「味方の死者は一桁、代わりに精神的負傷で袁術のところの1割近くが精神的にやられたか」
頭をガシガシ掻きながらそうこぼす炎蓮。
「その代わりといったら何だが、リズも鈴も乗り越えたから……素直に喜べないが」
「何で喜べないのかしら?」
「……まあ、戦うのははじめてだけど、死体とか葬儀の手伝いとか経験あるから、死とはある程度折り合いつけられてたからね」
オレの言葉にちょっと不満そうな鈴と心当たりをこぼすリズ。
「そっちは悪くないが再起不能かもしれねえ兵士どうすっか考えねえとならねぇ。キリト。お前ならどうする?」
脱線しかけた状況から軌道修正する炎蓮。
オレは冷静に告げる。
「……しばらくは様子見だな。死と対面したことがあるやつなら、間もなく立ち直るだろうし、人を殺したことを悩みながらも折り合いを付けることになるだろう。それでも駄目なら部分解散という名目で対象者を汝南に帰す。分身に監視させてな」
「まあ、いつまでも足引っ張る奴を連れてくわけにもいかねえしな。それが妥当だろう」
頷いてから日が傾きつつある空を見る。
「――伝令! 」
炎蓮の言葉で伝令たちが現れる。
「明日の夜明けと共に出立する!食事と交代で睡眠を行い、英気を養うように全軍に通達しろ!」
「「「はっ!」」」
そして通達事項を聞き次第駆け出す。
「……さてと、オレたちも飯にすっか」
と炎蓮が言い、みんなもその気になるが、オレは首を横に振る。
「オレは用事があるから分身置いてく。みんなで食べててくれ」
「あ? 何かあったか?」
「キリト君?どうしたの?」
首傾げる一同。
「……近くの山に妙な気配がするから、調べてくるだけだ。すぐ戻る」
すぐに木分身を作り、そのまま瞬身でその場を後にする。
分身が問い詰められてるが、言い訳をひたすら繰り返すことでいなしてるが、絞られて力尽きるのも時間の問題かもしれない……。
「あら、逆探知されたのかしら?」
気配を手繰り、先ほど告げた場所とは異なる場所にいくと、目の前には夜なのに目立つ金色の髪とロリータ系?のピンクの少々幼さを感じさせる服装をした少女が出迎える。
「……そういうことにしておいてくれ」
「まあいいわ。せっかく来てくれたし、もてなさないのは無粋よね?」
そう彼女が言って指を鳴らすと、周囲の空間が書き換えられ、深紅を基調とした広い洋風の部屋に変化する。
「毒とか入ってないわ。さ、どうぞ」
いつの間にか居た黒い羊頭の悪魔が配膳し、紅茶などを用意してから、オレが座るための席らしきところを引いて、少女の誘導を補佐していた。
オレはとりあえず座り、紅茶を飲む。
「……もう少し警戒するとかないのかしら?」
オレが戸惑う姿見れなくて不満そうにそう零す少女。
「そう言われても困るな。……オレはキリト。アンタの名前は?」
左目の固有瞳術を使うか一瞬悩んだが止めて普通の目の状態で彼女を見ながら問いかける。
「ラムダデルタ。この『ゲーム盤』で遊んでるプレイヤーの一人ってところかしら。あ、駒にゲーム盤とか言ってもわからな」
「なるほど。アンタがこの世界をおもちゃにしてる連中の、魔女の片割れか」
オレが断言した瞬間に瞬間移動したのかオレの視界から消え、同時にオレは振り向きざまに剣を抜刀して山羊頭を逆さ袈裟斬りする。
「――アンタね?『サーヴァントとして参加してるどこからか入り込んだプレイヤー』ってのは」
少し離れたところで身構えるが、そこは射程範囲である。
――まあ、今戦う理由は無いが。
「理由も経緯も不明だが答えはイエスだ。――で、戦うか?ラムダデルタ」
「今回は様子見だから必要ないわ。――聖杯戦争が始まったら手を組むのも悪くないけど、そうすると私が支援する勢力が大陸を統一するのにかなり苦労する未来が見えるから困りものだわ」
「……」
構えを解かずに様子を見る。
「ま、ベルンには負けたくないから、必要なら手を組むってことで。今日のところは帰らせてもらうわね」
そう言って消えるラムダデルタ。
消えた証拠に空間が元の森の空き地に戻り、気配が消える。
両方の目に六道仙人モードも発動して確認したが結論は同じで探知範囲には既に居ないことが分かった。
それに安堵してから北を向き、その場を後にする。
殺した屍が野に晒されたままなのが我慢できない、オレのワガママのために。