あれから半月後。
道中で何度か賊を討伐したり、鍛錬で彼女たちや兵士たちを鍛えたりしながら北上し、小沛にたどり着く。
先触れを出したおかげで特に混乱もなく街の近くに陣を張ることができた。
「はじめまして。陳珪と申します。黄巾賊討伐のため、遠路はるばる来ていただきましたこと、感謝していますわ」
城の大広間にて。
淡い青紫の髪と、陰陽を表す勾玉のそれぞれを左右の髪飾りにしている美女が妖艶な笑みを浮かべながらオレたち(一応トップ孫堅なのに、オレの方を主に)を見ながら自己紹介をしてきた。
オレたちもそれに対応して自己紹介をしていく。
――それにしても色々でか
邪念を察知したのか、アスナがオレの足を一切こちらを見ずに踏みつける。
思考を切り替えるとジト目をしながら足をどける彼女。
「――ということなのですが、キリトさん、いかがですか?」
などしていたら、会話に乗りそこねてしまった。
「……えっと……」
「悪いがオレの部下じゃねえし、いきなり自分のところに鞍替えしないかとか言われても困惑しかねえだろ。逆になんでイケると思ったのかわかんねえぞ?」
炎蓮の言葉でオレがスカウトされてたことに気がつく。
「あら、それは残念。でも私のこことかに熱い目線を送っていたから、女の子に囲まれてても、そういう欲求を解消できてなかったのかなと思いまして。私は有能な武人にして様々な仕事も出来る方を手に入れられる。彼は私と契ることで行き場のないものを発散出来るので悪くないとおもってましたが」
自らの胸元に手を当てる陳珪。
それとともにオレへ女性陣からのジト目や怒気が向けられる。
これは罠だ!と言いたかったが、たぶんこの場で何を言おうと黙殺されるだけだ。
現実は非情である。
「……なるほどなぁ。アスナが折檻する気持ち、よく分かったきがするぜ」
オレを見ながらジト目する炎蓮。
「とりあえず、屋敷を用意していますので、皆様そちらでゆるりと滞在してください。ご案内しますわ」
と彼女が先導する。
オレはアスナ、桃香、プレミア、鈴にインペリアルクロスの状態で囲まれながら、炎蓮を追いかける形でその隊列に並び、大広間を後にしたのであった……。
その後、搾られたり、夕食として宴が催され、そこで陳珪から後で来てくださいといわれたり、ひと悶着あったりして、いつの間にか月明かりがきれいな夜の時間になっていた。
「来てくださって嬉しいですわ」
いつもよりこころなしか露出が高くなってる服の陳珪がそういいながらオレの前にお茶を差し出す。
「……で、用件はなんだ? アンタのところで骨を埋めろと言われても困るし、客将からでいいといいながら、諸々で雁字搦めにしようとしてもオレは普通に行方くらますから意味は殆どないけど」
普通にお茶を飲みながらそう告げた。
「あまりせっかちな方は嫌われますよ?」
ニコニコしながら何かを待ってるかのようにオレを宥める彼女。
――ああ、媚薬で欲情させて、既成事実で嵌めるつもりか。
ほんのり感じた熱と肉体の高揚感を理性と体内調整で正常範囲に戻しながら続ける。
「それじゃ、長期戦と行こうか」
「ふふふ、では……今の漢という国について、あなたの忌憚のない意見を聞かせてもらいますか?」
「――形あるものはいずれ壊れる。大樹も老い、朽ちて倒れるようにな*1」
「それを寄る辺とする生き物たちはどうするべきでしょうか?*2」
オレの言葉が気に入ったのか、そのまま問いを投げかけてきた。
「新たな大樹を探すのが良いだろう。だが、次の寄る辺となる大樹が目と鼻の先にあるとは限らない。まだ大丈夫と考えるか、新天地に赴き、新しく永く住まうことのできる大樹を探すかはそれぞれだろうさ*3」
その言葉に目を細める彼女。
「あなたは大樹足り得る存在ではなくて?*4」
「――オレは大樹たりえない*5」
「……何故かしら? 力もある、才もある。人望もあるし、良き人材に巡り会えている。それに天運も持ち合わせていると私は思うけど」
出来るはずなのに、できないというオレが不思議なのか、眼を丸くして好奇心の色を見せながら問いかけてきた。
「オレは人を率いる柄じゃない。出来ることは殺すこと。桃香……劉備や孫堅のような、人を知らず識らずのうちに惹きつけ、希望をもたせる者たちじゃなければ待っているのは付いてきた者たち諸共滅ぼす最悪の結末だろう。――軍略に優れた項羽が武で大陸の殆どを征したが、最後は劉邦が人心を集めたことで倒され、国として長続きしなかったようにな」
「……なら、あなたが大樹とするつもりは、その二人のどちらかしら? 袁術の客将と委任状に書いてあったけれど、今回の一件で名を挙げたらあの二人のどちらかを主として立てていくつもりよね?」
興味が止まらないのか、質問は続いていく。
自分と話が出来る相手を認識できたせいか、頬が紅潮している。
「オレは劉備を支える。……だが乱世になりつつある今の状況。彼女に比肩する大器を持つ者たちが現れてもおかしくはない。嘗ての戦国時代のようになることもオレは想定し、彼女の願う、民が明日に希望を持ち生きることが出来るように全力を尽くすだけだ」
「……ふふふ、なら今のうちに密約を交わしましょうか」
そう彼女が言うと自らの服に手をかけ、留め金を失う衣が重力に逆らえず落ちていく。
晒される肢体に思考が停止していると、そのままオレの傍にやってくる。
「あの劉備さんが国を興し、その国の領土が私達のところに接したら、私達は無条件で下ります。ですから、粗雑には扱わないでくださいね?」
こころなしか息が荒い陳珪。
どうやら彼女も媚薬を飲んでいたようである。
「――ということで。蝙蝠みたいと思われるかもしれませんが、私はこの地が大切だから……許してくださいね?」
なにかの拍子に入れ替えられることでも想定してたのだろうか。
オレはかなりズレた思考をしながら、妖艶な笑みを浮かべる彼女の手を払いのけず、受け入れたのであった……。
翌日。
オレは戻って即座に『別の女の匂いがする』と襲撃を受け、身代わりと分身を駆使して撹乱しながら街を出て北側に逃げていた。
「……のどかな田園風景がひろがるな」
一般市民に変装したオレは周りを見回したりしながらほとぼりが冷めるの、いつだろうな―と思いながら散策する。
「……ん?」
そこで見に覚えのある気配が2つ、もう少し先の畑にあったのでそちらの方に進む。
するとそこには、黒髪の肌がやや白い姉妹が畑の傍で座り、休憩してる姿だった。
「……一夏、千冬さん……」
小声で喋ったはずなのに、ビクッと反応してこちらを向く二人。
「……キリト……?」
「……みたいだな」
妹のほうがオレの名を呼び、姉がうなずくと、妹が駆け出してオレにその勢いで抱きつく。
「ぐはっ」
「キリト! 会いたかったよ……!」
滝のごとくといえばいいのか、盛大な涙を流す彼女。
あとから続いて姉も近づいてくる。
こっちは理性的に勢い載せて抱きついてくることはなかった。
「ふたりとも、こんなところに居たんだな」
「気がついたら二人で過ごしてて、身よりもないから小作人として働いていたんだ」
「大変だったよ……」
遠い目をする二人。
「一夏も千冬さんも、無事で良かった」
抱き寄せて撫でる。
「……ふたりとも、一体どうした……の?」
二人の近くに居たらしい、健康的に日に焼けた肌と陳珪を彷彿させる髪色と瞳をした少女がやってきて、二人に声をかけた。
オレは二人を離すと、二人が振り返り、少女に告げた。
「陳登、ごめん。私達、待ってた人が迎えに来たみたいだから……。この地を離れるね」
「! ……そっか。残念。色々話せる友達ができて、嬉しかったよ」
一夏の言葉の意味を即座に理解した彼女は、少し寂しそうに、だけど引き止めては行けないとわかっているからか少し声が震えながらも堂々と告げる。
「君は、陳珪……彼女の娘か……?」
オレの言葉に驚いてこちらを見る。
「……だから……?」
「いや、単にあの人の面影があると思っただけだ。済まない」
オレが真剣に伝えたので悪意は無いと理解したのか、少し警戒していた態度が柔らかくなる。
「お母さんに、会ったんだね。……私は最近家に戻ってないけど、元気そうだった?」
彼女の言葉に首を傾げるオレたち。
だが、一夏たちの恩人でもあるし、とりあえず答えることに。
「ああ。元気そうだったぞ? ……色仕掛けしてきたのには驚いたが」
おもわず滑った口が放った言葉に陳登が眼を丸くし、一夏と千冬はジト目を向ける。
出した言葉は戻らない。
「え? え? い、色仕掛け……?」
「だから喜雨……陳登とどこか似た匂いが……」
「……大方、アスナか親しいものたちにバレて折檻から逃げて気がついたらココに来てたというのが真実なんだろうな。そんなことだろうと思ったが」
混沌と化す前に、オレは土下座をする。
「色々と詫びますからとりあえず一夏と千冬さんはオレの所属してるところに加入してください。あと陳登さん、オレから陳珪さんと陳登さんに諸々の謝罪があるので同行お願いします。そのついででもいいので親娘でお話する時間を設けたほうがいいとおもいます!」
「……一夏」
「千冬姉。キリトはまた自分を犠牲して周りが最大の利益を得る選択肢を選んだみたいだね」
呆れた声でそう告げた後、陳登へ話しかけたのか
「喜雨、わるいけどキリトのお願い、聞いてあげてくれる?」
と助け舟を出す一夏。
「え、あ、うん……」
素直にうなずいてくれた彼女。
……オレの命を犠牲に彼女のぎこちない親子関係の改善と一夏千冬さん引き抜きに伴うマイナスイメージの払拭とアスナたちの怒りを鎮める。
――トレードのレートとしては最上かもしれない。
などと思いながら、立ち上がり、3人とともに小沛の街へと踵を返すのであった……。