「たのもー!」
ノックもせずに開けて執務室に入るオレとそれの続く一夏、千冬さん、陳登。
オレたちの姿に木簡を動かす手を止め、眼を丸くする陳珪。
「一体、どうなさったのですか? あと朝起きたら既に居なかったので、驚きましたよ?」
「その件についてはこの通り」
土下座するオレ。
「誘われたとはいえ、誘惑に屈したオレが悪い。なかったコトにできないし、するつもりはないが、同時に関係をこれ以上持つつもりも続けるつもりもない。万一のときの責任は取るが、それだけのつもりだ」
「……思ったより強いのね。他の女の子に強く出れないから、一度関係を持ってしまえばあとはずるずると引きずり込めるとおもったけど……今回は諦めるしか無いわね」
とため息交じりに木簡を置く陳珪。
「……かっこいいと思った男の人をお母さんが既に手を付けてたときって、どんな顔すれば良いんだろう……」
土下座してるからわからないが、ハイライト消えてそうな眼をしてそうな陳登の声。
「……わら「こういうときは、早いうちに腹を割って話せ。下手に自分の中に溜め込んで我慢すると、限界を超えた時、自分の手に負えないくらいの激情にふりまわされるからな」」
どこぞの14歳みたいなセリフを吐こうとした一夏の腹に一撃いれたらしい千冬が彼女なりの助言を陳登へ送った。
「……3人共? ありがとね」
そう陳登がいうと腹の下あたりに腕が差し込まれ、そのまま持ち上げられる。
「え? 千冬さん?」
「親子喧嘩に私達は居ないほうがいいだろう。――それはそれとして、アスナたちがどこにいるか検討つかないから案内しろ」
「あっはい」
オレはそのままドナドナされることに。
なお、一夏は一撃がクリティカルだったのか、気絶したまましばらく微動だにしなかった。
「……オレの命もあと僅かかな……?」
陳珪が案内してくれた屋敷にて、オレは簀巻きにされていた。
「キリトくんが素直に白状してれば、もう少し穏やかに済んだとおもうんだけどなー?」
その言葉に女性陣*1が揃ってうなずく。
「にしても、一夏たちこんなところに居たのね。驚いたわ」
「リズ、元気そうだね」
リズの声かけに笑顔をみせる一夏。
うん、かわいい。
「キリト君、随分と余裕そうだね」
アスナが笑顔なのに怒気をまといながらそう零すので、色々縮み上がる。
「にしても、今のところ桃香さんたち三姉妹に、朱里ちゃん、雛里ちゃんと炎蓮さんと陳珪さんか……1ヶ月程度でそれだけ毒牙にかけるなんて、手が早いかな……」
ジト目を向ける一夏。
「こいつは女を引き寄せる体質らしいからな。束も真面目に考察とかして、恋愛原子核みたいな論文書いたこともあるくらいだし。……とりあえずこいつは後で折檻するとして、情報交換や、今後どうするつもりなのかを聞きたい」
千冬がそう告げたことにより、彼女たちの視線が外れる。
まあ、オレは屠殺前の豚も同然なので抵抗を諦めておとなしくその成り行きを見守る。
「黄巾賊討伐で名を挙げたら、私が故郷である上庸の太守になって、そこから勢力を西と南……益州に伸ばしつつ、できたら荊州や中原にも手を伸ばしたいかなって思ってますけど……」
「江東つーか荊州の半分から以東は雪蓮とか袁術とかいるからしばらくは手を付けねえほうが良い。どっちかというと益州全土を獲ってから、他の地域に目を向けるのが安定だと思うぜ」
「それも大切ですが、中央とのつながりも作ったりしないといけません。私達が朝敵になったら、その大義名分から反乱を起こす人とか、私達を狙う人たちがでないとも言えませんから……」
「厳岳殿ならツテを持っていそうですから戻ったら尋ねるのもよいかもしれませんね」
「というか、国を起こすとしても組織体制がしっかりできてないと機能不全起こしてすぐ瓦解しかねないから、そのあたりも早めに決めないとね。……アタシたちの場合はキリトが潤滑油みたいになるから意見の相違での喧嘩とかはまず無いでしょうけど」
なんか眠くなってきたのでオレは意識をシャットダウンする。
「パパ、起きてください」
目を開くと、かわいいオレの
「あれ……みんなは?」
あの後折檻されると思って、諦めていたが、特に何もされた形跡もなく、彼女たちも居なくなっていた。
「色々話が弾んで、いつの間にか昼になってたので、みんな近くにある一夏さんおすすめの店に行きました。ママからパパをそろそろ起こしてあげてといわれましたので起こしにきました」
「そう……か」
オレは縄をほどき、立ち上がると、扉が開かれる。
「あれ? 一夏たちは……?」
首を傾げるのは陳登。
「パパ以外のみんなは街で各々ご飯を食べに行ったみたいです」
「そう……ならキリトと……」
「私はパパの娘のユイです」
ユイの自己紹介に、陳登とその後ろに居た陳珪が目を丸くする。
「娘……!? ……あ、えっと、ユイ……ちゃん。お母さんと仲直りもできたから、一緒にご飯、どう?」
上目遣いで聞いてくる陳登。
「お言葉に甘えようか、ユイ」
「またママたちに怒られますよ?」
「無下にしたらしたで怒られる。前例は何度もあるし、どっちにしろ怒られるなら、厚意を無碍にしない方を選びたいかなって」
そう答えると、うーむと考えるユイ。
直ぐにうなずいて答える。
「たしかにそうですね。 パパ共々、おねがいします」
「うん」
「あらあら、礼儀正しい娘ね」
陳珪も微笑ましいのか笑顔を見せる。
そうしてオレたちは陳登に連れられ、屋敷を後にした。
「好きなの頼んでいいよ? 私がお金出すから」
「いや、流石にそれをやると後でオレが血祭りにされるからオレに出させてくれ」
大通りから離れた路地の一角、少し古ぼけた感じの店に入ったオレたち。
どうやら陳珪は来たことがないらしく、興味深そうに周りを見ている。
そして陳登からの開口一番がオレにとって大問題だったので、慌ててインターセプトをかける。
「……お礼だから、気にしなくていいのに……」
ふくれっ面する陳登に対し、ユイがペコペコする。
「前に、それでパパが大変な目にあったので、ママたちが生理的な状態まで警戒しちゃうようになったんです。すみません……」
「本当にすまないな」
「色々あなたも大変な目にあってきたのね……」
ユイとオレの真剣な顔が通じたのか、陳珪も心配そうにオレに視線を向ける。
「……ここが仕入れてる食べ物はどれも私の知人が育てたものだし、料理人のおじさんの腕はすごいから、期待していいよ」
「なら、私はどれにしようかな……パパはどれがいいですか?」
話題を変えるべきと判断した聡い陳登とそれに乗るユイ。
そして採譜に目を通しながらどれにするか選び、注文する。
「……」
少し続く沈黙。
それを破ったのは陳珪だった。
「キリトさん、ありがとうございます」
「え? お礼を言われるようなこと、した覚え――」
「――結果論かもしれませんが、あなたのおかげで、口喧嘩をし、疎遠になりつつあった縁を取り戻せました。あなたが居なければ、疎遠だった時間はかなり長いものとなっていたと思います。だから、ありがとうございます」
「……あまりオレが関わったわけじゃないけど……」
「きっかけになったんですから、パパはもっと誇る……べき……?」
理由を思い出したのか、語尾が弱くなるユイ。
「喜雨、礼のものを」
「うん」
懐から取り出した紙。
そこには目録が。
「これは……」
「小沛は立地と治安から兵は出せないけど、物資の支援って形でお礼をすることにしたから……受け取ってくれる?」
ささやかなものだったが、嗜好品とかも入ってる辺り、一生懸命捻出してくれたのだろう。
「返礼はあまりできないが、オレが持ってるもので何かあとでお返しさせてもらうつもりだ」
「できたら、農書とかだと……」
「だったら、名品を……」
「「え?」」
二人の意見が食い違い、発生した沈黙。
「どっちも心当たりあるから、用意する。だから仲直りしてそうそう喧嘩再開しないでくれ」
どうやら、もうしばらくは油断ができなさそうだ。
あのあと色々あったが割愛。
数日後、オレたちは黄巾党征伐のため、出立するに伴い二人に別れを告げることに。
「それじゃ、オレたちはこれで」
「帰りにまた立ち寄ってくださいね」
「今度は、とれたての作物、たくさん用意するからね」
二人の言葉にうなずいてから、オレたちは出立する。
――これから何が待っているのか。
期待と恐怖を持ちながら、オレたちは進む。