あれから半月、オレたちは徐州に入りしていたのだが……。
「叔母上が司徒の役目を終え、家に戻ってきてくれたのでな、妾たちも同行することにしたのじゃ」
家を留守に出来なかった状況から変化したらしく、わずかな手勢と馬車だけで追いかけてきたらしい袁術と張勲がやってきた。
オレたちに話があると天幕を立ててそこに集め、先の発言から説明が始まっていた。
「前の約束について、再度調整が必要そうだな」
頭を痛めたようなジェスチャーをする炎蓮。
「兵糧については、そちらが5000、こちらが2万の比率で再分配で、劉備さんたちとその右腕であるキリトさん、そのお仲間はこちらの客将として責任所在とかもおなじようにすればよいかなと」
「……」
「これが双方納得する案だと思いますが、違いますか?それとも何処かで募兵したり、義勇軍吸収したりしてます?」
炎蓮が怪訝そうな顔をしてることに気がついたのか、張勲が正論と未確認項目を追撃する。
「……いや? 間違ってねぇし、募兵も義勇軍吸収もしてねぇ。……てっきり難癖付けて分配を渋ると思っただけだ」
炎蓮の言葉を聞いてやっと炎蓮の態度に納得したのか手をポンとたたく。
「目先の小さな利益考えればその手は有効ですけど、貸し借りとか長期的に考えると不利益の方が大きいですからね。あとその程度気にするほど、汝南袁家は柔ではないと言うことです」
「七乃の言う通りじゃ。まあわらわたちが来た結果、お主が得られる利を少なからず失わせたからの。何らかの補填を……できる限りするのじゃ」
「そこは躊躇い無く言い切ってほしかったな」
袁術の言葉にヤレヤレと呆れる炎蓮。
「では、改めて客将としてお世話になりますね、袁術さん」
「うむ、くるしゅうないぞ、劉備」
桃香の言葉に頷く袁術。
「さて、このままでは兵士貸して手柄だけ横取りみたいなことになって、私たちの立場がないので何も手土産なしに合流したわけではないことを披露しましょうかね」
「あら、曲芸でもしてくれるのかしら?」
不満そうな雪蓮に対し、張勲は首を横に振って否定する。
「そんな身軽で木にもするする上れる孫策さんとおなじにされても困ると言いますか……。持ってきたのは現在の徐州、青州とその周辺の情報です」
そういって机の上に地図を広げる。
「まず、青州は麗羽さん……袁紹さんが西涼の馬騰さん……の娘さんを筆頭とした西涼連合と涼州周辺の豪族である董卓さん、幽州の牧である公孫賛と共に順調に賊の駆逐という成果を出してます。もっとも、3人を矢面に立たせて成果は自分の物だと袁紹さんは喧伝してます。タチ悪いですねぇ」
「ふんぞり返って成果だけ自分の物とは、ろくでもないのじゃ」
「ですねぇ」
袁術の言葉に賛同しつつ、張勲が駒を4つ、青州の北側におく。
「次に、徐州北西部から禁軍と曹操さんの連合軍が適度に敵を追いたてつつ、進軍してます。ちなみに禁軍の指揮官には盧植さんや皇甫嵩さんという、名と実力を兼ね備え、公正に評価できる方がいますので本来なら論功行賞に心配無いのですが……」
「?」
「何か問題あったか?」
尻すぼみになる張勲に首をかしげる一同。
頭を振って彼女は告げる。
「十常侍の息がかかった人が軍監*1という、かなりの確率で袖の下を要求してきそうな情報もあるので、どうしたものかなーと」
それに袁術、孫策を筆頭にそれぞれの面々が渋面をする。
「あんなのにくれてやる金など無いのじゃ」
「だけど集りを無視すると何吹聴するか分からないのよね。……集ってもやるバカもいるけど」
「……賄賂を貰わないと都合の悪い嘘を言うなんて、立場を悪用してて、嫌ですね……」
桃香がこぼすと、張勲が補足する。
「まあ、彼らも彼らでそれなりの立場になったのに上に持ってかれたり、立場維持にけっこうお金が必要だったりするので、やらなきゃ地位に合った生活出来ないとか一応都合がありますがそれはそれですしね」
「今の政治の腐敗がもたらした結果ね……」
鈴がため息を吐きながらそうこぼす。
「それで、孫堅さんはどうします? せめて私たちは足並み揃えておいた方がいいかなーと」
炎蓮の様子を見ながら張勲が問いかける。
「……面倒だ。要求されても
「なら私たちもそうしますね。……と、脱線しましたがとりあえず今の周辺状況はこんなところです。とりあえず他に情報交換したいこととかなければ……無さそうなので解散と言うことで」
「召集してすまなんだの」
袁術の謝罪の言葉でその軍議?は締め括られた。
「これはすごいのじゃ。湯浴みや厠が無いのが気に入らぬが、わらわですら見たことの無い食べ物や薄いのに雲のような柔らかい寝具があるのじゃから細かいことは気にせぬ方がよいの」
袁術の発言からなんとなく察した人も多いと思うが、馬車の中身見られて乗っ取られた。
「そちらもすごいですけど、いれたものが腐らない上に消費してもいつの間にか補充されてる蔵なんて、見たことないですよ」
宝物庫使えてたせいで感覚バグってたけど、馬車についてる倉庫も大概イカれていたことを今になって思い出す。
「それで……オレがこれを何と交換なら譲ると思う? 補充速度が不明だが少人数なら補充の方が早く、適温に保たれた空間で眠れるこの馬車の荷台に偽装したゲルを」
「……袁家の今持ってる財産全部投げても首縦に振ってくれなさそうですしねぇ。困りました」
「……わらわも使っては、だめなのかえ?」
頭の中で算盤弾いてるのか、真面目な顔で張勲が零し、無意識の泣き落としを繰り出す袁術。
しかしうちの財産管理してるアスナが認めるわけもなく。
「ダメです。孫策さんたちにも教えてないんですよ? なんとなく違和感持ってるみたいですけどね」
「わらわはキリトと話しておる!客将の陪臣がなにを」
「あ、アスナはオレの正妻兼財布管理担当してるんで、最終判断は彼女が握ってます。拗ねると絶対了承してくれません」
「おおお、お主キリトの正妻じゃったか、そうかそうか。気立ても良さそうじゃし、キリトの隣で支える良き妻なのじゃろうなぁ」
凄まじく慌てふためきながら褒めていく袁術。
「凄まじい手のひらの回転ぶりだな……」
「一夏、対抗しなくて良いのか?」
呆れた顔の一夏の言葉に首を傾げる千冬。
「いや、まあ正妻戦争*2で負けたとかもあってその辺りはあんまりアピールしないつもりだからね。……あと表向きの序列より、必要な時に、必要な助けができるようにいつでも備える。そっちのほうがキリトにとっては重要だからね」
「我が妹ながらノロケよって……」
まあ、オレ的には二人が並んでるんだけどね……言ったら序列が乱れるからとアスナや一夏に折檻されるか、束さんがリズあたり焚き付けて下剋上戦をまたやりそうだから黙っているが……。
「キリト君」
「ん? 話付いた?」
完全に意識が違う方を向いていたので確認する。
「ついてないよ? ……よく考えたら、全くおなじアイテムあるし、そっち渡せばいいからね。あとはキリト君が欲しいものを提示して、それを2人が呑めるかどうか、かな」
「お手柔らかにお願いしますね」
手揉みしながらそうお願いしてくる張勲。
さて……どうするかな。
「……んー……なら貸し1ってことにしておくか。困ったときに頼らせて貰うって感じで」
「む……思いつかなんだか……」
「利子が増えてそうで怖いですねぇ」
オレの言葉に不完全燃焼な様子の袁術と意外と言いたげな顔の張勲。
「キリトは女に甘いから」
「無意識に相手の気持ちを揺さぶるキリトの十八番の一つですね。油断すると私やティアみたいに絡め取られます」
「リズもプレミアも言いたい放題言うなぁ……」
オレは遠い目をしながら零す。
「とりあえず取引成立ということで、用意ができ次第、渡していただけたらと」
張勲がそういうので、オレは指を鳴らして馬車の隣に同じものをよびだす。
「出したから確認よろしく。あと馬は自前でどうぞ」
「えっ? えっ……??」
オレの言葉に外へ出て、いつの間にか現れていたそれに目を丸くする。
「うむ、良いものを貰ったのじゃ。お主の頼み、わらわのできる限りの範囲じゃが、なんとか叶えてみせるからの」
そういうと袁術が新しい方に移って中に入ってから、顔を出す。
「あと、お主だけ特別に、わらわを真名である美羽と呼んでよいからの?」
「あ、それなら私のことも七乃で構いませんからね」
馬を兵士に連れてこさせながらそう告げる張勲。
「ああ、よろしく。美羽、七乃」
それから、馬を馬車につなげたかと思うと、直ぐに自分の物天幕へと移動したのであった……。