あれからさらに半月。
オレたちは徐州と青州の間にある要塞に黄巾党の本体が在ることを突き止め、進軍して居た。
しかし、袁術から早急の対応が必要なことが起きたと言われ、袁術の馬車にオレ、桃香、炎蓮、雪蓮が代表して集まる。
「車騎将軍からの召還命令?」
「はい~。なんでも黄巾賊の本拠地には30万の兵詰めていて、個別に戦うと各個撃破される可能性あるから、そうなるくらいなら一度全軍集めて多少なり連携したほうがいい。……というのが向こうの主張でして、逆らうとろくなこと無いので従うしか無いんですよねぇ」
雪蓮の言葉に対し七乃が本音を面倒そうに零す。
「従いたくはねぇが、逆らうのは面倒……か」
「わらわとて気が乗らぬからのう……」
めちゃくちゃめんどくさそうにする炎蓮と美羽。
「……お兄さんは乗り気みたいだね」
桃香の言葉に4人がオレに視線を向ける。
「オレの予想だけど、その召還で集められた人たちは……今後何処かしらで名前を聞くような一廉の人物になると思ってる。だからどんな相手か見ておきたいってのがオレの本音だな」
「……よし、張勲」
「孫堅さん、どうしました?」
オレの様子を見た炎蓮の呼び掛けに首をかしげる七乃。
「たしか軍議に参加するときの暗黙の了解だと一つの軍勢につき頭1人、護衛または側近を計3人が基本だよな?」
「まあ、そうですねぇ。軍勢が片手で数えられるならその限りではないですが、今回は例外に入りませんからね」
それを聞いた炎蓮は、美羽の方を向く。
「ならオレの方は、雪蓮が頭で、同行者として周瑜、黄蓋、程普を出す」
「はぁ!? お母様血迷った!?」
「なんで血迷った扱いしやがるんだ。……家督譲る前だから、多少ボカしても庇える状態だ。その状態で軍議に一軍の長としての参加できるなんざそうそうねえっつーのに……。血迷った扱いされるなんて悲しいなぁ」
「え、あ、その」
炎蓮が遠い目をすると雪蓮はあわてふためく。
「親の心、子知らずじゃなぁ」
「江東の虎が見せた珍しい優しさが蹴られましたねぇ」
「……そういうこともある」
「急に言われたからそうなるのもしかたないかなーって……」
美羽、七乃、オレ、桃香の言葉で膝をつく雪蓮。
「雪蓮が怖いなら別にオレが頭として出るがどうする?」
「……分かったわよ。私が出るからお母様は雷火たちへの言い訳をちゃんと考えてよね」
なんか親子のやり取りに突入したので、七乃が口を開く。
「私たちの方は、特に要望無ければ美羽様、私、劉備さん、キリトさんの4人になりますが異論ありますか?」
「わらわはそれでよいぞ」
「うーん……」
「……桃香。オレが同席できるなら情報共有の方法があるから、この案が一番丸いぞ?」
「それもあるけど、そうじゃなくて……」
悩んでいたので判断材料を提示したが彼女は首を振る。
「……お兄さんを同行させたら、会う
「オレを一体なんだと……!」
カチンと来たので口を開くが
「気が多い?」
「種馬じゃねえの?」
「女殺しかしら」
「傾国の男じゃろ」
「そのうち後ろから刺されそうな美形の男の人ですかねぇ?」
5人に敵わず、膝をつく。
「……オレじゃなくて、アスナあたり代理でよろしく。オレはおとなしく引っ込んでるから」
あのあと女性陣に宥められたり、尻ひっぱたかれたりしてオレが折れる形で同行することに。
……あれ? オレが同行したいと言ったのに渋ったの桃香じゃないかな?
軍議が行われる天幕へ向かうオレたち。
認識の相違がないかオレは疑問を口にする。
「車騎将軍皇甫嵩と前将軍盧植……軍監の
「風鈴先生……あ、盧植先生ね? あの人のところで小さいころに教えてもらったことあるけど、悪い人じゃないよ?優しいし」
「皇甫嵩さんは私面識ありますね。大抵のことをそつなくこなせる仕事人って感じで、清濁併せ呑むこともできますが、仕事が恋人って感じで、私生活が殺風景じゃないかなーと個人的に思う人です。こっちもよほどの変節が無ければ袖の下を積極的にってことはないですね」
七乃がそう零すと、雪蓮も口を開く。
「……蹇碩は皇帝の遠戚に当たるし、宦官だから、相応の権力を持ってるわ。何度かお母様のところに使者として来たことあるけど、なにかと理由をつけて他人を貶すやつだから、傲慢で嫉妬深いと見ていいわ」
「あとなにかと袖の下を求めるから強欲でもあるな。……次を残せぬ分、今に執着してるとも言えるだろうな」
雪蓮の言葉に補足を入れる周瑜。
「ということは要注意は蹇碩だけか。……まあおとなしくしてれば――」
「あら、そこにいるのは美羽さんではありませんこと?」
オレのセリフに割り込む背後からの声。
オレたちが振り替えるとそこには4人の美少女。
1人目は袁術と同じ髪色のいかにもお嬢様という雰囲気の娘。
2人目は濡羽色のおかっぱヘアーの何処か幸薄そうな娘。
3人目がボーイッシュな雰囲気と青みかかった若草色の髪をした美少女。
最後がパールホワイトの髪と黒いシニョン、赤縁メガネが印象に残る、何故か苦労人の雰囲気を纏った娘である。
……あれ、最後の娘、黒いストッキング履いてるけどスカートとか履いてないから下着丸見え――
「えいっ」
オレの足を躊躇い無く踏みつける桃香によって、意識が逸らされる。
「……大丈夫デス」
「良かった」
「こほん!」
オレと桃香のやりとりで話の腰を折ってしまった。
「すまない、続けてくれ」
「……まあいいですわ。私は冀州州牧にして四代三公の名門!袁家にその人ありと吟われし、袁紹、字を本初と言いますわ」
「私は、顔良です。よろしくお願いいたします」
「アタイは文醜だ、よろしくな」
「私は田豊。袁紹様の参謀よ」
そんな4人を見て美羽が
「妾の子の癖に偉そうにしおって……」
と零す。
「あら、美羽さん、なにか言いまして?」
「なんでもないのじゃ」
地獄耳か袁紹が突っ込んでくるが、袁術は知らんぷりを決め込む。
「ところでそちらの方々は?」
「妾の客将をしておる劉備と、その腹心のキリト、そっちは孫堅のところの孫策に周瑜、孫堅のところの宿将である黄蓋と程普じゃ」
「はじめまして、劉備、字を玄徳と言います」
「……キリトだ」
「……袁術の紹介にあった孫策よ。よろしく」
「周瑜だ」
「……」
「祭、なんで無言なのよ。あ、程普です、よろしくね」
美羽の紹介に対応する一同。
それを品定めするように見る袁紹。
そしてオレの目の前まで来ると口を開く。
「……人使いの荒い袁術さんのところに居たら潰されますわよ? 悪いことは言いませんから、私のところに来ることをおすすめしますわ」
「なんじゃと!?」
「はい?」
「……」
劉備が笑顔のまま怒気を放っている。
「いや、姫も人使い荒い気が」
「猪々子さん?」
「なんでも無いです」
文醜もポロッと零すが袁紹の言葉に慌てて訂正する。
「まあ、この賊討伐が終わるまでって約束だからな。問題は無い」
「ならその後は」
「劉備についていく。もっとも劉備は故郷の上庸に根を張るつもりのようだが」
「……そう……ですの……」
「そういうことだ。――美羽、行かなくて良いのか?」
「うむ。では麗羽姉さま、失礼するぞ」
ドヤ顔をする袁術。
それにオレたちはついていく。
「……女殺しですねぇ」
などと七乃がぼやいていたのでつっこもうとしたら、今度は別の一団に遭遇する。
「あ、桃香」
「あれ、えっと……」
赤毛の少女が一発で桃香の真名を告げたのに、桃香は答えられない。
「「キリト(さん)!」」
「お兄ちゃん!?」
赤毛の少女の後ろに居た4人――シリカ、キズメル、シノン、リーファがオレのそばに駆け寄ってくる。
「皆、元気そうで何よりだ」
「お兄ちゃんこそ……元気そうで良かった」
「だってお兄さん、アスナさんたち以外に、私を含めて6人、既に毒牙にかけてるし、元気は有り余ってると思うよ」
「「「「!?」」」」
安堵の表情を見せながら、4人を代表してオレに声をかけるリーファ。
しかし桃香の投下した爆弾で空気が硬直する。
「……キリト」
顔をうつむかせたリーファが、こちらに顔を向けないままオレを掴む手の力を強くする。
「あの、リーファさん?」
「「……」」
ハイライト消えた目でオレを見るシリカと凍てつくような視線を向けるシノン。
「行方知れずとなってた男が、再会して早々に新しい女に手を出してたと分かれば流石にな」
キズメルが困り顔でそう零す。
「……何を言いたいか分かる?お兄ちゃん」
「アスナと一夏がいるから、そっちに話を通してください。たぶん黄巾賊討伐終わったら、って言われると思うけど」
「……わかった」
とりあえず許されたのか、掴むのを止めて離してくれた。
「キリトさんって本当に気が多いですよね」
「節操なしの間違いじゃない?」
「遅効性の神経毒を無自覚にばら蒔いてる危険生物と何ら変わりないからな。討伐対象に認定されてないのが不思議なくらいだ」
「あー、そこの五人?」
後ろから声を掛けられたのでそちらを向くと、赤毛の娘が申し訳なさそうにこちらを見ていた。
また、その後ろには袁術たちがおり、先程までいなかった白を基調とした服の青い髪の娘が増えていた。
「互いに紹介するから、そっちで話し込んでないてこっちに来てくれ」
「お、おう」
赤毛の娘の指示にオレたちは従い、それぞれの主の側へ移動する。
そして幹事みたいなポジになったその娘が口火を切る。
「それじゃ、改めて。私は公孫賛。幽州の州牧だ」
それに続き、青い髪の娘が口を開く。
「私は常山の趙雲、字は子龍だ。」
「次は私ね。私はリーファ。そこにいるキリト君は義理のお兄ちゃんで、恋人……だね」
リーファの言葉に場の空気が体感数度下がる。
「あら……私はシノン。彼には(GGOとかで)傷物にされたこともあるけど、今は事実婚って関係ね」
さらに下がる体感温度と、締め付けるような胃痛。
「え、え? あ、えとえと。私はシリカと言います。キリトさんとは……人にはちょっと言えない関係です!」
「……キズメルだ。キリトとは風呂や同衾してる間柄とだけ」
「「「!?」」」
アスナや一夏が以前から言及してたから動揺してない桃香と、それ以外で大違いだ。
「なっ、それは本当か、キズメル殿!」
「他3人同様に何度も言っていたぞ?もっとも貴公は生娘たちの集団妄想と一蹴していたようだが」
趙子龍がこちらに向き直り、間合いを詰めて物理的に揺さぶってきた。
「私を謀ろうとしてる4人と口裏合わせてるだけではあるまいな!?」
「なんでそうなる?なんなら4人にある特徴的な黒子の場所あげてやろうか?」
「「「「それはだめ!」」」」
「あっはい」
いつの間にか、オレと4人のやりとりを見ていた彼女が、真っ白になって地面に女の子座りする。
「……では、私は……つまり……?」
「?」
なにやら小声で零す趙子龍。
聞き取ろうとするが、キズメルが制した。
「彼女の名誉のために、聞かなかったことにしておいてくれ」
「わ、わかった。とりあえずこっちも自己紹介するべきだとおもうが……」
話題変更と自己紹介してないことを思い出したので、そこを言及すると、桃香が手を上げる。
「なら私から。私は劉備、字を玄徳。お兄さんの契約者で、リーファさんたちと『同じ』関係だったりします。こっちがお兄さんで真名にして通り名がキリトさんです」
「と、桃香にまで手を出してるのか……!? いや、格好いいの分かるけどさ……」
戦慄してる公孫賛。
それを横目に紹介を続ける桃香。
「それでこちらは袁術さんとその側近の張勲さん」
「くるしゅうない」
「どうもー」
「それから、孫策さん、周瑜さん、黄蓋さん、程普さんです」
「孫伯符よ。よろしくね」
「はじめまして」
「よしなに」
「よろしくね」
挨拶も終わったところで、
「で、ここに並んでる娘たちで未だ手を出してないのは?」
シノンが今日の献立を聞くように自然体で問いかけてきた。
「桃香さん以外手を出してないです」
「……熱とかない?大丈夫?」
しれっとオレの額に手を当てて確認しだすシノン。
「なんで手を出してないと病気かなにかと考えてるんだ……?」
「VRMMOでもリアルでも上からしたまでストライクゾーン広く手を出してた奴がおとなしくしてるって言われたらそうおもうのが自然だと思うけど」
「確かに、一夏さんや千冬さん、箒さん、束さんにも手を出してましたし……」
「お兄ちゃん、怒らないから他に何十人、手を出したか白状しようか」
「……桃香含めて6人だ」
3人の攻勢に折れたオレは素直に白状する。
「……さっき劉備さんも6人って言ってたけど……他にいない?」
「居たらアスナと一夏に半殺しにされてるから」
「……劉備さん、その6人って?」
シノンの問いかけに対し、指で数えながら桃香は答える。
「私に愛紗ちゃん、鈴々ちゃんに朱里ちゃん、雛里ちゃん、そして炎蓮さんだから間違ってないかな」
「……ずいぶんと先を越されたなぁ」
「白蓮ちゃん?」
遠い目をし始めた公孫賛を見て首をかしげる桃香。
しかし公孫賛がなんでもない、と切り上げる。
「それはそれとして、そろそろ向かわないとな」
中天に至りつつある太陽の方を向きながら、そう公孫賛が零す。
「たしかにな」
「では参るかのう」
そうやって少し進むと、ライトブラウンのロングヘアーでポニーテールをしてる四人の娘の一団と眼鏡をかけた年上女性二人組、金髪ツインドリルの少々小柄な少女が率いる一団、すみれ色の髪をしたどこか儚い雰囲気をまとう少女とそれに従う一団に遭遇。
「……なにこれ、抗争でも始まるの?」
「抗争って……。リーファさん、そんな危ない人達の集まりみたいに言っちゃダメですよ」
彼女たちの視線が一斉にこちらを向く。
「あら、貴女袁術じゃない。……私が人づてに聞いてた限り、孫堅に兵を貸すだけで汝南にいるって話だったのだけど」
ツインドリルの少女がそう口を開くと、美羽が口を開く。
「叔母上がもどってきたからのう。安心して家を開けられるのじゃ。それにわらわの命の恩人たちがお主のような人材狂いに言いくるめられて雁字搦めにされては夢見が悪くなるのでな」
「お嬢様、2つ目の理由は言わないほうが丸く収まったんじゃ……」
「あ……」
七乃と美羽の漫才みたいなやり取りを聞いたあと、少女はオレたちや孫策たちに目線を向ける。
「そちらは孫文台が長女、孫伯符……二人の会話を聞いていた態度からして、袁術の命の恩人ではないわね」
「あら、そうかしら? デカイ貸しになるからやるかもしれないわよ?」
「そして貴女の後ろに従ってた3人も違う。――周家の当主と孫堅の宿将二人が袁術の命助けてるなら、もっと孫策の反応が見て取れるから違うわ」
そのあと公孫賛たちの方を向く。
「そして幽州の公孫賛とその客将たち……彼女たちが袁術の命の恩人という線は薄いわ。彼女の発言から、彼女の恩云々が起きたのは汝南に彼女が居たころのことのはず。さて、残るは袁術のそばにいるそこの男女の組になるけど……どっちが袁術の恩人かしら?」
しれっとそれなりの情報網を持ってることをアピールしつつ、足りない部分を発言から要素を取り上げていく少女。
「……汝南で偶然立ち寄った店で助けただけだ」
「お兄さん!?」
「すっとぼけておけばいいのに余計なことを……」
オレに視線が集まり、ついでに桃香に驚かれ、シノンにディスられたがオレはへこたれない。
「へぇ……たしかに美形ではあるし、背にしてる『黒い二振りの剣』がこの大陸の造りではないけど業物に見える。常に私達全員の一挙一動を把握してるし、間違いなく在野にいる人物としては垂涎モノね」
「……」
オレは口を開きかけたがオレたちが向かおうとした天幕が開く。
「軍議開始の時間がまもなくというのに、誰も天幕に居ないとはどういうことだ!」
ガタイは良いが中身が伴ってなさそうな男がオレたちを見る。
「私が少し迷惑をかけてしまったの。……あと軍議は中天を超えたあとってしてたから、まだもう少し余裕があるわ」
紫縁の眼鏡をかけた赤褐色の女性がそう言うと、男は顔をしかめて、露骨に舌を打ってから天幕の中に戻っていった。
「ということで、交流や勧誘は軍議のあとで。軍議のために中に入ってくださいね」
その言葉でオレたちは天幕の中へと入ることにした。