閑話 1-1
あれから一月。
人事異動について、前相談した人事案では仕事量と裁量の縮小から、給金減額になるだろうし、そうしたら不満が出そうだと、人の良い文官が伝えてくれたため、組織編制を考え直した。
結果、文官組は桃香直下の決裁担当として、下から上がってきた内容の決裁や各部署の監査を担当となった。
武官組は前任者は悉く老人だったので、交代というかたちで引き継ぎとなった。
この時に合わせて4000弱が兵士、警備隊、防衛部隊になっていることが分かった。
ただ、平和ボケ地域なのを差し引いても色々ガバガバだったので、慌てて対応に追われ、調練に警備体制の見直しに、募兵にてんてこ舞い。
で、予算や支給についての見直しについて、多忙状態の武官組が対応出来る訳もなく、文官組が対応することに。
ちなみにオレ、ユイ、ティア、プレミアは文官兼武官してる上に、桃香の補助など手を回してるので、多忙極まりなかったりする。
特にオレは分身なかったら絶対過労でぶっ倒れてるからな……。
ちなみに厳岳の爺さんは目安箱の管理や街の顔役との顔繋ぎ、炎蓮と豪族の折衝役、空いてるときに桃香の手伝いをすることになり、結構多忙だったりする。
あと益州牧の劉璋が贅沢と圧政とはいわないが他より重い税などを課してることが判明したりして、足場が固まり次第、劉璋と敵対することがオレたちの共通認識になったりした。
それはさておき。
「……よし。不備なし! 今日はこれでおしまい! お疲れ様!」
武官組の書類回りと、文官本来の仕事をやり終えて死屍累々となってる文官組の書類に眼を通し、オーケーを宣言する。
すると弱々しい声で勝鬨のような声がそれぞれから出る。
「や、やりましたぁ……」
「字が判読できないから、確認するために書いたやつ探してあちこち回るのは想定外だったわ……」
「はわわ……でもこれで暫くは武官さんたちの書類仕事しないでいいから安心かな……?」
「朱里ちゃん、まだ他の県の確認できてないからあしたはそっちもだよぉ」
「……目が…疲れた……」
「崩し文字の禁止を出したほうが良い気がするわ」
シリカ、リズ、朱里、雛里、キズメル、鈴は何らかのダメージを受けている。
もっとも、キズメルについては、目の酷使以外は割りと余裕あるようだか……。
「……この調子では皆さんが倒れてしまいますし、明日は休みにしたほうが良い気がします。……幸い、私やプレミアさんやティアさんはまだ余力ありそうですから、私たちとパパでこなせば大丈夫だと思います」
対称的にピンピンしてるのはユイ、プレミア、ティア(とオレ)。
まあ、3人には本人了承の下、特別な施術してるのもあるのだが……。
それはさておき。
「とりあえず、皆さんが本当に動けないのであれば、私やティアが運びますね。……あ、キリトに部屋までお持ち帰りされて、お世話され、おいしくいただかれるつもりで疲れたフリなさってるのですね。頭の回る方々です」
「「「「違うから!」」」」
プレミアの言葉に全力で反応する文官組。
「まあ、うん。とりあえず明日文官組は休みにして、桃香にも伝えとくから。ゆっくり休んでくれ」
オレは告げ、念のため分身をそれぞれに付けてから、部屋を後にする。
目的地は言うまでもなく、桃香のいる執務室。
桃香に付けた分身が一応伝えてるが、念のため……な。
「私も、休みたい!」
オレが来た瞬間にそう叫ぶ桃香。
オレの分身もいきなりのことで面食らっている。
「……オレ以外の他メンツと違って、桃香は一月ほとんど休みなしだったもんな……うん」
前世で労基に伝えたら労働基準法で逮捕待ったなしである。
それを差し引いても、この時代の太守としては多忙だし、夜遅くとか、朝早くとか、徹夜こそないものの、丸一日休みがないのは異常事態である。
……オレがそのあたり感覚バグっているせいなので、何か言える権利はない。
「なので私もおやすみします! 分身じゃないお兄さんと1日遊んだりしたいです!」
「視察と称してあちこち言ってはそこで子供とふれあったり、ご飯食べたり、割りとエンジョイしてる気が……」
分身から零れた言葉に、桃香が涙目になっていく。
「お兄さん……」
オレは分身にハリセンで突っ込みいれてから桃香の傍に行き、抱き締めて頭を撫でる。
「分かった。分身の判断で決裁はだいたいなんとかしておくから、明日は2人で何処かに出掛けようか」
「……えへへ。うん!」
今泣いたカラスがもう笑うように、彼女の空模様は通り雨から快晴へと変化する。
「それじゃ、何処にいくかね。行きたいところなければこっちで決めるけど」
オレがそういうと、思い付いたように手をたたく桃香。
「なら私のお家がいいかな」
「その心は?」
オレが問いかけるとてれてれしながら彼女は答える。
「アスナさんがたまに話してた2人っきりの新婚生活……って言うの、私も体験したいかなーって。……だめ?」
「まあ、(家事とかはオレがやればいいから)いいけど……」
そうオレがゴーサインだすと、桃香はふんすふんすしながら告げる。
「私もお兄さんに手料理食べさせるからね!……あ、一応しってると思うけど、私は愛紗ちゃんみたいなこと*1にはならないから、安心してね?」
「桃園の誓いした義理の妹に対して容赦ない発言だな……」
「愛紗ちゃんに負けない数少ないところだし……」
「まあ、うん。要望は理解した。……折角だから今夜から家に行くか?」
「! うん!」
政務も終えてること、緊急が来たら分身が対応できることを確認し、オレは桃香を伴い、執務室を後にした。
「……ん」
体内時計で5時(大陸基準)になり、目が覚める。
となりには一糸纏わず幸せそうに眠る桃香の寝顔。
昨日は桃香の家にいき、部屋を軽く掃除して、床につき、少々長い夜を過ごした。
それはさておき。
「……どうするかな」
オレの腕枕で幸せそうに寝てる彼女を動いて起こすこともできないことを自覚したオレは、独り言くらいしかできないことを自覚するためにそうこぼす。
「……ん……? もう、朝?」
オレの声で起きてしまったのか、寝ぼけまなこでオレを見る桃香。
「ちょっと早いから、もう少し寝ると良い。ご飯オレが適当に作って――」
「私が作るから!」
飛び起きて寝台からその勢いで降りようとし、着地に失敗する桃香。
身体をぶつける前にクッションを出してカバー。
なんとか怪我せずにすんだ。
「……怪我はないな?」
「うん……ごめんね?」
しょんぼりする桃香の頭を撫でる。
「無事なら良い。……あとできれば謝るよりは、御礼のほうが嬉しいかな」
そうオレがいうと、笑顔を見せる桃香。
「うん、お兄さんありがとね」
そのままキスしてきた。
「……悪い桃香。ムラッときた」
「お兄さんのえっち」
そういいながらも満更ではない顔をしながら、またベッドに戻る桃香。
まだオレたちの朝は遠いようだ……。
あれから数時間後。
「♪~」
厨房にて、桃香が鼻歌交じりに中華鍋で炒飯を作る傍ら、オレは
「こっちはもうできるけど、そっちはどう?」
「大体できた。あとは羹の味の最終調整ってところかな。……桃香的にどうだ?」
味見用の浅い小皿に少し羹をのせて渡す。
「んっ……んー。もう少し塩多め……かな」
一舐めした桃香の答えを聞いて、味を調整。
「炒飯できたよっと」
わりと慣れた手付きで2人分を皿に盛り付けていく桃香。
オレも焼売と羹をよそい、食器と合わせて配膳する。
「うん、良い感じにできたね」
ニコニコとする桃香。
そして対面の席に座るオレたち。
「それじゃ……いただきます」
「いただきます!」
桃香がオレの言葉に続けて挨拶し、食べ始める。
「うん、うまい。炒飯は米がパラパラとなってるし、卵も良い塩梅だ」
オレがうんうん頷くと桃香もほっとした顔をする。
「お兄さんに美味しいって言ってもらえて良かった。お兄さんの作った羹も焼売も美味しいよ♪」
そう何個も焼売をテンポ良く食べるが、早食いじゃあるまいし、慣れてる訳もなく、順当に喉を詰まらせる桃香。
「誰も盗りはしないって。ほら、水」
すかさず渡した水を一気に飲んでから、大きく一息する桃香。
「……お兄さんの焼売美味しかったからつい……」
「なら、オレが少しずつ食べさせるなら一気食いしないし大丈夫か」
オレはそう結論だしてから、桃香の席に移動し、桃香を膝に乗せる。
「え、お兄さん?」
「ほら、あーん」
炒飯を蓮華で掬い、差し出す。
「あ、あーん……」
勢いに負けて食べる桃香。
「自分で作った炒飯の感想は?」
「……胸がいっぱいで分からないよ」
顔真っ赤で顔を背ける桃香。
「かわいいなぁ」
「お、女の子の恥じらう顔見てかわいいって……趣味悪いよ……」
「事後に意味もなく腹筋触ってうっとりしてる桃香も人のこと言えないと思うぞ」
「そ、それは……」
オレのクリティカルヒットに困惑する彼女。
そんな彼女の前に焼売を出すと、反射的に彼女は頬張る。
……雛の餌付けに見えるなぁ。
などと思いながら、朝食の時間を満喫するのであった。
朝食が終わり特にすることなかったので、庭の手入れをすることに。
いや、2人で遊びにいけとか言われそうではあるが、視察のついでに行った先で買い物したりしてるし、チェスや将棋、囲碁は桃香的に微妙というのもあったのだ。
それならいっそ、普段やらないことを2人でやって、夫婦の共同作業みたいなことしたい、と桃香が切り出したのである。
そして家のなかは厳岳の使用人の手入れがされてるので、あまり手をつけられてない庭の手入れが選ばれたのであった。
「こんなもんかな?」
「こっちも大体終わったよ」
傍にいた桃香が笑顔でそう告げる。
なお、いつもの服では破れたり絡まって解れてしまうかもしれないので、作業用の服(赤の長袖にツナギ……あれ? どっかの配管工?)に着替えてもらっている。
まあ、モデルが着れば大体の服が絵になるように、桃香が着てるからか特に違和感はない。
「? どうかしたの?」
「いや、何でもない」
思考を切り上げ、頭を振る。
「それより、花壇になにか植える余地できたけど、何を植えようか」
「うーん……桃の木植えたいけど広さ足りないし……」
「なら、オレが選んでも?」
悩む桃香に問いかけると、彼女は頷く。
かくいうオレもかなり悩みつつ、ラベンダーをチョイス。
「不思議な匂い……。初めての匂いだけど、私はこの匂い好きだよ」
「ならこれを植えようか。……ある程度量ためられたら香水とかにもできるけど……」
「やるやる!」
「それじゃ、小まめに手入れしたりしないとな」
その後も、山も谷もオチもない2人での時間が続く。
長閑で、平和なひととき。
こんな穏やかな時間を、大切にしていきたい。
そう改めてオレは自分の想いを自覚したのであった……。