「蜜璃様、ユースティアナ様、戻りました」
「あれ?まだ数日しか経ってないですよね?」
文官にあれこれ指揮をしてるピンク色の毛先が若草色の娘ではなく、オレンジ色の髪の少女がこちらに来ながら問いかける。
「かのご老人の仙術にて送って頂けました。それと……彼が北の軍勢を足止めするとの事です」
「えっと……このお兄さんが?」
おずおずと聞いてくる少女。
「困惑するのはわかるし、普通はそうなる。――行動で証明するだけだ」
「それでは……早速向かいますか?」
閻圃の問いかけにオレはうなずく。
「雪泉さん。私がついていきますので、劉璋軍の対応の方、お願いしてもいいですか?」
「厳岳殿の紹介とはいえ、殿方と妹様を二人っきりには……。蜜璃様にちゃんと許可取ってください」
じっと見つめるきれいな瞳に負けたのか、閻圃は判断を上司にぶん投げたようだ。
娘の方に聞きに行った少女を横目に、オレは閻圃に問いかける。
「ところで、あの2人は……」
「あちらの桃色の髪の方が張魯様。今話をしていた方が張衛様です。……くれぐれも不埒な真似はなさらないように」
「あっはい」
会話してると張衛が戻ってきた。
「許可とりました! 雪泉さんは劉璋軍の防衛の指揮おねがいします!」
「では、交代しましょう。――漢中以北の彼への道案内だけで問題ないと思いますよ」
そういうと、張衛のハイタッチに応じる閻圃。
「では、お兄さん! 単独で足止めできるとのことですが、一度馬で敵の軍勢を見に行くのが良いと思いますが、どう思いますか?」
「オレもちょうど提案したいと思っていた。――ただし、オレは馬に乗るより、走ったほうが早いからオレは馬いらない」
「そうなんですか? ヤバいですね」
可愛らしいポーズしながらそう零す張衛。
「とりあえず、厩舎で馬を用意してもらいにいく感じか?」
「はい。時間が在るなら徒歩でいいんですが、流石に急ぎなので」
そのままオレの手を掴んで、すごい勢いで引っ張っていく。
ドナドナを歌うべきだったかな?
「本当に馬と同じ速さで走れるんですね、ヤバいですね」
馬に乗りながら、街道を駆ける張衛とそれに並走するオレ。
「ん?」
反射的に宝物庫からアイスピックを取り出して投擲する。
「AAAAAA!」
投擲した先には羽としっぽ以外が目の化け物がおり、目を穿たれ、地面に堕ちた。
「え、どうしたんですか?」
馬の速度を落とす張衛。
「奇妙なやつを見つけたから……これ」
オレは死体を拾って見せる。
「蝙蝠……ではないですね。たぶん北の軍勢の斥候かなと」
「よし、見つけ次第撃ち落としてく。あとは索敵してるから、いつでも止まれるようにだけしておいてほしい」
「わかりました! にしてもすごいですね。走りながら飛んでいたこの化け物を撃ち落とせるなんて……お姉ちゃんの家臣になりません?厚遇しますよ?」
しれっと勧誘する張衛。
「悪いが、主は劉備だからな。忠臣は二君に仕えずというだろう?」
「うーん、だめでしたか。まあ、今回は心強い味方で居てくれるので、安心ですね」
「まあ、勢力が統合されるとかになったのなら、今後も轡を並べることがあるかもしれないな」
「……なるほど。お姉ちゃんも私も、権力や富を求めてるわけではないので、仲良くできるかもですね!」
そうやり取りを交わしてから、オレたちは北上していく。
「これで、50だ」
傾国の剣の見えない斬撃で目玉蝙蝠を一刀両断し、それを確認しながら走り続ける。
「斥候にしては多いですね。……もしかして、お兄さんが倒した斥候が戻ってこないから警戒されてるんでしょうか……」
「……可能性はある……っと、ちょっと横道に逸れるぞ」
そういって馬を誘導して、主要街道から逸れる。
「え、どうしたんです?」
「敵の気配が近かったからな。あとは後方撹乱したほうが足止めになりそうだと思ったのも理由だ」
「わかりました。お兄さんを信じます」
そのまま少し進むと、林を隔てて主要街道が見える位置にだどりつく。
「!」
馬に止まるよう指示し、張衛にも静かにするよう告げる。
「(どうしたんですか?)」
馬を降りて小声で尋ねる張衛。
オレは林の向こうを指差す。
そこには大小様々な怪物が闊歩しているのが見えた。
「(……報告で聞いてたとおりの異形の軍団ですね……人型はそこそこいるみたいですが……)」
「少し撹乱してくる、そこで待っててくれ」
「はい?」
オレは即座に右目の固有瞳術を発動して、彼女の傍に影を置く。
そして直ぐに瞬身を使って行軍の上に出現する。
「まずは撹乱の一撃だ!」
右手に持つ傾国の剣の見えない斬撃を3つ、先頭、自分の真下、見えるギリギリにいる後方へ飛ばす。
見るまでもなく、眼の知覚の限り、30前後の命が吹き飛び、眼下のモンスターも10ほどが切り裂かれた。
「さて、個による郡の蹂躙をはじめようか」
まずは着地地点にいた狼人間を兜割りで一刀両断。
続いて西洋風の鎧を動かす亡霊の核を夜空の剣で作り出した槍を蹴り飛ばして穿つ。
「OOOOOOOOO!」
巨大な石の人形……ゴーレムがこちらに振りかぶるが
「遅い!」
懐に潜り込み、一閃。
この状況で、オレに集まるものと逃げるもので別れるが――
「南に逃がすかよ!」
斬撃を飛ばし、逃げるモンスターを切り飛ばしていく。
「ぎゃ、ぎゃっ!」
空を飛んで逃げる大型のモンスター。
夜空の剣と傾国の剣を投擲して厄介そうなのを確殺。
そして両手の武器が無いことに気がついたモンスターたちが向かってくるが――。
「火遁・龍焔業歌」
そのまま後続へ向け、炎を放つ。
焔は何もなければ末尾まで燃え続けてくれるはずだ。
「――」
振り向きざまに印を組み
「―――塵遁・限界剥離!」
南側にいるモンスターの足首より上、頭までしっかり入るように対象にし、発動。
敵が綺麗に分解され、残った足首やしっぽの切れ端が、そこに生き物が居た証を残している。
「何者じゃ!」
声が聞こえる前にその場を回転して回避。
オレの居た場所が巨大な氷塊に一瞬にして変化していた。
「――アンタこそ何者だ?こんな怪物の群れをつれて、どこに遠足にいくつもりだ?」
そう言いながらオレが声のする方を向くと、どこぞのコスプレ並に際どい部分しか隠していない黒髪ツインテのロリ(一応紫のロングコートを羽織ってる)がこちらを宙空からみおろしていた。
「我はキャスター……の片割れ!ココに来たのは領土拡大のためじゃ」
「……そうかよっ!」
バックステップ、片手で宙返りして炎、雷の魔法攻撃を回避する。
「お主は召喚した眷属では対処できぬからの、妾が直々に倒してやるのじゃ」
両手に夜空の剣と傾国の剣を呼び戻し、夜空の剣を投擲する。
「はっ、どこを狙って」
「
悪魔の木、ギガスシダーのリソースを再現し夜空の剣から大木が顕現。
そして
「木遁、木龍の術!」
予め夜空の剣に付与しておいた魔力を元に、木遁を遠隔発動。
「ぬわああ!?」
木遁の龍に縛られる(推定)幼女。
「この、妾を侮ると……あれ? MPがどんどん減ってる……?」
もがいていたが、直ぐに力の抜けていってるようで、混乱する幼女。
「……おい」
左目の永遠の万華鏡写輪眼を発動しながら幼女に呼びかける。
「お主!我をなんだと――」
月詠にかかった彼女の意識は途絶える。
「さて、取り調べを――!?」
飛んできた札を回避する。
そして木龍にあたった札は、燃えると共に、木龍だけを腐らせた。
木遁を使ってギガスシダー本体に影響が出ないよう、木龍をパージし、記憶解放術を解除して剣を呼び戻す。
「やれやれ、やはり横着はいけませんね」
メガネを掛けた、青い髪の道士服の男が幼女をキャッチし、俵抱えする。
「……管理者か」
「そういう貴方はサーヴァントですね。……あぶり出すのも一応目的にあったとはいえ、想定より早い段階で」
言い終わる前に斬りかかるがフッと消える。
「……消えた? いや、オレの知覚不可で相互干渉不可なエリアに逃げたか……」
眼を使って索敵するも、気配がぼんやりとあるだけで見当たらない。
『――こちら方面の侵攻は必須ではなかったので、コレで構いません。むしろ、サーヴァントを見つけ、ある程度情報を得られたのですからプラスです』
その言葉とともにその気配すら消えた。
「……」
右目の術を使う。
すると次の瞬間には、張衛の隣に立っていた。
「あれ?いつの間に? お兄さんっぽい影がなにやら身振り手振りしてたから、おとなしくしてたんですけど……」
馬をなだめながらこちらを向いて驚く張衛。
「ほとんど撃退した。あとは討ち漏らしがこっちに逃げてこないかの確認だけで大丈夫なはずだ」
「え?まだ1刻もたってないですけど……え??」
「……なら証拠を見に行こうか」
オレはそう言って、彼女を馬にのせたら、馬をなだめながら先導し始めた。
南側には足から上や、しっぽの切れ端いがい存在しない、伐採後の切り株の群れのような景色が街道に続き、北側は燃えて原型を止めていない様々な肉の塊や炭の塊が道に林立し、さながら炭の森のようになっていた。
「……これ、お兄さんが……?」
「……そうだといったら、どうする? オレを妖術師として討伐の激を周辺に飛ばすか?」
オレがそういうと、彼女は首を横に振る。
「違います。――こんな風になってしまっては、どこも食べるところがないので、もったいないと思っただけです。……足も食べることもできますが、これだけだと……うーん……」
「……ん??」
てっきり嫌悪されるか、畏怖されるとおもっていたので、この反応は予想外である。
「あの、オレのこと、なんとも思わないの??」
「特には? 漢中では規模の大小の差はありますが、異能と呼ばれるようなモノを使える人がいるんです。そのため、そういうのを使える人にも割と寛容なんです。――私も仙術系掌術の一つで傷を癒やす術つかえますから」
そういって馬を降りて、オレの腕に自分の手を当てる。
そして青い光が触れた部分と当てている彼女の手を包むと、体力がわずかながら回復するのを感じた。
「……お兄さん、とっても体力あるんですか? いま普通の人ならお腹に穴が空いてもふさがって、立ち上がれるくらいの回復量を注いだんですが……」
「まあ、うん。桁違いとだけ」
そうオレが言うと、彼女は手を離した。
「うーん……とりあえず、討ち漏らしをみつけたら、焼いたり、足だけにしないで、食べれるようにしてもらえると助かります!」
「え、あ、はい」
オレはそう答えるしかできなかった……。