あれから数時間後。
張衛に妖術師認定されて敵対されることがないと分かったので、自重をほぼ殴り捨てた。
日もくれてきたので、近くにあった洞窟の入り口で料理を作ることに。
「色とりどりの食材ですね! ……少しずつ調理して食べられるか確かめますか」
南に逃げていた討ち漏らしを数体狩ったので、それを差し出すと、彼女は小躍りしてそう告げた。
「毒とか怖くないのか?」
「私、厳岳さんや、おじいちゃん、お父さんから仙術を学んだおかげか、常人なら即死の毒でも、お腹下すくらいで済むんです。なので、少し食べる程度なら、基本問題ないんですよ」
「そうなのか……」
「とりあえず、焼く、煮る、蒸すくらいしかできませんが……」
馬にしれっともたせてた中華鍋3つを、それぞれ石で囲った焚き火の上に載せていく。
「お兄さん、水出せるんでしたよね? この鍋に水をおねがいします!」
「……水遁・水龍弾(弱)」
宙空に小型の水龍を生成して、鍋にダイブさせる。
「おお! すごいです。お兄さんがいればご飯に不自由しなさそうですね」
「……実際不自由しないけどな」
宝物庫から干し飯と干し肉を取り出してみせる。
「う」
「う?」
「羨ましいです! その術どうやって覚えたんですか?私にも使えますか? どんなものでもだせるんですか? 限界はあるんですか?」
すごい勢いで詰め寄ってきたため、思わず後ずさりしてしまった。
「これはオレの生まれつきの能力のようなものだ。――生み出してるわけじゃなくて『ほぼ無尽蔵に存在する』だけだから……生成してるわけではない……(はず)」
そういうと、一転してしょんぼりした顔をする。
「ざんねんです……」
流石にいたたまれなくなったので、代案を提示する。
「代わりと言っては何だが、戻るまでは色々飯とかだすからそれで勘弁」
「……! いいですよ!」
数秒考えるような素振りをみせてから、快諾する張衛。
選択をミスした気がしてならないが……。
その後、オレは芋やらとうもろこしやら、肉やらを提供し、彼女が作る横でカレーとご飯を別途つくったりして。
「色が独特……ですけど、とっても美味しそうな匂いがしますね!なんですか、これ」
いつの間にか渡した分を食べきり、味見してたものも平らげていた彼女が眼をキラキラとしながら問いかけてきた。
「カレーという料理だ。オレはご飯とあわせるのがすきで……」
やや深さのある皿に炊きたてご飯を盛って、カレーを注ぎスプーンを添える。
「ご飯と併せて食べてみると良い」
「はい!」
一口食べる張衛。
しばらく硬直していたが、咀嚼し、嚥下すると、すごい勢いで食べ始める。
「―――!おかわり!」
すぐに無くなり、おかわりを請求してきた。
「オレの分もあるから後1杯な?」
「は、はい……」
そういいながら頑張って味わって食べる張衛。
それを横目に、自分の分を用意して、食べていく。
「うん、美味い。アスナがいればもっと美味いカレーができたんだろうが……」
「?」
オレのこぼれた感想に首を傾げる張衛。
「ああ、オレの嫁のことだ。――料理が上手くて、包容力があって……でも怒らせると怖い人なんだ」
「そうなんですね……その人、他にも料理が上手だったり?」
気になったのか、問いかけてきた張衛。
「そうだなぁ。洋食……大秦やそれより西の国の料理はアスナが得意だな。大陸の料理は鈴、和食……オレの故郷の料理は一夏が一番得意だろうなぁ」
「その人達の料理……食べてみたいですね」
じゅるり……と想像してよだれが出ている。
「アスナたちは援軍にたぶんついてくるから、頼んでみるよ」
「本当ですか!? 約束ですよ、お兄さん!」
「お、おう……」
オレは勢いに押されてうなずいた。
「楽しみだなぁ……。あ、私の真名『ユースティアナ』です。お兄さんに預けますね」
「!? 預けるに足ると思った理由は??」
オレが困惑しながら問いかけると、彼女は笑顔を見せる。
「美味しいものが大好きで、大切な人を想ってるときに優しい顔ができる。それに信用に足りると私が思ったからです。あ、でもペコリーヌって名前のほうが、通りは良いんですよねぇ……。お兄さんは好きな方で呼んでくださいね」
「あっはい。……あ、そういえば未だ名前言ってなかったな。キリトだ。真名であり、通り名だが、そのあたり気にしなくていいから」
「ほえ、真名が通り名……わかりました。キリトお兄さん!改めてよろしくおねがいしますね!」
「ああ。よろしく、ペコリーヌ」
特に何もおきることはなく、次の日の朝となる。
2人で朝食の支度をしてると甲高い鳴き声が響く。
「お、鷹が戻ってきた」
寝る前に漢中に飛ばした鷹(口寄せ契約動物)を腕にのせ、背中に着けた筒から書簡を回収する。
「お姉ちゃんたちからの返事は……?」
「……『にわかに信じがたいですが、他の斥候も進軍してたはずの敵の消滅を確認しました。敵の戦闘能力を完全に把握していませんが、兵士ではどうにもならないのを知っているので、そちらの報告を信じることにします。念のため、第二波や討ち漏らしがないか、天水、長安への分岐点まで北上しながら偵察と陽平関の被害状況の確認をお願いします。あとペコリーヌ、男は狼なのだから油断しないように。水浴びなど持っての他です』……だそうだ」
「……とりあえず、北上ですね?」
「そうなるかな」
ペコリーヌの言葉に頷く。
「っと、話をしてたらできたぞ。今日は一工夫した、炒飯鴨肉包みだ」
大皿にのせて渡したのは鴨1羽の中身を抜き取り。代わりにキャベツと炒飯を詰めて焼いた一品だ。
「すごい!おいしそうです!」
眼を輝かせるペコリーヌ。
「1人1羽な。作るのちょっと手間だし」
「はーい。あ、私も羹できたんでどーぞ!」
お椀によそった羹を彼女は渡してくれる。
「……しっかり食べて、しっかり動き、ぐっすり眠る。 この生活……すごく……健康的です」
「? お兄さんどうしました?」
首をかしげるペコリーヌ。
「なんでもない。さっさと食べて仕事しようか」
ご飯を食べたオレたちは、指定された地点目指し、北上していく。
稀にはぐれモンスターがいたので討伐するくらいであとは特筆することはなく順調にすすむ。
そして昼過ぎる頃には涼州と益州を隔てる関である陽平関にたどり着く。
「……ボロボロですねえ」
「だな」
ペコリーヌがいう通りで、大きな鉄の門の扉は片方が止め金が壊れており、南側に倒れ伏せて敵を阻む能力を喪失しているし、壁もあちこちにガタがきてる、という有り様だ。
「……どうしましょうか?」
「前より丈夫に直しておくか」
印を結んで木分身を用意し、宝物庫、忍術を惜しみ無く使用して修復と改築をしていく。
「……ここは分身に任せて、とりあえず北の方見ておこう。たぶん敵はいないと思うが……」
「……」
提案するも反応無し。
「ペコリーヌ?」
「え、あ、はい!大丈夫ですよ!?」
わたわたする彼女。
「……やばそうなら言えよ? きついなら馬車用意するなり対応するから」
「了解ですっ!」
なんか空回り気味な彼女が気になりつつも、仕事を優先することにして、思考を切り替えた。
――ペコリーヌ視点
(うーん、お兄さんをどうにか味方にできないでしょうか……)
私は馬を走らせながら、それに並走するお兄さんをみる。
時おり紅い目に変わる黒目と、黒髪。
整っており、女性から好かれそうな顔をしてる。
持っている剣から、外套から、服の上下までほぼ黒づくめで申し訳程度に服の縁等に白い線の入った少々珍しい服装。
そして驚いたのが私の見たことない術と、それらを多用しても動じず、触れたときに感じた底の見えない体力。
まだ本気じゃないとかんがえれば、敵対して本気になられたら漢中の腕利きをそろえたところで時間稼ぎにもならないだろう。
「……どうした?」
こっちを向いてることに気がついたお兄さんが首を傾げた。
「ううん、なんでもない」
「ならいいけど」
嘘だが、お兄さんは無理に聞いてこなくて、私にはとても有り難かった。
(……お姉ちゃんも雪泉さんも私も、
よく知る厳岳という老人の後釜として上庸太守となった劉備の噂を思い出す。
――子供に優しく、人の痛みを理解できる方。
――間違ってることを間違ってると言える真っ直ぐな方。
――家臣の意見を聞いた上で決断できる方。
――才ある人たちに好かれ、受け入れる大器の人。
(……うん)
「お兄さん」
「ん?」
「後で構わないので、お姉ちゃんたち宛の手紙を書いて鷹さんに運んでもらって良いですか?」
「構わないが……何を連絡するつもりだ?」
首をかしげるお兄さん。
「門を修理することとか、益州側に敵が残ってる気配なしって感じの報告(とお兄さんと劉備さんの評価と臣従の提案)」
「…………とりあえず、良い時間だから一休みしよう」
そういってお兄さんが速度を緩めたのでそれに合わせ、そのまま適当な空き地に移動した。
――キリト視点
手紙を書くとのことなので、料理の支度と警戒を請け負ったオレ。
「……伊勢海老の塩焼きでも出そうかな」
などと独り言を零しながら適当に料理を作っていると。
「お兄さん」
とてとてとペコリーヌがやってきて、オレに書簡を渡してきた。
「あの人宛でいいんだな?」
オレの問いかけにうなずくペコリーヌ。
宛先に変更が無いのでそのまま鷹に渡して鷹を飛ばす。
「……お兄さん」
「ん? どうした?」
申し訳無さそうな顔でオレに話しかけたペコリーヌ。
少しためらった顔をした後に告げた。
「もし漢中の統治をお兄さんや劉備さんにお願いしたら、了承してくれる?」
「……」
色々突っ込みどころがあったが、言い過ぎないように冷静に一息ついてから答える。
「――悪いが多分今言われても無理としか返せない。『そっちが何を求めてるのか』、『こっちに何を対価として用意できるのか』、『何が絶対に譲れない条件なのか』、『周辺勢力や中央との外交状態がどうなってるのか』とか諸々が全くわからないのに二つ返事で了承できない。絶対後で揉めるし」
「……つまり、『私達から可能な限り条件を全部提示』して、『お兄さんたちと交渉して条件とか待遇をすり合わせて』、『双方依存はないってことでまとまれば』いいんですね?」
「そうなる。もっともいきなりそれを言われても困る。――大方今の手紙にも臣従についての提案を書いたんだろう?」
オレがジト目でみると、きまずそーにうなずく。
「……北の分岐路までは分身に見てもらう。オレたちは飯食ったらそのまま漢中に戻るぞ。たぶん手紙でのやり取りだと、齟齬が生まれて歯車が狂いかねない」
「あっはい」
口寄せで飛んでいったばっかりの鷹を呼び寄せて、宝物庫から出した肉を食わせる。
「報告内容書き直して、どうぞ。終わるまで飯お預けな」
「そ、そんなぁ」
悲鳴にも似た声が青空のもと響き渡った……。