あれから数日後の梓潼の北門付近にて。
「梓潼の制圧完了しました、桃香様!」
「あ、うん。お疲れ様、焔耶*1ちゃん」
「桃香様のご命令とあらば!この程度食前の運動にもなりません!すべて私におまかせください」
「……むりしない程度に、ね?」
「はいっ!怪しい奴が居ないか先入りして見回りをしてきます!」
「……いっちゃった」
会話のドッジボール具合から何となく察することができるかもしれないが、順調に進む益州制圧と裏腹に、焔耶が暴走気味で制御が効かず、悩ましいことになっている。
オマケに彼女以外の命令は聞かず、オレに対してはもはや居ないものとして扱ってる不始末である。
「桃香様。バカ弟子の手綱を握れてないこと、誠に申し訳ない」
「桔梗*2さんが悪いわけじゃないからね?」
申し訳無さそうな桔梗を桃香が宥めている。
「だけど……流石にあれは問題しかないというか……キリト君を無視なのは流石に……いや、キリト君毒牙からの自衛手段と考えれば正しい……?」
「アスナ、多方面から考えすぎよ」
アスナの言葉にシノンが突っ込む。
「いっそキリトと桃香のしてるところに彼女を放り込んで手篭めにしてしまうのが早いと思います」
「それは最後の手段!!」
プレミアのぶっこんできた内容をやるつもりが無いと遠回しに釘刺し。
「あのバカ弟子もいける口なのか、キリト殿は。なら儂はキリト殿的にどうなのかきになるのう」
「我も行けるみたいじゃし、お主も全然ありだと思うぞ」
「……ねりこさんとはいつの間に関係を?」
ねりこと桔梗さんの言葉を聞いてジト目になる一夏。
「この世界に降り立ってからねりこには手を出してない。前世の一つでデートとかしたことはあるけど」
「……嘘付いてたらどうしようかなと考えたけど、本当にそうみたいね」
アスナがじーっとみてからうなずく。
「キリト、うそつかない」
「お兄ちゃん……」
オレのカタコトの言葉になんとも言えない顔をするリーファ。
「劉備様!」
慌ただしくやってくる兵士。
「どうしたの?」
「中央からの使者が参りました! 如何致しましょうか!」
「んー……使者の方には安全を考慮してこの天幕でもてなすことと、その無礼についてお詫びを伝えておいてくれる?」
「はっ!」
そう言って去っていく兵士。
「ところで中央の使者って何の使者だろう」
そういいながら桃香がオレをみる。
「――聞いてのお楽しみってことで」
「焦らしはプレイだけで良いんだけどなぁ」
「逆に考えれば、これは真っ昼間から公然で行われてるプレイということになりますね。……キリトは変態です」
「プレミアさん、斜め上からの殴りかかりは止めて!?」
ちょっとからかったつもりが、とんでもない形で帰ってきたことに慌てていると、使者が来たことが告げられた。
そしてそこに来たのは――
「え、風鈴先生!?」
桃香が目を丸くする。
「お久しぶりね、桃香ちゃん。元気そうで何よりよ。……っと、積もる話はあるけど、先に使者として、仕事をするわね」
そうほんわかした雰囲気の彼女告げた後、懐から書簡を取り出した。
「――皇帝、劉宏より。汝劉玄徳に『宗室』であることの認定と『益州牧』、『蜀王』、『漢中王』に任ずる……んん?」
呼んでいて違和感しか無くて、途中で読むのを止めて黙読を繰り返し始める盧植。
オレ以外のオレたち陣営のみんなも困惑。
「役職兼任になんか問題在るかな?」
オレがわざとらしくユージオに話を振る。
「いや、ないけど……州牧だけじゃなく、宗室認定に蜀王と漢中王の2つも兼任なんて前例、きいたことがないから……」
「私の記憶でもはじめてですね。……周辺の勢力から睨まれなければ良いですが」
ユージオの隣りにいたアリスも零す。
「……と、とりあえず、皇帝の勅、受けますか!」
「はい、受けます」
そういって書簡を受け取る桃香。
「さすが桃香様! 皇帝からも認められる人徳! 素晴らしいです!」
それを見てテンション爆上がりな焔耶とそれにドン引きな一同。
「えっと……あと劉璋討伐も上奏が認められました。討伐をお願いします」
「はい、がんばりますね」
盧植の言葉にうなずく桃香。
「……さて、使者としての仕事が終わったから、私の中央の仕事もおしまい」
「え、そうなんですか?」
キョトンとする桃香。
「ええ。だから差し支えなければ、ここでお世話になっても良いかしら?」
「! はい、もちろん」
師匠が来てくれたことに笑顔を見せる桃香。
「それじゃ、改めて今後の方針を決めるとするか」
オレがそう言うと、いつの間にか戻ってきた若干一名を除いてうなずいた。
「――現在梓潼の制圧が完了し、今後の方針が『益州制圧』って大雑把な方針しかできてないから細かく詰めるが……『劉璋の拠点となっていた成都』を桃香と元劉璋軍の誰かを中心とした少数で落としてもらうのと同時並行で『江州、建寧』を迅速に落とす組に分けて行動することを提案する」
「……桃香様に成都制圧をしてもらうのは、『蜀王の称号』と『益州の後継者』としての実績にするためですね?」
雛里の問いかけにうなずく。
「少ない兵で人徳を持って降伏を呼びかけると、民は新たな主と認め、それを受け入れた……のほうが美談にしやすいしな」
「そうすると、江州、建寧制圧組の目的は『敵が戦意を取り戻す可能性を迅速かつ確実に刈り取る』ためですね?」
「……永安については放置で良いんですか?」
ふたりの質問がきたのでまとめて答える。
「前者についてはそのとおり。そして後者についてだが……『そこに劉璋を追い詰め、劉表の動きをみる』ためにあえて手を出さない」
「? 劉表の動き……?」
桔梗が首を傾げると、ねりこが合点がいったとばかりにうなずいてオレの代わりに答える。
「此奴ワルじゃのう。――成都、江州が陥落してしまえば建寧など袋の鼠になるから普通選ばぬ。あそこは北と南以外は山に囲まれており、南は荊州に出る道が無い実質袋小路でのう。――他との交易なしでは割と簡単に干上がるという立地でもある。その出口をふさがれては『詰み』になるから選べぬ。……そうすると劉表のいる荊州と隣接しておる永安ににげるしかあるまい。……ここまではよいな?」
一同にねりこが理解度を確認し、問題なさそうなので続けていく。
「さて、追い詰められた劉璋。しかし味方が益州内におらん。――孤軍奮闘するというアホな回答はナシで、現実的な行動として何が在るかわかるか、桔梗」
「……孤軍奮闘でないなら普通『ほかから味方を引き入れる』しかな……ココで劉表がでてくるのか!」
膝を打つ桔梗。
「えっと……どういうことなのだ?」
鈴々がわからない代表として質問すると、雪泉が答える。
「永安に落ち延びた劉璋は益州に味方が居ない状態です。そして孤軍奮闘したらどうやっても勝てる見込みが無いんです。そんな劉璋に残された道は普段隣の州で仲良くしてる劉表に助けを求めるってことになります。――ここで劉表が介入してくるなら、皇帝に逆らう逆賊となって、こちらが焼くなり煮るなり好きにできます。だって、皇帝から『益州牧』と『漢中王』、『蜀王』に任じられ、宗室として認定されてますからね。大義名分はこちらにあります」
「ほえー」
「つまり『劉璋を餌に劉表の器を測り、耄碌してこっちにちょっかい出してきたこと理由に潰せる』から『息の根をあえて止めない』ってことだな」
「ってことになるんだが他に案ある?」
「「「「異議なーし」」」」
ほぼ全員の回答を確認したオレは朱里を見ながら告げた。
「それじゃ……オレはどっちにもついてくから、あとの司会進行は朱里に任せた」
「はわっ!? 最後までキリトさんがやらないんですか?」
「いや、だって……オレの出した方針についても解説できる面々がいるし、あとは誰をどこに割り振るかになるから、オレよりほかの人……仕事割り振るの得意な朱里に任せるべきだとおもったんだ」
「き、キリトさんの期待に答えるため、がんばりましゅ!」
「……やはりこやつ、相当な女誑しでは?」
おめめぐるぐるな朱里をみながらねりこが酷い疑いをふっかけてきたのであった……。