第0話 女神
「――目を覚ましたかな?」
目を開くとそこは深海の底を思わせるような暗さと、水泡が浮かんで宙へと消えていく不思議な空間であった。
しかし、周りの景色は光がないはずなのに、太陽の元にいるかのようにモノの形や色ははっきりと見える。
周りの泡の色も、口から出る泡の大きさも――
「――!?」
吐息が水泡となって泡立つのを見てオレは慌てるが――。
「――落ち着いて。ここで呼吸は意味をなさないから」
傍でオレの顔を見ていた女性がそういうのと共に、思考が落ち着く。
腰まであるシルバーブロンドの癖のない髪に蒼い瞳をしている美女である。
「……ここは……?」
呼吸が出来ている事態にもはや驚くのを諦め、疑問を解消していくことを優先することにした。
「ここは……君のイメージしやすいように言えば『管理システムの領域』となるかな? 最も、君の知る『SAOを始めとしたMMO』の管理システムではなく、『いくつもの泡沫世界の管理システム』となるけどね」
「……?」
理解できるようで理解が追い付ききれない。
「まあ、3回ほど前の人生で何度か読んだことがある神様転生とかで特典をくれた神様とでも思ってくれればいい。強いて違う点を挙げるとするなら、君が最後にいた世界を管轄してる存在とは別口とだけ。あの世界が突然滅びた理由について問い合わせは受け付けません」
最後の言葉と共にフラッシュバックする記憶。
なら元の世界の管轄の神とやらに問い合わせさせてくれ、と思ったがたぶん色のいい返事をしてくれないのだろう。
「そういうこと。とりあえず……『飽きたからポイ捨て』みたいなノリで廃棄された世界のキリト君。交換条件で『君と共に居た友人たち』と住むことができる新しい世界を始めとした色々な便宜を提供しよう。条件はコレね」
と目の前にデータが表示される。
「…………アンタが約束を守る保証は?」
そういえばコイツは何て呼べばいいのだろうかと思いながら問いかける。
「ふむ……なら君が瞑想中に私と連絡とれるようにしておこうか。あとこっちの契約書を持っておくといい」
と羊皮紙っぽいものを渡してきた。
そこには「以下契約を契約者キリトが遂行することを条件に女神エフィーリアは有形無形の支援を行う。なお、必須と書かれた項目以外は成否を問わない」という感じの文面がかかれていた。
それがオレの中に滑り込んで溶け込む。
たぶんストレージに入っただけだろう。
「……アンタの思惑に乗ってやる。――ただし、騙すならただじゃおかないからな」
「無論。何だったら――」
と間合いを一瞬に詰めてきて
「――!???」
「――ふふ、女神の口づけ、おまけに初物だ。これだけ入れ込んでいるということで、奮起してくれたまえ。もし続きがお望みなら、契約完遂してからだ。待ってるからね?」
突然沸いた胃痛と共に、意識が遠くなる。
――……そろそろオレ、後ろから刺されるかもしれない……。
そう思いながら、意識を失った。