たぶん次が終わればしばらく洛陽の分身回想編になります。
――成都 桃香視点
お兄さんが前言っていた通り、黄忠さんが数人のお供を連れてやってきた。
「こちらが劉璋の頸となります。ご確認お願いします」
そういって差し出した箱をねりこさんが受け取って、こちらに持ってきた。
「うむ、劉璋の頸で間違いないのう」
「みたいですね」
死体は見たことあるが、やはり見てて楽しいものじゃない。
そしてまだこちらのものになってないので、ねりこさん経由で黄忠さんに戻す。
「……えっと、そのままお渡ししますが……」
困った顔の黄忠さんに、桔梗さんが告げた。
「紫苑よ。我が主はもらった後に何かしら要求されても困るから、先に色々決めておきたいそうだ」
桔梗さんの言葉に納得したように頷く。
「色々勘ぐらせて申し訳ありません。劉表様からは『特に対価は不要。強いて言えば隣り合う州の牧として、同じ宗室としてよしなに』とのことです」
えっと、この場合は……どうするんだっけ?
私がワタワタしてると、ねりこさんが小声で教えてくれた。
「『親しき仲にも礼儀ありと言います。ささやかですが謝礼の品をお受け取りください』じゃよ」
「親しき仲にも礼儀ありと言いますし、私の気が収まりません。心ばかりかもしれませんが、金子などを用意しましたので、お持ち帰りください」
ワタワタしたまま話したせいか、桔梗さんとねりこさんが微妙そうな顔をした。
「……ふふふっ」
黄忠さんがまるで子供の成長を微笑ましく見守るお母さんのような笑顔を見せた。
「ここからは腹を割って話しましょう。腹の探り合いして、お互いにいたくもない腹を探られるのは不快ですからね」
「あ、はい」
「劉表様は荊州牧としての方針が『荊州の繁栄と不要な戦争の回避』となっています。そのため、『新しい州牧の劉備様がこちらに敵対しない、攻め込まないという取り決め』ができるなら、『劉璋の頸はいらない』とのことです」
すごく、本音を暴露された気がする。
「領境での小競り合い、賊徒などについては?」
ねりこさんが冷静に質問すると、
「いずれも大事になる前に双方の県令、太守、州牧が動いて穏便に収めるよう、動く方向で。無論後者はどちらかの手の者であろうと討伐ですが」
と黄忠さんが答える。
「『劉璋程度の頸はくれてやるし、交流とか境での揉め事もこっちもある程度配慮するから、こっちと揉めないように努めてくれ』ってことか。……儂としては問題ないと思いますが桃香様はいかがお考えで?」
桔梗さんが試すように私を見る。
ねりこさんは……面白がってるだけか。
私は息を吸い、吐いて、また吸ってから答えた。
「此方としても不要な争いは望みません。荊州にこちらから侵略や宣戦布告を行うつもりはありません。しかし――」
私は自分を落ち着かせるために息をする。
「――こちらに攻め込んで来たのなら、報いは受けてもらいますし、荊州で圧政や暴政を行うようになったのなら……。私は……私たちは、荊州の民のために立ち上がると思います。……この言葉と、心ばかりですが礼を持って、お帰りください」
「「「……」」」
な、なにも反応ないけど空回ったかな……?
「分かりました。しかとお伝えさせていただきます」
そういって頸の入った箱を置いて、兵士に持たせていた金子の箱を受け取り去っていく黄忠さん。
彼女が見えなくなると、2人が口を開いた。
「良い啖呵だったのう」
「キリト殿も一層桃香様を善き主として認めてくれるでしょうな」
「オレもそう思う」
「「「!?」」」
いつの間にかいたお兄さんに驚く私たち。
「お兄さん、いつの間に!?」
「オレ普段から桃香を護衛してる分身。あと普段夜か仕事忙しい時以外は姿消してるだけだから」
そういって背中を向けるお兄さん(の分身)。
証拠に黒い外套に「壱」という数字が白字でかかれている。
夜にお兄さん(本体)が来ない時に相手してくれる分身で間違いなかった。
「本体からの伝言な。『民のことを思える桃香が主で良かった』だそうだ。とりあえず伝言したから任務に戻る」
言うだけ言って分身さんが風景に溶けて消える。
まあ見えないだけで居るんだろうけど。
「とりあえず……私たちはできることをしていこう」
――民の平和な生活を護るためにも――
私は改めてそう誓うのだった……。
――永安 イオン視点
「今夜、イオンの部屋に行っても良いか?」
仕事が一段落してお茶を飲んでいた私は驚いて噎せてしまった。
「けほっ……いきなりどうしたの?」
「いや、イオンからのデートも、わりといきなりだったし……なかなか言い出す機会がなくて……ごめん」
申し訳なさそうにするキリト。
「で、でも、心の準備する時間があるから、だ、だだだ大丈夫!」
「……その態度を見て大丈夫と思う人居ないと思うのですが……」
狂三ちゃんからの言葉が痛いよ……。
「イオン……待たせてごめんな」
そういってキリトは部屋を後にした。
「……とうとう私のマスターもキリトさんの毒牙にかかって劉備軍竿姉妹部の一人に……」
言い終わる前に狂三ちゃんの後ろからアームロックをかけるレナルルさん。
「狂三さん、イオンを困らせないでください」
「わ、分かりましたから、離してくださいませ!」
……2人のやり取りを横目に自分の部屋に戻る。
何か折れた音がしたきがするけど、たぶん気のせい。
夜も暮れ、明かりの真空管を灯す(動力源は城の地下の魔力溜まりを電気に変換したものらしい)
じっとしてるのがどうしてかできなくて、自分を落ち着かせるように姿見で変なところないか30回以上確認していると、ノックが4回された。
「あ、あいてますにょ」
思いっきり噛んでしまった……。
わたわたしてるとキリトが入ってきた。
「イオン、大丈夫……じゃなさそうだな。落ち着いて、ほらヒッヒッフー」
「ヒッヒッフー……ってこれ、ラマーズ法だよね!? 私妊婦じゃないよ??」
私がそういうと、彼は苦笑した。
「分かってるさ。でも――緊張は無くなっただろ?」
「あ……」
言われて気がつく自分の状態。
「その、ありがとね」
「端末を通じていたし、オレにとってはいくつも前の前世の話だが、夫婦になった相手のことだ。覚えてるさ」
そういって私を抱き締めるキリト。
「……キリトもドキドキしてる。早鐘みたいに動いてる」
「……」
珍しく(?)狼狽えるキリトを見て、彼も私と同じ人なんだと実感する。
「イオン……漸くこうしてふれあえたな」
「うん」
「こっちから話せること無かったけど、これからは色々話してくから」
「うん」
「あと数多くの女の子と関係あるし、これから増えるかもだけど許してほしい」
「うん……うん?」
思わず頷いたけど、女の子として納得できない。
彼の今のパートナーや、回りに居る娘たちがいるし、納得しないとなんだけど……。
「……本当は認めたくない」
「……ごめん」
独り占めできないと分かるから、せめて抵抗だけでもと彼の胸板にペチペチと力のこもらないパンチをしてから、私も彼を抱き締めた。
「……今夜は、私だけを見てくれないと、嫌だよ?」
「……そこのクローゼットにいる2人がいるから、気になって難しいかも」
私の言葉に、ばつがわるそうに答えるキリト。
そしてキリトの言葉に観念したのか、クローゼットから出てきたのはいつの間にか侵入してたレナルルさんと狂三ちゃんだった。
「……イオンの親代わりとして、見守ります」
「主の傍にいるのは従者の役割ですわ」
キリトが2人の言葉に居心地がわるそうな顔をする。
「流石に空気読んでほしいなぁ」
「……イオン、何かあったら直ぐ呼ぶのよ?」
「できれば混ざって魔力供給してもらいたかったのですが……退散しますわ」
そういって出ていくふたり。
そうするとそっと私の額にキリトがキスをした。
「……イオン、怖かったら言うんだぞ?」
「大丈夫。……この時をずっと、待ってたから」
私は少し背伸びして、彼の唇にそっとキスをした。
「……悪い、手加減できないかもしれない」
彼はそういうと、私をお姫様抱っこし、寝室へ連れていくのであった……。