あれから数日。
時折休憩をはさみながらの馬車の旅の末に新野にたどり着いた。
町外れの宿を選び、馬車を停める。
「3人とも、着いたぞ。……宿とこっち、どっちで寝る?」
「流石に宿かなー?」
「居心地良くて、堕落してしまいそうですしね」
「鈴々も2人と同じなのだぁ」
フニャフニャのへちょ状態の3人が何とか羽毛布団などの魔力に抗って出てきて、寝間着から着替えを始める。
「あのー、オレ見てるのに脱ぎ始めるのはやめてほしいかなー」
即座に外に顔を向ける。
「お兄ちゃんになら、見られてもいいかなーって」
「えっと、前読んだ本でこんなやりとりでたしか……『見せるためにやってるんだよ?』だっけ」
「……! キリト殿の御目汚しをしてしまい、申し訳ありません」
特に気にしてない鈴々にアピールしてるらしい桃香、2人と違い我に返ってあたふたする愛紗。
「うら若き乙女が野郎に晒すことを気にしないのは良くないぞー。あと愛紗は自分を卑下しないように。着替え終えたら出てこいよ」
オレはそう告げてから幌の入り口を下ろす。
「――キリト?」
響いてきた鈴のような声に反応して振り向くと、そこには濡れ羽色の肩にかからないくらいの髪と、水底まで見えるような透き通った蒼い瞳の少女が、少女とにた顔つきで、髪を白く、6年ほど成長したような姿の娘が眼を見開いてこちらを見ていた。
「……プレミア、ティア?」
2人とも手にしていた袋などを無意識か手から零しながら御者台のそばまで歩いてきた。
オレも御者台から降りて、2人を見る。
「キリト、また会えて……嬉しいです」
「あなたも元気そうね」
ほろほろと涙を流す
「オレもまた会えて嬉しいよ」
と2人を抱き締めて撫でる。
しかしその瞬間、背中に寒気と胃に激痛が走る。
「パパ……?」
「キリト君……?」
「お兄さん……?」
御者台挟んで反対側と、幌の入り口の方から声がする。
動かない身体を精一杯動かして振り替えると、そこには入り口から顔を出して困惑してる桃香たちと、悲しそうな顔をする腰まである黒髪と黒い瞳の少女にライトブラウンの瞳と背まである髪を靡かせた娘がオレを見ていた。
「ユイ、アスナ……!? 2人とも……無事でよか」
「キリト、まだ私は撫でてもらいたいです」
「それとも、私たちは適当にあしらっていいとか思ってる?」
オレの服を掴んで撫でろと要求してくるプレミアとティア。
「「……」」
「オレ、どう転んでも詰みなんだけど……」
あっちを立てればこっちが立たずという状況に追い込まれたオレは、肩を落とした……。
「どうも、『キリト君の妻の』アスナと言います」
「パパとママの娘のユイです」
「『キリトのあいじん』のプレミアといいます。こっちは妹で『愛人2号』のティアです。こっちの方が体つき言いとか思った人、後で反省文提出してください」
「……『愛人2号』のティアよ。もっとも、彼には自称や潜在的愛人が他にもいるみたいだけど」
「私は劉備、字は玄徳です。お兄さんを召喚したマスター……ってのです。真名は桃香で、普通に桃香と呼んで下さいね」
「私は関羽、字を雲長という。キリト殿にはとても良くしていただき、大変お世話になっています」
「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ。お兄ちゃんは鈴々たちの力になってくれてとっても助かってるのだ」
近くの飲食店にドナドナされ、長方形テーブルの誕生日席にオレ、右側にアスナたち、左側に桃香たちが座っていた。
そして挨拶から何故か(表情は笑顔なのに)お互いを敵視している。
胃が痛いぞ???
「……みんな、食べに来たのに、お互い威圧してどうする。余波に宛てられた店員さんも怯えて裏に引っ込んだぞ?」
オレがそういうと、アスナが絵顔のままこちらを向く。
「キリト君に優しくされたりして、勘違いしたり、手遅れになる前にしっかりと釘を刺してるだけだよー?」
「オレ、そういうつもりは」
「パパ、論より証拠です。前科多数のパパに弁解の余地はないですよ? 束さんとかだったら『ならそんなことできないくらい疲れれば良いよね?』って搾られますよ?」
「……」
アスナに反論しようとして、インターセプトしたユイの言葉にぐうの音も出ずに撃沈する。
「……まあ、キリトのいう通り、食べに来たのに何も注文しないのは良くないので、注文はさっさと済ませましょう。食べながらや、食べてからでも会話はできますからね」
アスナもお腹すいたのか、プレミアの意見を採用し、店員を呼ぶのであった……。
「それでキリト君と一緒にここまでねー」
「私たち話しましたし、お兄さんのこともっと知りたいです」
空腹なのもあったのか、ピリピリしていた空気は料理が届いたタイミングを頂点に、ゆっくりと雲散霧消し、オレの話を肴にしたほんわか女子会へと変貌を遂げていた。
「まあ、私たちもキリト君についてくから、その間に話すわね。……にしても水鏡女学院に臥龍と鳳雛ね……プレミアちゃんやティアちゃんは誰か心当たりある?」
アスナがふむ、と考えて2人に水を向ける。
「私とティア……ではないので、おそらくあの2人ですね……」
「水鏡先生の特にお気に入りな2人……諸葛亮と龐統でしょうね」
「たぶんその2人だろうな」
オレは上がった名前に感じるところがあったから肯定的な反応をしておく。
「「……あっ」」
「ん? どうしたの、二人共」
オレの言葉から少し間が相手から二人が何かを思い出したように立ち上がる。
アスナがオレたちの言葉を代弁して問いかけると、
「学院の買い出しで外出してたんでした」
とすっかり忘れてたな―という感じで答える。
「それ大変じゃないの!?」
プレミアのアスナを始め、桃香たちも立ち上がる。
「まあ、買い出しでの買い食いとかはたまにあるし、そこまで心配されていないと――」
「プレミア! ティア!やっと見つけた! なぁに買い出しサボってるのよ!」
「あとキリトがここにいるって近くの宿前の馬車の上で昼寝してた自称分身から聞いたけど、本当かしら!?」
ティアが良い終える前に店の入口から入ってきたのは、ピンク色の髪とそばかすが特徴的な娘、リズペットと、焦げ茶系の髪をツインテールにした翠玉を思わせる瞳の少女、凰鈴音であった。
「すみません、リズ、鈴。キリトに再会できてアスナたちとご飯食べに行くことになってすっかり忘れていました」
「しれっとオレに責任なすりつけしようとしてないか???」
「なら仕方ないわね」
「え、それで納得するのか?」
プレミアとリズのやり取りに困惑する中、鈴がオレに声をかけてきた。
「……一夏は一緒じゃないのね。どこにいるか知らないけど、アンタの存在を知覚していの一番に合流してると思ったけど」
「そう……なのか? というか、オレも色々確認したいことがある。オレが奢るからさ。あとプレミアたちとのやり取り的に二人も女学院関係者みたいだし、この後そこにも用事あるから荷物運び手伝うついでに取次してもらっていいか?」
「ふーん? まあ、良いけど」
「それじゃ、何頼もうかしらねー」
オレの言葉に二人が近くの席動かしてオレたちの席につなげる。
「ミイラ取りがミイラになってますね……」
「気にしたら負けだ」
ユイの言葉を制して二人からも話を聞くことにした―――。