あれから数日後。
朝日が差し込み始める頃に汝南にたどり着く。
「さてと……そこの宿にするか」
オレは入ってすぐのところにある大きな宿の前に馬車を停め、宿に入る。
「ここの宿、12人泊まれることはできるか?先払いでとりあえず1泊分支払うから」
オレがそういうと、ガタイの良い、漢女っぽい人が出てきた。
「ずいぶん多いわね。夜と朝分の食事付き?それとも素泊まり? 一応前者の方がお得だけど」
「食事付きで。代金はこれで足りるよな?」
と巾着ごと金を渡す。
「……多すぎるくらいね。10泊くらいできるわよ?」
「馬四頭の餌代と荷馬車を店先かその近くに置く代金で4泊ならどうだ?余りは従業員の賄い一品追加とかに回したりしてくれ」
オレがそういうと、漢女は笑顔を見せる。
「良いわ。気前が良い客は歓迎よ。ただ馬車の方は馬小屋近くに移させて貰うのと、荷物の盗難保証出来ないから6泊ってことで。もちろんウチの従業員が盗んだら落とし前はちゃんとするから、それ以外の保証はなしってことで」
「わかった。荷物番が馬車についてても構わないな?」
「良いけど、夜露に濡れるとかの文句は受け付けないわ」
「了解。それじゃ、馬車の移動先へ誘導よろしく」
皆を起こし、分身を荷馬車と馬たちのそばに配置してから、誰がオレと町を散策するかで揉めるのを横目に、朝食を食べたり、ユイの頬をふにふにしたりした。
じゃんけんをいつの間にかアスナたちが桃香たちに教えたのか、じゃんけんで決めることに。
オレと朱里、雛里とティアという組み合わせになったが、悪くない組み合わせな気がした。
「……で、どこに行くの? 長期滞在の予定はないから、適当に人探しする感じになるけど」
宿を出て、町の中心に進む俺たち。
「2人が行ってみたいところに立ち寄って、余った時間を町の散策と人探しに当てる感じかな。人探しは必要だけど、緊急性は低いし、何より2人と仲良くなる方がオレにとっては優先度高いしな」
ティアの言葉にオレはそう答えた。
「はわわ、私たちと仲良く……ですか?」
「キリトさんみたいなかっこいい人、畏れ多いといいますか……」
2人とも帽子を目深に被りながら慌てたように反応する。
「……キリト、男に免疫ほとんどない2人を誑かすのはやめなさい。束さんか一夏とかに浮気認定されてまた搾られるわよ?」
「これで浮気認定とか、オレ女性と会話しない方が良いまであるな。……いや、騙されないぞ。男とばっかり会話してたら、オレとそいつの掛算するようなそっち系の本が流通しだすからお断りだ!」
「キリトさんと……別の男の人……ゴクリ」
「あの本みたいなこと……キリトさんが……?」
2人の反応をみた瞬間に確信する。
――ダメだこの2人、腐ってやがる……。
「ちなみに私はノーマルだし、キリト以外はお断り。あと人としての肉体得たから子供もたぶん授かれる」
「道のど真ん中でいうことじゃないよね!?」
頭抱えたくなったか、堪えて立ち直る。
「――で、2人とも、どこか行きたいところは?」
「はわ、できたら書店に行ってみたいかな……って」
「あわわ。義勇軍を結成したときの、部隊の運用について、私と朱里ちゃんが主軸でやると思うので、その辺りの本をできたら……」
「ならそうするか。代金はこっちが持つし、荷物も持てるから好きな本を買うと良い」
オレがそういうと、2人は眼を丸くしてオレに詰め寄る。
「な、なら、兵法書でいくつか欲しいものが」
「私は、農書で欲しい本あったらかっても!?」
「必要ならな」
オレの事実上のGOサインに、2人は喜び、ティアは甘やかしすぎ、とオレを窘めた。
「すごい……学院で見たこと無い本がたくさんある……」
「あっちにもすごい本がある……」
目をキラキラさせて、本の森へと突撃を敢行する二人。
まあ、気配的に店に自分たち以外は入り口の店員さんだけだから問題はまあ無いだろう。
「……貴方は行かないの?」
オレが動かないことに首をかしげるティア。
「……まー、宝物庫漁れば多分ここの本だろうと全部『在る』はずだからな。特に問題ないかなーと」
「なら二人にあげたりしてもいいんじゃないの?」
「宝物庫の中の蔵書探すだけで普通の人間の寿命尽きるからな。それに、無意識で取り出すと、この時代よりはるか先の人間の注釈とかが付いたものを出しそうになるのもある。なるべくこの世界のモノはこの世界で完結させておきたいってのがオレのわがままだ」
「……ま、キリトがそう言うならいいけど」
しれっとオレの腕を掴んでオレに背を預け、あすなろ抱きのような格好になる。
「キリトは行く先々で女の子を無自覚に落としてくんだから、もう少し振る舞いを自覚するべき。……私ですらもやもやするから、アスナや一夏達は計り知れないわ。そろそろ刺されるわよ?」
「前歴在るんで善処はしてるけど、多分今後もアスナたちに折檻されるのは不可避だと思う」
オレが遠い目をしながらそう零すと、ティアが肘で脇を小突く。
「そういうところはだらしないんだから。……でもそういう甘いところのおかげで私は救われたんだけど」
甘えてくるティアをなでたり頬を指でつついてふくれっ面されたりしてると、こちらに戻ってきた二人がオレたちを見て顔を真っ赤にし始める。
「はわわ、私達がいない間にあんなことを……」
「たしか、キリトさん何人も侍らせてるって言ってたし、あれくらいは日常茶飯事なのかなぁ?」
「作戦通り、ね」
「外堀を埋められていたか」
ティアのこぼした言葉にティアが振り返ってジト目をする。
「お手つきしておいて今更外堀も何も在るのかしら?」
「ごもっとも……っと、二人共、欲しいものはそれだけか?」
うなだれてから思考をリセットし、二人に確認する。
「え、えと。大丈夫です」
「切り替えが早いですね……」
「それじゃ、会計済ませるかな」
二人から本を受け取って、そのまま会計済ませたのは良かったが……。
「「「……」」」
「今回はキリトが悪いわね」
呆れた顔でオレたちを見るティア。
「いや、だって……まさか艶本……しかも過激なのを本の中に挟んで買うとは思わなくて……」
「「~~~~」」
「これ以上突っつくと二人泣き出すわよ? 私弁護しないからね?」
「とりあえず、本は後で渡すから。……ちょうどそこに甘味処あるからそこで食べていこうか」
ティアの言葉にオレは話題そらしのために視線を泳がせ、近くにあった店を指定する。
「……見苦しいにも程があるけど、悪くないわね。私は今回第三者ポジだし」
そう言いながら、店に入るティアと、それに続くオレと二人。
先客がいたようで、金色の髪の幼女と、それを甲斐甲斐しく世話する濡羽色の髪のおかっぱヘアーに白いCAみたいな服の女性が甘味を楽しんでいた。
他にはその二人に時折目線を向ける男二人組や、甘味処なのに酒を持ち込んだのか飲んだくれてるやつとかもいたがそれをスルーして席を取る。
壁際の席に陣取り、オレ、ティアが入り口より、朱里と雛里が壁側の奥側になった。
「さて、何を食べようか――」
「――袁術! その生命もらった!」
背後から立ち上がる声と駆け出す音がして、オレは反射的に振り返り、双剣を抜刀し、少女の方に駆けてきていた男の短剣を切り飛ばし、蹴り飛ばす。
そして一の矢がダメだったときの保険か、もうひとりが駆けてきたが、それもオレは反対の剣で男の得物を叩き切り、回し蹴りを食らわせる。
「――反射的にやっちまったな……」
壁にめり込む二人を見ながら、オレはそう零す。
「……えっと……助けて……くださった……んですよね?」
濡れ羽色の髪の女性がきょとんとした様子で聞いてきた。
「……そうなるんだろうな」
「お主、妾を助けたのかえ? ……なら、妾はその恩を返さねばならぬな! 返さねば汝南袁家の当主としての面目がたたぬからの」
「マッチポンプ……オレがけしかけてアンタたちに近寄る口実かもしれんぞ?」
オレがそう言うと、少女が驚いて女性を見る。
「なんと!? 七乃、そうなのかえ?」
「んー、そういうことがありますけど、今の反応的に彼やそこの3人がそこの暗殺者とつながってる可能性はほぼ無いですね。とりあえず、お支払いはこちらでしますので、袁術様の屋敷でおもてなしさせてもらえますか?」
オレは反射的に3人を見るが、彼女たちはどうぞどうぞという態度を見せた。
「……それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうか」
オレは分身を動かしてアスナたちに連絡をしつつ二人に案内されることにした。