恋姫†無双 黒の剣士(偽)と聖杯戦争   作:月神サチ

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第6話 黒の剣士(偽)と汝南袁家 後編

あの後、案内され、街の真ん中あたりにある大きな屋敷に案内されたオレたち。

 

客間に案内され、蜜柑がいくつか乗った皿を俺達の前に置かれる。

 

「お招きいただき光栄です。桐ヶ谷和人……キリトと御呼びください」

 

「……ティアよ」

 

「はわわ、名を諸葛亮、字を孔明といいましゅ」

 

「私は、龐統、字を士元といいましゅ」

 

オレたちが名乗ると、思い出したように女性が口を開く。

 

「そういえば名乗っていませんでしたね。私は張勲と言います。こちらは汝南袁家の御当主、袁術様です」

 

濡れ羽色の髪の女性が笑顔でそう告げた。

 

「うむ、くるしゅうない。そこの蜜柑は好きに食べて良いぞ。ただし、はちみつは妾のものじゃ。……助けてもらったからの、どーーーーしてもというなら、お主に少し分けても構わぬが」

 

袁術が幼さを感じさせる笑顔を、後半は葛藤の末の苦渋の決断を下すような顔を見せた。

 

「……従姉の麗羽さんにさえ分けようとしない美羽様が私以外に蜂蜜を分けても良いというなんて……初めてききましたね」

 

張勲が袁術の言葉に眼を丸く、呆然としている。

 

「……キリト、相当気に入られたようね。袁術の「分けてもいい」はたぶんキリトだけに向けて言ってるみたいだし」

 

ティアのジト目が刺さる。

 

「それよりも」

 

袁術が二の矢を放とうとしたティアを遮る。

 

「この名門である汝南袁家当主のわらわから何か欲しいものとかあるかえ? 命の恩人じゃからの。遊んで暮らせる金でも、わらわに仕えて名門が勧誘したという実績を得るでも、袁家の宝物蔵にある由緒ある宝を3つ、4つ欲しいでも構わん。わらわとしては、仕官してわらわがお主を甘やかし、お主がわらわたちを守ってくれれば文句無しなんじゃが」

 

「……魅力的な提案ですが……」

 

オレの反応が『それでは物足りない』と言ってるよう聞こえたのか、袁術が困ったように眉を寄せる。

 

「なんじゃ? 足りぬのか?もしやわらわを娶りたいと思うておるのか?……思うのは構わぬし、わらわとしても良い提案ではあるが、氏も定かではないお主がわらわを娶るとして市井の者たちにどのような陰口をいわれるか想像は容易い上、相応の振る舞いを学んでもらわねばならんが」

 

「申し訳ありませんが……オレの望みは、『黄巾党征伐の派兵及びその軍団の客将としてオレとその主と関係者を採用すること』です」

 

「「「!!!」」」

 

オレの言葉に張勲と我らが臥龍鳳雛が反応する。

 

「……ああ、お主には主がおるのじゃな? ならそやつらもまとめて、わらわの食客として面倒みるぞ?」

 

「いえ、結構です」

 

オレがバッサリと袁術の厚意を切り捨てると、張勲の眉が若干上がり、袁術が残念そうな顔になる。

 

「……あなたの考えてることは理解しました。こちらにとっても利がある提案でしょう」

 

張勲が口を開き、一息いれてから続けた。

 

「しかしあなたやあなたの関係者が黄巾党で、兵士たちを扇動し、お嬢様や私を害さぬ保証がありません。お嬢様と私は、『袁家の当主』と『その付き人』で2人についていけば、その家柄の威光と富のお零れという恩恵を得られるから従う人がいます。……が、荒野に放り出されれば、私達はどこにでもいる手弱女と言わざるを得ません」

 

静かにこちらを見る。

 

「私は主の傍から離れるつもりはありませんし、かといって、一軍をホイホイ一応恩人とはいえ、ほとんど知らない相手に預けることも、美羽様と一緒に軍を率いて、汝南を留守にすることもできません。……先の命を助けていただいたのは感謝していますが、それはそれ。貴方が一軍を預けたとしても私達に牙をむかないと、どうやって証明してくれますか?」

 

「七乃! わらわたちの恩人に失礼じゃぞ!」

 

「……いや、妥当ではある。張勲、アンタの懸念は最もだ。……さて、駄目で元々だったからいいが……他に欲しい物は特にないからな……どうしたものか」

 

「なら、オレに考えあるんだが、聞いてくれるかぁ?」

 

部屋の入り口から声がしたので反射的に振り向く。

 

そこには健康的な小麦色の肌と背まで伸びたピンク色の髪をした、男勝りな気配を纏う美女が、こちらを獲物を見つけた獣のような嬉々とした瞳でこちらをみていた。

 

「孫堅さん、人の家に勝手に踏み込んで来たんですか!?」

 

「ちゃんと門番たちに伝えたぞ?『いつもの催促にきた』ってな。そうしたらアイツら、『客間で誰かと話しております』って言ってアッサリ通したぞ?」

 

孫堅と呼ばれた女性の言葉に頭を抱える張勲。

 

「それで、アンタの考えって?」

 

「答えてもいいが、代わりに名前教えな。オレは孫堅。字は文台だ」

 

「……桐ヶ谷和人。キリトで構わない」

 

オレの名乗りに疑問符を浮かべる孫堅。

 

「オレの勘が当たってるなら真名だろ、キリトって呼び方(ソレ)。初対面の相手に預けていいのか?」

 

「構わない。それで、アンタの考えを聞きたい」

 

オレの言葉に引っ掛かってもモヤモヤしてるような様子を見せるが、頭を振ってから、彼女は口を開く。

 

「さっきの話、袁術が兵の動員と兵糧の支給を担当、討伐軍の軍権をオレに渡して、キリトは軍の客将として参加ってことでどうだ?キリトは袁術の後援を持って一軍を指揮する客将として名を挙げられる。オレは予定より少ない兵と兵糧で討伐軍を動員、指揮できる。袁術はオレのそこそこある貸しをチャラに出来、キリトの御願いを叶えられる上、黄巾党討伐の兵を州外に出した実績が作れる。ここの3人が最大限の利益を得られる悪くない案だと思うが、どうだ?」

 

立て板に水とは良くいったもので、スラスラと語られた。

 

「動員は2万、食糧は帰還含めて3ヶ月分なら」

 

張勲が間髪置かずに条件を提示してくるが

 

「動員は最低3万、帰還含めるなら食糧は最低6ヶ月分。代わりに行く先々で委任状を提示して、ちゃんと袁術が兵を出したことを周知させる」

 

すると張勲は困った顔をする。

 

「そちらの動員の食糧については関知しないというならその条件飲みますが」

 

「食事内容の格差でどっちか反発して揉めるのは避けたい。そっちがだす兵士は2万でいいから、代わりにオレのとこの兵5000の分も合わせて食糧6ヶ月で余った分は返還、足でた分はオレが持つ」

 

「……今回ので美羽様の貸しはチャラですからね?」

 

張勲がため息混じりに孫堅の折衷案に折れる。

 

「キリト、お前も今のうちに吹っ掛けて置いたほうがいいぜ? 袁術は気前いいが、張勲いるとアレコレ理由着けてケチってくるし、たぶんお前を絡み取りにくるぜ?」

 

想定以上の結果を得られたのか満足そうにする孫堅がオレにアドバイスしてきた。

 

「……委任状にオレの客将についても追記しておいてくれ。あとは特にない」

 

「控えめだな……」

 

孫堅は面白そうにオレを見ながらそうこぼした。

 

「必要ないのに欲張りすぎるのは長期的な利益にならないからな。吹っ掛けないことで次に活きてくることも世の中あるからな」

 

「こちらとしては大助かりですけど、目の前で言われるとなんだかなーって」

 

張勲がオレと孫堅のやりとりに苦笑する。

 

「……キリト、私としては、あなたが話を勝手に進めようと一向に構わないけど、桃香たちになんて言うつもり?」

 

「……あっ」

 

 

 


 

 

 

すぐさまみんなを分身駆使して召集し、揃った瞬間に土下座して赦しを請う。

 

その姿に孫堅や袁術、張勲、朱里と雛里が眼を丸くしてた気がするが気にしない。

 

「確かに客将として活躍するなら、人手を集めたり兵糧調達とかの負担が減るから、別の場所で活躍しやすいよね。私たち桃園の三姉妹は許します」

 

反射的に顔を上げる。

 

そこには笑顔のはずなのに怖い顔に見えるアスナの姿。

 

「でも、私は一夏君の分も含めて、君が女の子にちょっかいかけてたことを怒ります。今夜は徹夜ね?」

 

「……ハイ」

 

探偵もので自供した犯人のようにうなだれるオレ。

 

すると孫堅がオレの傍にやってくる。

 

「キリト……お前『黒の剣士』って通り名持ってたりしないか?」

 

「「「!?」」」

 

オレは反射的に顔を上げて彼女を見た。

 

同時に捕まれる両肩。

 

オレが見たのは――獲物を捕まえたと歓喜する獣のごとき獰猛な笑みを浮かべる孫堅であった。

 

「どうやら『孫家に栄光と繁栄をもたらす黒の剣士』ってのはお前のことのようだな、キリト……!」




次回!
キリト(腹上)死す!デュエルスタンバイ!

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