「可愛いなぁ……もう」
私は事務所の応接間の高級ソファーで、半ば強制的に膝枕させたマネージャーの髪を撫でながら小さくそう呟いた。
マネージャー……牧野君はとても静かな安定した寝息を立てている。その姿はいつもの頼りがいのある姿とは正反対に子供らしく、私の庇護欲をとても刺激してきた。
「(目元の隈……すごい)」
最近の牧野君は顔色もあまりよくなかった。無理もない。この業界は常に人気が命綱になる。人気が出れば出るほど、その分求められるレベルも高くなっていく。そんな中、トップアイドルとして今も走り続けている私を常に横で支えてくれているのだ。疲れていないはずがない。
それでも弱音を吐かずにほぼ一人で牧野君は私を支えてきた。それはきっと牧野君の性格ゆえだろう。
牧野君の人一倍の責任感の強さとたまたま開花させてしまったマネジメントの才能が、牧野君を私と共にここまで並走させた。
他にも理由があったらいいなーって思うけど。
「……ん」
膝の上で眠っていた牧野君が突然身じろぎした。目を覚ますのかと思ったけれどどうやら違うようで、彼はまだ夢の中にいるようだった。
そして今度は本当に小さな声でつぶやく。
「麻奈……」
夢の中でも仕事をしているのだろうか。本当に真面目だなー。
「でもきっと、そんな君だから、私は……」
「……ん?」
牧野君がゆっくりと瞼を開けていく。私は慌てて自分の口を塞いだけれど、牧野君は完全に目を覚まして、凄い勢いでソファーの隅に飛び退いた。
「え……え!? 麻奈!?」
「おはよう牧野君。よく眠れた?」
「おはよう麻奈……ああ、そうか」
牧野君はやっと状況を思い出したのか腕時計に目を向けて後ろ髪を掻いた。
「3時間も寝てたのか……ゴメン麻奈。足、しびれてないか?」
「大丈夫大丈夫。これでも鍛えてるから――きゃっ」
全然ない……訳じゃないけど、これくらいならと思って私は立ち上がろうとして、不意にビリっと足がしびれて態勢を崩し、牧野君の方へ転んでしまった。
咄嗟のことながら牧野君は私の体をしっかりと受け止めた。
「やっぱな……無理しなくていいから座っててくれ」
牧野君がそう言って私を横に座らせる。
「お茶のお代わりもってくるな」
「あ、それは私が……」
「日ごろから休まず活動しようとするアイドルを俺も労わせてくれ」
そう言って牧野君はティーポットを持って応接間を出ていく。
これじゃあどっちが労われているのかわからない。今日は牧野君の為に時間を使いたかったのに……。
けれどこういうのもいいかなと思っている自分もいて、自然と笑みがこぼれた。