「――これでよし、っと」
最後にEnterキーを押して、俺は一つ大きく伸びをした。
「終わった牧野君?」
「ああ。今日の分は終わったよ」
麻奈に無理矢理休まされてから数日。ここ最近は体調もすこぶるよく、以前より仕事の能率も上がった。時折休憩するのも必要だと痛感させられた。
「言ったでしょ? 休むのも大事だって」
「実感させられたよ」
「――仕事に慣れてきたようだな。牧野」
「三枝さん……お疲れ様です」
PCを閉じて雑談していた俺達の元に、上司である三枝さんがやってきた。
「ああ、お疲れ様」
三枝さんは俺と麻奈、そして三枝さん分の湯飲みを机に置くと、自分の分の湯飲みを持って机に浅く座った。
「そういえば先日はすいません。急に休んじゃって……」
「気にするな。それに、休むことだって立派な仕事だってわかっただろ?」
「痛感しましたよ」
まさか休息ひとつでここまで変わるとは思いもよらなかった。
作業効率、集中力など……するとしないとではここまで差が出るのかと本当に驚いた。これまでの考え方がひっくり返った。
俺がそう言うと三枝さんは目を伏せて笑った。
「むー、牧野君。私と三枝さんで反応が違うんじゃない?」
麻奈はむすっとした様子で言う。
「そりゃあ三枝さんは上司だしな……」
「ふーん」
「それより、だ。二人とも、少し話をいいか? 来週なんだが――」
怪訝そうな麻奈の視線は三枝さんの言葉で真剣なものに変わった。
そんな麻奈の変わりように俺は苦笑が漏れるのを自覚した。
仕事にストイックなのは麻奈も変わりない。似た者同士だしデビュー前からの仲だ。だからかこそ麻奈にはより素を出してしまっているような気がする。
でもきっと、素が出ているのはそれだけが理由じゃなくて――
「――じゃあ牧野、麻奈の方は任せるぞ」
「はい。任されました」
三枝さんはそれだけ言うと他にも仕事があるらしく「これからもよろしくな」と激励の言葉を去り際に残して部屋を出た。
俺は先程電源を落としたPCを開いて、三枝さんの持ってきたお茶を飲む。
……。
「……さ、仕事だな」
「手伝おっか?」
「お前は休め……人に言ってるけど、お前だって働きすぎだからな?」
「私はいいの……またお茶持ってきてあげよっか?」
「飲み切ってからな」
「えー、このお茶マズいから淹れなおそうよー」
そうだけどさ……もっとオブラートに包んだ方がいいと思う。
麻奈は一口も飲まずに俺の湯飲みごと持って行ってしまう。
俺は若干ありがたさを感じながら画面に向かいはじめた。
以上完結です。お読みいただきありがとうございました。