仮面ライダートゥルーク   作:くるみゼロ

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episode10『呪いのハコ』

「よし! いいよー!」

 

 そこそこ有名な動画配信者のりん子は、カメラの前でコントローラーを手に笑顔を見せていた。

 今回行っている生配信はホラーゲーム『独りの楽園』の実況プレイ。このゲームは主人公である青年がとある洋館からの脱出を目指す。途中さまざまなトラップが待ち受けていたものの、何度かゲームオーバーを繰り返しながら無事出口の鍵を見つけ出した。

 

「これで玄関を開けて脱出だね」

 

 その時だった。落雷と共に部屋の明かりが消え、ゲーム画面も真っ暗になって何も見えなくなった。

 

「停電? せっかくいいところだったのに」

 

 すると次の瞬間、ゲームの音声ではない不気味な声が背後から聞こえてきた。驚いて振り向くとベランダの方に人影が見える。

 

「まさか泥棒?」

 

 りん子は恐る恐るカーテンに手を掛けて外の様子を窺うが、そこには誰もいなかった。

 

「まあいるわけないよね。ここ4階だし」

 

 安心して部屋に戻るが、窓ガラスの向こうには確かにりん子を狙う者の姿があった。瞳を大きく見開き、赤く濡れた手を窓に置いて爪研ぎをし始める。

 しかしりん子はそんなことを気にせず、懐中電灯を探しに自分の部屋を出ていくのだった。

 

 

 

 

 怪異対策局のトレーニングルームにて、ノゾミと涼真はベルトを装着して向かい合っていた。2人はそれぞれコインを装填すると、レバーを引いて仮面ライダーに変身する。

 

「手加減はしないぞ」

 

「望むところです!」

 

 2人は同時に構えを取って走りだした。

 トゥルークは向かってくるジンリューの拳を避けつつ蹴りを入れるが、その脚を掴まれ投げ飛ばされる。空中で体勢を整えて着地すると、ジンリューがそのまま追撃しようと拳を振り上げてきた。

 

「はぁ!!」

 

 咄嗟にトゥルークは手刀で拳の軌道を逸らす。そのまま回し蹴りを放つが、それは腕でガードされてしまった。

 

「同じ手は通用しない!」

 

 蒼炎を纏ったカウンターが鳩尾に入って吹き飛ぶトゥルーク。しかしその勢いを利用して壁を蹴って飛び上がり、低空飛行したまま右ストレートを繰り出す。

 しかしジンリューはそれを裏拳で打ち払い、トゥルークは地面に叩きつけられてしまった。

 

「ぐっ?!」

 

「どうした。それがお前の本気か?」

 

 トゥルークはゆっくり立ち上がるとチェーンソーコインを、ジンリューはカマイタチコインを取り出してそれぞれ武装する。

 

 

 

 

「さっきからずっと戦ってばかりですね」

 

 トレーニングルームの上の階にあるモニタールームから特訓の様子を眺めていたアニーが呟く。隣でチュパカブライザーの刃を磨いていた正義は、その言葉を聞いて苦笑いをした。

 

「せやなー、朝っぱらからようやるわ」

 

『相棒、次は我々の番だ。この間の戦いでは隙が大きく風祭涼真のサポートがなければ──』

 

 正義はチュパカブライザーの小言を遮るように輸血の入った皿を置くと、棒付きキャンディーの包装を取って舐めはじめた。

 

「いくら素人とはいえ、あのクソ真面目君が邪神と張り合うとは......」

 

「思うとこあるんやろな。ノゾミちゃんを巻き込んだのは自分のせいやと思って」

 

 正義はどこか寂しげな表情を浮かべる。するとモニタールームに狭霧が血相を変えて入ってきた。

 

「あれ? どないしたんです?」

 

「神戸に用がある。訓練は中止だ2人とも!!」

 

 狭霧は備え付けのマイクのスイッチを付けて指示を出す。トレーニングルームにいる2人は顔を見合わせて変身を解除すると、ノゾミは大声で質問を投げかけた。

 

「どーいうことですかー!?」

 

「神戸、今日はスクーリングの日だろう?」

 

「スクーリング......あっ!」

 

 そこでようやく思い出す。今日の午後から市民センターで通信校のスクーリングがあったということを。ノゾミは涼真に礼をして部屋から飛び出すと、いつの間にか入り口に待機していたマシンオボグルマーに乗って市民センターまでワープした。

 

 

 

 

 市民センターにある食堂では昼のホームルームが終わり、今月転入してきた生徒の紹介に移ることになった。ノゾミ含め数人の生徒が席を立ち、それぞれ名前と簡単な自己紹介を話すというものだ。

 やがてホームルームが終わると、数人の生徒が彼女の元にやってきた。

 

「おっ俺は武中! 一応同じ学年なんだ!」

 

「僕は三村、これから仲良くしよう。よかったら連絡先でも......」

 

「趣味は?」

「彼氏はいる?」

「お友達にならない?」

 

 ノゾミは質問責めにあってしまい困惑する。すると人混みをかき分け1人の男子生徒が助け船を出した。

 

「おいお前ら、いきなりそんなに聞いても困らせるだけだろ?」

 

 その少年は爽やかな笑顔を浮かべながらノゾミに声をかける。

 

「俺は冬木輝(ふゆき ひかる)。よろしくな」

 

 

 

 

 放課後になり、久しぶりの対面授業から解放されたノゾミは大きく背伸びをした。ボキボキと不安になるほどの音をならしていると、後ろの席にいた輝がノゾミの肩を叩く。

 

「お疲れ。随分人気者だったな」

 

「うん......正直疲れちゃう」

 

「余程女に飢えてるんだなあいつらは。全く人間ってやつは単純だな」

 

 輝はそう言ってニヤリと笑うと、部屋の時計を見た。時刻は4時半を過ぎたところだ。

 

「そうだ、りん子って知ってるか?」

 

「デイチューバーの? たまに見るけど」

 

「そ。あいつも同じクラスなんだけどさ、今日来なかったんだよ。近くに住んでるし寄ってかないか?」

 

「そうなんだ......じゃあ私も行ってみようかな」

 

「決まりだな」

 

 

 

 

 その頃、怪異対策局の局長室には張られた弦のように空気が流れていた。零澤は部屋に招集した狭霧と三雲に話を切り出す。

 

「その時が来た。春日関のガシャドクロを討伐する」

 

 零澤は背後にあるモニター群に目を移す。彼の指揮によって、一般局員の仕事は各地の怪異の調査からガシャドクロの対策に大きく舵を切られた。

 

「討伐チームはどうなさるつもりで?」

 

「風祭と涼宮、南と......神戸。この4人で十分だろう」

 

「では現地の手筈は私が......三雲。各ライダーの武装とバインドシステムの点検を怠るなよ」

 

 狭霧はそう言うと一礼して部屋を出ていく。そのタイミングを見計らって、三雲は所持していたタブレットから設計中の武装を零澤に見せた。そこには9つのスロットが付けられた横笛が描かれている。

 

「ナインズシノブエード。これがあれば、殺生石をコインにしても力を引き出せるはずです」

 

「素晴らしい。これさえあればキュウビの力を最大限に発揮できるだろう」

 

「ただ、計算上妖力を制御する機関が現状製作不可能なんです。どれだけ見積もってもあと10年──」

 

「大事なのは殺生石の力を引き出す事だ。機能性のみに重点して続けたまえ」

 

 零澤は背を向けて冷たく言い放つ。

 

「......変わりましたね。そんなに自分が憎いんですか」

 

 三雲はそそくさと部屋を出ると、タブレットのギャラリーから1枚の写真を選ぶ。

 『仲間』と書かれた題名のその写真には、笑顔を浮かべる零澤や狭霧、三雲と他の局員達が映っていた。

 

 

 

 

 市民センターからしばらく歩き、ノゾミと輝は駅近くのマンションにやってきた。どうやらここにりん子が住んでいるようだ。

 エントランスを抜けてエレベーターに乗り込むと、2人は4階のある扉の前で立ち止まった。

 

「ここだ。あいついるかな」

 

 輝がインターホンを鳴らすが反応はなかった。その後も彼はインターホンを連打して扉を乱暴に叩いたが、向こうから声は聞こえてこなかった。

 

「うるさいんじゃい! 君たち、何やってんの!」

 

 すると2人の元にスーツ姿の男性がやってきた。

 

「俺たちりん子の同級生で、帰りがてら会いに来たんだよ。あんたは?」

 

「俺はここの管理人だ。実はそこの夢野さんの隣人から苦情があってね」

 

 管理人の男性はため息をついて隣の扉に目をやる。

 

「何度やっても反応がないなら帰ってくれないか。どうせ留守にしてるんだろ」

 

「でも彼女が行き倒れになってたらどうする? あんたもここが事故物件になるのは嫌だろ?」

 

「......玄関までだからな」

 

 輝の提案を飲んだ管理人は、鍵の束から部屋の番号が刻まれた鍵を使って扉を開けた。2人は管理人の後ろに続いて玄関に足を踏み入れる。

 

「夢野さん? いらっしゃいますか?」

 

 管理人が呼びかけてみるが、やはり反応はない。カーテンが閉められ明かりのない部屋は人がいなくなった後のようだ。

 

「ほら見てみろ。やっぱり留守じゃないか」

 

「いや、いる......!」

 

 部屋を見渡すノゾミの目の色が変わる。彼女の目には異形の怪物と、それを取り巻く不穏な空気が見えていた。すると視界が真っ暗になりノゾミは意識を失った。

 

「ちょ、ちょっと! そこの君、早く救急車を──」

 

 管理人は輝の方を向いたが、そこには彼の姿がなかった。その刹那、部屋のドアが閉められてしまう。管理人は慌てて携帯を取り出すと、画面の明かりで視界を確保する。

 彼の後ろには怒りの形相の怪物が、口を大きく開けて待ち構えていた。

 

 

 

 

「......げほげほっ!」

 

 気がつくとノゾミは部屋の中に倒れていた。周りは玄関から見たりん子の部屋と瓜二つなのだが、所々違う点が見受けられた。

 机に置かれた飲料のパッケージには見たことのない文字が書かれ、壁にかけられた写真にはりん子以外の人物の顔が歪んでいる。そして窓から見える建物と空は真っ赤に染まっていた。  

 ノゾミは知らぬ間に異界に入ってしまったのだ。

 

「確か私、輝君と一緒に......」

 

 そこでノゾミは足元にある肉塊に気づく。その正体は、さっきまで隣にいた管理人だった。

 悲鳴を上げそうになった瞬間、毛むくじゃらの腕で口を押さえられる。見るとそこには先程の化け物、ネコ怪異がいた。

 

「ニャアアアァァァ」

 

「う......むぐぅ......」

 

 ノゾミは急いでベルトを装着すると、コインを装填してトゥルークに変身した。

 トゥルークは肘打ちを決めてネコ怪異から離れる。すると彼女の足を虚ろな目をしたりん子が掴んできた。

 

「助けて......私、悪いことしてない......」

 

 か細いりん子の声を受けてトゥルークは再びネコ怪異に立ち向かう。ここは仮にもりん子の部屋を再現した異界だけあって、とても戦いには向いていない狭さだ。ネコ怪異を連れて窓から飛び降りると、翼を広げて安全に着地した。一方のネコ怪異も体をねじりながら着地する。

 訓練の時と同じく己の拳で彼女は立ち向かうが、素早く交わされてしまいなかなか攻撃が当てられない。ネコ怪異は両手の爪を研ぎ澄まし、トゥルークの隙をついて胸部を切り裂いた。

 

「があっ......!」

 

 胸を押さえて膝をつくトゥルーク。しかし身体の傷を自身の力で塞ぐと、チェーンソーコインの力を解放して右腕に邪神武装する。

 

「これならいけるはず!」

 

 飛びかかってきたネコ怪異を避けると、その右肩に刃を押し当てて一気に背中を切りつけた。ネコ怪異の傷口から黒い血飛沫が飛び、そのまま力なく倒れ伏した。

 

「やった......?」

 

「ナァァァァア!!」

 

 しかしトゥルークの頭上から新たなネコ怪異が襲いかかってくると、彼女の首筋に噛みついた。鋭い痛みが走り、トゥルークはその場で突っ伏してしまう。

 

「もう1体いたの......ああアッ!?」

 

 ネコ怪異の犬歯が深く突き刺さり、そのまま食い千切ろうとしているのが分かった。

 だが怪異の背中に黒と白のエネルギー弾が命中し、怪異の歯は無理やりトゥルークから引き抜かれた。

 

「世話が焼けますね、全く」

 

 トゥルークを助けたのは2丁のガンライザーを構えたデーゼルだった。ネコ怪異はお返しと言わんばかりに口から火炎弾を放ち、反応が遅れたデーゼルの顔にクリーンヒットさせた。

 

「アニーさん!」

 

「熱ッ......やってくれるじゃない害獣が」

 

 デーゼルは声を震わせつつも、エンジェルガンライザーでネコ怪異の両足を撃ち抜く。そして怪異が痛みに苦しんでいる内に、デビルガンライザーにフラウロスコインを装填して引き金を引いた。

 

『強化弾薬! もたらす災厄! デーモンフラウロス!』

 

 デビルガンライザーの銃口に業火のエネルギーが集めるとそれを一気に解き放つ。ネコ怪異を捉えた特殊な攻撃が着弾すると、凄まじい爆発と共に火柱が立った。

 

「グギャアァッ!?」

 

 ネコ怪異は火だるまになって地面に転がり続ける。それに追い討ちをかける如く、トゥルークがレバーを操作して走り出した。

 

『イア! イア! ライダーパワー!』

 

 トゥルークの右腕にいくつもの触手が纏わりつき、立ち上がったネコ怪異に向けて必殺の拳『パンチエンド』が炸裂する。怪異は断末魔をあげることなく、肉塊となってぼとぼとと崩れ落ちた。

 

 

 

 

「......ん? あれ、ここは」

 

 目覚めたりん子は見知らぬ天井を目の当たりにした。顔以外は包帯でぐるぐる巻きにされているが、怪異によってつけられた傷は治りかけていた。

 

「私、どうして......」

 

「気がつきました?」

 

 りん子の隣には心配そうに彼女を見つめるノゾミがいた。

 

「あなた誰?」

 

「私は神戸ノゾミです。最近通信校で同じクラスになりました」

 

「そうなんだ......でも何であなたが?」

 

「あー、その部屋で倒れているりん子さんを輝君と見つけて救急車を呼んだんです」

 

 ノゾミは苦笑いしながら半分嘘の経緯を話す。とっさに出た作り話だが、これ以上りん子にあのような目に遭わせたくないという気持ちからつい先走ってしまったのだ。

 

「でも何で私の家分かったの?」

 

「輝君と一緒にりん子さんへ挨拶に行ったんです」

 

「いや輝って誰? んー、私も物覚え悪くなった? 古参リスナーの名前すらあやふやだもんな」

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中、1人の男がりん子の盗撮された写真片手に嘆いていた。

 

「りん子ぉ......何で死ななかったんだよ、どうして俺の思いどおりに動かないんだよ。どうして死ななかったんだよ」

 

 男はぶつぶつと呪詛を呟く。写真を投げ捨ててカッターナイフを取り出すと、錆び付いた刃を見ながら気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「そうだ、もう直接殺すか。面倒だしな」

 

 その時部屋の扉が開かれ、外から上半身を鋼の装甲で纏った竜人『クエレブレ』が現れた。左手にはロストマンチェンジャーが装着されており、スロットには竜が描かれたコインがはめられている。

 クエレブレは立体パズルのような箱を取り出すと、それを男に素早く投げ渡した。

 

「ちゃんとコトリバコの作成方法は教えましたよ。しかし貴方は中身を猫の死骸で代用した......おかげで計画が台無しじゃないですか」

 

「仕方ないだろ! ガキを殺すなんてリスクがありすぎんだよ!」

 

「言い訳はいりませんよ。やはり人間に頼ったのがダメでしたね」

 

 クエレブレは魔方陣から長刀を取り出す。そして勢いよく男に振り下ろそうとしたその時、突如として現れた影によってその動きが止められる。

 

「まあ待てって」

 

 そこに立っていたのは輝だった。輝は同じく装着しているロストマンチェンジャーで刃を受け止めていたのだ。

 

「ヒカルさん、なぜここに?」

 

「人間、しかもストーカー野郎を見込んで依頼した俺のヘマだよ。それにお前が動くほどの失敗じゃない」

 

 クエレブレは長刀を退けると黙って出ていってしまう。ヒカルは男の方を振り向くと有無をいわさずコトリバコを奪い取った。

 

「まあでも、成功したら嬉しかったな」

 

「えっ?」

 

「我が主の力を使うなんてさ、無礼の極みすぎんだろ。わざわざ人間を洗脳して学校潜入したのにさ......このザマじゃこいつがかわいそうだろ」

 

 ロストマンチェンジャーで箱を握り潰すと、男の前に全身の皮膚が爛れたネコ怪異が飛び出した。

 

「な、ななな何で! コトリバコは女子供にしか効かないはずだろ!?」

 

「お前が作ったのは失敗作だよ。誰でも見境なく襲うぜ、特に恨みを持つやつにはな」

 

 退路を断たれた男はなす術もなく襲われると、以前自分がしたように腹部を切り裂かれるのだった。

 その様子を見てヒカルは満足すると、木屑をゴミ箱に捨てて部屋を出る。彼の隣にはクエレブレが腕を組んで待っていた。

 

「全く、とんだ見当違いだったな」

 

「どうするんですか? 恐らく彼女は気づいたはずですよ」

 

「まだ本格的に動くには早い気がするけど、いいか。俺たちロストマンの力を見せてやろうぜ」




怪異対策局 怪異アーカイブ
No.571『コトリバコ』
既に一般人にもその製作方法と効果が知られている、恐るべき兵器。
しかしその大半は何らかの欠陥があるため失敗する事が多い。

【製作方法】
①寄せ───
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