仮面ライダートゥルーク   作:くるみゼロ

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episode11『現世のカクメイジ』

 深夜0時、とある田舎の村に怪異対策局が所有する一軒家があった。不気味なほどに静かなその場所に十数台のバンが次々に停車して、黒服にサングラスをかけた局員たちが降り立つ。荷台を開けるとパラボラアンテナ状の光線発射装置を出した。

 そんな中、狭霧は先頭のバンから降り立つ。第一級怪異ガシャドクロ討伐班の現場指揮官である彼は、これから始まる戦いを前にため息をつく。

 

「まさかかのガシャドクロと戦うことになるとはな」

 

 狭霧は局員たちに指示を出すと、彼らは装置を所定の位置まで運びだして設置作業を開始した。

 その様子をヒカルが木の影から覗いている。ヒカルの後ろには長刀を携えたクエレブレが付いており、せわしなく働く狭霧たちを見て唸っている。

 

「妙な物を作ったものだ。あれでガシャドクロの動きを封じるのか」

 

 ヒカルは頷くとクエレブレの方を向く。

 

「人間にしては上出来な品物だ。本来陰陽師が使う結界を広範囲に、擬似的に再現できる」

 

「ヒカルさん、叫ぶなら今ですよ。殺生石を取られたら不味いじゃないですか」

 

「あんなもん欲しがるのは本人か物好きさ。今回のターゲットは神戸ノゾミ......まあ暇があれば奴にもちょっかいかけてみるか」

 

 ヒカルはそう言ってクエレブレの肩を叩くと、枝から枝へと跳躍しながら立ち去るのだった。

 

 

 

 

 それから1週間後、ノゾミ達4人のライダーは突然零澤に呼び出された。用件は言うまでもなくガシャドクロ討伐の任務である。

 

「あの、どうして私なんですか? 私まだあんまり戦いに慣れてないし......それに他にもライダーになれる人いるんですよね?」

 

 ノゾミは疑問に思ったことを正直に告げた。

 

「現在全国各地で怪異による被害が多発している。地方に遠征したライダーはその対応に追われここに戻ってこれない」

 

「つまりは俺たちしか投入できる戦力はいないと?」

 

 涼真の言葉に頷いた零澤は作戦の概要を説明し、彼らに決戦の地・春日関への出動を命じた。

 部屋が静まり返ると、零澤は携帯を取り出して電話をかける。相手は彼の電話に応答すると凄みのある声で釘を刺す。

 

「もう怪異退治には協力せんと言ったはずだ」

 

「そんなこと言わずにお願いしますよ。あなたの弟子では作れないものでして」

 

「笛以外に何を求める?」

 

「あなたが作った最高傑作。もちろん望むものは全てこちらが──」

 

 途端に通話が切れる。零澤は携帯をしまうと、人差し指から生み出した火を虚ろな目で見つめていた。

 

 

 

 

 対策局所有の民家には隠し通路がある。それを抜けるとさまざまな機材が揃った地下室に入ることができる。

 三雲は持ち出したパソコンに向かってキーボードを叩いた。画面に映っているのはバインドシステムの起動状況だ。

 

「よし、問題なく回線は生きてる。民間人に被害が及ぶこともない......」

 

「順調そうで何よりだ」

 

 背後から声をかけられ思わず飛び上がる。振り返るとそこには狭霧がいた。彼はテーブルに散らかった計算用のメモを退けると、コーヒーの入ったマグカップを置いた。

 

「ありがとうございます......システムの稼働に問題はありません」

 

「うむ。だが最後まで気を抜くなよ」

 

 そう言って出ていこうとする狭霧を、三雲は慌てて引き止める。

 

「これ......三男くんにどうぞ」

 

 三雲は部屋の隅に置いていた紙袋を手渡す。中には花型のゼリーが入った丸い缶が5つほど重ねられていた。

 

「最近忙しくてあまり構ってあげられてないでしょう?」

 

「お前な......手間をかけさせたな。体調崩すなよ」

 

 狭霧は紙袋を抱えて地下室から出ていった。

 

 

 

 

 今回のガシャドクロ討伐作戦は、まずバインドシステムにより周辺に結界を作り怪異の動きを封じ、その隙に4人のライダーが一斉に攻撃するというものだ。

 本来強大な妖力を持つガシャドクロにはこの作戦は通用しないのだが、近年その妖力が弱まっているという調査結果が出たのだ。

 ワープによって春日関に到着したライダーは、それぞれバインドシステムの設置場所に待機することになっていた。

 

「これが例のバインドシステム......」

 

 涼真の目の前にある装置は一見するとただのパラボラアンテナだ。ここから放たれる特殊の電波によって結界を構成し、対象物の行動を制限する。

 テントの下にいる局員の操作により、アンテナから白と黒のビームが空に放たれた。同時に遠方の3箇所からも同じく発射され、1つに交わって地上に巨大な太極図が浮かび上がった。

 

「一旦神戸の様子を確認するか」

 

 涼真はバインドシステムの起動を確認すると、停めてあったマシンオボグルマーに乗り込んだ。ハンドルを握る手に力を入れ、アクセルを回す。

 すると涼真の前に突然ヒカルが立ちはだかった。

 

「おっと、どこに行くつもりだ仮面ライダー?」

 

「なぜそれを......何者だ?」

 

「答える義理はないな。まあちょっと遊んでくれよ」

 

 ヒカルはそう言うと左手のロストマンチェンジャーにオオカミロストコインを装填した。

 

『セレクト・ウルフ』

 

 音声とともに、チェンジャーから放たれる灰色のエネルギー波が涼真の身体を貫き、後方に吹き飛ばした。

 ヒカルは左の手の平に拳をぶつけると、首の骨を鳴らして口許を緩める。

 

怪縛(かいばく)!」

 

 ヒカルの上空と足元から狼の口が飛び出して、それぞれ上半身と下半身を包み込む。それぞれが砕け散ると、涼真の目の前にウルフマンが姿を現した。

 

『バイディング・ウルフマン』

 

「お前は......まさか、あの時の?」

 

「そー。ミホミちゃんとアンナちゃんは元気にしてるかな?」

 

「減らず口を叩くな怪異が......わざわざ不利な状況で戦い挑みやがって」

 

 涼真は腰にベルトを装着し、セイリュウコインを投げ入れた。

 

「変身!」

 

『セイ! リュウ! 仮面ライダージンリュー!』

 

「怪異怪異って......俺たちはロストマン! 怪異の力を引き継いだ選ばれし人間!」

 

 ウルフマンは両手を広げておどけてみせるが、送られたのは右腕から放たれた蒼炎だった。ウルフマンがそれを回避したのを合図に戦いの火蓋が切られる。

 2人が走り出して同時に回し蹴りを入れた瞬間、衝撃波が広がり一般局員が数名吹き飛んだ。

 

「また犠牲者を出したな!」

 

「黙れ黙れ黙れ!!」

 

 涼真は再び拳を振るう。拳が空を切ると、目の前にウルフマンの姿がなくなっている。直後、背後から上がる悲鳴と殺気を感じ取ったが、振り返ろうとした時にはウルフマンに首を掴まれていた。

 

「ほんとノロマだな。見てみろよあの惨状を」

 

 いつの間にかパラボラアンテナは破壊されており、特殊拳銃を構えていた残りの局員たちは首をねじ切られて木の枝に吊るされていた。

 怒りと悲しみに飲まれるジンリューの腹に強烈な一撃を与えると、地面に膝をつく彼の頭を掴んで顔を近づける。

 

「まだ1回の表、試合は始まったばかりだぜ?」

 

 ジンリューはウルフマンの顎に蹴りを入れると、立ち上がってカマイタチコインで怪異武装を施した。高速移動をして攻撃を仕掛けていくが、どれも直前に避けられるかいなされてしまうかだ。

 

「動きが単調すぎるんだよ」

 

 ウルフマンはオオカミロストコインを装填し直すと、再び拳を叩いて力を高める。

 

『イビル・ビースト』

 

 ウルフマンの周囲に黒い霧が発生し、向かってきたジンリューにダメージを与えて立ち止まらせる。

 霧は2人の前で徐々に形を成していくと、数体のオオカミの幻影となった。オオカミ達はジンリューの四肢に噛みつくと、赤く点滅して途端に爆発を起こした。爆煙が晴れると、怪異武装が解かれたジンリューがうつ伏せになって倒れているのが見える。

 

「クソ......」

 

「あれから何も成長してないな。少しは一矢報いると思っていたんだが」

 

 ウルフマンはジンリューの背中を踏みつけると、周りに広がる地獄のような光景を見て考えに耽った。

 

 

 

 

 それは4年前のこと。ウルフマンとなったヒカルに、涼真と修道服を着た少女がライダーとなって立ち向かった。しかし彼らの力ではウルフマンには敵わず、涼真は変身を解かれて倒れてしまう。

 

「残念だね。お前はもう終わりみたいだ」

 

 ウルフマンはトドメを刺そうとオオカミを呼び出し、涼真にけしかける。すると涼真の目の前に天使の風貌をしたライダーが立ちはだかり、その攻撃を一心に受けてしまう。

 

「ミホミ!」

 

 変身が解かれた少女ミホミは、服を赤黒く染めて倒れてしまう。急いで駆け寄る涼真だったが、ミホミは彼にエンジェルガンライザーを託して事切れてしまった。

 その時の涼真と重ね合わせたウルフマンは、大きく欠伸をしてつまらなさそうに口を開いた。

 

「どうやら彼女は無駄死にだったらしいな。可哀想に、こんな弱い男のために命を投げ出すなんて」

 

 ウルフマンが再びコインに手を掛けたその時、突然ジンリューの身体が蒼炎に包まれた。慌てて離れるウルフマンの前には、火達磨の状態とも取れるほどにエネルギーを解放したジンリューがいる。

 

「あいつの死は......無駄なんかじゃない」

 

「はいはい、やっと青龍の真価を出したってところか──」

 

 刹那ウルフマンの顔に渾身の一撃が叩き込まれる。ウルフマンは勢いよく回転しながら木々をなぎ倒し、数メートルも地面に引きずられて切り株に激突した。

 

「いえぇよ......がはっ、これで良いか」

 

 外れた顎を戻すとゆっくりと立ち上がる。血気迫る表情を仮面の下に浮かべて、ジンリューはウルフマンの元に一歩ずつ足を進める。

 

「化け物め......まだやるか?」

 

「当然、と言いたいところだが俺は圧勝するのが好みなんでね。ここで切り上げようか」

 

 そう言うと、ウルフマンは耳を突き破るほどに鋭く激しい叫び声をあげた。森の中の野鳥が一斉に飛び立つと、しばらくしてウルフマンの声に共鳴するように大地が揺れ始める。

 

「なんだ──」

 

 

 

 

 すると突如として地面が大きく割れ始めた。亀裂はどんどん広がっていき、ついには巨大な地割れが発生する。それに巻き込まれるようにしてジンリューの足元も崩れ、咄嗟に崖に掴みかかる。蒼炎に焼かれ続けてしまった弊害で変身が解かれてしまい、涼真は火傷に苦しみながらその場で踠く。

 

「一体何が......!?」

 

 涼真の後ろからガチガチという音が鳴り、巨大な骸骨の上半身が地上に現界する。涼真の頭上に立っていたウルフマンは誇らしげに話し始める。

 

「ガシャドクロが目覚めたんだ。俺の叫びのおかげで奴は叩き起こされたのさ」

 

 ウルフマンはガシャドクロの口めがけて大量のコインを投げ入れる。するとガシャドクロの身体から何百体もの骸骨の上半身が浮き出て、紫の雲が春日関を包み込む。

 

「今の奴は全盛期以上の力を手に入れた。完全体のガシャドクロにバインドシステムはもはや無意味だ」

 

 悔しそうに顔を歪める涼真に、ウルフマンは彼の前に何も描かれていない銀色のコインを渡した。

 

「それは神戸ノゾミへのお土産だ。よろしく伝えとけ」

 

「待て......話は、があっ!?」

 

「さあバインドシステムが使えず、ライダーが1人減った今どう攻略するんだろうな。第2ラウンドの始まりだ!」

 

 その言葉を最後にウルフマンは暗闇の中へと消えていった。入れ違いに丸鏡からバイクに乗ったノゾミが現れ、窮地に陥っている涼真を救出する。

 

「しっかりしてください! 涼真さん!」

 

 涼真は焦点の合っていない目をノゾミの方に向けると、安心したように意識を失う。ノゾミは足元に落ちていたコインを拾い、彼を背負ってバイクに乗る。

 

「すぐに運びますから」

 

「......ミ......ホミ......すまない、俺は......」

 

「......急がないと」

 

 ウンガイキョウコインを再びバイクに投入し、対策局の緊急治療室に目的地を定め発進した。

 ガシャドクロにより田園は崩壊し、ケタケタと嗤う声が響き渡る。

 人間の姿に戻ったヒカルは、クエレブレと共に山頂からその光景を眺めていた。涼真につけられた顔の傷を撫でてばつが悪そうに笑うのだった。




怪異対策局 怪異アーカイブ
No.002『ガシャドクロ』
殺生石を持つ第一級怪異。
戦死した武士の怨念の集合体であるこの怪異は、殺生石を中心に実体を造り上げている。

近年は人々の認識から外れ弱体化の傾向にある。
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