「涼真さん! しっかりしてください涼真さん!!」
ノゾミは担架で運ばれる涼真に必死に声をかけるが返事はなかった。彼は全身やけどを負い、呼吸困難の危険な状態だ。
「なんで......こんなのって......」
対策局の集中治療室に運ばれた涼真はそのまま緊急手術を受けることになった。手術中と書かれたランプが灯り、ノゾミはドアの前でへたれこむ。
「お願いします......どうか死なせないで......」
トゥルークコインと涼真から渡されたコインを握りしめてひたすら祈る。ふと誰かの視線を感じて顔を上げると、そこには冷たい目を向けてくる零澤の姿があった。
「何をしている? 君の任務はガシャドクロの討伐だ」
「すみません......だけど、どうしても涼真さんが心配で」
「そんなことは関係ない。任務に戻れ」
そう言って零澤はその場から去っていく。ノゾミは唇を噛み締め、春日関に戻るべく走り出した。
◆
「涼宮流斬撃波!」
『クローバースト!』
チュパカブライザーから繰り出される必殺の一撃がガシャドクロに飛ぶ。しかしその身体にダメージを与えられておらず、却ってガシャドクロから分離したスケルトン怪異がデファンスに襲いかかってきた。分離した箇所はまたすぐに再生し、スケルトンたちが浮き出てきた。
「クソッ! まともに攻撃当てられへん!」
『相棒! 右に避けろ!』
急いで回避行動を取ると、スケルトンの軍勢がガシャドクロの腕に押し潰される。
「こりゃ骨が折れるってな」
『相棒! 冗談を言っている場合ではない!!』
軽口を叩いてはいるが、状況は最悪と言ってもいいほど悪かった。ガシャドクロに何発も斬撃波やビームを放つが、全く効いている様子はない。それどころか墜ちてくるスケルトンによって徐々に追い込まれている始末だ。
「どうすればいい......どうすれば奴を──」
隙をつかれたデファンスは、ガシャドクロのなぎ払いに巻き込まれて崖にある岩肌に叩きつけられた。埃を被ってゴロゴロと転がるデファンス。
「はぁはぁ......ゴホッ」
咳き込みながら何とか立ち上がる。このままでは殺されるのも時間の問題だ。ガシャドクロは地べたを這いずってゆっくりと近づいてくる。
その時、ガシャドクロの顔に向けて巨大な火炎弾が撃ち込まれる。見上げると、そこにはマシンオボグルマーに乗ったデーゼルがいた。フラウロスコインの力を使って攻撃したのだ。デーゼルはバイクで崖を降りると手招きする。
「助かったわほんま」
「それはどうも。副長のところに戻って態勢を立て直しますよ」
「了解」
後ろに乗り込もうとするデファンスだったが、横一文字の斬撃波によってデーゼルとバイクもろとも吹き飛ばされてしまった。バイクは綺麗に真っ二つに裂かれており、それを見て攻撃した本人であるクエレブレは手を叩いて笑う。
「素晴らしい。どうですか、私の長刀の切れ味は?」
「挨拶もないとは失礼な怪異ですね......クソが」
「おっと失礼。私はロストマンのクエレブレ、以後お見知りおきを」
クエレブレは優雅に頭を下げる。
「なんやねんあんた? 敵か味方かどっちや?」
「何と言えば良いのやら。おっと、その白い銃。前の持ち主のお知り合いと言えばよろしいでしょうか?」
「なるほど......あんたはアイツの仲間か!」
デーゼルは2丁のガンライザーを構えてトリガーを引く。無数の銃弾がクエレブレに向かうが、それらは全て彼の長刀によって防がれてしまう。
「ナイスショット」
クエレブレは宙返りしてデーゼルの後ろに立つと、背中に裏拳を当てる。すぐさま押し倒されたデーゼルの首めがけて、クエレブレの長刀が振り下ろされる。
隣にいたデファンスはチュパカブライザーの刃でそれを受け止めると、金属同士がぶつかり合って甲高い音が響き渡る。
「今のを防ぐとはなかなかやりますね」
「舐めんなや!」
つばぜり合いの状態のままお互い一歩も引かない。力比べが続く中、先に動いたのはクエレブレの方だった。装填されたクエレブレロストコインを入れ直し、長刀を強く握りしめる。
『イビル・モンスター』
紅蓮のオーラが左手から長刀に宿り、デファンスは徐々に押し切られていく。
「フフフ......」
「そっちがその気なら、やったろうやないかい」
チュパカブライザーのグリップのボタンを長押しして、必殺技のエネルギーをもってクエレブレを押し返した。刹那彼の土手っ腹にデーゼルの必殺光線が命中した。
尚もクエレブレは余裕をかましていたが、3人に向かって再びガシャドクロの腕が振り下ろされる。皆何とか避けたものの、クエレブレは自分もろとも攻撃してきたガシャドクロに対して舌打ちする。
「敵味方の区別すらついていないとは!」
陥没した地面から腕が引き抜かれ、今度は標的をデファンスとデーゼルに変える。
「怪異に暗殺を任せるのは不本意ですが、この状況では満足に戦えそうにもありませんからね。それでは」
「待ちなさいッ!」
デーゼルが弾丸を撃つがクエレブレは一瞬にして姿を消してしまった。悔やむ暇もなく2人に容赦なく拳が叩きつけられる。直撃を受けて吹き飛ばされた2人は、大木に激突して変身を解かれる。
「あかん、これどないすんねん」
「こんな無様な姿見せられませんね......」
もはや立ち上がる力もない。諦めかけたその時、振り下ろされたガシャドクロの腕をトゥルークが受け止めた。
「グッ......うぅぅ......」
必死に防ごうとするが徐々に押し潰されていく。それでも彼女は離れなかった。
「正義さん、アニーさん、今のうちに......」
正義はアニーを担ぐと、チュパカブライザーに引きずられながら攻撃の範囲から離れる。次の瞬間、トゥルークはガシャドクロによって押し潰されてしまった。手が離されると変身を解いたノゾミが倒れ込む。
「やっぱり強い......だったら」
銀色のコインを取り出すと、稲妻が走って翼の生えた海蛇が描かれる。
◆
山頂でその戦いを見ていたヒカルは、帰ってきたクエレブレに冷たい目を向ける。
「何ででしゃばるような真似をした?」
「も、申し訳ありません。怪異風情に栄誉を取られるのが惜しくてつい......」
「ここで死ぬようなやつに栄誉などあるか」
恐縮するクエレブレを尻目に、戦場ではノゾミが新たなコインをベルトに投入していた。
『ダイブ・イン・トゥルース!』
「うわああああああああああっ!」
ノゾミの身体から青い鱗を纏った尻尾が何本も生えて、ガシャドクロの動きを止める。尻尾からはどす黒い海水が放出され、それらが振るわれる度に彼女は苦しそうに踠く。
「訣別だ。お前は邪神に選ばれなかった。やはり継承者は俺のようだ」
ノゾミの瞳から光が消えて、糸が切れた人形のようにへたり込んでしまった。
◆
暗闇の中で声が聞こえる。聞いたことのあるような気がするが思い出せない。
「起きなさい、ノゾミ」
ふと意識を取り戻すと、目の前には純白のドレスを着た女性が立っていた。ノゾミと彼女は真っ暗な空間に身をおかれている。
「ここはどこ?」
「ここはあなたの深層心理。私たちは魂だけの存在になっているわ」
「魂......あなたは一体──」
「そう、だから落ち着いて聞きなさい。これからあなたが選ぶ選択を」
彼女がそう言って両手を広げると、そこには2つのビジョンが映し出された。
1つは見たことのない姿のトゥルークとして戦い続ける道。もう1つはガシャドクロの攻撃でベルトが破壊され、邪神の呪縛から逃れる道。
「こんなの......決まってる」
ノゾミは異形の自身を指差した。女性は目を丸くしてもう1つの道を消して、代わりにベルトを掴んだ。
「本当にそれでいいの? 戦いから解放されて、普通の人間に戻れるチャンスだとしても」
「それでも私は戦う。ここで逃げたら正義さんとアニーさんが殺されちゃう」
「そう......変わらない、いや変えられないのね。あなたの意志は」
◆
ノゾミから生えた数多の尻尾は2つに集合し、翼のような形になって彼女を包み込んだ。その衝撃で海か晴れると、そこにいたのは身体中に青白く輝く鎧を纏い、頭部がサメを模したマスクで覆われたトゥルークだった。
『マニピュレイト・ザ・トゥルース!』
『トゥルークリヴァイ!』
「何でお前が使えるんだ......あれは、俺にしか使えないはずだろ」
ヒカルの顔に動揺の色が浮かぶ。一方でトゥルークはベルトに手をかざし、そこから片刃の剣『トゥルークカリヴァー』を取り出した。
彼女の目が青く光ると、ガシャドクロの四方八方にトゥルークの分身体が現れる。本体が駆け出すと共に一斉にガシャドクロに飛びかかると、身体についたスケルトン達を斬りだした。
「な、何人おんねん......」
『その数50......だが、あれだけのエネルギー体を長時間維持できるとは』
伝承通りの姿に戻されたガシャドクロ。分身は水となって溶けると、体積を増してガシャドクロの周囲に水柱を形成した。本体は上空から急降下しながらトゥルークカリヴァーのスロットにコインを装填する。
『トゥルーク!』
音声が鳴ると、トゥルークカリヴァーの刀身が緑に染まる。水柱に突入すると、ガシャドクロの右肩に狙いを定めて勢いよく振り下ろした。
「はぁっ!」
『ワンスブレイク!』
緑色の衝撃波がガシャドクロの右腕を切り裂く。
「まだだ!」
ホルダーから飛び出したコインが次々にトゥルークカリヴァーに装填され、さらに強大な力を引き出していく。
『サーチ! スピーカー! チェーンソー!』
4枚分のエネルギーがトゥルークカリヴァーに流れ込むと、刀身が不可思議な形状に変化する。そのままガシャドクロに残された四肢を一気に切断する。
『カルテットブレイク!』
支えを失い水から解放されたガシャドクロが泥の大地に投げ出される。水の幻影はトゥルークの背中に吸収されていく。
「これで最後だ......!」
トゥルークカリヴァーを投げ捨てると、ベルトのレバーを操作して必殺技を発動させた。
『イア! イア! リヴァイアサンストライク!』
トゥルークの右足に莫大な量の水が集まり、巨大なサメの頭になる。急加速して放たれるトゥルークのキックは頭蓋骨を砕き、ガシャドクロは断末魔を上げて爆散した。
トゥルークは地面に降り立つと変身を解除した。その瞬間に波のように押し寄せる吐き気に襲われ、口から海水を吐瀉してしまう。
「ノゾミちゃん!?」
「あなたしっかり!」
正義とアニーは肩にノゾミの手を回して支える。
「ありがとうございます......何とか倒せました、ガシャドクロ」
「やったな......大金星やでほんま!」
「まんまとおいしいところだけ取られましたね」
3人が勝利の喜びに浸っていると、上空からひし形の石が降ってきた。石はノゾミの足元に転がってキラリと光る。
「これは......」
「それが殺生石だ」
彼らの後ろには武装した局員を連れた狭霧と三雲がいた。
「殺生石は僕が回収するよ。色々と調べないといけないからね」
三雲は受け取った殺生石をケースに保管すると、正義たちと共にノゾミを介抱しながら対策拠点に戻っていく。
「まだ1体......どれだけ犠牲が出るんだ」
狭霧と局員の目の前には誰とも知れぬ人骨の数々と、湿った土に燃え続ける炎といった奇妙な光景が広がっていた。
◆
薄暗い路地裏、トゥルークの戦いを見届けたヒカルは顔をひきつらせていた。
「まさか俺以外に継承者がいたとはな......」
ノゾミが新たな姿に変身した時、彼は驚きのあまり言葉が出なかった。自分しか使いこなせないと思っていた力を、彼女は引き出して見事ガシャドクロを倒したのだ。
「クソッ!」
苛立ちを抑えきれずに壁を殴ると、拳に痛みが走った。血の滲んだ手を睨み付けているヒカルに、室外機の上に立っていたクエレブレが呆れたように話しかける。
「何をやっているんです、ヒカルさん」
「......殺す必要はまだない。そう焦るな」
「分かりました」
クエレブレは室外機を伝ってその場から去っていく。1人残されたヒカルは朝焼けに包まれていく空を見上げた。
「まさか......あいつもロストマンか」
小さく呟いた彼の顔には、どこか寂しげな表情が浮かんでいた。
クエレブレが消えて静まり返った路地裏に、今度は別の人物が現れる。
「こんなとこにいたんだ」
黒いパーカーを羽織ったその少女は、猫のように瞳を細めて苦笑いする。
「久しぶりだなウィッチ」
「その名前で呼ぶのやめてよ」
「じゃあレイナちゃん」
「ちゃん付けもやめて」
レイナと呼ばれた少女がフードを脱ぐと、黒髪のポニーテールが現れる。彼女の左腕にはもちろんロストマンチェンジャーが装着されていた。
「仲間外れはあんたの嫌いなものじゃなかった?」
「悪かったよ。それで勧誘はどうだった?」
「失格。ほんとに私達以外の適合者はいるの?」
レイナは不満そうな声で話す。その問いに対して、ヒカルはニヤリと笑みを浮かべる。
「必ずいるさ。我が主は俺たちを見捨てたりしない」
「ふーん......」
レイナは興味なさそうに返事をして、携帯に視線を逸らした。
怪異対策局 怪異アーカイブ
No.???『リヴァイアサン』
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