仮面ライダートゥルーク   作:くるみゼロ

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episode2『異界のカイイ2』

「......かん......べ......神戸!!」

 

 耳元で聞こえた声でハッとする。

 

「はっ、はい!」

 

「今先生が質問したことに答えなさい」

 

「そうですね......ミネラルウォーターで氷を作ってはいけない?」

 

「違います」

 

 呆れた顔で言う担任の言葉を聞きつつ、神戸(かんべ)ノゾミは内心冷や汗を流していた。

 

「すみません、寝ちゃって聞いてませんでした......」

 

「まあいいでしょう。放課後職員室に来なさい」

 

「はい......」

 

 怒られそうだと肩を落とすと、ノゾミはチラリと窓の外を見る。

 空からは太陽の光が降り注ぎ、グラウンドでは高校指定のジャージ姿の生徒が元気よく活動している。

 平和そのものと言ってもいい光景の中、ノゾミの日常は今日も過ぎていく。

 しかしこの時、彼女はまだ知らなかった。この平穏が崩れ去る日が来ることを......。

 

 

 

 

「ねえねえノゾミ、降神術って知ってる?」

 

 次の日の昼休み、友人のチカに話しかけられてノゾミは眉を上げた。小学校からの付き合いのある幼なじみだ。

 オカルト系の話が大好きな彼女は、眼鏡をくいっと上げて顔を近づける。

 

「なんかテレビで見たことある。確か神様を呼び出すんでしょ?」

 

「それそれ! それでさ、昨日の夜ネットで調べてみたんだけどすんごいんだよ。なんでも願い叶えてくれるの!」

 

 興奮気味に身を乗り出してくるチカに対し、ノゾミは若干引き気味に尋ねる。

 

「ど、どんな感じなの?」

 

「それがね、特別な儀式があって──」

 

「ちょい待ち」

 

 そこで話を遮ったのはもう1人の友人であるユキナだった。2人とは対照的に背が高くモデル体型の子だ。

 

「何ユキナ、いきなり割り込んで」

 

「あんたがまた変なこと言い出すから注意しようと思ってね」

 

「変じゃないもん! 超すごいじゃん! それにこれは慈善事業だから」

 

「慈善事業ねえ......」

 

 疑わしい視線を向けるユキナに対して、チカはさらに身を乗り出して言う。

 

「だって考えてみてよ。この前ノゾミは富竹にキレられたし、私のお父さんは仕事クビになっちゃったし......みんな最近良いことないじゃん?」

 

「あー、それはそうだね」

 

「だから私は降神術を使って、『みんな楽しく過ごせますように』ってお願いするわけ。代償としてそうだな......富竹の命使おう。これなら成功するっしょ」

 

「ちょっと待って」

 

 ノゾミは慌てて2人の間に割って入る。

 

「そんな物騒なことダメだよ」

 

「なんで? 別にいいじゃん、ノゾミも富竹先生嫌いでしょ? 感じ悪いし」

 

「でも、人を殺すなんて駄目だと思う」

 

「別に私らが殺すわけじゃないし......」

 

 なおも食い下がろうとするチカに、ユキナは呆れ顔で言う。

 

「そもそもその降神術ってのはほんとなの? 普通に考えたら怪しさ満点なのに、よく信じる気になったわね」

 

「ふっ、知りたかったら一緒に儀式をやるしかないけど? まあ気が向いたら来てね~」

 

 それだけ告げるとチカはどこかに行ってしまった。残されたノゾミとユキナは同時にため息をつく。

 

「ちょっと心配......行ってみる?」

 

「そうね。まったく、あの子の頭の中には『オカルト=世界の真理』って考えがあるから困ったものよね」

 

 

 

 

 日曜日の午後6時、学校近くの公園にはチカを含め数人の生徒が集まっていた。中にはもちろんノゾミとユキナもいる。

 

「まさかほんとにやるなんて」

 

「そうね。てか、人数増えてない?」

 

 ぼそぼそと話す2人を気にせず、チカは儀式の準備を進めていく。

 

「ではこれより降神術を行います! 手順は渡した紙に書かれた内容通り呪文を唱えればオッケー!」

 

 集められた参加者たちは、手に持っていたコピー用紙を読み上げていく。そこには以下のような内容が書かれていた。

 

『いな・いな・とーふ・たふんたふん (生にえの名前[富竹富士子]) «魔方陣が光るまで繰り返す»』

 

 一方、チカの方は既に準備を終えていた。地面には木の棒で描かれた円の中に、五芒星が刻まれている。その中央に立つと、両手を合わせて祈り始める。

 

「いでよ神様! 富竹の命と引き換えにみんなに楽しい日常をお与えください!」

 

 すると地面の五芒星が青白く輝き始めた。

 突然の出来事に驚く一同、しかしチカは祈ることをやめなかった。

 

「富竹の命を生贄とし、この世に降臨せよ!」

 

 そして光が一層強くなり──何も起こらなかった。

 ただチカの足元に描かれた魔方陣だけが不気味に輝いている。

 

「失敗? 何で、どうして? おかしいじゃん!」

 

 パニックになるチカを見てユキナは不安そうな表情を浮かべる。

 

「で、その楽しい日常は?」

 

「あ、あははー......駄目だこりゃ」

 

 結局、儀式は失敗したとこの場にいるユキナたちに判断された。

 

 

 

 

 次の日、ノゾミたちの担任の富竹先生が急死した。自宅で心臓麻痺を起こしたらしい。

 その日の放課後、ノゾミたちは昨日の件について話していた。

 

「先生が死んだの、昨日の儀式のせいじゃ......」

 

 ノゾミの言葉を聞いてユキナが答える。

 

「でも儀式は失敗したはずなのになんで?」

 

「分からないけど......このタイミングで死んだんだよ?」

 

 2人の言葉を聞いてチカは不機嫌そうに言う。

 

「何よ、それじゃ私が富竹殺したみたいじゃん!」

 

「誰もそんなこと言ってないわよ」

 

「だってそうとしか考えられないし!」

 

 口論になるチカとユキナを止めようと、ノゾミが割って入ろうとする。

 すると教室にクラスメイトの1人が飛び込んできた。

 

「どうしたの?」

 

「5組の前園が急に倒れた。それで保健室に運ばれたんだけど......」

 

 そこで言葉を切る。そしてゆっくりと続きを話した。

 

「あいつ、死んでたんだ」

 

「はぁっ!?」

 

 チカが驚きの声をあげる。

 

「ど、どういうことなの?」

 

「それがさっぱり分かんなくて......いきなり苦しみだしてそのまま死んだんだ」

 

「そんな......」

 

 あまりの内容にその場にいた全員が絶句してしまう。

 しばらくしてチカが落ち着くと、今度は別の生徒が話しかけてきた。

 

「ねえ、他のクラスの子に聞いたんだけど、3年の先輩が自殺したって本当かな?」

 

「え?」

 

 思わぬ情報にノゾミたち3人は困惑する。

 

「自殺?」

 

「ほら、女バスの部長......」

 

 そこまで聞くとユキナはチカの方を向く。

 

「あんたが変な儀式やったから!」

 

「違う! 私関係ない! 勝手に死んだんじゃん!」

 

 またもチカとユキナは言い争いを始める。

 ユキナは自分の鞄を持つと、ノゾミの手を引いた。

 

「ノゾミ帰ろ。疫病神と一緒にいたくない」

 

 ノゾミは強引に彼女に引っ張られていく。

 2人は泣きそうになるチカを置いて、教室から出ていった。

 

 

 

 

 帰り道、ノゾミはユキナに質問する。

 

「ねえ、私たちどうなっちゃうのかな?」

 

 するとユキナは難しい顔をしたまま答えた。

 

「分からない......」

 

「私怖い......これからどうなるのか」

 

「そうね。じゃあまた明日」

 

「うん......待ってユキナ、まだ信号赤だよ!」

 

 次の瞬間、クラクションを鳴らしながらトラックが猛スピードで走ってきた。そのままユキナを轢いていくと、反対側の車を巻き込みながらガードレールに衝突する。

 

「ユキナーッ!!」

 

 悲鳴を上げてノゾミは親友の元へ駆け寄った。しかし時既に遅く、彼女は目を見開いて事切れていた。

 

「ユキナ、嘘でしょ? ......なんで、どうして?」

 

 

 

 翌日、ノゾミは自分の机に座ってぼんやりとしていた。昨日の出来事がまだ信じられなかったのだ。

 

(ユキナが死んだなんて、そんな......)

 

 いくら嘆いても目の前の現実は変わらなかった。

 するとそこへチカがやってきた。

 

「あ、あの......おはよう」

 

 ノゾミの声は無視される。やはり彼女に嫌われたらしい。

 それから少し時間が経ち、朝のホームルームの時間となった。新しい担任の先生が教壇に立って話し始める。

 

「突然ですが皆さんに伝えないといけないことがあります。実は松永ユキナさんがお亡くなりになりました。交通事故に遭われたそうです......」

 

 その言葉を聞いてクラス中は騒然となる。中には涙を流して取り乱す生徒もいた。

 

「明日松永さんの葬儀があります。参列してあげてください」

 

 それを聞いてノゾミは何も考えられなくなった。その日の授業は上の空のまま終わりを迎えた。

 

 

 

 

 放課後になると、ノゾミは1人で家に帰ることにした。チカと顔を合わせるのが嫌というのもあるが、やはりユキナが死んでしまったショックが大きかった。きっとチカも同じだろう。だから1人になった。

 

「ユキナ......」

 

 歩きながら呟く。信じられなかった。今まで3人ずっと一緒にいたからだ。だがそれも永遠に続くわけではなかった。

 やがて自宅の前に着いた時だった。玄関前の電柱の影から、般若のお面を被った女がまっすぐノゾミを見つめている。

 

「ひっ!?」

 

 驚いて立ち止まると、女はゆっくりと近づいてきた。右手に包丁を握りしめどんどん距離を詰めてくる。

 

「こ、来ないで!」

 

 恐怖を感じたノゾミはたまらず走り出した。相手もそれに応じて追いかけてくる。

 

「来るなっ!!」

 

 さらに逃げると背中に何かぶつかった感触があった。振り替えるとそこには電信柱がある。女はすぐそこまで迫っている。絶体絶命の状況の中、ノゾミは死を覚悟した。

 その時である。突如女の腹を拳が貫通した。

 

「え?」

 

 呆気にとられてノゾミは声を出す。見るとそこに立っていたのは涼真だった。

 彼が貫いた右手を引き抜くと、女はそのまま倒れる。そして黒い霧となって消えた。

 

「怪我はないか?」

 

 ノゾミは黙ってうなずくしかなかった。

 

 

 

 

「少しは落ち着いたか?」

 

 ノゾミを近くの公園まで連れてきた涼真は、ベンチに座っている彼女に話しかけた。ノゾミは無言で首を振る。

 

「ユキナが......死んだんですよね。私のせいで」

 

 その問いに対して涼真の答えはシンプルだった。

 

「そうだ。正確には降神術で君たちが呼び出した怪異のせいで」

 

 その言葉にノゾミ顔から血の気が引いていく。

 

「じゃあ私はどうすれば......」

 

 泣きそうになっているノゾミを慰めるように、涼真は彼女の肩に手を置いた。

 

「安心しろ。それを解決するために俺が来た」

 

「どういう意味ですか?」

 

「詳しい説明をしている時間はない。ともかく首謀者と連絡を取って、降神術を行った場所まで案内してもらおうか」

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