数分後、2人はチカを連れて学校近くの公園に来た。
「ここがそうなのか?」
辺りを見ながら涼真は確認する。
3人の目の前には輝き続けている魔方陣が描かれていた。
「なるほど。随分滅茶苦茶なことをしてくれた」
呆れている涼真の横ではチカが怯えていた。
「何これ? ちゃんと消したのに......」
「無駄だ。君が出した怪異が飽きるまで楽しい日常は終わらない」
「そんな......」
「それより魔方陣が強力だな......俺1人でどうにかできるものじゃない」
そう言って、涼真は携帯を取り出してどこかに連絡を取った。
「......風祭です。至急他のライダーを派遣してほしいのですが」
電話の向こうの相手にことの経緯を詳しく説明していく。が、返答は予想外のものだった。
「は? 全員無理? 狭霧副長は? ......子供の迎えって、分かりました誰でもいいので応援をお願いします」
しばらくして連絡を終えると、再びチカの方に向き直った。
「俺だけでやるしかないようだな」
そう言うと懐からベルトを取り出し腰に装着する。続けてポケットから1枚の青いコインを取り出すと、ベルトの上部に装填した。
『セイリュウ!』
続けてベルトの天面にあるレバーを右側に引いて叫んだ。
「変身!」
同時にレバーから手を離す。するとベルトの風車が回転して機械音声が流れた。
『怪異解放!』
涼真の背後に青い龍のエフェクトが現れ、彼の右腕に噛みつくと全身にまとわりつく。その瞬間、その姿は別のものへと変わっていった。
『セイ! リュウ! 仮面ライダージンリュー!』
青き装甲に身を包む戦士、仮面ライダージンリュー。それが彼のもう1つの名前だ。
「すごい......」
ノゾミは思わず呟く。ジンリューは軽く手を動かして調子を確認しつつ2人の方を見た。
「しばらくここからは出られないぞ。今の俺は、君たちの連れとしてしか怪異と戦えないからな」
2人がうなずくと、ジンリューは魔方陣の方に向かって歩き出す。すると魔方陣から不気味な笑い声をあげながら、カラスのような異形が現れた。
「貴様ハ?」
現れたカラス怪異を見て、ジンリューは親指で首を切るジェスチャーをする。
「言っておくが、ろくな死に方はさせないぞ」
それを聞いたカラス怪異は高らかに笑う。
先に仕掛けたのはジンリューだ。一瞬にして距離を詰めると、鋭い膝蹴りを繰り出した。だが相手も素早い動きで避けると、翼を羽ばたかせ空に飛び上がる。
「逃がすかっ」
両足から蒼い炎を噴出させると、すぐさま上空に跳び上がった。そのまま降下しながら拳を突き上げる。
「はあっ!!」
気合いと共に繰り出された一撃だったが、拳は相手の体をすり抜けてしまう。何とか地面に着地して振り替えると、カラス怪異はジンリューを嘲笑っていた。
「こいつ、曲がりなりにも神と扱われて強化されてるのか?」
そう判断したジンリューは懐から黒いコインを取り出した。
「だったらコイツを使うか」
左手でセイリュウコインを取り出すと、右手の新しいコインを装填した。
『ハリオンナ!』
「怪異武装!」
再びレバーを操作すると、ジンリューの右腕にニードルガンが装備される。
『シュー! ゴー! ジンリューハリオンナ!』
銃口をカラス怪異に向けて光弾を発射する。
突然の攻撃に驚いた様子のカラス怪異は、体制を崩して地面に叩きつけられた。そこへさらにニードルガンで追撃を仕掛けようとした時、横合いから新たな怪異が狙いを反らした。
それは人の形をしたハンニャ怪異。先程ノゾミを襲おうとした怪異の別個体だ。
「こいつの手下だったのか」
ジンリューは面倒そうに言う。蒼炎を纏った回し蹴りでハンニャ怪異を爆殺し、すぐさまカラス怪異に照準を合わせる。
しかしハンニャ怪異は1体だけではなかった。
「しまった!」
背後に迫る殺意に気づいたジンリューだったが、振り返った時には別の個体に羽交い締めにされてしまった。
「クケェエエッ!」
身動きが取れなくなったところに、カラス怪異が迫ってくる。嘴を開き、鋭い牙をむき出しにする。
あと1歩で串刺しにされる時、カラス怪異に向けてペットボトルが投げられた。
「カ?」
カラス怪異は驚きつつも反射的に回避する。
ペットボトルを投げたのはノゾミだった。彼女はジンリューを苦しめる2体の怪異を睨んでいる。
「何やってんのノゾミ!? 気づかれたじゃん!」
驚くチカに対してノゾミは強い口調で返す。
「あの人は私たちのために命懸けで戦ってるんだよ、助けないと!!」
「馬鹿! 私まで巻き込まないでよ!」
「でもあのままじゃ......」
言い争っている場合にも、カラス怪異は2人に向かってくる。
ジンリューは後ろのハンニャ怪異の足の甲を踏んで怯ませると、ヘッドショットを食らわせて倒す。
「やめろぉおおおっ!!」
雄叫びと共にカラス怪異に飛びかかる。だが目の前でまた別のハンニャ怪異が現れて妨害される。
1体、また1体と倒しても敵の数は増えていく一方だった。
(まずい、俺1人じゃとても......)
次第に数の暴力に押され始めるジンリュー。
しかしここで予想外のことが起きた。突然ノゾミは明後日の方向に走り出すと、輝きを放つ魔方陣の中心に立った。
「確か......いあ・いあ・トゥルーク・たふんたふん! 神戸ノゾミ!」
すると魔方陣の模様が生きているかのように動き出した。それと同時にジンリューを囲んでいたハンニャ怪異たちが苦しみ始める。
「まさか......よせ!!」
ジンリューの叫びも虚しく、ノゾミは神に願い事を告げてしまう。
「私の命を生贄に、あの怪物を倒してください!」
◆
ノゾミが願った直後、彼女の体が発光し始めた。
眩しさに目を細めていると、いつの間にか周囲にいたはずのハンニャ怪異がいなくなっていることに気づく。
代わりに、ノゾミの後ろには巨大な影があった。
「オオォオオッ!!」
地響きのような低い声をあげて、3メートル級の黒いタコのような怪物が現れる。それは禍々しい気配を放ちながら、真っ直ぐカラス怪異を見据えていた。
「グゥウウッ......」
カラス怪異もまた、突如現れた異形の存在を警戒して距離をとる。そして数秒後、両者はほぼ同時に駆け出した。
カラス怪異は嘴を喉元に突き立てようと飛びかかる。だが怪物はそれを顎の触手1本で受け止める。
そのまま目の前まで引き寄せると、勢いよく地面に叩きつけた。
さらに追い討ちをかけるように、今度は右手を大きく振りかぶる。振るわれた拳がカラス怪異を捉えると、凄まじい衝撃が辺りを襲って怪異の周辺にある地面が大きく陥没する。
やがて砂ぼこりが晴れた後、そこにカラス怪異の姿はなかった。
「やった!」
喜ぶノゾミだったが、ふいに背後から視線を感じて振り返った。
そこには傷だらけのカラス怪異がいた。その体はボロボロになりながらも、かろうじて原型をとどめている。
すると怪物はノゾミを見下ろすと、荘厳な声で語りかけた。
「我を解放したその功績を称え、汝に褒美を与えよう」
そう言って怪物はゆっくりと手をのばす。その手に光が灯り一筋の雫が垂れると、怪物は消滅してしまった。
代わりにノゾミに残されたのは緑色のコインと赤い風車のベルトだった。しかしこれらは涼真が持つものとは少し違っていた。
コインにはあの怪物の姿が描かれており、セイリュウやハリオンナのコインが銀縁なのに対してこちらは金縁だ。そしてベルトも銀色ではなく紫色で、エングレービングを思わせる金色の模様が付けられていた。
「これって......」
「なぜあの怪物が、MCBドライバーを」
ノゾミが戸惑っている間に、カラス怪異は最後の力を振り絞るように襲いかかってきた。
「ヤラセハシナイィイイッ!」
「危ない!」
ノゾミは咄嗟に身構える。だがすかさずジンリューが割って入りそれを阻止した。
「ぐぅっ!」
カラス怪異の嘴がジンリューの肩口に突き刺さった。肉を引き裂いて青の装甲に鮮血が流れる。
「うぐぁあっ!」
激痛に悲鳴を上げるジンリュー。しかし彼は怯むことなく反撃する。
「食らぇえっ!」
至近距離のニードルガンの射撃を受け、カラス怪異は絶叫しながら吹っ飛ぶ。それでもまだ息があるようで、よろめきながら起き上がった。
「......命懸けで、やってみる」
絶体絶命の危機に、再びノゾミは覚悟を決めた。MCBドライバー紫炎を装着すると、ジンリューの手順と同じくコインをベルトの上部に装填した。
『イエス・マイロード』
ベルトの天面のレバーを右側に引いて、力の限り叫んだ。
「変身!」
◆
『邪神解放!』
ノゾミの前に魔方陣が出現し、そこから紫に輝く人魂のようなものが現れた。それらはノゾミの周りを巡り全身へと纏わりつく。すると彼女の姿が変化していった。
胸や手足、腰などに鎧が現れ、最後に頭頂部に冠が出現する。
『フングー! ムグルー! トゥルーク!』
禍々しく光る複眼、胸部に描かれた十字架、そして何より特徴的なのはその背中に生えた黒い翼だった。邪神の力で変身する彼女の名は、仮面ライダートゥルーク。
変身を遂げた彼女は、両掌を合わせて大きく広げる。その姿はまさに堕天使だった。
トゥルークは無言のまま歩き出す。先程のノゾミとは思えないほどの凄みから、カラス怪異はトゥルークが一歩踏み出す度に無意識に退いてしまう。
そして本能的に危険を感じたのか、カラス怪異は再び翼を広げて空へ舞い上がる。
「逃げられると思ったか」
トゥルークもまた翼を広げ、そのまま飛翔した。
トゥルークの急降下からのかかと落としを、カラス怪異は身を捻って回避する。しかしトゥルークの攻撃はまだ終わらない。すぐさま方向転換し、そのまま高速で体当たりを仕掛ける。
目が追い付かないほどの攻撃を何度も食らい、カラス怪異はなす術もなく地上へと落下していく。
「死ね」
レバーを再び右側に引くと、トゥルークの力が更に解放される。
『イア! イア! ライダーパワー!』
右足に紫色のエネルギーが集束していき、それが臨界点に達すると地上のカラス怪異に必殺キック『キックエンド』を食らわせる。
キックを受けたカラス怪異は、断末魔を上げることなく爆発してしまった。
「ふん......」
トゥルークは足についた黒い羽根を払っていると、突然目の前が真っ黒になった。同時に意識が遠退いていく。
「あれ、なんだろう......」
薄れゆく意識の中、こちらに向かってくるジンリューの声が聞こえた気がしたが、やがてそれも闇に包まれていった。
◆
「ん......」
目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。ノゾミは自分がベッドに寝ていることに気づく。
「ここは......」
起き上がって周囲をうかがう。どうやら病室のようだ。窓からは夕日が差し込み、室内を赤く染め上げていた。
「目が覚めたか?」
不意に声をかけられて振り向く。そこには涼真がいた。彼は椅子に座り、腕組みをして佇んでいる。
「えっと、涼真さん......私どうしてここに?」
「覚えていないのか? 君は昨日の戦いで倒れてここに運ばれた」
言われてみれば、そんな記憶もあったようななかったような......。
混乱するノゾミを見て、彼はため息をつく。
「ここは怪異対策局。君が倒した怪異を討伐する組織だ」
「そうだったんですね。あの、ご迷惑をおかけしました」
ノゾミは深々と頭を下げる。そして、ふとあることに気づいてしまった。
(私、なんで死んでないんだろう?)
涼真の話では、あのカラス怪異を自分で倒したらしい。ならば何故今も生きているのだろうか。まさか奇跡でも起こったというわけでもあるまい。
「私はどうやって助かったのでしょうか?」
「それは分からない。こちらも調査を進めるつもりだ」
涼真は病室を出ようとする。しかしノゾミにはもう1つ気になることがあった。
「実は私、さっき夢の中で怪物にあったんです」
「......詳しく聞かせてもらおうか」
「夢の中で言われました。『近い将来、汝を迎え入れる』と......」
涼真はしばらく黙考していたが、「わかった」と言って足早に部屋を出ていってしまった。
何が分かったのか理解できず、ノゾミは首を傾げる。1人残されたノゾミは、すぐに眠気に負けてしまって再び眠りにつくのだった。
◆
「零澤局長、例の降霊術の件が解決しました」
「そうか」
怪異対策局の一室にて、白衣を着た男・
「狭霧、他のライダーはどうしている?」
「はい。渋谷区に出没したゾンビは涼宮を、佐世保の教会での怨霊の浄化はシスター・アニーを向かわせました。今のところは以上です」
「報告ご苦労。やはり怪異が根絶される日は遠いな」
「それについて、昨日搬送された高校生なんですが......」
零澤は狭霧の情報を噛み締めながら、目の前にある巨大なモニター群にそれぞれ目を通していた。
怪異対策局 怪異アーカイブ
No.2439『トゥルーク』
現在調査中。
日本語文献にて、約3000万年前に崇められた同名の邪神を確認。
現在怪異と接触のあった女子を拘束中。