仮面ライダートゥルーク   作:くるみゼロ

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episode5『人喰いヒヒ2』

 マシンを走らせて山道に到着すると、後方から巨大な丸鏡が出現した。そこからはノゾミと同じマシンが飛び出して目の前に止まる。

 マシンからウンガイキョウコインを取り出すして鏡を消すと、運転手はヘルメットのバイザーを上げた。

 

「涼真さん!?」

 

「第三級とはいえ凶悪な怪異だ。新人の相手には悪すぎる」

 

「いいんですか? 怪我の方は......」

 

「問題ない。それより早く行くぞ」

 

 涼真は首から下げるハンズフリーライトを投げ渡すと、暗い森の中へ脚を踏み入れた。ノゾミもライトの明かりを頼りにその後を追う。

 足元のぬかるみや飛んでくる羽虫に苦闘するノゾミに対して、涼真はそれらを意に介さず脚を進めていた。

 竹林に入ったところで、涼真はふとその場で立ち止まる。

 

「誰かつけてるな」

 

 ふと妙な気配を感じた涼真はさっと振り返る。しかし、そこにいたのはきょとんとしたノゾミだけだ。

 

「どうしました?」

 

「......いや。そこにいるのは分かってる! 出てきたらどうだ!」

 

 ノゾミも振り返ってみると、登山服に着替えたナオコがうつ向きながら出てきた。

 

「気づいてたんですね......」

 

「なぜ後をつけてきた?」

 

「あいつは弟の仇なんです。この手で......殺さないと、私が」

 

 ナオコがそう言って包丁を取り出す。弟を殺された怒りなのか、それとも失ったことへの悲しみなのかその手は震えていた。

 

「危険すぎる。そのまま帰ってくれ」

 

「お願いします! ご迷惑はかけませんから、言う通りにしますんで!」

 

「しかし......」

 

「いいじゃないですか」

 

 そう口走ったのはノゾミだった。驚く涼真を後目に、彼女はナオコの持っていた包丁をそっと奪って投げ捨てるとその手を握った。

 

「いいんですか......?」

 

「はい。こちらの言う通りにしてもらえれば......それでいいですよね?」

 

 笑顔で振り返るノゾミ。その時涼真は目を丸くした。

 彼女の影が形を変えて、あの邪神の姿になっていたからだ。邪神は涼真の影に触手を伸ばし身動きを封じている。

 

(やはりか......邪神を手懐けられる訳ないよな)

 

 触手は涼真の肩に絡まりきつく締め上げていく。痛みに耐えて平静を装いながら、涼真はため息をついて答えた。

 

「分かった。勝手には動くなよ」

 

 

 

 

 村から約1キロ離れた場所で、ナオコは明かりを持たず枯れ葉を踏み鳴らして歩き続けていた。

 ひんやりとした空気が頬に触れると、足元に何かが触れた。見ると白骨化した人の手足がナオコの周りに散らばっている。

 

「お前ェ。村の人間かァ?」

 

 目の前に現れたのは、筋骨隆々の大猿・ヒヒ怪異だった。血走った眼でナオコを見つけると、恨み言を呟いて顔を歪める。

 足元の頭蓋骨を踏み潰し、荒い息遣いのままナオコに向かって腕を振り下ろした。が、後ろから涼真に飛びかかられて狙いが大きくそれてしまう。すかさず後ろにいた涼真を投げ飛ばすが、とっさに翻りナオコの前に降り立つ。その隣にはベルトを装着したノゾミもいる。

 

「囮作戦、上手くいきましたね」

 

「あやうく死ぬかと思いましたよ!」

 

「まあまあ、奴を誘きだすことができて結果オーライじゃないですか。ねえ涼真さん」

 

 笑顔で見つめてくるノゾミに、涼真は返す言葉がなかった。同じくベルトを装着すると、コインケースからセイリュウコインを取り出す。

 

「まだ怪異は健在だ。いくぞ神戸!」

 

「はい!」

 

 ナオコが離れたところで、ノゾミもケースからトゥルークコインを取り出した。興奮気味のヒヒ怪異の目の前で、2人はコインを装填する。

 

『イエス・マイロード』

 

『セイリュウ!』

 

「「変身!」」

 

 すかさずヒヒ怪異が飛びかかってくる。だが2人がレバーを引くと、その前に青龍と紫の人魂がそれを弾いた。

 それぞれ主の体に纏われると姿が変わり、仮面ライダーに変身する。

 

『邪神解放! フングー! ムグルー! トゥルーク!』

 

『怪異解放! セイ! リュウ! 仮面ライダージンリュー!』

 

「ふん、我に続け龍の戦士」

 

「......覚悟しろエテ公」

 

 ヒヒ怪異は雄叫びをあげて駆け寄ってきた。トゥルークは背中の翼を広げて低空からキックを繰り出すが、脚を掴まれて投げ飛ばされてしまった。

 すかさずジンリューも殴りかかるが、1メートルもの体格差があるためか虫の如く叩き落とされてしまう。そのままヒヒ怪異は背中を踏み潰さそうと脚を大きく上げる。

 

「どこを見ている!」

 

 投げ飛ばされたトゥルークが上空からきりもみキックを放つ。しかしヒヒ怪異の頭は硬く、またしても脚を捉えられてしまった。

 

「くっ、離せケダモノ!」

 

「お前ェ。何か偉そォ」

 

 足元のジンリューを蹴り飛ばすと、トゥルークの両脚を脇にホールドしてジャイアントスイングを始める。

 

「やめろ!離せっ!」

 

「やめてやるゥウ」

 

 そう言ってヒヒ怪異は思い切りトゥルークを投げた。起き上がったジンリューに勢いよく叩きつけられ、2人は地面に転がる。

 

「気持ち悪い......龍の戦士、私を立たせろ」

 

「お前が先に退け」

 

 トゥルークを突き飛ばし立ち上がると、懐からコインケースを取り出した。

 

「第三級と銘打ってはいるが、人喰いを続けてだいぶ強化されたみたいだな」

 

「何だ、貴様は分析しかできないのか?」

 

「使えるものは使うべきだ。お前も三雲さんに渡されただろう」

 

 頭を押さえつつトゥルークもコインケースを取り出す。その中から青色のコインを、ジンリューは黄緑のコインを取り出した。

 そしてそれぞれベルトのコインを入れ換えると、再びレバーを操作した。

 

「邪神武装」

 

「怪異武装!」

 

 トゥルークの目の前に魔方陣が出現し、彼女の両腕に青い人魂が纏わりつく。人魂は左右3つの独立したスピーカーに変化する。

 

『ニュル・ゼロツー! ニュル・スピーカー!』

 

 ジンリューの両腕にはブレード状のアーム武器が装備された。

 

『シュー! ゴー! ジンリューカマイタチ!』

 

「何だそれェ?」

 

 トゥルークが両腕をヒヒ怪異に向けると、スピーカーから超音波を発した。たちまち頭が割れるような感覚に襲われたヒヒ怪異は、耳を塞いで悶絶する。

 

「何だァ! 頭が痛いィ!?」

 

 続けてジンリューは青い炎を纏って駆け出すと、ヒヒ怪異の身体を何度も切り裂いていく。彼らの周りでは木の葉が舞い、風を切る音が徐々に大きくなる。やがていくつもの竜巻がヒヒ怪異の周りに現れると、ジンリューの指示で一斉にヒヒ怪異に向かっていった。

 

「うわあああァ!」

 

「今だ神戸!」

 

 トゥルークの身に付けていたスピーカーが白く輝く。超音波を流している間、平行してジンリューの風切り音を集音しエネルギーに変換していたのだ。

 ヒヒ怪異が落ちてきたタイミングを計って、強力なショックウェーブをその巨体に命中させた。

 

「痛いィ......」

 

「決めるぞ龍の戦士」

 

「お前が仕切るな、全く」

 

 2人はコインを戻して装備を外すと、再びレバーを操作した。

 

『イア! イア! ライダーパワー!』

 

 右足に紫色のエネルギーが集束すると、トゥルークはそのまま上空に飛び立つ。

 

『セイリュウ! カイイバースト!』

 

龍神破天撃(りゅうじんはてんげき)!!」

 

 ジンリューは右足に青色のエネルギーを集束させると、勢いをつけてジャンプした。右足に青龍が宿ると、ヒヒ怪異に向けて腰を軸にした回し蹴りを食らわせた。

 その直後、堕天したトゥルークの必殺技キックエンドが命中するとヒヒ怪異の身体は爆散したのだった。

 怪異が倒されたのを確認すると、ジンリューはトゥルークに駆け寄って右手を上げた。

 

「......何だ」

 

「何だと言われても、こういうノリは嫌いだったか?」

 

「馴れ馴れしいぞ龍の戦士」

 

 するとヒヒ怪異の倒れた場所に、小さな1匹の猿の死骸が落ちてきた。それを見た2人はベルトからコインを抜き取ると、レバーを操作して変身を解除する。

 

「これは?」

 

「怪異に取り憑かれていた猿だ。奴はこの猿を取り込んで実体を得た、それが腹の減る原因だったわけか......」

 

 しばらくすると、猿の死骸から黒いもやが飛び出す。もやは徐々に人型のシルエットに変化していくと、顔がないにもかかわらず2人をまじまじと見つめてきた。

 

「なるほどな......」

 

 涼真は1枚のコインを取り出すと、ベルトに装填してレバーを引いた。

 

『ショウ! カーン! サ・ト・リ!』

 

 ベルトの風車から煙がモクモクと立つと、涼真の前にピンク髪の女性が現れた。

 

「あらあら青龍の君~、ご用件は霊視ですね~?」

 

「この猿に取り憑いていた悪霊を視てくれ」

 

「わかりました~」

 

 女性は目を閉じて深呼吸する。赤く染まった眼をパッと見開くと、ノゾミと涼真に悪霊について語り始めた。

 

 

 

 

 翌朝、ノゾミと涼真は村の集会所に来ていた。昨晩ヒヒ怪異を退治したことを村人たちに報告するためだ。

 

「ありがたや......あなた達は村の救世主です! 本当にありがとうございます!」

 

 村長は集まった村人たちと共に頭を下げる。しかし2人は感謝を素直に受け止められなかった。

 

「礼はいいですから。それより早速本題に入りましょうか」

 

 涼真の言葉で村長たちは顔をしかめる。

 

「村長さん、あなた我々に嘘をつきましたね?」

 

 集会所にざわめきが起こる。村人達が動揺する中、ノゾミは震える声で続けた。

 

「倒した怪異の魂を視ました......怪異の正体は、村の人間です」

 

 その瞬間、空気が凍りついた。状況が理解できていない者もいれば、村長に懐疑の目を向ける者いる。また何人かは一瞬ノゾミから目をそらした。

 

「山本健太郎、随分前に迫害を受けていた村民です。理由は『目つきが気に入らなかったから』ですよね村長」

 

「な、何をおっしゃっているのか──」

 

「迫害はエスカレートし、ついには山本さんは殺された。村長と、そこの人と隣、あとあんたとあんた。それとお前もいたな。よってたかってまあ......酷かったよ」

 

 涼真に指を指された村人たちは俯いてしまう。

 

「それで恨みを持った山本さんの魂は怪異になり、山に入った村の人間を手当たり次第に殺した......なぜ隠してたんだ?」

 

「......自分等が殺した男が化けて復讐してきた、そんなの誰もが自業自得と言って助けてくれんに決まってる。だからもっともらしい話を作り、あんたらに消してもらったんだ」

 

 村長は顔を伏せたまま答えた。共犯の村人も同様に顔を伏せて黙っている。

 

「だが証拠はあるのか? わしらが殺したというはっきりとした証拠は」

 

「ないな。あんたらは裁かれず、犯した罪の意識など感じず暮らすんだろう。胸糞悪い」

 

「不満なら正規報酬に加え、色をつけて──」

 

「いりません!」

 

 声を上げたのはノゾミだった。瞳から涙を溢し、眉をひそめて村長に怒りを露にする。

 

「そんな汚いお金いりませんから。行きましょう涼真さん」

 

 ノゾミは涼真の手を引っ張ると、乱暴に引き戸を開けて外へ飛び出したのだった。

 

 

 

 

「離せ神戸! おい!」

 

 集会所から遠く離れ、稲穂が実った田んぼが辺り一面に広がるところで涼真は解放された。ノゾミはなおも泣いており、差し出されたポケットティッシュを使いきってしまうほど涙を流していた。

 落ち着いてきたところで、2人の元にナオコが走ってきた。

 

「あの......私、仇と言いましたけど......あの人も本当は、人間だったんですよね」

 

「そうだな。だが君が気にすることではない、もう何十年も前の殺人だ」

 

「でも......」

 

 すると田んぼを突っ切って、砂利道の真ん中に2台のマシンオボグルマーが止まった。涼真はナオコの肩を優しく叩くと、ヘルメットを被って俯くノゾミを見つめた。

 

「帰るぞ。まだ仕事は残ってる」

 

「......はい」

 

 ノゾミもまたヘルメットを被ると、投入口にウンガイキョウコインを入れた。2つの丸鏡が前方に現れると、アクセルを強く握りしめ走り出した。

 

「あ、ありがとうございました!!」

 

 ナオコの礼を受けて、2台のマシンがワープゲートに吸い込まれていった。

 

 

 

 

「──村で連続放火事件、か」

 

 怪異に関する報告書に目を通しながら零澤は呟く。

 今回の怪異を生み出した原因とされる村長含め村民数名の家が全焼、家族含め約30人が焼死した。村には危険な怪異がいないにも関わらずだ。狭霧によって纏められた調査結果により、1人の少女の名前が上げられた。

 仮面ライダートゥルークこと、神戸ノゾミだ。

 

「まさかこの事件が邪神によるものだとでも?」

 

 零澤はため息をつく。狭霧は咳払いをしつつ、説き伏せるように進言した。

 

「零澤局長、彼女の存在は危険です。邪神の力を得た彼女は──」

 

「怪異の根絶のため必要不可欠。我々の目的においては替えのない存在だ」

 

「ですが......」

 

「問題ない。これは放火魔による犯行、警察の管轄だ」

 

 狭霧の言葉を一蹴すると、彼は再び書類に目を通す。

 

「邪神の影響で眠っていた怪異が活性化している......叩くなら今だ」

 

 零澤は机にあるノートパソコンを片手間に操作する。怪異対策局のアーカイブが開かれると、準第一級怪異『鬼更井駅(きさらいえき)』の情報が映されていた。




怪異対策局 怪異アーカイブ
No.EX-02『スピーカー』
開発部が作り上げた人工怪異第2号。
⬛️⬛️⬛️⬛️年に出没した対コウモリ怪異専用装備として製作されたものの、幅広く活躍する事が確認できた。
レゲエ・ミュージックを聞かせると好反応を示した。
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