仮面ライダートゥルーク   作:くるみゼロ

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episode6『正義のミカタ1』

「うわぁあああああっ!」

 

「きゃあああああっ!」

 

 悲鳴を上げて線路上を逃げ惑う人々。彼らは皆一様に顔を恐怖で歪めていた。ここはどこかにある異界、鬼更井駅。現在の時刻は丑三つ時だ。

 人々を追いかけているのは異様に長い腕を持った、全身緑色の化け物だ。頭には2本の角が生えており、背中からはコウモリのような翼が生えている。

 

「待て、助けてくれえええ!」

 

 足元を掬われ1人逃げ遅れた会社員は、怪物に捕らえられ鋭い爪で腹を貫かれてホームに投げ捨てられた。また逃げ遅れた高校生は首もとを噛まれて生き血を吸われる。

 恐怖に支配された人々が逃げていく。だが怪物はまるで獲物を追いかける野獣のように、彼らの後を追っていった。

 

 

 

 

 ノゾミは狭霧に連れられて、怪異対策局10階の局員寮にやってきた。ボストンバッグ片手にエレベーターからしばらく歩くと、『同居人注意』と書かれた張り紙の付いた扉に通される。

 

「今日から君が暮らす部屋だ。狭い和室だが我慢してくれ」

 

 そう言って狭霧は襖を開ける。ホコリだらけの6畳の部屋には畳まれた布団以外に何もなく、天井照明も蛍光灯と古びていた。

 

「ここに住むんですか?」

 

「局員は基本寮に住むことになっている。もちろん君もだ」

 

「はあ......仕方ありませんよね」

 

 ノゾミは渋々承諾する。1人暮らししていた時よりあまりにも粗末な状態だが、対策局の一員となった今は多少窮屈でも文句は言えない。

 

「そこの押し入れに家具がしまってある。自由に使ってくれ」

 

 狭霧は鍵を手渡すと、襖を閉めて行ってしまった。

 ノゾミはボストンバッグを布団に放り投げると、家具を引き出そうと押し入れを開けた。

 

「......! ひっ!?」

 

 中にはおかっぱ頭の少年が体育座りをしており、目があった瞬間情けない声を上げてしまう。

 

「誰きみ!」

 

「座敷わらし。わらしって呼んで」

 

「座敷わらしって、あれ?」

 

「あれ。君の同居人だよ」

 

 わらしは手を差し出すも、いやいやとノゾミは首を横に振って突っ込んだ。

 

「困るって、ここは今日から私の部屋なんだから」

 

「気にしないで。僕の定位置はここ、それ以外は好きに使っていいから」

 

「そういう問題じゃ......」

 

 ノゾミは肩を落とす。どうやらこれから、この小さな妖精と寝起きを共にしなければならないようだ。

 とりあえず荷物の整理をしようと思い、ボストンバッグから衣類を取り出す。その時ふと押し入れからの視線が気になった。

 

「こっち見ないで!」

 

 投げられた枕を襖で防ぎ、わらしは自分の部屋へ戻っていった。

 

 

 

 

 夜の街に走り回るマシンオボグルマーのエンジンが鳴り響く。黒いフルフェイスメットを被った青年は人気のない公園まで足を運ぶと、街灯の下で止まりメットを脱いだ。

 茶色に染めた髪をかきあげ、ポケットから煙草を取り出して火をつける。

 

「あー最高。やっぱ任務終わりの一服は格別や」

 

 彼の名は涼宮正義(すずみや せいぎ)。怪異対策局に所属する仮面ライダーだ。

 いつものように怪異の討伐を追えると、こうして夜のドライブを楽しみ煙草を吸う。それが彼の楽しみだった。

 

『相棒、タバコはやめろ。タバコは肺を蝕み命を奪う恐ろしい兵器だ』

 

 正義のワンショルダーバッグから声が漏れだす。しかし正義は気にも留めていないようだった。

 

「俺の相棒やったら、黙って俺の楽しみを見守らんか」

 

『そういうわけにはいかない。私は君の相棒として、自由と平和のために、全力でサポートする義務がある!』

 

「やったら今一番熱いやつ言ってみ?」

 

『簡単だ、上手い・安い・カッコいいのデイスパークだ!』

 

 自信満々の回答に、正義は無慈悲に不正解を告げる。そしてバッグのファスナーを少し開けると、持っていた煙草を見せた。

 

「正解は味のあるセブンスロットでした」

 

『な、バカな!? それは相棒の好みであり、世間一般的な評価からは外れた──』

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

 正義は携帯灰皿に吸い殻を入れてヘルメットを被ると、再びエンジンを動かす。

 アクセルに手を掛けたその時、突然正義の携帯が鳴った。舌打ちしてメットを取ると、アイドリング状態のまま応答する。バッグからは相棒の注意が続いていたが気にせず話す。

 

「もしもし、涼宮ですけど」

 

「私だ。今どこにいる?」

 

 電話の向こうからは流れる狭霧の声に、無意識に眉をひそめてしまう。

 

「どこでもええでしょ。で、用件は?」

 

「実は鬼更井駅が活発化している。お前にも協力して欲しい」

 

「わかりましたよ。ほな般若野郎はすぐ片付けてきます~」

 

 通話を終えると、正義はメットを被り直してバイクを走らせる。目の前に丸鏡が現れると、アクセル全開でワープゾーンに突入した。

 

 

 

 

 対策局の指令室、そこは仮面ライダーの有資格者と一部の関係者しか立ち入りを許されていない場所だ。現在そこにはノゾミと涼真、狭霧の姿があった。

 

「それで、今度はどんな事件なんですか?」

 

 ノゾミが聞くと、狭霧はスクリーンに週刊紙の記事を映す。見出しには大きく『日乃屋線連続失踪事件の真相!』と書かれている。

 

「日乃屋線の乗客が忽然と姿を消す事案が、今月になって14件起こっている。これは準第一級怪異の鬼更井駅によるものだと考えられる」

 

「あの鬼更井駅ですか!? 掲示板で有名な」

 

 都市伝説には詳しくないノゾミでも、名前だけは聞いたことのある程有名な駅だ。まさか空想の産物までもがこの世に存在するとは思わなかった。

 

「今までこの怪異にたどり着くのは困難とされていたが、ここ数週間で目に見えるほど活発化した。局長はこれを好機と捉え、討伐対象にした」

 

「でも駅にたどり着くには、具体的には何をすればいいんですか?」

 

 ノゾミが尋ねると、狭霧は机の上に磁気定期券を置く。

 

「ひたすらに乗るんだ」

 

「乗る?」

 

「そうだ。鬼更井駅に着くまで電車に乗り続ける。それだけでいい」

 

 ノゾミは思わず困惑した。そんな簡単なことで駅に着けるのか、そう思ったからだ。しかし狭霧は真面目な顔で話を続ける。

 

「この怪異はただ乗客を襲うのではない。奴は異界を作り出し、そこに人を引き込む力を持っている。だが自ら作った異界を維持できるのは第一級でも難しい。つまり、奴がいつどこで異界を作るのは不明確だから」

 

「手当たり次第に乗車すると?」

 

「そういうことだ」

 

 要はゲームの厳選作業だ。ノゾミが変に納得していると、涼真は定期券を指差して質問する。

 

「ところで、もう1枚の定期は?」

 

「ない。風祭はここで待機だ、怪我の件と無断出動の件もあるしな」

 

「しかし相手は準第一級ですよ!」

 

 狭霧はスクリーンの映像を消すと、2人に背を向けて出口に向かう。

 

「涼宮がもう河石駅に向かった。神戸も現地で彼と合流してくれ」

 

 

 

 

 夜の河石駅は閑散としていた。時折通り過ぎる車以外に人の気配はない。街灯がチカチカ点滅し、不気味な雰囲気を醸し出している。

 そんな寂れた駅前広場に突如現れた丸鏡からマシンが飛び出て急ブレーキをかける。ノゾミはヘルメットを外すと、辺りを見回して首をかしげた。

 

「待ち合わせ場所、ここだよね......」

 

「あってるで」

 

 背後から声をかけられ振り返ると、そこには正義が腕を組んで立っていた。

 

「俺は涼宮正義、仮面ライダーデファンス。よろしく」

 

「あ、はい」

 

 ノゾミが差し出された手を握り返し正義はニッコリと笑う。

 

「君がノゾミちゃん? 噂には聞いてたけどカワえぇな~」

 

「ありがとうございます......」

 

 ノゾミは引きつった笑みを浮かべながら言う。正直、初対面から馴れ馴れしく話しかけてくる彼と距離を保ちたかった。

 

「じゃ早速行こ。それにしてもノゾミちゃんヤバイな、神様に命差し出すなんて」

 

「それは、友達を守るためっていうか......止められなかった私の責任というか」

 

「あんなん友達いうの優しいな。まあノゾミちゃんの勝手か」

 

 正義は軽く笑い飛ばすと、定期券を改札にタッチしてホームに向かう。1メートルほど距離をとっていたノゾミは、ホームに電車が来るのを見て慌ててその後を追いかけた。

 

 

 

 

 日乃屋線は地方都市と漁村を結ぶローカル線だ。2人は漁港に向かう2番線の列車に乗りこみ、空いていた席に隣同士で座った。

 終点まであと2駅といったところで、ノゾミはアンティーク風の腕時計を確認する。時刻は午後11時になろうとしているところだった。

 

「まだなんですかね?」

 

「そう焦らんと。いつか勝手に来るんやから」

 

「そういうもんなんですかね」

 

「まあね。せや、ノゾミちゃんこれあげるわ」

 

 正義はポケットの中から紫色の『安心第一』と書かれた御守りを取り出す。

 

「何ですかこれ?」

 

「めっちゃ凄い御守り。ちなみに俺のおかんが作った」

 

 正義は金色の御守りを見せつける。ノゾミは苦笑いすると、御守りをポケットにしまう。

 窓の外を見ると、海沿いの線路を走る反対側の列車がちょうど通り過ぎた。夜遅いせいか、2人以外に乗客の姿はない。

 

「おかんは結構強い霊媒師でな。今の俺があるのはおかんのおかげなんや」

 

「へえ......」

 

 ノゾミは適当に相づちを打つ。

 

「ノゾミちゃんは? ノゾミちゃんの親御さん」

 

「えっと......」

 

 ノゾミは思わず目を伏せる。

 脳裏に浮かぶのは父の笑顔。あの日自分を置いて行ってしまった、心のどこかで嫌ってしまう父だった。

 

「物心ついた時に母は死んでしまったらしくて、父の方も小学校に入る前に行方不明になって......」

 

 ノゾミが顔を上げると、隣にいたはずの正義の姿がどこにもなかった。周囲を見渡すが、車両の中に彼の姿はない。

 窓の外は海辺の景色から田園風景に変わり、状況が飲み込めない彼女の耳に車内アナウンスが聞こえてきた。

 

『次は鬼更井~鬼更井~』

 

 ノゾミははっとして立ち上がる。

 

『右側の扉が開きます、ご注意ください』

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