稍重バ場サイレンススズカ   作:ナギサ推し

3 / 7
暴走特急サイレンススズカ号

 4月。それは3月に割いていた桜が散り始め葉桜になりかけている月であり、そして。

 

 クラシック級のウマ娘たちがクラシック路線やティアラ路線のどちらかに進むであろうレースがある時期でもある。

 

 そう、4月の前半において開催される皐月賞と桜花賞である。

 

 

 

 

 朝起きてテレビを付けてみればちょうど皐月賞・桜花賞の話題を朝のニュースで取り上げていた。ニュースキャスターが話している内容を聞き流しながら湯にインスタントコーヒをぶちまけかき混ぜ、朝食を食べながら軽く眠気を覚ます。

 

 しばらくモーニングを食べながら朝のニュースを見ていると、ニュースは皐月・桜花賞から天気予報への話題となった。

 

『関東も一日中、雨となる予報です。一日中傘が必要になりそうです。ですが雨が降ることによって花粉の飛散は……』

 

 

 

 一日中雨……か。外のコースは使えないだろうから練習はジムかプールにしたいところだが、おそらく使用予約はすぐに埋まるはずだ。使用予約が取れるかどうかは運だな。

 

 施設の予約と言うのは、利用するウマ娘の数を制限し接触によるけがを減らすためにある制度である。が、こう言う雨の時は外のコースは使えない為、トレーニングは屋内にあるジムかプールのどちらかに集中することになる。トレセン学園はマンモス校であることもあって屋内プールが3か所、ジムにおいては一か所だが相当な広さが確保されている。それでも利用できる人数は限られるため、予約制になる。

 

 雨のせいか何かは分からないが、今日は少し憂鬱だ。

 

 もし予約を取れなかったのならば、今日はミーティングでお茶を濁すとしよう。

 

 

 

 

 

 さっと身だしなみを整えると、トレーナーバッジが付いたスーツを羽織ってカバンを持ちいざ出勤である。

 

 トレーナー寮の構成は新しく入ってきた順に入り口に近く、逆に古参であればあるほど入り口から遠くなる。自分は入って一年目であるので入り口から極めて近い場所に位置する。

 

 ちらっとトレーナー寮の入り口を見ると、多くのウマ娘たちが入口前に集まっていた。そこまでしてまでトレーニングをしたいウマ娘が多いというのは、最初に来た時には驚いたものだが。*1中央のウマ娘たちと言うのは温厚ではあるが闘争心が強く、レースにおいて貪欲に勝利を欲すると文献に書かれていた。*2

 

 ドアを閉めるとしっかり戸締りする。なぜか最初の研修でできるだけ部屋の戸締りはしっかりするようにと言われてからは、基本的に戸締りはしっかりしている。

 

 

 はてさて、いつも通り入り口を通ろうとすると入り口に集まっていたウマ娘が、モーセの海渡のごとくサーっと左右に分かれるのでそこを通らせてもらう。しかし、制服姿で学校指定のカバンを持ったウマ娘の姿が多いのはどういうことなのだろうか。朝練に行くのに荷物と制服姿は可笑しい気もするが、毎日見ている光景なのでその疑問にふたをする。

 

 ちらと左腕に付けてある腕時計を見ると7時ちょうどだった。学園の授業開始は8時半。これから朝練を始めたとしても1時間はできるんだろうなと考えながら外を見ると、小雨程度ながら雨が降っていた。

 

「そういや雨だった。傘は……いや良いか。この程度なら大丈夫だろう」

 

 雨降り始め程度であるし問題はないだろう。トレーナー室までは距離はあるが、外を歩く距離自体は其処までではない。そもそも学園内が広すぎる。

 

 そういう事を考えながら歩いていると、芝のトラックを走っている影が見えた。どこかで見た事があるような後ろ姿だなぁと思えば担当バであるスズカだった。

 

「本当に楽しそうに走るなぁ」

 

 うーむ、予定を変更しよう。トレーナー室を開けたらジム使用申請書を軽く書いたあとでスズカと走る姿を堪能するとしよう。

 

 そうと決まればさっさと部屋を開けるに限る。

 

 

 

 

 しばらく校内を歩き、トレーナー室を開けてパソコンを立ち上げる。そうして申請書を印刷すると日付以外を書いてカバンの中にいれ、スーツを脱いでジャージに着替えて外に出る。

 

 あれから十分程度しか経っていない。スズカは時間ぎりぎりまで走っているだろう。

 

 

 一応彼女も水筒くらいは持ってると思うが、スポドリを途中に在った自販機で買っておく。水分補給は大事だからな。

 

 

 

 

 

 

 外に出てみるといまだ小雨で先ほどよりあまり変わらない降り方をしている。芝のトラックに着くとちょうど休憩をはさんでいたスズカが居た。タオルをもち、用具入れらしきカバンを漁っている。

 

「スズカ!」

 

 彼女に呼びかけるとさっと振り向いた。すっとスポドリのペットボトルを掲げるように示すと、パタパタとこちらへと駆けよる。

 

「ありがとうございます、トレーナーさん。持ってきたはずの水筒が見当たらなくて……」

 

 彼女もそれなりに喉が渇いていたようで栓を開けるとそれなりの勢いで飲み始める。

 

 

 

 

 

 しばらくして休憩を終え、水筒が学校のカバンにある事を見つけると、トラックに戻りまた走り始めた。それをトラック外のベンチで眺める。

 

 

 スズカの走り姿をみる。やはりフォームはもうすでに完成されている、まるで指導する所が無い。なんとも美しい走り方で相変わらず惚れ惚れする走りをする。

 

 

 私は彼女が気持ちよくターフの上で早く、そして先頭を譲らせずに走るために手伝いをするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに、何の嘘偽りも無い。私の眼はもうすでに君の走りに奪われたのだから。

 

 

 ちらと腕時計を見ると8時である。そろそろ切り上げた方が良い時間である。さすがに時間を忘れてまで走ってはいない……よな?

 

「スズカーっ!時間大丈夫なのか?」

 

 だめだ、声が聞こえていない。振り返る気配も無い。そのまま向こう側に向かって爆走していった。次の直面するタイミングでまた呼びかけてみる。

 

 向こう側の直線を気持ちよさそうに走りぬけ、カーブへと差し掛かる。

 

「スズカの課題は……やはりカーブだな。スズカー!時間大丈夫なのかぁ!」

 

 さすがに2度目は聞こえたらしい。ハッとした顔できょろきょろと顔を動かしながら減速していく。ちなみにだが。芝のトラックには時計は設置されているが、壊れているらしい。さっさと直せばいいのに。

 

 

 

 

「すみませんトレーナーさん。それで……今何時ですか?」

 

 また先ほどと同じようにぴょこぴょこと軽く人間の駈足くらいの速さで寄ってきて、そう聞いてきた。

 

「今は……8時7分だな。あと、あそこの時計壊れているらしいから朝の時間管理は気を付けろよ?」

 

「あ、もうそんな時間なんですね。てっきりまだ6時台だと……」

 

「6時台?そんな時間から走り始めたのか?」

 

 そう聞くと、彼女はしまったと言いそうな顔をした。

 

「え、あの、そのそうじゃ無くてですね?」

 

「大丈夫、大丈夫。好きに走って良いって約束したんだから。その代わり後であの万歩計見せてもらうからな?」

 

 そう言うと、ぱぁっと露骨に顔色が明るくなった。

 

「ありがとうございます、じゃあ走ってきますね!」

 

 何を勘違いしたか、彼女はまた走り始めようとするのを、急いで止める。

 

「違うそうじゃ無い……」

 

「え?違うんですか?」

 

「もう8時だし、準備する時間もあるから授業に遅刻するかもしれないゾ?」

 

 そういうと、目の前に相対していた彼女のぽややーんとした顔がはっとした顔になった。いやなにその今気づきましたみたいな顔は。

 

 今日は4月の5日。授業は本格的に開始されているという訳ではないが、遅刻はまずかろう。と言うかいつもはどうしていたのだろうか?

 

「そうですね……」

 

 なんか中途半端な感じで楽しいことが終わってしまったような雰囲気を出しながら、タオルをカバンからとりだし軽く汗をぬぐうと、さっとスポドリを口に含んだ。

 

「スズカ、いつもはどうやって遅刻せずに済んでいたんだ?」

 

 教科担当の教師ともトレーナーは情報交換をする事が有る。どちらかと言うと成績関連の事*3が主だが。

 

 だが、新学期一発目で大目に見てもらえているのかもしれない。もし酷かったらこちらに話が来るのかもしれないが。

 

「えっと、生徒会の副会長さんに呼び止められてて」

 

 女帝エアグルーヴか。去年私がチームリギルにサブトレーナーとして居た時にはエアグルーヴはジュニア級で、ティアラ路線に行くと言っていた人物だ。去年の生徒会選挙ではシンボリルドルフと会長の座の一騎打ちをしていたが、選挙で破れ副会長に収まったというが。

 

 サイレンススズカとエアグルーヴはアプリ等で親密な友人関係を構築していた筈だが。いや、スズカはトレセン学園に入ったばかりだしな。それでエアグルーヴとはまだそこまでの仲にはなってないんだな。

 

 スズカが撤収作業を終えたところを見届けたところで、さっさとトレーナー室に帰るとしよう。雨足が若干強くなってきた。

 

 

「じゃあ、授業頑張れよスズカ」

 

「……はいっ!」

 

 

 そう言い残すと、トラックの出口へ向かい、出口を出た瞬間校舎の方へ勢いよく走っていった。

 

「これは……荒れるな。外は使えないだろうな」

 

 先ほどまで降っていた雨足が強くなる気配がする。こういう時はさっさと中に戻るに限る物だ。

 

 

 

 トレーナー室に戻るとすぐさまジムの使用申請書をひっつかむ。

 

 練習施設の予約の申請を受けつけている窓口に顔を見せると、やはりプールとジム双方とも開いていなかった。どれも申請で受理されているチームは古参のチームが多く、個人の専属などは一切書かれていなかった。

 

 それを見た時、私は軽く肩をすくめるしかなかった。

 

「やれやれ、今日は予想通り室内でミーティングをするしかなさそうだ。しかし、これからの事を話すにはちょうどいいかも……な」

 

 私は、トレーナー室へ戻った。これから多忙を極めるトレーナー業の始業である。

*1
勘違い

*2
闘争心が強いためトレーナーとの一着競争も貪欲。ただ主人公は未だ其れを知らず

*3
成績が悪く補修が重なるとレースや合宿等にも行けない可能性が出てくるため

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。