―――都心部から電車を乗り継いではや2時間とちょっと。思ってたよりかは早く到着したが、一般的に考えればそれなりに時間がかかったほうだ。
「おぉ~、ほんとに資料館だ・・・。」
そうやってたどり着いた駅から徒歩数十分(寄り道を含めたので長くなっているが本来ならもっと短い)。わたし―――直樹美紀は、ダム水没地域の資料館へとやってきていた。
資料館と言うからてっきり民家か何かを改装して作った小さな建物だと思っていたのだが、いざたどり着いてみると案外広い。このためだけに新築したのだろうか。ちなみに水没地域に関する資料館だけでなくダム自体に関する資料館も兼ねている。・・・むしろ後者の方がメインか?
(まぁいいや・・・とにかく、ここに来た目的はたったひとつだけ―――)
あらかじめスマホの写真に収めておいたあの変な手鏡のことを思い出す。・・・徹底的に調べてやる。
・・・入館料が無料だったのはかなり助かった。交通費と寄り道のせいでもう手持ちが―――
春休み。全国の中3生たちが、【受験】という束縛から解放されたことを示す代名詞的存在にして、中3生が最も遊べる時間・・・・・・・・・だと私は思ってましたよ数日前までは。
「どーして【春休みの課題】~なんて配られちゃったんだろねぇ・・・」
不意打ちからの追い打ち。もうしばらく勉強しなくていいよな~とかのんきなことを考えていたらこのありさまだ。・・・まずい。二次関数とかどうすりゃいんだっけこれ。
(こんなことなら中学の教科書類売らなければよかった―――っ!!)
『どうせもう使わないでしょ』とかいう安直な考えのもと中学時代の教科書をほぼすべて売るor捨ててしまった、課題をもらう3日前の自分が恨めしい。
・・・まぁそんな訳で、今日は美紀と共に勉強会(厳密には課題の討伐会)をしているわけだが、まぁ吞気なことに目的が途中から勉強からおしゃべりに変わっていった。あとついでに卒業旅行の話題も出た。
「そ~いえばさ~、異世界召喚ものの小説あるじゃん?転生じゃなくて召喚のほうね」
「あ~、最近流行ってるやつ?」
「うんうん。・・・あれでさ、私ずっと疑問に思ってることがあるんだけど、」
ペン回しの手を止めて、私はふとそう言い出す。・・・麦茶に入れておいた氷はもうすでに解け切っていた。
「異世界に召喚された主人公さ、―――もとの世界に帰んなくていいのかな?」
【召喚】というこちら側からはどうしようもないシステムで異世界に飛ばされた。ならもとの世界に戻らなくていいのか、というのは至極当然な疑問だった。・・・だが、一見すると単純なように見えて、重たい何かを感じる・・・そんなもののような気もした。
「う~ん・・・召喚される側の主人公って、大半がもとの世界に対して絶望してたりとかいじめられてたりとかする人たちだから、【もとの世界のことなんか忘れて、第二の人生を!!】みたいな感じで、帰る必要はない!!って遠回しに描写されてるけど・・・召喚されるであろう全員が全員そんなひとってことはないだろうしねぇ・・・。
・・・まぁメタ的にいえば、前者みたいな人間じゃない人間を異世界に飛ばしちゃったら、読者サイドから今の圭みたいな疑問が出るから、わざわざもとの世界に絶望していた~みたいなのが強調されるんだろうけど」
「ん~・・・言われてみれば確かに・・・」
「・・・って、そういえば課題終わらせるために集まったんじゃなかったっけ!?」
「え?・・・あっそうだしまったっ!!」
呑気におしゃべりなんかしていたが、春休みの時間は無限ではないのだ。・・・春休みが終わる=提出期限が来る・・・。
「やーばいやばいやばいぃぃっ!!」
机の上に置いてあったシャーペンを乱暴にひったくり、再度課題に向かう。
もう桜も散りかけの時期だった。