あれはいつの事だったのか、もう鮮明には思い出せない。
圭が新作のスイーツを食べたいといって、一緒に食べに行ったこと。今思えばそれのついでとして立ち寄ったCDショップのほうが圭の本当の目的でスイーツはわたしを誘うための建前だった気もするのだが、今はもうそんなことどうでもよかった。
ただただ楽しかった。うれしかった。一緒にふざけあって、笑いあって、それで―――
『―――生きてればそれでいいの?』
「・・・はっ!!」
突然目の前によくわからない神様の写真が現れる。・・・資料館内の展示物だった。
「あっ・・・あれ?・・・あ、ダメだぼーっとしてた・・・」
思考の矛先を過去から目の前の展示に移す。・・・相も変わらず伝統的というか、古くさいというか・・・そんな感じの文言が並ぶ。
(・・・神・・・。)
人間は神様にはなれない。かつて不滅だったりゲームマスターだったり名前に神をつけたり、ただの港を聖地にしたり、ひとを最高のモルモット呼ばわりしたりといったひとはいたが、結局人間はどうあがいても神にはなれない。
それはなぜか。それを考えるためには、そもそも神の有無から考えなければならない。これの証明というのは実に面倒で、簡潔にいえば悪魔の証明と似たようなもんである。悪魔が存在するということを証明するのは簡単だ。ただ悪魔を連れてくればいいんだから。
だが逆に悪魔が存在しないという事の証明はものすごく面倒である。だってそうだろう。悪魔がいないという証拠なんてどこにもないんだから。
・・・つまりだ、人間には存在すら確認できず、なることもできないという事は、絶対に超えられない先駆者というか、頂点というか・・・神とはそういうものなのだ、きっと。
さぁそんな神に、わたしはひとつ聞きたいことがある。
(どうしてあなたはこんな・・・『中途半端で不完全な択』を選んだんですか?)
圭に会いたい、というわたしの願いが叶うルートは案外たくさんあったはずだ。わざわざわたしを過去に飛ばして、過去の圭と再開させるルートを考慮に入れないくらいには。
だが、この時間と空間をつかさどるとかいう神は、わざわざそんなタイムトラベルをさせるという選択肢を選んだ。はたまた何か裏があるのか、それともただの神の気まぐれか。まぁどのみち、勝利の女神さまとやらはわたしに夢中になってはくれないだろう。
「・・・そういえば、お腹すいたな・・・」
ふと腕時計を見る。・・・短針の先端には3の数字があった。もうそんな時間か・・・
「なんか・・・食堂でも探すか・・・」
別にハンバーガーでもいいけど、うん。
(―――もし、もし仮に、わたしが何らかのすごいパワーを使って、歴史を変えたと仮定する・・・)
そんなことを脳内で考えながらハンバーガーにかぶりつく。・・・やっぱりひとりで食べるハンバーガーは美味しくなかった。
(あんなパンデミックは起きず、わたしと圭はいつまでも最高の親友で、そんな世界だったとして――――)
―――果たしてそれは、本当にわたしの望むものなのだろうか。
苦しい日もあった。ひとりぼっちで泣いた夜もあった。不安と陰鬱な感情に押しつぶされてしまいそうな朝もあった。つらい日々だった。
でも、そんな先の見ないような【今日】に抗ってでも、わたしたちは【明日】を勝ち取ってきたんだ。
もし、ここでわたしが歴史をいじってしまったら、
・・・そんな時間が、先輩たちと勝ち取った【明日】が・・・全部、なかったことにされてしまう。
(・・・な~んて、妄想にほほどがありますな、自分・・・。
自分がこの時代で何かをしたからといって、未来が変わるなんて・・・)
気の抜けかけたメロンソーダを喉に流し込む。
ねぇ神様。あんたがほんとうに実在するんだったら、ひとつお願いがある。
この時代でわたしがやったことすべてを、全部―――なかったことにしてくれないだろうか。