過去と未来というものは、常に密接に絡みあっているものである。『過去』が『今』に影響を与え、それが『未来』を形成する。それはすなわち過去が未来を形成しているといっても過言ではないわけであり、『未来』へと成長する前のさなぎのような段階が『今』なのである。
だが、そんな時空の流れの常識のようなものをいともたやすく破壊してしまったのがわたしである。
―――タイムスリップ。原因はよくわかっていない。怪しげな手鏡だの廃村の神様だの、関係がありそうなアイテムやワードはいくつか浮上しているが、現状本当にそれらがこの現象を引き起こしたのかどうかは明らかになっていない。
もしかするとこの無自覚タイムスリップはそれらによるものではなく、わたしの中に眠るなんだかすごいパワーが引き起こしたものなのかもしれないが、まぁそんな考えが浮上するくらいには原因究明は暗礁に乗り上げている。・・・パワー。
まぁ大事なのは原因だけでなく、それがきっかけで何が発生したのか、そしてこれから何をするのかも大事である。
わたしは未来から来た。まぁ未来といってもたかが数年後だが、未来人には違いないだろう。
・・・近い未来、これから何が起こるのか。何をしなければならないのか。何が間違いで、何が正解なのか。・・・わたしはそれをすべて知っているわけだ。
だが・・・そんな状況なのにもかかわらず、わたしは『過去』に干渉して『未来』を書き換えることに対して、躊躇と恐怖心を持ってしまったのだ。
あのルートなら、彼女は―――圭は消えてしまうのに。それでもわたしは、そのルートを再び繰り返そうとしている。
・・・それは、『過去』を否定したくないから。
たくさん間違えて、つらくて、あの時こうしていればって、ずっとそう思ってた。大量の間違いと後悔の上に成り立った未来なのかもしれない。・・・でも、でも―――
「どうすればいいんだこんなの・・・」
あの未来を無かったことにしたくないという感情と圭を死なせたくないという感情が、副札に交錯して絡み合う。どちらかを取るためにはどちらかを諦めなければならなくて、でもそれは・・・
・・・・あ、そういえば、ハンバーガーを食べてる途中だった・・・。
長らく手で持ったまま放置されていたハンバーガーを見下ろす。代名詞ともいうべきケチャップにマスタード、そしてさっぱりしていそうなピクルス。セットで買ったポテトはすっかり湿気てしまったようでふにゃふにゃだが、まぁ気にしない。
(・・・こんな時、圭ならどうするかな・・・)
こんな時、とはふにゃふにゃのポテトの事ではなくタイムスリップの話である。念のため。
(圭が遺していったあのCD・・・あれさえ聞けば、この気持ちもどちらかには振り切れるのかな・・・
・・・あぁダメだ、またそうやって自分ひとりで考えようとしないで、誰かの力を借りようとする・・・)
この時代にタイムスリップしたのはわたしであって、圭ではない。ましてや他の誰かでも。・・・これはわたしひとりで考えなければいけない問題だ。
・・・そもそもあのCDが何を記録しているのかなんてことは一度再生して聞いてみないと分からない。なんなら圭のメッセージすら入っていない可能性だってある。
・・・もし仮にわたしが圭のCDに判断の重要な部分を一任していたとして、もし中にメッセージが入っていなかったらその重要な判断手段を失ってしまうことになる。期待が大きかった分、損害も大きいというものだ。・・・圭への過信と過剰な期待はよくない。
「・・・・・・・。」
・・・・・・。
「とはいうものの・・・どうすればいいんだ・・・」
『あの未来の存続』と『圭の生存』を同時に両立させる方法さえ見つかれば・・・だが、果たしてそれは本当に『あの未来』なのだろうか。このふたつの要素が同時に存在している状況なんて、理論上ですら存在しないのでは・・・?
「・・・安定択は現状維持・・・。」
でもそれだと圭は・・・圭が・・・。
(・・・究極の2択だ・・・。)
この永遠と平行線上をたどりそうな2択問題だが、なんとかしてこれに終止符を打たなければならない。とりあえず、まずは明確なタイムリミットを決めよう。〆切を決めると危機感を持ち始めるのが人類というものである。
今は3月中旬。今年受験生だった民は絶賛春休みな時期だ。・・・もちろんその受験生だった民は、この時代の圭とわたしも例外ではない。・・・よし、決めた。
(―――タイムリミットは・・・巡ヶ丘の入学式の夜。それまでに・・・絶対・・・)