―――かつて大規模なダム建設に伴い、多くの村がその姿を消した。それは今、わたしが調べているその村であっても例外ではない。
その村では廃村になる前、なにやら不思議な神様を信仰していたという。ターコイズカラーの宝石でふんだんに装飾された、剣・鏡・勾玉の3つ。これらはその『神様』の御神体らしく、神社の中に祭られていたという。
鏡は時間を、剣は空間をコントロールし、勾玉がそのふたつのバランスをいい感じに保っている・・・らしい。この本によれば。
だがそんな3大御神体たちも、ダム建設およびそれに伴う一連のトラブルに巻き込まれ、現在は所有者不明となってしまった。・・・どこにあるのかも、誰が持っているのかもいまだわからず、そもそもこの世界に存在しているのかすら謎なレベル・・・らしい。
「・・・で、そのうちの1個がわたしの手元にある、と・・・」
あの骨董屋め。前々から怪しいとは思っていたが、神社のものを売るのはさすがにマズいだろう。・・・祟りとか起こるんじゃないだろうな。わたしに対して。
「・・・にしても、やっぱりこういう伝承みたいなのはたくさん書いてあるけど・・・肝心の構成物質とか構造とか、そういうことは一切書いてないのかな・・・」
せめて鉄製とかアルミ製とかそういうことくらいは書いていてほしかった。・・・別に資料館に文句をいう訳ではないが。
「時を超えるメカニズムとか、元に戻るにはどうしたらいいのかとか、そういう重要なところを・・・」
すみっこのほうにでもなにか書いていないかと思い展示物各種をもう一度見直すも、やはりなにも有益そうな新情報は書かれていない。
(・・・まぁ伝承っていうものはそういうものなんだろうきっと・・・。あまり情報を書き過ぎると伝承としての神秘性が薄くなるし・・・)
有益そうな情報が見つからないとなると、もうこの資料館にいる理由がなくなってしまった。・・・う~ん、どうしよう。おみやげでも買って帰るか。
(そういえば、ダム建設の時になくなったのは鏡だけじゃなくて剣も勾玉もだったような・・・。
・・・あの鏡が骨董市で転売されてたって事は、もしかすると他のふたつもすでに別のひとに渡っていたりとかするのかな・・・)
それならだいぶ時空が歪んでいそうではあるが。・・・いやそもそも現時点でかなり歪んでいそうな気はする。
同じ時間にふたりの『直樹美紀』が存在しているという状況は、時空が歪んでいるという言葉が示すもの以外のなにものでもないだろう。・・・異時間同位体?ラジオアイソトープみたいだな。
(ある種のタイムパラドックスのようなものか?)
う~ん・・・わからん。
(過去と未来が同時に存在している・・・つまり、未来が更新されると同時に、過去も上書きされている・・・ということなのか・・・?)
パラドックス。矛盾。これが発生した理由は、どう考えてもわたしなわけで。そして、わたしがそれを起こした理由は圭に会いたかったからであって・・・
(―――圭、ね・・・。)
ランプに片手をかざして、ふと、わたしはそう思った。