「未来に、帰ることにした」
「わたし」がそう言うと、この時代の『わたし』はまるで何か信じられないものを見たかのように固まるのだ。目を見開いて、なにかに衝撃を受けたような顔で。
そしてそれからしばらくして事態の把握を完了すると、震えたような声でこう言うのだ。
「・・・正気ですか?」
「逆に正気じゃないと思った?」
どこか放心したかのような・・・または不安が奥で揺れているような瞳で、キッとこちらを睨みつけてくる。・・・『本気で言ってるのか?』なんて詰問が、今にも飛んできそうだった。
「・・・圭は、どうするんですか」
「もちろんこの時代に置いていくよ。わたしがもともといた時代に連れていくわけにもいかないからね~。
・・・あっ、そうそう、この事は圭には言わないでほしいんだ~。ほら、わたしは突然失踪したってことにして、いい感じに口裏合わせを―――」
「ふざけないでください!!」
ぴりっと張り詰めた空気が、『わたし』のそんな怒号に揺れる。
「なんで・・・なんであなたはこんな酷いことをぬけぬけと言えるんですか!!
あの子は・・・圭は本当に、あなたのことが好きで・・・好きなのにッ・・・!!」
・・・うん、知ってる。知ってるけども、さ。
「う~ん・・・心境の変化?ってやつかな?『祠堂圭』は、わたしの中では完全に過去のものと化したってわけ。
・・・永遠と過去にとらわれるほど、わたしは愚かな人間じゃないでしょ?」
「っ・・・。
・・・あなたは過去過去言うけども・・・わたしや圭にとっては『今』で・・・『未来』なんですよ!?第一あなたはいったいその『未来』とやらで何を見たんですか!?
圭は過去の存在?・・・ふざけないでください!!あんたはいったい何ッ・・・」
「祠堂圭は死んだ」
スタッカート。音符の下の黒点。短くはっきりと、ただ理由だけを告げる。
「なっ・・・」
「つまりはそういうこと。・・・死人に構っている暇はないの」
『わたし』はいまだ、空気の糸をぴんと張ったまま動かそうとしない。ぴんと張り過ぎた糸はそのうち切れる。・・・言いたいことだけ言って、糸が切れないうちにお暇としようか。
「・・・ま、そういうわけだから、さ。わたしの代わりに・・・わたしの代わり?・・・う~ん、うまく形容できないけど、まぁ圭をよろしくね?・・・わたしのいた未来との整合性が取れる程度に」
「ふざけないでください!!」
また、空気が震える。どうも冬の空気っていうのは、音をよく通すらしい。特に、『わたし』のこういう金切り声を。
「わたしはあなたが・・・わたしがそんなことを言うなんて信じない・・・。
これ以上そんなふざけたことを言うんなら・・・あんたはもうわたしじゃない!!」
・・・さぁ、それはどうかな?
「きっとあなただって、今のわたしと同じ状況に置かれた時にはそう選択するさ。だって・・・
わたしはあなたなんだから」
餞別代りの缶コーヒーを投げ渡して、『わたし』に背を向けて歩き出す。
「あんたは!!なにもわかってないんです・・・!!」
『わたし』のそんな声が、わたしの視界外から飛んでくる。・・・何もわかってない、ね。
・・・なにもわかってないのは、そっちだというのに。
―――さようなら、